青の章 第42話 洞窟の主
青の章 第42話 洞窟の主
随分と、……素晴らしい場所だな
お世辞でも何でもなく、思った事をそのまま相手に伝わるように思い浮かべる。相手に伝わるように思い浮かべたのだが、奥に鎮座する巨大な蜥蜴に反応は無い。
? もしやあの二人の女神の片割れ……ヘルちゃん様に、相手の考えている事を読み取る事は出来ないのか?相手の頭に直接語り掛ける事は出来ても、その逆は出来ないとか?
そんな風に考察している内に、だいぶ巨大な蜥蜴との距離が近づいたな。
『やっと来たか。まったく……私の姿を見て逃げ出すとは。我が子ながら情けない』
ズシンッ、と巨木でも倒れたかと言う衝撃と音が聞こえたが。どうやら巨大な蜥蜴が自分の尻尾を地面に叩き付けた様だ。蜥蜴の後ろにうっすらと砂煙が見える。
巨大な蜥蜴は、体高は巨蟹に近い……、少なくとも四m以上。体長は尻尾まで含めれば確実に十m以上……十二m以下って所だろう。巨大すぎて距離感が掴みにくいな。まるで特撮映画の怪獣だ。
姿形は俺の生まれたばかりの頃、つまり普通の蜥蜴に近い。
違いを上げるとすれば、巨大な蜥蜴はアルビノの個体だった。遺伝子の異常で色素を持たずに生まれて来た個体……だったか? 体色は白く、眼は色素が無いから血管が空けて赤く見える。蛇とか、ウサギなんかではよく聞くな。あとホワイトタイガーとかもそうなのだろうか? まあ、アルビノの蜥蜴など初めて聞くし見るがな。
そうだなぁ……巨大な蜥蜴では長いし、白蜥蜴としよう。
……むぅ? と言うか白蜥蜴、いまとんでもない発言しなかったか? 俺の聞き間違いじゃなければ、「我が子」とか言っていた気がするが?
『……どうした? なぜ黙っている? 蜥蜴人なのだから喋れん訳でもないだろう? ああ、進化したばかりで言葉に慣れんか。だが私の言葉を理解しているのだ、言葉を知らんわけではないだろうに』
話せる? リザードマンだから?
「ア、アー、……ハジメマシテ?」
喉に手を当てて声を出してみると、人間とは程遠いが、それでも鳴き声ではなく言葉が出た。生まれて初めて話した事も驚きだが、今自分の口から出た声が人間だった頃の声に非常に似ていた事に驚きだ。風で喉がやられて無理やり声を出しているような声音だが、会話出来るというのは、大きい。
この世界で生きるにあたって、それが出来る出来ないは天と地の差だからな。
『……なんだしっかり喋れるじゃないか。少し聞き取りにくいが……、生まれたばかりなのだ、そんなものか。』
「ムゥ、サ、サキホド俺ノコトヲ「ワガコ」トイッタヨウニキコエタノダガ、ソレハ、アナタガ俺ノハハオヤトイウコトカ?」
『随分としっかり喋るな。そうだ、私がお前を産んだ。』
「何故俺ヲよんだ?」
『聞きたいことがあったからな。』
聞きたい事、ね。取りあえず敵意が無い様子だが、流石に完全に信用することは出来ない。
両拳を握りしめ、警戒を緩めず受け答えをする。
「き、聞きタイ事、トハ?」
『ふむ、実はだなお前の力が私には不思議でならないのだ』
「チカラ……?」
はぁ、とため息をつく白蜥蜴。その風圧だけでつむじ風でも起こったのかと錯覚するほどの風が俺の身体を撫でる。
『正確に言えば、そうだなぁ……速さ……そう速さだ、……そこまで力をつける速度が不思議でならないのだよ』
「……俺ノ成長ガ、ハヤイトイウ事カ? 早過ギルと?」
『そうだ、早い。早すぎるな。恐らくお前が卵から孵ってからから十から二十日程度の筈。それも他の卵はまだ孵っていない。本来であればそろそろ他の卵も孵る時期ではあるが……、明らかにお前は未熟者として生まれた筈なのだ』
確かに、俺は未熟者―――未熟児として生まれたんだろう。卵から出るタイミングが分からなくて、かなり早めに卵の殻を破ってしまったのは他でもない俺の失敗だ。
だが俺はそれを後悔していない。あのタイミングで卵の殻を破れなければ、そのすぐ後に来た子鬼達に食われていたかもしれないのだから。終わり良ければ総て良しと言う訳だな。
『未熟者として生まれる者は、珍しくはない。大体私の産んだ卵では、毎回一つか二つは未熟児として孵る。……しかし、未熟者は小さく、非力なのだ。成体になる前に殆どが死ぬ。未熟者はこの洞窟から出る前に寒さで死ぬのが普通なのだがな』
わかるだろう? とでも言う様に俺を顎で指す白蜥蜴。ああ、確かにな。今でこそある程度成長して寒さに慣れたが、最初洞窟をうろついた時の寒さでは本当に死にかけた。
あの後しばらく芋虫の糸を巻いて行動しなければ毎回洞窟を歩く度に命がけだっただろう。芋虫に合えたのは本当に幸運だったのだな。
『まして進化までするとはな。それも蜥蜴人か。まあ珍しい者になったものよ』
「? リザードマン、メズラシイノカ?」
『……ああ、そうだな珍しい、……珍しいな。私の子供の蜥蜴は、半分以上がこの私の様に身体を大きくする形で進化する。後の半分は恐蜥蜴と言う……、まあ二足歩行の、蜥蜴と蜥蜴人の間の様な存在に進化する』
「ソン……そんな奴が居るのか」
『私の子供から蜥蜴人になった者は今まででも数匹だ……そう十匹にも満たない程に少ない。お前は未熟児で進化し、そこまでの力を手に入れた。奇妙な……奇妙で面白い……面白い奴だ』
「ギャウゥギャウゥギャウゥ」
頭の中へ響く声とは別に、白蜥蜴は自分の口から鳴き声を上げた。
たぶん……笑い声だと思うが。口から出る声はだいぶ雰囲気の違う、恐竜を彷彿とさせる迫力があった。と言うか開かれた口の中に見える、鋸の如き歯……牙が余計迫力を増している。
『面白い、面白いが、お前はそれだけでなく、私と自然に受け答え出来る知恵まであることが分かった。この短時間で言葉も上手く話せる様になっているな。それもまた良い』
何度も何度も面白いだのなんだの言われているが、これはどう捉えるべきなのだろうか? 馬鹿にされていると取るべきか、賞賛と捉えるべきか。
『私はな、知りたいのだ。何故弱者である筈の未熟者が、我が眷属をも殺しえる程に至ったのか―――なぜそこまでの知恵を持ち、どのようなスキルを持っているのかを』
話をしている間に、白蜥蜴の気配が変わってくる。初めの頃の落ち着いた雰囲気と打って変わって、異様にテンションが上がっているような、そんな感じだ。何だか話の雲行きが怪しいな。
『だからな、教えてもらうぞ? お前が何なのかをな。隠し事は許さん、全ての問いに答えてもらう』
ズシンと、地響きを立てて巨体が一歩前に出る。
『だがその前に、お前の力を全て暴いてやろう』
白蜥蜴の双眸が俺の身体を鋭く睨むだけで、背骨が凍り付いた様な悪寒に襲われる。
『安心しろ、お前が真に強き子であるなら死にはしない。期待外れの弱き子であったのなら……まあ再び私の腹の中に入るだけだ』
胃袋って事かね。
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
『さあ、来るがよい、抗うがよい。死力を尽くして、私にお前の全てを見せよ! 我が子よ!』
咆哮と共に地面に打ち付けられる白蜥蜴の尻尾。全く勝ち目のない戦いの幕が切って落とされた―――と言うより戦って生き残る以外の道は塞がれてしまったと言う表現が正しいのかもな。
「……勘弁してくれよ」
勝てる気配が全くない無謀な戦い。僅かに残されているかも知れない生き残る可能性を求め俺は一度、母を習い自分の尻尾を地面に叩きつけた。




