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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
青の章 水晶洞窟の主 編
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青の章 第34話 VS蟹2

青の章 第34話 VS蟹2

 

 正直な話、俺はマイナスな思考に陥る事はあれど、自身の不幸を嘆くタイプの人間ではない。

 

 例を挙げれば、水晶蟹を狩り巣へ運び込んだ時に、水晶蟹の甲羅を砕いて水晶を分離させる事を思いつかず、余計な疲労感を味わった事については、自身の頭の悪さが嫌になる。

 しかし、俺自身が前の世界で幼少期から高校を卒業して本格的に働くまで、かなり貧しい暮らしをしていた。その事については、当時も現在も特に不幸だと感じた事はない。周りに俺が気にしていないのに、妙に気遣ってくれた人達がいるが、寧ろそんな人達が自分の周りにいてくれた事に感謝しているくらいだ。

 

 友人であり重度にゲームを愛する男、フウタこと風太郎は何やらゲーム内のガチャガチャをするたびに「不幸だ―!」、「ツイてねーなぁ」、「爆死した……」等と嘆いている様子を幾度も目にしているが、……アレはもう手遅れだからどうでもいいか。

 

 ゲーム中毒者ジャンキーの話は置いておいて、なぜ俺が不幸うんぬんについて考えているかと言えば……。今現在、軽く現実逃避したくなるような光景が目の前に広がっていた、そんな理由だ。

 

 水晶蟹を芋虫と共に完食した俺は、少しだけ休憩を取ると直ぐに水晶蟹が居た空間まで戻ってきていた。

 あれほど美味しい食ざ……獲物はできるだけ多く確保しておきたい。

 食事に拘る人間 (今は蜥蜴だが)としてそんな思いが強く、また先の戦闘ではほぼ無傷で勝利してしまい、体力的にも食事をとって少し休んだ事でほぼ全快した事もこれほど早く次の水晶蟹を狩ろうと思えたのだ。

 

 しかし、水晶蟹の居る空間に到着した俺を待っていたのは開いた口が塞がらない光景だった。

 

 水晶蟹たちが、俺の居る方向を向きながら横一列に整列しているのだ。

 

 なんでだよ……。と愚痴りたくなる俺を責めないで欲しい。

 

 先ほどまでは整列どころか、個々で好きなように行動し、仲間割れで同族の腕を折ったり、同族が俺に殺されてそのまま運ばれて行ってもこれと言った反応リアクションも起こさなかった水晶蟹。だからこそ、今回も各個撃破で狩れると考えていたのだが、これは予想外だった。

 そして更に予想外なことに、その空間に居たのは水晶蟹だけではなかった。

 体高一mはある水晶蟹の三倍近くの大きさの巨体。水晶蟹に似た生物がまるで水晶蟹を従えるかのように、水晶蟹たちの後ろでどっしりと佇んでいる。

 先ほどあんな巨大な蟹は居なかった。水晶蟹たちの後ろにある通路らしき場所の奥から現れたのだろうか?

 

 考えても仕方ない。答えの出ない疑問を考えているよりも、これからの自分の行動を考える事が重要だ。

 巨大な水晶蟹……よく見れば正面から確認できる限り巨大な水晶蟹は背中に水晶を背負っていないな。色も薄い灰色と言うよりは殆ど白色の甲殻をしている。更に爪も水晶蟹とは違うな。水晶蟹の爪は前の世界で見た大抵の蟹と同じ見た目だが、巨大な水晶蟹の爪はなんというか……付け根の部分が太くて先端に行くほど細くなっていて、工具のペンチを連想させる見た目だ。使いにくそうだなと思うが、何か理由があるのだろうか?

 

 水晶を背負っていないのに水晶蟹はおかしいな、……取りあえず大きな蟹だから「巨蟹きょがに」と呼ぶ事にしよう。

 

 水晶蟹は整列しているので、何匹居るのかは直ぐに分かった。合計で……十二匹だ。

 流石にこの状況で十二匹もの水晶蟹と巨蟹に挑むのは得策ではない。

 水晶蟹は惜しいが一旦撤退を―――、そう考えて来た道を戻ろうとするが行動を起こす前に巨蟹が両の爪を地面に叩き付ける。

 大きな音が空間に響き渡り、同時に今まで整列し微動だにしていなかった水晶蟹たちが弾かれた様に一斉に俺の方へ向かって走り出す。水晶蟹達には明らかに前回には無かった統率があった。

 

 急いで逃げようと、踵を返そうとした体を何とか押しとどめる。

 水晶蟹の走る速度は目測で今の俺の全速力とほぼ同じ。例え巣に逃げ帰れたとしても今も巣にいる芋虫を無暗に危険にさらすだけだ。

 骨蛇の時は糸をうまく使って手を貸してくれたが、アレは自分にも危険があったからこそ手を貸してくれたと俺は考えている。そもそも俺は友の元に厄介ごとを持ち込むほど友達甲斐の無い奴ではないつもりだ。

 

 ……ならば、ここは俺が一匹で戦うべきだ。

 幸いにも、水晶蟹に対しては俺の攻撃の殆どが通用する事が分かっている。巨蟹は今のところ先ほどの行動から目立った動きは見られない。

 一緒に襲われたらかなり危険だったのだから好都合ではある。だがだからと言って、奴がこれから水晶蟹たちに合流して戦闘に参加しないとも限らない。なるべく素早く水晶蟹たちを撃破するのが最善だ。

 

 そう考えている内に水晶蟹の数匹があと数歩で俺の元まで近づいて来た。爪を振りかぶっている事から、やはり蟹らしく主な攻撃手段は爪と考えていいはずだ。

 

 振り下ろされる爪を躱し、隙だらけの腕の中央付近に、『尾の重撃(へヴィー・テイル)』を放つ。尻尾が当たった次の瞬間、爪の付いた腕は半ばから砕け、破片が宙を舞う。

 

 よし! やはり甲殻類と言う割には防御面が薄い。この分ならば胴体部分は無理だとしても、脚や腕程度なら測度重視の『尾の瞬撃(ライト・テイル)』でも砕けるかもしれない。

 

 更に他の水晶蟹から振るわれる爪も何とか回避。

 しかし『尾の重撃(へヴィー・テイル)』を放った反動で僅かに硬直していた所を無理に避けたので、今度は攻撃のタイミングを逃した。

 

 ―――やはり、ためが大きく反動もある『尾の重撃(へヴィー・テイル)』よりも、素早く打て更に反動もほぼ無い『尾の瞬撃(ライト・テイル)』の方が戦闘ではいいな。

 次は―――。

 

 次々に振るわれる爪を避けながら、攻撃後に隙を見せた水晶蟹に『尾の瞬撃(ライト・テイル)』を放った。

 脚の一本に当たった尻尾は、『尾の重撃(へヴィー・テイル)』の時の様に、吹き飛ばす程の威力はなかったが、乾いた音を立てて脚を折る事には成功した。見立て道理、『尾の瞬撃(ライト・テイル)』は十分な威力を発揮した。

 

 しかし、一瞬とはいえ自分の攻撃の結果を確認するために、視線を一匹の水晶蟹に集中させたのがいけなかった。

 

 今まさに自分の頭部に爪を振り下ろそうとしている背後の水晶蟹の存在に気が付き、慌てて回避行動をとる。

 そのおかげで間一髪回避の成功したが、周りをよく見ないで回避行動をとってしまったため、その先に居た水晶蟹の脚に踏まれてしまう。

 

 水晶蟹の尖った脚は、俺の鱗に阻まれ俺の身体を貫く―――と言った結果にはならなかったのだが、それでも俺と同程度体高を持ち更に背中に水晶まで背負っている存在に踏まれたのだから、その衝撃はかなりのものだ。内臓が潰れるのではないかと言う想像に毛の無い身体だが身の毛がよだつ思いだ。

 

 その衝撃に怯んだ隙に、他の水晶蟹の爪が振るわれる。胴体部に響く衝撃に歯を食いしばって耐える。

 

 それでも、何とか俺を踏んだ水晶蟹の脚の下から抜け出す。

 爪の当たった部分の鱗が数枚ひしゃげていたが、それを気にしている暇はない。もたついている間に水晶蟹が俺の周りを包囲しているのだ。

 

 そこから何度も振り下ろされる爪を潜り抜け、『尾の瞬撃(ライト・テイル)』を何度も放ち、三匹の水晶蟹を戦闘不能に追い込んだ、何本も脚や爪を砕かれた三匹の個体は、死んだわけではないが戦闘には参加できないと言った状態だ。

 確実に仕留めるには隙の多い『尾の重撃(へヴィー・テイル)』、もしくは更に隙が多い『尾の転撃(ロール・テイル)』を使用する必要があるが、一ケタになったとはいえ、九匹の水晶蟹の相手をしている俺にはその余裕がない。

 三匹倒すまでに俺は爪の振り下ろしを四発も受けてしまった。未だ致命的なダメージは受けていないが、それでも打撃特有の鈍痛が集中力を奪う。

 

 そしてその奪われた集中力が致命的だった。

 幾度となく繰り返した爪を避け、その隙に攻撃する行動。当然、その光景を水晶蟹達は何度も見てきたのだ。その行動を予測し反撃する事も想定しなければいけなかったのだ。しかし奪われた集中力が、その考えを頭から抜け落ちさせていたのだ。

 

 俺が腕を折った水晶蟹の個体が、突然口から大量の水と泡が混じった液体を俺目掛けて吐き出したのだ。

 

 回避行動する暇もなくその液体を頭からかぶってしまった俺は一時的に視界を奪われる。瞼を閉じるのが遅かったために目に泡が入りかなり強い痛みに襲われる。……これはかなりしみる・・・っ!

 

 何とか頭を振って液体を振り払った次の瞬間、胴体に今まで受けた攻撃と異なる衝撃が走る。

 泡が目に入った事による痛みを堪え視界を取り戻した俺が目にしたのは、水晶蟹の爪が俺の胴体部を挟んでいる姿だった。

 

 俺は身体から血の気が引くのを感じた。


補足

 冒頭に天月の性格についての話がありましたが、つまりは力不足を実感して今後に不安を抱く事は有りますが、力不足そのものを嘆く事はありません。

 現状に不安を感じる事は有っても、己の不運、不遇に関してはあまり関心が無い、ある種特殊な思考回路をしております。

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