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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
青の章 水晶洞窟の主 編
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青の章 第27話 大空の食物連鎖

 青の章 第27話 大空の食物連鎖

 

 「グゥゥゥ……」

 

 目の前の光景に自然とため息が漏れる。

 ため息の理由は落胆―――ではなく、感動だ。

 

 鬱蒼うっそうと生い茂る木々は大小様々な形をしており、パッと見ただけでも視界には五種類以上の樹木が確認できた。樹木はそれぞれ、幹の太さや葉の色・形が違い、普通の葉の形をしているのに色が紫に近いピンクだったり、葉の先端に行くにつれ白から黄色っぽくなっているものなど様々で、日本の紅葉とは違った美しさがある。森林と言うよりはジャングルや樹海と言う方が正しいのだろうな。

 今は昼間の様で太陽がちょうど真上にあり雲一つ無い、澄み切った青空が見える。洞窟の出口からフワリと体を撫でる風は暖かさと森の香りとも呼べる何とも言えない良い匂いを運んでくる。この世界に生まれ落ちてから初めて目にする太陽は、前世のものと変わらぬ柔らかな光で地を照らしていた。

 洞窟内ではあまり鳴き声を上げる生き物がいなかったが、ここからは識別し切れないほど多くの生き物の鳴き声が聞こえる。あるものは鳥のような、あるものは獣の咆哮のような、あるものは聞いたことのない甲高い、そんな音の波が次から次へ絶えることなく聞こえる。

 その様子は自分の知るどんな国内・海外の景色とも違う自然の光景で、ここが自分の知る世界ではないと改めて認識する。

 洞窟を出て初めて光源に照らされた場所に出たが、俺のは問題なく辺りの光景を映している事に遅れながら気が付いた。明るい所では『暗視』は効果を発揮しない様だな。まあその点は予想通りだ。まあ太陽を見て目がつぶれる心配が無いのならこの件にこれ以上思考する必要はないだろうな。それよりも―――

 

 「感動」とはこの様な景色の為にある言葉だったのか。そんな思いが溢れる。

 もし人間の状態で、差し迫った理由もなくこんな場所に来ていたら涙を流していたかもしれない。そして時間を忘れたように、この光景を目に焼き付け様と立ち尽くしていただろう。

 

 ただ、今の俺にそこまでの余裕は皆無だ。

 

 すぐさまこの感動を心の奥に仕舞いこみ、注意深くあたりを観察する。自分で言うのもなんだが、こういう切り替えの早いところが俺の長所だろう。

 

 むぅ。植物には詳しくないが、地球にある様な植物は少ないなぁ。木はともかく、野草類はある程度知識があるつもりだが、知っている野草に似ている草も、やはりどこか違いがあり食べる事が出来るのかどうかは正確に判断できない。

 動物―――は取り敢えず見当たらないな。鳴き声などは結構な種類が聞こえるのだが……。

 

 ふと、洞窟から半ば体を出していた所に影が差す。

 反射的に洞窟の中へ戻り息を殺す。いつでも洞窟の奥へ駆け込める様に態勢を整えながら、洞窟の外を注視する。

 

 ……ぉお。流石の異世界。とんでもないものが飛んでいるな。

 

 雲一つない空には、俺の見える限り二種類の生物が飛んでいた。

 片方は美女。かなり整った顔つきをしていると思う。まあ、かなり遠くに見えるので、近くで見ないと断言はできない。しかし、空にいる以上普通の女性なわけがない。

 美女は顔と胴体は人間の女性のそれだ。しかし両腕は鳥の翼を人間が飛べるまで大きくした感じで、実際にそと翼を羽ばたかせ、空を飛んでいる。下半身は大腿部の半分くらいまでが人間のそれだが、その先は鳥の足だ。立派な鉤爪まで生えている。

 おそらくあれは、ハーピーと呼ばれる生物だろう。俺の友人である風太郎ことフウタの、お気に入りの異世界の幻獣だった筈だ。なぜお気に入りなのかは、まあ、察してくれ。

 

 そのハーピーだが、一人……一匹? 一羽? 数え方は何でもいいか?

 見える限りで十……まあとりあえず匹でいいか。十匹以上いる。羽の色が白と黒で違ったり、髪の色が赤やら青やらピンク、白と結構違うが、群れっぽいし同じ種類ってことでいいのか?

 まあ、結構個性がある生き物らしい事が分かったが、空にはもう一種の生物がいる。

 

 その生物はハーピーと異なり、単独だった。

 黒っぽい鱗、長い尻尾、肉食恐竜の様な頭部。そして蝙蝠に似た、しかし蝙蝠とは比べ物にならないほど屈強な翼。

 そしてハーピーの十倍はある巨躯。それは一見ドラゴンと呼ばれるモノに近かった。

 唯一俺の想像と違うのは、そのドラゴンもどきには後ろ足がない。

 なんだか、蛇の体にドラゴンの頭と翼だけくっつけたような、あまりカッコイイとは言い難い見た目だった。

 

 見た目はいまいちだが、ドラゴンもどきは強い様だ。ハーピーをそれで追い回し、大きな顎でパクリとハーピーを食い千切ってしまった。ハーピー達も逃げ回るが、ドラゴンもどきの方が飛ぶ速度が速い様で、追いつかれて一匹ずつ食われていく。

 

 中には片方の翼だけ食い千切られ、鬱蒼と生い茂る木々の中に落ちていく者もいたが、大半は一撃で絶命していた。

 その光景は、ハーピー達の人間の叫びにも似た悲鳴と、恐怖に歪んだ表情の性で、食物連鎖だと分かっていても遣り切れない思いが湧く。……ハーピーの容姿が人間に近いせいでどうしても少し感情移入してしまうな。

 

 どうにかして助けてやりたいと思わない訳ではないが、両者が空の上ではどうしようもないし、例えドラゴンもどきが地上に降りてきたところで、俺では敵わない。俺が苦戦の末倒したあの骨蛇ですら、あのドラゴンもどきにかかれば一口で終わりだろう。

 暫くハーピーの悲鳴が続いたが、ハーピー達は散り散りに逃げることでドラゴンもどきから何とか逃げていた。逃げ遅れたハーピーが食われていたが、一匹だけ片足を食い千切られ、洞窟の近くの木々の中に落ちてきた。

 

 一瞬、驚きのあまり声を出してしまいそうになったが、ドラゴンもどきが俺の存在に気付いてしまうのではないかと、必死で声を殺す。物音一つ立ててなるものかと

 

 暫くすると、ドラゴンもどきは逃げたハーピーの中で比較的遅い一匹を追って飛んで行ってしまった。

 

 ……凄まじい、の一言に尽きるな。異世界の食物連鎖は。

 

 まさか洞窟をちょっと出ただけであんな光景が広がっているとは夢にも思わなかった。

 あのドラゴンもどきが、この辺一帯の食物連鎖の頂点だろうか? いや、結論を出すには時期尚早だ。

 少なくとも、予想道理俺の今の力では、絶対に敵わない生物が居たと、その強敵の存在を確認できただけで僥倖ぎょうこうとするか。

 

 自分があれに敵う未来が想像できないが、それでもあのドラゴンもどきを食ってみたいと思う自分がいて、内心で苦笑が漏れる。

 

 まったく、自分で言うのもなんだが、俺の食欲は少しばかり強すぎるな。だからと言って別に直そうとは思わないけどな。

 それはともかく、だ。

 

 俺の耳は聞き覚えのある鳴き声を捉えた。同時に複数の足音もだ。

 同時に、洞窟の近くの木々の間から、ある生物達が姿を見せる。

 

 ……はぁ、まったく、何もこんなタイミングで来なくてもいいのにな。

 

 木々の間から姿を見せたのは、生まれて初めて殺して食った生物であるゴブリン。その集団であった。

 

 その姿を目にした俺の中に湧きあがったのは、食欲。

 

 俺からすれば、あのハーピーの様な、美人な―――いやいや、美醜はともかく、人間の顔とか胴体にはあまり食欲は湧かないが、どちらかというと獣じみた感じのゴブリンは普通に食欲が湧く。例えその肉が美味でなくとも肉は肉だ。

 

 そういえば暫く肉を食っていなかった事を思い出し、口の中が唾液で溢れる。

 

 かっはっはっは。本当にこんなタイミングで来なくてもいいのにな。こんな、ドラゴンもどきを見て食欲の刺激された俺の前に出てこなくてもいいのにな。

 

 進化した力を試すしは丁度いい練習相手になりそうだ。生まれたばかりの頃に殺されかけた礼と、兄弟の卵を食い荒らしてくれた礼、まとめて返させてもらうぞ。

 

 ……後は、我が友である芋虫の土産にもいいな。

 

 俺は息をひそめた状態で、周囲を警戒しながらゾロゾロと出てくるゴブリン達を睨み付けた。小さく腹の虫がなったのはご愛嬌あいきょうだ。


漸く洞窟から出られた……。

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