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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
青の章 水晶洞窟の主 編
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クリスマス特別話 装飾品

本編にはあまり関係しない短編のお話です。今回の主人公は清井キヨイココロ

話の舞台は転生数年前の12月です。

クリスマス特別話 装飾品

 

 私の名前は清井キヨイココロ。倉井家、正確には倉井天月様―――アマツ様に使える事を仕事としているメイドで御座います。これは、まだ私が異世界などと言う摩訶不思議な世界へ旅経つ約一年前の物語です。



 「……ふぅ。キッチンの掃除はこれで終わりですかね」

 

 持っていた雑巾を見れば油汚れでこれ以上使えない惨状となっている。別段このキッチンが汚いと言う訳では無く、今日は普段掃除しない様な細かな場所の掃除も行った為に雑巾が犠牲になったです。本日の数時間だけで四枚も。

 普段このキッチンを使っている私のご主人様。アマツ様は中々に綺麗好きなお方で、毎日夜営業終わりに一人でキッチンの掃除をしています。ですが毎日掃除しているとは言え四・五人が動き回れる様な広さを持つキッチンです。流石に毎日完璧に汚れを落とす事等不可能です。油汚れ等は、それはもう落ちにくいですからね。

 ですが、そんな手の届かない場所を掃除してこそのメイドで御座います。

 

 時計を見れば午前十時。そろそろアマツ様が起きて来る時間ですね。アマツ様は就寝が深夜になる事が多いのでこれくらいの朝とも昼とも取れない様な時間帯に起床する事が多いのです。けして自堕落なお方ではありませんから。

 

 「……そうですね、そろそろアマツ様を起こさねばなりませんね」

 「むぅ~。……ん? ココロか、おはよう」

 

 おっと、噂をすれば何とやらで御座いますね。厨房の扉を開けて入って来たのはアマツ様ではありませんか。どうやら私が起こしに行くまでも無く既に起きていらしたとは。……アマツ様の寝顔が見れずちょっぴり残念です。

 本日は日曜日。お店が休みの日ですからもう少し眠っていると思っていましたのに。

 

 「むぅ? なんだ、厨房の掃除してくれてたのか。悪いなぁ、汚れていたみたいで」

 

 私の手にある汚れた雑巾を見てそう仰るアマツ様。そのお顔は寝起きのせいか苦笑いを浮かべるだけである種の色気を感じられます。流石、中性的な服装で街中を歩けば十回に一回は同性にナンパされる程の容姿の持ち主ですね。思わずため息が出そうになりました。

 

 「いえ、普段手の届かない場所の掃除をしていたのです。冷蔵庫の裏やその他の器具などの掃除が主ですよ。もうすぐ年の瀬ですから」

 「ああ、そろそろ一般の家庭は大掃除の季節か」

 「はい、まだ二週間以上ありますが早いうちに細々と掃除して置けば年末バタバタしなくて済みますので」

 「むぅ、そうだなぁ」

 

 未だに眠気を振り切れていない様子のアマツ様は、どこかぼんやりした眼で私の足元に視線を向けます。……? 何でしょう? 私も自分の足元に目を向ければ、先程私が雑巾で丁寧に拭いた床と油が浮いた水の入ったバケツ位しかありません。

 

 「この寒いのに水仕事させてしまったか。申し訳ないなぁ」

 「いえ、この程度メイドとして当然の―――」

 

 確かに冬期の水道から出る水は冷たいですが、この店―――家の水道は全て湯沸し機能が付いています。季節柄時間がたてば冷水に戻る事は仕方ありませんが、それでも普通に初めから冷水で仕事をする事に比べれば大分良い方です。第一油汚れはお湯で落とさねばなりませんから。確かに、床を行いている際は床が冷たい事もあってかなり手が冷たくなってしまっていますが。それをアマツ様が気になさる事では御座いません。

 

 しかし、アマツ様は自然な動作で私に近づき、雑巾を握ったままの私の手を自身の手で包み込みます。

 

 「ほら、こんなに手が冷たくなって。身体も冷えているだろう、風呂を沸かしておくから風呂の支度をしてくるといい」

 「あ、ああ。はい……。有難うございます……」

 

 あまりの自然な動作に運動能力と反射神経には自信がある私でさえ、アマツ様の動きに対応できませんでした。自身の手が汚れる事も構わず私の手を温めようとするその気遣いと、私の事を優しく心配してくださるその声音、表情に私は自身の体温が急激に上がる感覚に襲われます。舌も若干空回りしてしまいました。

 アマツ様、不意打ちはずるいです。卑怯です。

 

 「むぅ」

 

 満足そうに厨房を後にするアマツ様の後姿に、私は少しだけ悪戯心が芽生えます。私ばかり感情を揺さぶられてばかりでは面白くないと言う思いもあります。私は少しだけ、ほんの少しだけアマツ様をからかって見ようと思いました。

 

 「あ、ご主人様。よろしければお風呂、ご一緒しますか?」

 「かっはっは。残念、俺はもうシャワーで済ませてしまったのだ。朝食ならご一緒するよ」

 

 簡単に流されてしまいました。ちょっと残念です。

 

 

 

 「所でココロ、俺の服装ってどう思う?」

 「服装、で御座いますか?」

 

 朝食が終わり、後片付も終わり二人でお茶を飲んでゆっくりとしている時にふとそんな話題がアマツ様から振られます。因みに本日の朝食は白米と焼き鮭、ほうれん草のお浸しに里芋の煮っ転がし、玉ねぎとわかめの味噌汁です。今二人で飲んでいるのはアマツ様お気に入りのほうじ茶で御座います。

 

 「……レイアがな、この前集まった時にもっとお洒落した方がいいと言って来たのだ。来月辺り七星ナーの授業参観があるから、少し身なりには気を付けようと思ってな」

 「成程、そうで御座いましたか」

 

 レイアとはアマツ様のご友人の一人で元ご学友の女性です。とても美しい方で大企業のご令嬢、自身も既に会社を経営している優秀な方で気品に溢れています。七星ナー様はアマツ様の妹様です。

 

 「ご主人様、普段のお召し物は燕尾服で御座いますよね?」

 「むう、七星ナーとレイアとキリカさんの共同プレゼントだ」

 

 アマツ様が普段お召しになされている燕尾服。黒に僅かに青が混じった珍しい色合いの燕尾服はこの家の地下室の住人、霧崎原キリサキバラ 桐香(キリカ)の発明した特殊な繊維が使用されたそれはレイア様の財力で最高品質に高められた超が付く高級品です。燕尾服のデザインは七星様の趣味と聞いた事があります。


 正直料理中もその服装なのはどうかと思いますが、油汚れを付けず火にも水にも強く匂いも付けずと言う破格の性質があれば納得するしかありません。アマツ様も七星様の好きなデザインと言う事でとても気に入っております。―――いえ、そもそも妹様やご友人様からの贈り物をアマツ様が無下になさる事等ありえませんね。

 

 ……ですがレイア様。冗談抜きに高級マンション・・・・・・・が立てられる値段の服と言うのはやり過ぎです。それを着替えも含めて三着も……、正直洗濯する度に心臓に来るのですよ……。

 

 「新しいお召し物を買われるのですか?」

 「いや~、この服以上に着易くて性能のいい服なんて買えないし、それに低品質ならあんまり買いたくない」

 「では?」

 「レイアがちょっとしたアクセサリーでも数個買ったらどうだと言われたのだ」

 

 ……成程。確かに見ただけである程度高級感がある燕尾服です。下手に新しい物を買うよりもアクセントとして装飾品を加えるのも悪くありません。いえ、いいアイデアです。

 

 「それでな、今日は店も休みだしちょっと遠出して買い物に行こうかと思うのだが、付いて来てはくれないか?」

 「勿論お供させていただきます。私はアマツ様のメイドですから」

 

 

 

 丁度その日、アマツ様の妹の七星様は地下室に籠っている桐香と過ごすと言う事でした。弟の太陽様は普段道理昨日から外泊です。今日の夕飯には帰るでしょう。

 私とアマツ様は車で二時間程の距離にある大型ショッピングモールに来ています。因みに車は私の私物で、アマツ様は免許を持っていません。

 

 「……アクセサリーなんて、普段身に着けないから良く分からん。どういう物が良いのか教えてくれ」

 「かしこまりました。……ではあちらの店に参りましょう。有名なブランドの店舗です」

 

 正直アマツ様と二人きりで出歩く等滅多に無い機会です。これはデートの様で、少し心が躍ります。

 まあ実際周りを歩く人々は私達をカップル等とは思いもしないでしょう。歳は近いとはいえメイド服の女と燕尾服の男ですので。それはもう目立ちますよね、当然です。

 しかし私もアマツ様も、その辺の有象無象の視線を気にする様な性格はしていませんので何の問題もありませんが。

 

 目的の店舗に入れば外から見たよりも意外に広い内装。ガラスケースに入ったアクセサリーや宝石の埋まった腕時計等が数百点並べられています。流石有名ブランドです。ざっと見ただけでも高品質で良いデザインだと思えるのですから。

 店に足を踏み入れた途端に近づいて来る女性店員を睨んで止めると、近くにあったガラスケースに二人して並んで、中にあるアクセサリーを眺めます。このケースはブローチがメインの様ですね。

 

 「むぅ、良く分からん」

 「そうですね、先ず簡単・・に説明すると装飾品を見るべきポイントはデザイン、色合い、服との相性ですね。これらを組み合わせる事で装飾品の美しさは何倍にもなります。とは言え服装は十人十色、万人に受ける服装などありません」

 「むぅ、例えば俺の服にはどんな物が合うと思う? ココロの主観で言ってくれ」

 

 アマツ様の服装に合う装飾品。ガラスケースの中身とアマツ様の服を交互に見ながら、頭の中で組み合わせます。

 

 「……そうですね。その燕尾服に合わせるなら、この音符の形をしたブローチはいかがでしょう? 青黒い燕尾服に目立ち過ぎないメタルブルー色、燕尾服に対して音符と言う形も違和感を与える事は少ないでしょう。後はこちらのライトグリーンの木の葉のデザインも悪くは無いかと。……逆にこちらの真紅の薔薇や金色の昆虫等は主張が強すぎてよろしくないと思います」

 「むぅ……、この白と黒の猫の奴はどうだ?」

 「私個人の趣味ですと単色の物が好ましく見えますね。ですが変と言う訳ではありません」

 「成程な。……じゃあココロの服に合わせるだったらこれとかか?」

 「そうですね。流石アマツ様、覚えが速くていらっしゃる。後は私の服の色合いですとこちら、デザインですとこれなんかがいいかも知れません」

 「ありがとう、……じゃあ七星のあの服に合うのは―――」

 

 

 

 楽しい時間はあっという間です。気が付けば来店して二時間も経過していました。

 

 「アマツ様そろそろ帰りませんと夕食の準備が御座いますので……」

 「ああそうか、じゃあ良さそうだったのを買って帰るか。―――すみません店員さ~ん」

 

 アマツ様は店員を呼ばれた後、三つ程ブローチをお買いになられました。他のアクセサリーも見ましたがアマツ様の中ではブローチが一番しっくり来たようです。……その中の一つは私が提案した音符のブローチだったと言う事実が、私の頬を緩ませようとしますが何とかこらえます。家ならともかく外出先でだらしない顔は晒せません。

 

 「ではこちらが販売証明書になります、こちらとこちらにサインをお願いします」

 「はい……、ああそうだココロ」

 「? はい、なんで御座いますか?」

 「今財布の中を確認したんだが、いつも使っているクレジットカード。あれ多分車の方に置いて来た鞄の中のカードケースに入っていると思うのだ。財布に入ってなかった。別のカードもあるが何となくいつも使っている方が良くてな。悪いが鞄から取ってきてくれないか?」

 

 ああ、確かに車から出る時アマツ様は財布だけ鞄から取り出していました。

 

 「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 私は急いで駐車場に向かいました。外に出ると空は茜色に染まり、来た時よりも大分駐車場の車が減っていました。車の中に置かれたアマツ様の鞄からカードケースを探し取り出します。……アマツ様、カードはカードですがクレジットとポイントカード、商店街の割引券を一緒に入れるのはどうかと思います。後で整理して差し上げなくては。

 

 アマツ様の元に戻ると品物は袋に入れられ、後は会計をするだけの状態でした。

 ……アマツ様は女性の店員と親しげに談笑しておられます。―――おい店員? 少し距離が近くないか? 何だそのだらしない笑顔は? 明らかに営業スマイルじゃねえだろ殺すぞ雌犬が。

 

 「!? ひぃ!?」

 「ん? ああ戻ったか。悪いな急がせたみたいで」

 「いえいえ、全く気にしなくて結構ですよ? それよりもアマツ様そろそろ日が沈みます。急いで会計を済ませた方がよろしいかと」

 

 私がそう言うとアマツ様はカードを受け取り別の店員がレジで会計を行います。私はその間件の女性店員の顔を睨み続けます。彼女は顔を青くして汗を流しています。あらあら、ふふふ、どうしたのでしょうか具合でも悪いのでしょうか? ふふふ。

 

 「はい、……一回払いで……はい機会があればまた。ありがとうございました。―――よしココロ、帰るぞ~」

 「はいアマツ様。急いで・・・帰りましょう」

 

 帰りの車の中では、最初はアクセサリーの組み合わせの話をしていましたが、直ぐにアマツ様は今晩の夕食や店の新メニューの話に変わりました。とてもアマツ様らしいです。

 

 「ではアマツ様、私は夕飯の準備をしますのでそれまでお部屋でお休みください」

 

 お店が休日の日は出来るだけ私が食事を作る事になっています。アマツ様には出来るだけ休んでいただきたいと思っています故に。アマツ様は「いつもありがとう」と言われると、二階にある自室へ向かって歩き出します。

 

 「ココロ」

 

 厨房へ向かおうとした私をアマツ様が呼び止めます。アマツ様へ顔を向ければ手招きをする仕草。私は首を傾げながらも彼の元へ歩み寄ります。今日の夕食の献立は車の中で決まった筈ですが……何か変更でもあるのでしょうか?

 

 「なんでしょうか?」

 「いや、いつもありがとうと言う事で、はい」

 

 私の手にアマツ様の持つアクセサリーが入っている袋。その中から少し小さめの袋が出されてそれを持たされます。

 

 「もうすぐクリスマスだし、丁度いいと思ってな。今日はありがとうな」

 

 そう言うとアマツ様は足早に自室へ向かわれました。暫く呆気に取られていた私ですが、袋の中を確認すると高級感のある小さな箱が二つ。恐る恐る箱を開けると―――。

 

 「っ。ああ……」

 

 一つは褐色単色の薔薇のブローチ。もう一つは青緑色の白爪草の髪留め。

 私の頭に今日のアマツ様との会話が過ります。

 

 『成程な。……じゃあココロの服に合わせるだったらこれとかか?』

 『そうですね。流石アマツ様、覚えが速くていらっしゃる。後は私の服の色合いですとこちら、デザインですとこれなんかがいいかも知れません』

 

 あの時私が自分の服に合うと言って指さした薔薇のブローチ。間違いなく目の前にあるのはあの時のブローチです。―――そして白爪草の髪留めは記憶にありません。恐らくはアマツ様が私に似合う装飾品を自分で選んでくれたのでしょう。

 私は不覚にも視界が滲む事を止められませんでした。……だから不意打ちはずるいですよ、卑怯ですよ。愛しのご主人様。

 

 

余談ですが、この日の夕食は予定に無かった料理が数品並び、倉井家の方々は大変喜ばれました。

 

 

 「とまあこの様に、プレゼントとは相手の事を思ったものであればどのような物でも喜ばれるのですよ」

 「うぉい!? どんだけお洒落だよ!? アマツの奴お洒落が過ぎるぞ!?」

 「うむ、流石はアマツ殿。相手の好みと自分の好みを両方とは、何とも欲張りな事で御座るな。アマツ殿らしいで御座る。言葉を飾らぬ振る舞いもなかなか男らしいで御座る」

 「ふふん。その髪留めとブローチ、中々センスがいいじゃない。天月もやりますわね、アドバイスした甲斐がありますわ。流石わたくし」

 「今思い返せば、アマツ様はわざと車にカードを忘れたのでしょう。私がカードを取りに行っている間に商品を注文する為にです」

 「成程、初めから日頃尽くしてくれるココロ殿にプレゼントをするためにアクセサリーを買いに行ったので御座るか。と言う事はレイア殿云々はただの口実で御座るか」

 「リア充が……。こちとらクリスマスなんぞ周回イベントぐらいしか楽しみが無いのに……。いちゃいちゃしやがって……」

 「嫉妬は見苦しいですわよ。それに毎年アマツがクリスマスにはこうしてパーティーを開催してくれているではありませんか」

 「むぅ~。チキンが焼けたぞ~。……なんだやけに楽しそうだな、何の話をしているんだ」

 

 後日のクリスマス当日。いつものメンバーで集まった食事会で弄られ倒して僅かに照れていたアマツ様の顔はとても可愛かったです。

 

 「全く、皆に話すとは……カッコ付かないな~」

 「ふふふ、とんでもないですよ。アマツ様はカッコいいです」

 

 本当に、ね。


補足

 天月の燕尾服に付いては本編で後に語られますが、あらゆる性能を併せ持つ最高の服とでも思っておいてください。天月は料理の時は袖をまくって簡易エプロンを付けていますので衛生面は問題ありません。

 


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