青の章 第15話 二対の瞳
青の章 第15話 二対の瞳
数日後 (体感)。
「ギャウゥゥ!!」
『尾の一撃』という意味を叫び声に込めて、同時に自らの尻尾を対象に叩き付ける。
その一撃をまともに受けた対象―――丸まった巨大なダンゴ虫は、数撃目にしてようやく黒色の甲殻の破片と薄い黄色の体液をまき散らしながら絶命した。
芋虫と共に苔を食してから数日が経ち、俺の怪我も大分良くなった。
あれから俺は芋虫と巣で共生を始めた。
言葉は通じない為、多少の不便はあったが、一人で居るより誰かと居た方が何かと心強いし便利だ。
芋虫は基本的に地面の中に居るが、俺が獲物を持って巣に入ると直ぐに飛び出して来る。
そして食事を終えて俺と一緒に眠った後、俺が起きるのを確認して地面に戻っていく。
俺は二匹分の食糧確保の為に、洞窟の探索に出かける。
こう見ると俺が芋虫に一方的に利益をもたらしているかの様に見えるかもしれないが、実際は違う。
まず、芋虫は俺が巣に帰ってくると、糸を出して俺の体を覆てくれる。
ただ全身を糸で巻かれているだけだが、その効果は絶大だった。
まずなんといっても保温性だ。芋虫の出す糸は芋虫の巨大な見た目に反して、とても細く滑らかだ。まるで蚕の出す絹の様だな。
その細い糸で全身を覆うことで、動くたびに糸と糸が擦れ合い熱を生んでくれる。これのおかげで、寒い洞窟内で安全に動ける時間が飛躍的に伸びた。
それに糸は伸縮性も優れているらしく、サポーターの様な働きもしてくれている。
おかげで、ここ数日で傷の具合も気にならない程度まで治っている。ほぼ完治と言っていいだろう。一時は諦めた尻尾の骨折も、いつの間にか元通りに治っていた。これには蜥蜴の身体の生命力に少しばかり驚いたな。
そして今しがた、ようやく苔以外の、それもタンパク源を確保したところだ。
何度も苔の生えている場所と巣を往復している内に、どんどんと通路の奥に進んでしまい、通路が少し大きく開けている場所で、大きなダンゴ虫を発見した。
あの真っ赤なバカの付き添いで、何度か海外に行った時に現地の人間に勧められ幾度か虫食というものを体験していた俺は、特に虫を食べる事に忌避感はなく(例外あり)、すぐさまダンゴ虫に襲い掛かった。
しかし十匹近くいたダンゴ虫達は俺が現れて直ぐ丸まってしまい、そこからは噛みついても、引っ掻いても、壁に放り投げても効果はなかった。しかも一匹に構っている間にほかのダンゴ虫は逃げてしまった。
仕方なく一匹だけ残ったダンゴ虫を咥え(ダンゴ虫は俺を一mとして二十cm程、丸まれば十cm程なので問題なく咥えられた)、苔を剥がして背負い、巣に持ち帰った。
芋虫にダンゴ虫を与えて見たところ、いつしかのゴブリンの頭部の様に容易に食いちぎられていた。
そして俺は苔で腹を満たしながら考えた結果、自分にはヘルちゃんに説明を受けた『尾の一撃』という未だに未使用のスキルがあったことを思い出し、次の探索でダンゴ虫に『尾の一撃』を使ってみた。
初めて意識的に使用したスキルで成功するかひやひやしていたが、問題なく『尾の一撃』は発動した。
通常の数倍の威力で放たれた尾による一撃は、ダンゴ虫をまるでバッドに打たれたボールの様に弾き飛ばした。
しかし、ダンゴ虫の甲殻に僅かな凹みを作っただけの効果しかなく、その時はそれで諦めた。
更に次の探索では、意外に軽いダンゴ虫を飛ばさない様に壁際に置いて『尾の一撃』を放った。結果、見事ダンゴ虫の甲殻に大きなひびを入れることに成功し、そこから連続で『尾の一撃』を放ち、ようやくダンゴ虫を仕留める事に成功したのだ。
ダンゴ虫は以外にも苔よりおいしかった。たぶん前の世界でたとえるなら生の海老を何の味付けもしていないと言った感じだろうか?
甲殻も一度砕けると後は普通に噛み砕く事が出来たので、残す事無くその場で食べた。
流石に潰れた虫を持ち歩きたくはなかったからな。
ダンゴ虫が意外に美味しいという発見と、もう一つ気が付いた事があった。
『尾の一撃』は、放つたびにかなり体力を使う。たぶん強力な威力の代償なのだろう。使い過ぎれば全身が極度の疲労感に襲われる事を、身をもって知った。
疲弊しきったその日の俺は、数枚の苔を剥がし巣に帰るり芋虫に苔を全て与え直ぐに眠ってしまった。
――――――
目を覚ますと芋虫が俺に甘噛みをしてきた。
餌のおねだりかと思ったが、その仕草にどこか壊れ物に触れるような優しさを感じ、気遣われている事に気が付いた。
なるほど、心配を掛けてしまったか。
芋虫が俺をどう思っているのかは知らないが、俺の中では芋虫はこの世界に生まれたヘルちゃんの次に出来た友人という事になっている。ならばあまり心配は掛けるものではないな。
俺はできるだけ無理はしないようにと思いながら巣を出た。
―――――
ダンゴ虫が居る通路に着いた俺の目の前には意外な光景が待っていた。
前に来た際は十匹近くいたダンゴ虫が一匹も居らず、代わりに二匹の蝙蝠が天井からぶら下がっていた。
蝙蝠の腹部は不自然に膨れており、通路の地面には食べ残しと思われる黒い甲殻の残骸が落ちていた。
……むぅ。
相手が悪いな。
蝙蝠は恐らく翼を広げれば一m近くあるだろう。俺の尻尾を含めた全長と同じくらいだ。
更に向こうは翼を持っているのだから当然飛べると容易に予想出来るが、残念ながら俺には空中の敵に対する攻撃手段がない。加えて向こうは飛んでさえいれば俺に攻撃し放題だろう。
無理をしないと決めた手前、引き下がるしか選択肢ないだろう。
そう思い、後退をしようと後ろを向こうとしたその時、尻尾が壁に生えていた苔に僅かに引っかかった。
すると苔と岩壁の間からダンゴ虫が一匹落ちて乾いた音を立てて地面に落ちた。どうやら蝙蝠から運良く逃げ延びた個体の様だ。
ダンゴ虫は背中から落ちたため、起き上がろうともがいているが、今はそれどころでは無い。
天井を見上げると、不気味に光る二対の瞳が俺を見ていた。
ああ、どうやらやるしか無い様だ。
蝙蝠って狂犬病持っているらしいですね。
噛まれたら毒より厄介ですね。皆さんも気を付けて下さいね。




