青の章 第31話 食糧事情
青の章 第31話 食糧事情
意外なことに、ハーピーとの別れはあっけないものだった。
十分足らずで、食いかけとはいえ二匹目のゴブリンを平らげたハーピーは、タイミングを見計らったように現れた仲間のハーピー数匹に掴まれて (両の翼を一匹ずつに掴まれていた)空へ消えていった。
後から来たハーピー達はハーピーの近くに居た (というか捕まっていた)俺に対し、露骨に警戒していたが、片足のハーピーが数度鳴き声を上げると怪訝そうな表情をしてそのまま俺に危害を加える事無く、片足のハーピーを連れて行ってしまった。勿論俺は危害を加えられる様であれば反撃するつもりだったが、まあ良かったとしよう。とは言え警戒心はかなり刺激され、思わず低い唸り声が俺の口から出たな。
去り際に微笑みながら「ピューイ」と鳴き声を上げる片足のハーピーは、なんとなく「ありがとう」と言っている気がした。
俺はその様子に何となく胸中に寂しさを感じたが、気のせいと言う事にして置く。
……さて、巣に帰って友である芋虫に今日の成果を分けねばな。久しぶりの肉だ、友も喜ぶだろう。
辺りはすっかり暗くなっており、俺は足早に巣のある洞窟へ走り、その場を後にした。
迷うことなく洞窟に到着した俺は、洞窟の中に入れておいたゴブリンの死体が無事なことを確認し、ホッとする。さすがに真昼間から日暮れまで、獲物を放置したのだ。流石に他の生物に横取りされてもおかしくなかったが、どうやらそんな心配は杞憂に終わったようだ。
そこから先は、洞窟の外がかなり暗くなるまで、ゴブリンの死体の運搬に時間が掛かったとだけ言っておく。
重労働を終え疲れから睡魔が襲ってきたが、何故か今日に限って友の芋虫がやたらと構って欲しそうに甘噛みを絶え間なくしてくるので、仕方なく相手をしてやった。
といっても別段特別な遊びなどではなく、噛まれる対象が俺の頭部から尻尾に変わっただけ。俺は尻尾を芋虫の口元にちらつかせて、芋虫が噛もうとしたところでそれを避けると言う遊び。
人間と猫が猫じゃらしで遊んでいる図を、蜥蜴と芋虫に置き換えてもらえば……、想像……しやすいか?
しやすくないな。シュールすぎる。この遊びは「尻尾じゃらし」とでも名付けようか。
普段は食い物があれば即座に食いつく (文字通りの意味で)筈の芋虫が、甘えてくる (様に見える)のでなんとなく甘やかしてしまった。それでも数十分かそこらで俺は睡魔に負けて眠りについてしまった。
目を覚ました時も、芋虫は俺の隣で眠っていた。……最近の芋虫は俺の隣で寝ていることが多いのだが、これは懐かれていると言う認識でいいのだよな? 意思疎通の手段が無いので、行動から芋虫の思考? を推測するしかないのだが、最近こういった些細な行動の変化がよく見られる。正直、悪い気はしない。
昨日はこの世界に生まれて初めての外界、最大の集団戦、更にはハーピー……と思われる鳥の翼と下半身を持った美人さんに出会ったりと、一度に多くの事が起きすぎた。
収穫も多かったが、流石に肉体的にも精神的にも疲れた。
食料も十分にあるという事もあり、今日は休息を取る事にした。今決めた。
かと言って日課となりつつある筋トレは休む訳にはいかないので、朝食にゴブリンの生肉を少し食べてから、筋トレを開始した。
筋トレが終わると、昼食にゴブリンの生肉を食べた。筋肉作りにはタンパク質は欠かせないからな。運動直後にタンパク質を取る事が重要だ。昔友人の刃に筋トレ後の生卵ジョッキ一気飲みを進められたが、あれってどうなんだろうな? 確かにタンパク質は大量に取れるだろうが、同時に大量のコレステロールをも摂取している気がするのだが……。
芋虫はゴブリン丸々一匹をペロリと平らげ、デザートとばかりに骨蛇の骨を齧っていた。
……むぅ、やはり芋虫の分も考えると、もう少し食料事情をどうにかしなければならないな。
俺だけならゴブリン一匹分の肉もあれば三食……一日分にはなる。だが芋虫の場合それで一食分にしかならない。まあ、ダンゴムシ数匹や苔を食っただけで満足する事もあるので、芋虫がどの程度一日の食事として必要なのかが分からない。が、それでもこのペースで食料を消費していては、毎日狩りや採集で一日の殆どが終わってしまう。
今のところ俺の狩りの成功率はかなり高い。だがそれは、俺を餌として狙ってくる獲物を返り討ちにしている結果だ。
つまり、本来格上の存在を相手にしているわけだ。これでは長続きしないだろう。一度でも大きな怪我をしてしまえば、この世界では命にかかわる。何度も何度も、命を張った狩りを続けてはいられないのだ。
それでは今後、どうすればいいのか?
今、俺はそれを例の「尻尾じゃらし」で芋虫と食後の運動をしながら考えている。
……どうでもいいが、芋虫はこれで楽しいのだろうか? 別に俺としてはあんまり楽しいとは思えないのだが。
いや、まあ、見ている限りでは飽きる様子が無いので、こんな事で楽しめるなら別にいいのだがな? ……むぅ。
……さて、今後の食料事情を考えている所だったか。
改善策として、少し考えただけだがいくつか考えが浮かんだ。
要するに大量の食料が必要な訳だが、単純に大量の食料を手に入れる事だけ考えればいい。と言う訳ではない。
保存、と言う問題があるのだ。
例えば、一度に俺と芋虫が一週間狩りをしなくてもいいだけの量の肉が手に入ったとしよう。しかし巣にそのまま肉を置いておけば、比較的暖かく湿気も多いこの場所では三日も持たずに腐るかカビでも生えるだろう。
巣の外に置くのも論外。巣の外の洞窟の通路ならば、腐るまでの時間は伸びるだろうが、自分の目が常に届かない以上他の生物に食われる可能性が出てくる。洞窟の外も同様だ
しかも、保存食を作ろうとしても俺の知る限りの方法は、現状実行できない。
簡単な方法だと塩漬けや酢漬けだが、肝心の塩や酢、香辛料の類もない。干して乾物を作ろうにも、安全に干す場所がない。
燻製を作ろうにも火を起こす手段も、設備も無いし作れない。
保存できる環境を作ろうにも、冷蔵庫や冷凍庫の様な便利な代物、そもそもこの世界に存在するのかどうかも分からない。氷室を作ろうにも、氷もなければ適した場所もない。
つまり、大量に食料となる肉等を手に入れても、無駄になってしまう可能性が高い。
まあ、植物であれば一週間ぐらい暖かい場所に置いておいても、食べられるものもあるだろう。だがこの世界の植物がどんなものか分かっていない現状、安全に食べられるのは今のところ洞窟の苔ぐらいだ。危険を冒して一種類ずつ検証する時間の余裕は、無くは無いが時間は出来るだけ大事にしたい。
食べられる植物がある程度分かれば、そこから栽培方法を探って農業でもできればいいのだが、それではこの世界に俺を寄越した女神であるヘルちゃんやユグちゃんを助けるという目的がかなり遠のく。
それに農業自体失敗する可能性も低くは無い。
ならばどうするか。
考えられる手段としては、罠などを使って定期的に獲物を得る。……正直、人間だったころならともかく、蜥蜴である現在の俺では罠を作る作業などとてもではないが出来ない。
次に獲物がある程度確保しやすい場所に拠点を移す。……そんな場所の心当たりなど無いし、もしそんな場所を探すにしても、そうなれば今拠点としている巣を捨てる事になる。せっかくのある程度安全の確保出来ている場所を捨てるのは、できる事なら最終手段としたいな。
それに拠点を移すとなれば、せっかくの友である芋虫と別れる事になるだろう。
新しい拠点を探すから付いてきてくれ、等と伝える事も出来ないのだ。仮に伝えられたところで付いて来てくれるとは限らない。
最後に、……これは手段として挙げていいのかどうかは分からないが、強くなる、と言うものだ。
どういうことかと言うと、この世界には俺の前生きていた世界とは違う、レベルや進化といった概念が現実に存在する。ヘルちゃんの説明では、他の生き物を狩ったり、自信を鍛えるなどすると上がり、生物として強くなるらしい。ならばその法則を利用して、強くなればいい。
そうすれば今よりもっと狩りが楽になる筈だし、そうすればこの世界での一先ずの目的である女神様達を助ける事にもつながる。当然だが、この世界で生き延びやすくもなる。行動範囲も大幅に広げる事も可能になるかもしれない。
……この方法しかないかな、と思う。
むぅ……。
しかし、この方法を実践するとなると、効率よく強くなるためには自分より強い奴を相手にしなければならないし、そうなれそれに備えてば自身を鍛えなければならないし、……これって、今の俺のやっている事と何か変わるのか?
ここまで考えて……、無い知恵絞って……、現状維持が結論か……。
これは、アレだな。昔の人が言っていた言葉にもある。
『下手な考え、休むに似たり』ってな。かっはっは。
……はぁ。今日はもう寝よう。
保存食は難しいですよね。現代では冷蔵庫と言う文明の利器があっても腐らせる事が有るのですから、昔の人は本当に偉大です。




