青の章 第28話 奇襲
青の章 第28話 奇襲
俺の巣に繋がっている洞窟の出口。その周囲には、洞窟の出入り口を底辺とした半円形に木も草も生えていない空間が広がっている。
まあ半円形というには少し歪だし、半円の外側も多少奥が見える程には木がまばらに生えている。……木なんて自然でそうそう近い感覚で生える事は無いのだから当たり前かもしれんが。
多分洞窟の周りは岩とかが地面の下にあるとか、そんな理由で木が根を張れないのかもしれない。日当たりとかも関係しているのかも知れないな。
先ほど洞窟の外を観察した際に、洞窟の出口はかなり急斜面な、もはや崖と言っていい場所の下にあった。つまり俺のいる洞窟の上には崖があるということだ。
と言う事は、つまり今は太陽が真上にあるからいいが、太陽が傾けばおそらく崖の影になる場所が増えるのではないだろうか? 植物は光合成するのだから、日当たりのいい場所に生えるのが自然だ。ならばこの草すら生えぬ地形の説明も付く。
これは俺の前に居た世界の常識で、異世界ではどうだか知らないが、少なくとも葉っぱがあるなら光合成をしているという認識は間違っていない様に思える。
っと、植物の生態なんぞ今はどうでもいい。と言うか考察そのものが殆ど意味は無い。
大事なのは、洞窟の出口の周囲には木、それに岩などがない平らな地面だということ。
そんな空間に、現れたゴブリン達は、お互いを確認し合うような仕草を見せた後、何やら話をしているようだ。
まあ、「グギャアァ」とか「ヴグァ」とか、酒焼けをしたおっさんみたいな声を出しているだけで、本当に会話が成り立っているのかは疑問だが。
会話に参加せずあたりを見渡したり、空を見上げている者もいる。
まあ、あまり統率が執れているかいるかと聞かれれば、間違いなくいいえだが、それは人間を基準にした場合だ。今の俺にとっては、連携される可能性が大きい分、ある程度の統率は非常に厄介だ。
隠れて襲うにも、洞窟の周りは障害物が無いので、出ていけば直ぐに見つかる。
直ぐにでもゴブリン達を狩りに行きたいが、あまり危険は冒したくない。
それに、俺の知る、生まれたばかりの頃のゴブリンとは様々な点が違いすぎる。
一つ目は、前に倒したゴブリンは、あんなに連携は執れていなかった。ただ行動を共にしているという印象を受けたものだが、目の前にいるゴブリンの集団は、少なくとも仲間意識はあるだろう。囲まれて袋叩きになる可能性がある以上は戦闘になれば油断できない。
二つ目は、体の大きさだ。前にゴブリンと戦った時から、俺の体格はおそらく倍以上になっている筈。しかし集団のゴブリンは一番小さい奴でも、前に戦ったゴブリンの一.五倍、大きい奴だと二倍近い身長がある。
まさか俺の戦ったゴブリン達は子供だったのだろうか? それとも前に戦ったゴブリンが進化するとああなるのだろうか?
三つ目は、装備。前に戦った時は、腰に動物の皮の様な物を巻いて、武器と言える物と言えば石斧を持っていた記憶がある。
しかし目の前の集団は少なくとも装備面では圧倒的に良くなっている。
持っている者はバラバラで、木の棒だったり、石の斧だったり、石の槍だったりと色々だ。
一匹だけ、石の斧の斧頭は無事だが、柄の木の部分が折れ皮一枚で繋がっているだけのモノを持っている奴もいる。何かと戦闘した後なのだろうか?
腰に皮を巻いているのはほぼ全員一緒だが、一匹だけ上着の様に動物の皮を巻いている奴がいる。装備が充実していると言う事はつまり、あいつがリーダーなのだろうか?
……多分そうだな。指示を出している。指示を受けたゴブリンが二匹、木々の奥へ消えていった?
残った者たちは地面に腰を下ろしたり、立ったまま空を眺めたり、自身の武器を弄っていたりと思い思いの過ごし方をしている。
まあ、減る分には良い。今居なくなったゴブリン達を抜いても、五匹のゴブリンがその場に残っている。一度に相手にするにはまだ少し不安のある数だ。
……むぅ。
この場は引くか? しかしこの人数で洞窟の中に来られたら、そちらの方が厄介だ。狭い場所では追い詰められて袋叩きに合えばお仕舞だ。
ならばここで、不意打ちで奇襲した方が、最終的にはいいのか? うん、その方がいいな。
奇襲するなら最低でもリーダーの個体は抵抗される前に仕留めたい。
戦力を分析すると、石斧を持っているのが二匹、木の棒が一匹、折れた石斧が一匹、リーダーは……鎌? 石の刃が付いた鎌の様な武器に、皮の袋を反対の手に持っているな。
むぅ。確か木々の奥に行った奴らは木の棒だけだった筈。……ゴブリンの中では石斧と木の棒が主流なのか?
近接武器ばかりなのだから飛び道具の警戒はしなくていいか。もし武器を投げてきた場合のみ注意が必要だな。
そうと決まれば、奇襲を仕掛けるだけ。
欲を言えばゴブリン全員が洞窟の方から意識をそれしてくれればいいが、そんな都合のいい事は起こらないし期待すらしていない。
ならば気付かれても、戦闘準備が整うまでにリーダーを仕留める。
……よし行くか。
洞窟を全速力で飛び出た俺に真っ先に気付いたのは、洞窟から一番近くにいた、折れた石斧を持って空を見上げていたゴブリンだった。
しかし、そのゴブリンは俺の姿を見ると、驚いたのか尻餅をついた。
何ともマヌケな光景だが、今はありがたい。
マヌケなゴブリンを無視して、リーダーのゴブリンに近づく。出来るだけ音を立てず四足歩行する訓練が生きた様で、俺の尻尾による間合いに入るまで俺に気付くゴブリンはマヌケ以外居なかった。いや尻餅を付いた個体が注目を集めたお陰か。
リーダーの傍にいた石斧ゴブリンが俺に気が付き、大声を上げた。
っち。そういう連携も出来るのかよ。まあ当たり前か。リーダーゴブリンも仲間の声で俺の方を振り返り、武器の石鎌を構えるがもう遅い。
俺はリーダーゴブリンの膝を狙い、『尾の重撃』を放つ。
リーダーゴブリンの膝はあっさりと折れ、そのままバランスを崩し倒れる。威力が強すぎたのか折れた骨が皮膚を突き破って中々に痛々しい光景だが同情などしないぞ。倒れたリーダーゴブリンの無防備な首筋に『咢の一撃』を放つ。俺の顎に挟まれたリーダーゴブリンの首はあっさりと千切れ、どこか呆けた表情の頭部が地面を転がる。
まさか千切れるとは思わなかったが、窒息や失血を待たずに即死させられたのは幸運だ。今の俺の状況では時間は見方ではないのだから。
しかし喜んではいられない。
大声を出した石斧ゴブリンが俺に、石斧を投げつけてきた。俺は素早くその場から飛び退く。―――やはり武器を投げて来たか。予備の武器も持っていない様子なのにわざわざ自分から無手になってくれるか。
俺の元居た場所に正確に投げられた石斧を横目に、無手になったゴブリンへ駆け寄り慌てて距離を取ろうとしたゴブリンの大腿付近に、スピード重視の『尾の瞬撃』を放つ。
高速の攻撃に反応できずパッシィン!! と、とても良い音を響かせながらゴブリンの大腿を直撃した『尾の瞬撃』は、皮膚を破り、真っ赤な肉を露出させていた。
悲鳴を上げて大腿を両手で押さえ、転げまわるゴブリンは、すぐに戦闘に復帰できないと判断し、俺を囲むように位置取った三匹のゴブリンに意識を移す。
むう。予想はしていたが、流石にこれだけ暴れれば囲まれるか。しかしリーダーを失ったのが致命的だったのか、ゴブリン達は直ぐには襲いかかってこなかった。どころかお互い顔を見合わせる始末。辛うじて俺に武器を向けている程度の行動しかしていない。
恐らく彼らは誰が一番最初に攻撃するか迷ったのだろう。
一斉に攻撃でもされれば危なかったが、これも好都合。
戦いに復帰されても厄介なので、素早くリーダーゴブリンと同じように転がっているゴブリンも首を千切る。
するとその光景を見た、マヌケゴブリンこと、折れた石斧を持ったゴブリンが逃げた。
予想以上に逃げ足の速いマヌケゴブリンに、逃げ足のスキルでも持っていたのか? と一瞬したが、同じように残りの二匹も逃げ出したのを見て、木の棒と石斧のゴブリンの内、石斧の方を追いかける。そしてアキレス腱に『咢の一撃』を放つと、そのままアキレス腱を食い千切った。
残りの二匹は既に森の奥へ逃げ去ったが、それは仕方がない潔く諦めよう。不利になったら逃げるのも生物として当然の反応だ。まだ生きている仲間を見捨てていくのはどうかと思うが。
さて、思いがけず大量の肉が手に入ったな。まああまり上手くないが、今の俺にとっては肉というだけで貴重なのだ。
流石に三匹ものゴブリンを、一度に巣まで運ぶ事が出来ないので、一先ず他の生物に死体を取られない様に、洞窟の出口の中に運ぶ。
さて、あとは一匹ずつ巣へ運ぶだけ―――と、リーダーゴブリンの体を背負い、頭部を銜えて帰ろうとすると、森の奥から悲痛な声が響き渡って来た。
野生動物の群れには一匹は居ますよね。マヌケと言うか「なんでそんな事するの?」と言った奇怪な行動をする個体。
でも動物園だとそう言った個体こそ人気が出るんですよね。




