青の章 第29話 需要無し
やっと半人型生物が出せました……。
人型生物が出て来るのはいつになるのか……。
青の章 第29話 需要無し
「キュアァァァァァァァ!!」
若い、人間の女性の様な叫び声。喉が裂ける様な悲痛さを纏うその声に、何事かと身構え、次の瞬間声の主に心当たりがある事を思い出す。
ああ……先ほどのゴブリンの集団の内、リーダーに指示をされて森の奥へ消えていったゴブリンが二匹居た筈だな。
そのゴブリン達が向かった方向には確か、少し前まで空ではドラゴンもどきがハーピーを狩っていた。その時ハーピーの一匹が墜落して行った方向と同じだ。ハーピーの生態もとい声帯には詳しくないが、あの姿からならば鳥の鳴き声よりは人間の女性のような声が出ると考えたほうが自然だろう。
であれば、状況的に考えてゴブリン達と墜落したハーピーが遭遇と判断できる。
別の生物が先ほどの悲鳴を上げた事も可能性としては、無くは無いだろうが現実味はそれ程無い。
―――ザッ
「……」
無条件で悲鳴の方向へ走り出そうとした体を、その場で踏ん張って止める。
……俺は今何をしようとした?
ハーピーを助けるつもりか?
馬鹿な。
別にハーピーは仲間でも友人でも何でもない。向こうは俺の事など知らないし俺の方も偶然見かけただけに過ぎない。
なのに助けるだと? 自分の命も十分に守れないかもしれない状況で? ……ありえないな。
自分の命は自分で守る。それが自然だろ。俺が芋虫と友になったのは偶然ではあるが、その後命を救われた借りもある。故に俺は友である芋虫に関しては友好的に接するし、危険が迫れば助ける事もあるだろう。
だが、ハーピーには悪いが、お前にまで回してやれる余力はない。先ほどの戦いで、怪我こそなかったが、精神的にはかなり消耗した。体力だって、スキルを連発しすぎて少ない。
可能であれば今すぐにでもこの場で眠ってしまいたい程に。
しかも俺はまだこの世界に生まれたばかりなのだぞ?
女神達との約束もある。
可能であればこの世界でも仲間ともできれば再開したい。家族にも会いたい。
こんな所で危険を冒す必要がない。俺に利益がないのだから。
―――俺は素早く走り出す。足音を極力少なく、障害物を避け効率的に動く。
……だが、そうだな。ハーピーの居る方向には間違いなくゴブリンも居るだろう。
むぅ、もしかしたらゴブリン三匹程度では食料として十分ではないのかもしれないな。
―――木々の間を、するすると駆け抜けていく。
―――血の匂いが漂って来た。争う様な複数の音と声が聞こえて来た。
俺の友である芋虫は、結構な健啖家だしな。
腐らせる心配がないのなら、食料は多い分には困らない筈だ。ならば狩れるうちに獲物を狩る事は実に理に適っているだろう。次にいつ狩れる機会があるのか分からないのだから。
―――ゴブリンとハーピーの姿を視界に捉える。
やはり、悲鳴の主はあのハーピーで間違い無い様だ。
ハーピーは片足を無くしている。これはドラゴンもどきにやられた傷だな。大怪我にしてはもうほとんど出血はしていない様だが。
そして片方の翼を石の斧で太い木の幹に縫い付けられ、身動きが取れないようだ。
それでも残る翼と足で必死に抵抗しているが、一匹のゴブリンがハーピーの足をつかんでしまった。
もう一匹のゴブリンは、自身の腰に巻いた獣の皮を無造作に投げ捨てた。
食う様子が無い? 獲物を身動き出来ない様にして、新鮮なまま持ち帰りといった所か?
――俺の攻撃範囲まであと少し。
ゴブリンが何をしようとしているのかを理解する。
なるほど、食うのではなく、犯すのか。
そういえばゴブリンは、前世からの友人である風太郎の持っている本では、女を性的な意味で襲う特性があると……あれ、言っていたのは刃だっけか? ……まあいいや。
――俺の攻撃範囲まで入った!
食事中でないなら、問題ない。食事を邪魔されるのは本当に嫌な気分になるものだ。獲物とは言え、食事中に襲うと言うのは少なくとも俺の中では気が引ける行為なのだ。
……いいこと教えといてやるよ、ゴブリン。
――走る勢いそのままに、跳躍し『尾の転撃』を放つ。
「ガァァァァァァ!」
女を抱きたきゃ、暴力何ぞ言語道断。まずは口説く所からだ! って昔友人が言っていた! 俺も同感だよ!
ハーピーを犯す為に中腰になっていたゴブリンの背中に、『尾の転撃』が直撃し、何本もの骨が折れる感触が伝わってくる。
もしかしたら生まれてから今までで一番強力な一撃が出たかもしれない。フウタの言葉を借りると「カイシンの一撃」というやつだ。詳しい意味は知らん。多分強い一撃的な意味だと思う。
大量の血を口から吐き出しながら、ハーピーの方へ倒れるゴブリン。むぅ、背骨が折れ身体が変な方向に曲がっている様子が見て取れる。あれでは即死だろうな。
さて、残る一匹。
俺と目が合い、一瞬硬直し、直ぐにハーピーの足を放し逃げ出そうとしたゴブリンを『尾の瞬撃』で転ばせ、本日三度目の断頭を行う。
……まあ、これはあくまでハーピーを助ける為ではなくて、食料確保が目的だから! 勘違いするなよ! あくまで自分の為の行動だからな! 俺はそんな意思を込めてハーピーの顔を睨む。
『男のツンデレなんぞ、誰得だよ! 需要がねえよ!』と、頭の中で風太郎の声が聞こえた気がした。
うるせえよ。ほっとけ。
補足
天月の性格では「理由なき施し」を嫌います。例えば「可愛そうだから」とお金や食料を恵んだり恵まれたり等を好みません。
故に天月は他人を助ける場合は、「相手から得られる利益」か「相手を助ける事によって得られる利益」を求めます。これは兄弟にお手本になろうとする学生時代の天月が、「理由なき施し」はどちらにせよ相手も自分も不利益をもたらすと言う事を教える為に実践している事です。
よって他人を助ける場合無理矢理理由を付けては自分を納得させる事もあるのですが、兄弟含む周りの人間には「わざわざ人が良い事を隠さなくてもいいのに」と面倒見が良い事がばれています。




