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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
青の章 水晶洞窟の主 編
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青の章 第37話  VS蟹5

あけましておめでとうございます。

今年も皆様の人生が彩られますよう、お祈り申し上げます。

青の章 第37話 VS蟹5

 

 洞窟内に大きな物が落ちる音と、何かが潰れる音が響いた。

 

 巨大な質量を誇る巨蟹の巨体によるのしかかり。当たれば即死を免れないであろう予想外の一撃を、俺は間一髪避ける事に成功していた。

 

 何故か身体を縮ませた巨蟹を攻撃しようと、距離を詰めた瞬間に目の前から巨蟹の姿が消えたのは驚いた。目の前の敵を見失ったことで、次に攻撃が来る場合相手の姿を捉えてから回避したのでは間に合わないと考え、勢いのまま前進した。イチかバチかの賭けではあった。

 その結果、俺は賭けに勝った様で跳んだ巨蟹の下を潜り抜ける形になり、何とか回避に成功した。

 

 巨蟹が飛んだと言う事実は、背後の轟音と衝撃のためか更に右足が一本折れている姿を見て理解した。

 流石にあの巨体で、六本中二本の脚を失った状態で高く跳んだ衝撃を完全に吸収できなかった様だ。既に巨蟹の脚は残り三本。流石にあの状態ではもう一度今の跳躍をする事は不可能だろう。

 

 だが、もしあの時巨蟹を探そうと立ち止まっていれば、潰れていたのは巨蟹の脚だけではなく、俺自身も含まれていただろう。

 そう思うとぞっとする。

 

 しかし、殆ど自爆の様な形で、形勢は大きくこちらに傾いた。よく見れば胴体にも着地の衝撃によるものか、かなり大きなヒビが幾つか入っている。

 

 ならばここで一気に決着を、と思った。

 しかし、着地した蟹は俺に正面を向けていた。狙ってそうなったのか、偶然かは分からないが、巨蟹には正面に居る敵に対する恐るべき攻撃方法がある。

 

 巨蟹が正面を向いていると気付いた直後、半ば反射的に回避行動を取る。何とか転がるように回避した俺の横を、巨蟹の水鉄砲の様な攻撃が通過する。

 しかし、完全に回避する事はかなわず、俺の胴体に僅かな液体と一本の針の様な水晶が当たる。

 

 液体は特に俺にダメージを与える事はなかったが、水晶の針は俺の胴体を切り裂いた。

 脇腹の当たりに鋭い痛みが走り、それは致命傷ではないとはいえ、俺の身体を硬直させるには十分な威力だった。痛みで呼吸が乱れて苦しい。息が整わず頭の片隅が痺れる様な感覚に襲われる。

 

 痛みに内心顔をしかめた俺の目の前に、巨蟹の鋏が迫ってくる。どうやら巨蟹は水鉄砲の直後に俺に向かって鋏を発射したらしい。

 だが痛みに気を取られた俺は気が付くのに遅れ、既に回避が間に合わない距離まで鋏は迫っていた。

 

 ―――死んだと思った。

 水晶蟹の身体をやすやすと貫くような攻撃に、いくらスキルで強化されているとは言え、俺の身体が耐えられるわけがない。

 

 スッと、なぜか体のあらゆる感覚が研ぎ澄まされるのを感じた。身体の奥に火が灯った様な熱を感じるが気にする余裕はない。走り回って軽く震えている脚の感覚も、血まみれの尻尾の痛みも、自分の息や心臓の鼓動も全てが鮮明に感じる。

 疲れ切っていた頭が冴えわたり、目の前に迫ってくる巨蟹の鋏がやけにゆっくりと感じる。

 

 ……ああ、走馬灯みたいなやつか。

 別に昔の思い出とか、そういうのが頭を過る訳じゃないのだな。

 まあ、前の世界でも何度かこの様な感覚は味わったことがある。大体が忌々しい幼馴染である赤い馬鹿が原因だったな。

 ……。

 …………。

 …………………。

 

 ……かっはっは。考えても見れば、前の世界であったあれこれに比べればこの程度・・・・の状況は生易しくすら感じるな。

 目の前に迫る巨大な鋏がえらく陳腐に感じる。

 

 そうか、別にピンチでも何でもない。ただの日常と今の状況はどこも変わらない。そう思うと俺の中で何かがカチリと音を立ててかみ合うのを感じた

 

 『『青ノ魂』の発動条件を満たしました。『青ノ魂』の発動により魂が覚醒状態となります』

 

 突然、久しく聞いていなかった女神の声が頭に響いた。

 


 

 「ゴギャァァァァァァ!」

 

 気付いた時には俺は目の前に迫っていた巨蟹の鋏に対し、自分の尻尾を叩きつけていた。

 叩き付けた自らの尻尾は千切れ宙を舞う。しかし尻尾を叩き付けた衝撃で鋏は僅かに軌道がそれ、俺の直ぐ横に突き刺さる。

 

 突き刺さった鋏にも、千切れた尻尾にも目もくれず、俺は走り出す。

 さっきまでの疲労が嘘の様に全身が軽く感じ、生まれてから最も速く走れている様に感じる。何だか可笑しくすらあるな。怒りの様な感情も、悲しい様な感情も、楽しい様な感情も全てが俺の中で混ざり、自分で自分が分からなくなりそうだ。

 

 巨蟹の傍まで走りよると、勢いのままに今度は俺が跳躍する。すると想像以上に高く跳びあがり、目の前に蟹の頭部が迫る。

 巨蟹の頭部が目の前にある時点で実質三m近くの異常な跳躍した事になるのだが、俺は特に疑問に思わなかった。

 

 目の前の巨蟹の頭部に、俺は迷うことなく牙を突き立てる。更に『咢の一撃(ヂョー・バイト)』を発動して噛みつきを強化する。するとミシミシと乾いた音が聞こえる。

 その衝撃で、巨蟹の蟹特有な触角にも似た目が千切れた。巨蟹が慌てた様子で俺の身体を鋏で掴もうとするのを横目で確認するが、構わず更に噛む力を強める。

 更にヒビが入る音が大きくなるが、まだ巨蟹は死なない。

 

 俺の胴体部に巨蟹の鋏が触れる。直後万力の様な力で挟まれる。

 巨蟹の鋏は切るよりも潰すという感じの構造をしているようで、鱗と、更には骨が砕ける音が聞こえる。

 

 更に噛む力を強める。

 

 口の中に血の味が広がる。千切れた尻尾から夥しい量の血が流れ出ているのが分かる。

 

 構わず更に力を込める。

 

 すでに下半身の感覚は無い。口の中から胃の内容物と血液が吐き出されるが構わない。

 

 更に強くかむ。

 

 牙が何本か折れた。身体の中で繊維の様な物が切れる音がする。多分筋肉か何かだろう。

 

 構わず噛み続ける。

 

 不意に大きな音が聞こえた。

 

 巨蟹の頭部が潰れていた。俺の胴体も潰れていた。

 

 俺は地面に頭から落ち、気を失った。

 


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