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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
青の章 誕生の洞窟 編
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青の章 第17話 蝙蝠の災難

蝙蝠の雄視点です。

青の章 第17話 蝙蝠の災難

 

 蝙蝠は苛立っていた。

 地面をはい回る獲物が、やたら素早く逃げ回るせいだ。

 

 蝙蝠の種族は目が良くない。せいぜいが羽がぶつかりそうなほどの距離で隣を飛んでいる自らの番の姿がぼんやりと見える程度である。

 しかし代わりに耳がとても良い。

 

 「キィイィィィィ」

 

 こうして喉を震わせて少し声を出すだけで地面を這い回る獲物がどこにいるのか、どんな生き物なのかが細部までしっかり判別できるのだから。

 

 ……どうやら獲物は鱗を持った細長い生き物のようだ。

 先ほどこの場所で喰ったやけに固い獲物より柔らかそうだ。それに自分と番が腹いっぱいになるほど大きいのがまた良い。固い獲物は小さい上に食べ難い。何匹喰っても、あまり腹が膨れた気がしなかったのだ。

 

 蝙蝠は別に好き好んで洞窟に居るわけではない。

 蝙蝠は少し前まで森で暮らしていた。あの忌々しい太陽がそれを支配している時間帯は木の枝にぶら下がり、惰眠を貪っていた。別に起きていても良いが、起きていても暇なだけなので眠っていたのだ。あの忌々しい太陽のせいで、太陽が出ている時間帯に空を飛ぶと目が眩み、あまり長時間飛ぶと皮膚が焼けてしまうのだ。

 

 だから蝙蝠は、暗闇の支配する時間帯か、太陽ひかりが隠れている日にしか空を飛べないのだ。

 しかし空を飛んでいる時はとても楽しかった。太陽ひかりが支配している時間帯はうるさい森の中も、暗闇が支配する時間帯には静寂が包み込む。

 そして腹が減れば、呑気に寝息を立てている手ごろな獲物を捕まえて、喰う。

 そんな日々を送っていた。

 

 そんなある日、魅力的な雌に出会った。

 透き通る様なを出す、美しい羽をもった雌だった。

 

 その日から、蝙蝠は雌の前でアピールをする日々が続いた。

 雌の前で獲物をとり、狩りの上手さを見せつけた。

 喉が裂けんばかりの大声を出し、個体として、雄としての優秀さを示した。

 他の雄と戦い、力強さを知らしめた。

 

 そして少し前にやっと雌は自分を番に選んでくれたのだ。

 天にも昇る気分だった。これで自分も優秀な子どもを産ませることが出来る。そう思った。

 

 しかし、困ったことに番となった雌は少しばかりわがままだった。

 子供を産むのに、森の中では危ないのでどこか洞窟や洞穴のような場所が良いと言うのだ。

 それでは暗闇の中、森を羽ばたく楽しみが無くなってしまうではないか!

 

 敵が来ても自分が守るからと言っても、雌は耳を貸してくれない。

 仕方なく、自由に空を羽ばたく日々を諦め、少しの間ならと番のために丁度いい洞窟を探し回った。そしてつい先ほど、丁度良い洞窟を見つけ、ここを暫くの間自分たちの巣にすることを決めたのだ。

 

 そして手頃な獲物を喰ってひと眠りしようとした時、新たな獲物を見つけたのだ。

 

 しかしこの獲物が厄介だった。

 なんと、これまで殆ど狩りを失敗したことのない自分が、まったく獲物を捕まえる事が出来ないのだ。

 捕まえてさえしまえば、後は噛みついて肉を千切ればそこで殆どの獲物は動かなくなるのに。

 たまに牙が立たないくらい固かったり、逆に自分を喰おうとしてくる獲物たちも居たが、別に仕留められそうになければ逃げるだけ。殆どの獲物は空まで自分を追いかけて来たりはしないのだから。

 

 「キィィィィィイィィイ!」

 

 番の雌もあまりに獲物が捕まえられないので苛立っている様だ。美しい声から怒りが伝わって来る。

 

 しかもこの獲物、自分たちの爪を避けた後、反撃までしてくるのだ。

 自分たちに付いている物よりも遥かに長い尻尾を振り回されたときは、慌てて避けた。

 そして捕まえようとする度に尻尾で自分たちを打ち据えようとしてくる獲物。

 

 正直、かなりイライラするが、こんなに面倒な獲物なら、無理して捕まえるのも止めたくなってくる。

 しかし、自分の番はまだまだ諦めるつもりはないらしく、再び獲物に降下していった。

 番はどうやら獲物の振り回す尻尾を掴もうとした様だが、上手くいかなかったらしい。

 

 番は再び洞窟の狭い空に戻ってきた。

 

 「キィィィイィ!」

 

 早く捕まえろとは無理を言う。どうやら獲物は自分たちと同じく、暗闇が味方なのだ。耳が良いのだろうか?

 これ以上はめんどくさいと正直に番に告げるが、番は納得しない。どうしてもあの獲物を喰いたいらしい。

 次はお前が行けと、せっかくの美しい声で怒ってくる。

 雌というのは感情的でめんどくさいな。

 そんな風に思いながら、地を這う獲物を見る。どうせならその無駄に早い脚で逃げ出してくれないだろうか? そうすれば適当なところまで追いかけて、見逃してやるのに。

 

 ……おや?

 

 獲物は何やら変な行動をしている様子を耳が拾ってくる。

 長い尻尾を……これは、先ほど自分たちが喰った固く小さい獲物に向かって、近づけたり、遠ざけたりしている。意味が分からず、そのまま見ていると自分たちに向かって振っていた時と同じくらいの速さで、獲物は尻尾を振った。

 もしや獲物は腹が減ったから、固く小さい獲物を食べようと、固い皮を砕くために尻尾を使ったのだろうか?

 そんな馬鹿な事があるのか?

 

 「ギェイ!?」

 

 直後、自分の隣を飛んでいた番が悲痛な声を上げた。

 番の方を向かずとも分かる。とても速い速度で飛んできた固く小さい獲物が、番の頭に直撃したのだ。

 

 番は木から落ちる枯葉のようにクルクルと回転しながら地面に落ちた。

 そして獲物がすぐさま番の元に近づいていく。

 番を助ける為に、番の元に慌てて降下しようとするが、先に獲物が番にたどり着いてしまった。

 番の傍に落ちている固く小さい獲物を、再び獲物が飛ばしてこないとも限らない。なので、番の元に降りるのを躊躇してしまった。

 その間に、獲物は番の美しい羽を踏みつけ、首元に牙を突き立てた。

 番は聞いたこともない声で悲鳴を上げ、脚で獲物を蹴り飛ばそうとするが、ほとんど効果は見られない。

 やがて番は一度体を痙攣させると、その後動くことはなくなった。

 番の美しい羽は獲物の爪で穴が開きボロボロに、透き通る声は二度と聞くことは出来ない、まして自分の子供を産むことなど絶対に出来なくなってしまったのだ。

 

 しかしその事に怒りは湧いてこなかった。それよりも自分が今の番の様になるかもしれないということに恐怖した。自分たちの手におえる獲物だと思ったのに、逆に自分たちが獲物だったのではないかという考えが頭の中を駆け巡る。

 今、背を向けて逃げ出せばまた獲物は固く小さな獲物を飛ばして来るかもしれない。

 背を向けて逃げる事は出来ない。ならば獲物を倒すしかない。倒して、喰って、洞窟を出て新たな番を見つけるのだ。自分はまだ死なない。死にたくない。死んでたまるものか。

 

 蝙蝠は決意して、獲物に向かって降下する。

 獲物は蝙蝠が距離を半分以上詰めてから、先ほどの様に大きく尻尾を固く小さな獲物へ振りかぶった。

 

 蝙蝠は今まで生きてきた中で、最も耳に意識を集中させた。あの凶悪な攻撃を回避するために。

 

 そしてあと一息で獲物にたどり着くといったところで、獲物は固く小さな獲物による攻撃を仕掛けてきた。

 

 固く小さな獲物は―――蝙蝠の腹部に向かって飛んでくる。

 

 先ほどよりも早いソレを、本能的に羽を縮め、体を捻る。

 

 そして固く小さい獲物は飛ばされた速度のまま、洞窟の先へ飛んでいく。

 

 やった。

 

 自分は避けて見せたのだ。

 達成感が蝙蝠の心を満たす。

これでまた、あの暗闇へ羽ばたける―――。

 

 ―――……?

 足に何かついている?

 

 ……違う、これは、地面?

 

 瞬間、蝙蝠は固く小さな獲物を避けて、そのまま勢いで地面まで下降してしまい、片足が地面に付いてしまっていることに気が付く。

 あの攻撃を避けるために羽を縮めたせいで減速が出来ず、地面まで到達してしまったのである。今の自分は地面に棒立ちになっている事実に思考が追いつく。

 

 そして蝙蝠の耳は拾ってしまう。自らに飛び掛かってくる獲物の姿を。その牙が、今まさに自分の首元に突き刺さろうとしているのを。

 

 少しの痛みの後、蝙蝠は愛する暗闇に包み込まれた。光も音も温度もない暗闇へ。

 

 番を持つよりも、暗闇の中を飛び回る事の方が自分には幸せだったのかもしれない。

 

 蝙蝠の意識は暗闇に消えた。

 


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