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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
青の章 誕生の洞窟 編
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青の章 第14話 甘噛み?

青の章 第14話 甘噛み?

 

 ……………………。

 …………。

 ……む、ぅ。

 

 俺は?

 

 先程まで……確か洞窟を必死で歩んで……? その後、気を失ったのか?

 ……ああ、もしかして俺は死んだのか?

 凍死、か……、かっはっは。俺は、自分が死ぬときは、あの真っ赤な馬鹿に振り回されて、それが原因で死ぬものだと思っていたが、なんとも呆気ない。

 過労死で死ぬ死ぬ言っていた風太郎フウタジンに、その程度でお前らが死ぬものかと言ってやった事があったが、これではあの二人に笑われてしまうな。「ほらみろ! 人間、死ぬときはこんなに簡単に死ぬんだぞ!」、と。

 ……今の俺は人間ではなく蜥蜴だったか。

 かっはっは、ではもしあの世であの二人にそう言われたら、俺は蜥蜴だったと言い返してやろう。

 あの二人は何に生まれ変わったんだろうな……。ジンのやつゴキブリにでも生まれ変わってないかな?

 あれだけゴキブリ弄りをされて、ゴキブリに生まれ変わっていたら、それこそ笑ってやるのにな……。

 

 ……ああ、ここは随分と居心地のいいな。暖かくて、落ち着く。

 

 死んだ……って事は、二度寝し放題って事だな。

 かっはっは、朝に弱い俺にはありがたいな。

 じゃあ、もう一眠りする―――ガブッ!!―――……か?

 

 ……なんだろう?

 つい先ほどまでは、とても居心地が良い暖かさだったのに、今は頭から首の付け根までが何やら生ぬるい湿った感覚に覆われている。さらには鼻腔をくすぐるのは、生臭い血の匂い。

 

 瞼を開けると、一面の薄い赤、よくよく見れば何かの口の中のような……。

 

 「ギャウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!?」

 

 オオカミの遠吠えを彷彿とさせる大声とともに、全力で何かの口の中から抜け出すことに成功する。

 

 何が、と思い俺が居た場所を見れば……、粘液のようなものが視界を塞ぎよく見えない。

 首を振って頭全体に付いていた粘液のようなものを振り落とし、再び瞼を開けると……見覚えのある芋虫がじっと俺を見つめていた。

 

 芋虫は前回会った時とは異なり、全身を地上にさらけ出していた。

 芋虫の身体は、予想道理と言うべきか、前の世界で見たことのある芋虫の体つきとほぼ同じだ。

 ただし、色々と違うところもある。

 一番はやはり身体の大きさだろう。俺は頭部だけで芋虫を巨大と認識していたが、やはり芋虫の身体は、大きな頭に比例して巨大だった。

 俺の今の体長を一mとするなら、芋虫は恐らく三mはある……かもしれないな。

 

 あとはその巨体の色だ。

 俺の記憶にある芋虫という奴は、基本緑や薄い灰色などで、少し模様がある奴もいるが基本的に大人しい模様の芋虫が多かったと思う。ただし、俺が芋虫を見るのは大抵、店の裏にあった家庭菜園をしていた畑ぐらいだが。俺の畑で育てていた野菜は無農薬だから、それはわんさか見たものだ。

 そんな記憶にある芋虫と違い、目の前の芋虫は白ベースに赤紫やピンク、黄緑といった比較的明るい色が何とも言えない模様になっている。

 いったいお前は保護色を何だと思っているのだと問い詰めたくなるほど派手だ。どんな場所でも目立つと言う意味なら有効な配色なのだろうが、それが何の役に立つと言うのだろうか?

 というか、基本的に地面に隠れているなら、その派手な模様は意味があるのか? それとも異性の相手にアピールするためか? いやいや、それは成体になってからだろう。 ……いや、異世界では芋虫はそのままの状態で成体なのだろうか?

 

 俺の混乱をよそに、芋虫は何を思ったのか俺に近寄り、頭を俺の頭に寄せてくる。

 因みに芋虫の頭部は灰色一色模様なしだ。本当にどんな配色だよ。

 

 じっと至近距離で俺を見つめる芋虫。

 俺も芋虫を見つめ返してみる。

 ……近い、芋虫の鋭利な顎と俺の鼻先がくっつきそうなぐらい近い。

 美人の女性とならこの距離感も大歓迎だが、性別不明の昆虫とのこの距離感は何とも言えないな。

 

 不意に芋虫が身体に比例して大きなあご……口を開けカプリと俺の鼻先に噛みついた。

 食われる、そう思い体がこわばる……が、芋虫の顎にはまったく力が入っておらず、噛みつくというよりも、咥えるといった方が正しいようなその行為。

 意味が分からず戸惑いながらも、害意はなさそうなのでそのままにしておくと何度も何度も芋虫は俺の鼻先やら首元やらをくわえてくる。


 もしや、これは甘噛みだろうか?

 不意に導き出されたその答えには、なるほど納得できる部分は多い。

 

 もしやこの芋虫、一度餌をあげた俺に懐いて、甘えてきている? もしくは餌をねだっているのではないだろうか?

 

 ……むぅ。そうだとすれば対応に困るな。

 そういえばと思い、現実逃避気味に辺りを見渡せば、そこは見慣れた巣の中だった。

 そうか、どうやら俺は何とか巣までたどり着いたものの、そこで気を失ってしまったらしい。思い返せば気を失う直前に、温かい地面を踏みしめた記憶がなくもない。

 冷え切った筈の身体は何故か今は暖かい。この巣の地面に暖められ、体温が回復したというところか。

 少し身体が重く、動かしづらい気がするが、それはまだ身体が完全に回復しきっていないだけだろう。

 

 視界の端に、ここまで背負ってきた苔の束が目に留まった。身体に乗せて来た分もくわえて来た分も、俺のすぐ傍に落ちていた。

 むぅ、そういえば随分と空腹だ。

 一先ずはこの空腹を満たしてから、いろいろと考えなければと思い。飽きる事なく俺を甘噛みし続ける芋虫にも、まあ少しくらい分けてやるか、などと考えながら身体を動かそうとし、内心首を傾げる

 

 どうにも、痛めたはずの右前脚が痛くない。それどころか、折れたはずの尻尾も、傷ついているはずの背中もほとんど痛みを感じない。

 もしや気を失っている間に、痛みを感じないほど回復したのかと思い、何気なく前足に視線を向けぎょっとする。

 薄い青色の鱗に包まれていたはずの前足は、爪の部分を除いて真っ白になっていたのだ。

 よく見れば、細く白い糸のような物が前足をぐるぐると巻いており、視線を後ろの方へ向ければ、尻尾の先まで糸のようなもので包まれている。

 

 まさかと思い、芋虫の方を向いて見れば、俺を甘噛みするのを止め、口からぴゅるると糸を吐き出して見せた。心なしか変化の皆無な芋虫の頭部が、どうだとドヤ顔をしている様に見えた。

 

 お前が原因か。

 

 まさかとは思うが、俺が扱いに困ったゴブリンの処ぶ―――分け与えた恩返しのつもりか?

 身体に巻かれた糸は、さしずめ包帯代わりと言った所だろうか。

 

 かっはっはっは、だとしたら面白いな。

 鶴の恩返しならぬ芋虫の恩返しか。なかなか童話チックな話じゃないか。

 それに恩を返す義理堅い奴、俺は好きだぞ。気に入ったよ芋虫。お前とは良き友達になれそうだ。

 

 そうだ、飯を一緒に食おう。

 俺の個人的意見だが、一緒に飯を食った奴と言うものは一定以上信頼を置いているって証拠になると思うのだ。

 だって嫌いな奴と顔合わせて同じ釜の飯など食いたくないだろう?

 付き合いで嫌いな上司等の人間と飲みに行かなければならない環境の人たちには心底同情するね。がんばれサラリーマン。

 

 そういえばこの芋虫って苔食べるのだろうか?

 内臓や骨を食べていた所を見ると、肉食に見えるが……。植物も食べる雑食だろうか?

 一度食べさせて……、って、ああ言葉が通じないのか。

 

 俺は芋虫の口元まで苔を運んでみたが、食べる気配がない。やはり肉食か?

 自分の分の苔も芋虫の近くまで運んで食べ始める。

 

 んん~。やはり少し苦いな。

 まあ、ある程度満腹になるのだからそれほど不満に思っている訳では無いけどな。

 

 暫く芋虫の隣で苔を食っていたら、食事中の俺をじっと見ていた芋虫が、恐る恐るといった感じで苔を食った。

 その後、苔の味を気に入ったのか知らないが、自分の目の前に置かれた苔を瞬く間に食べきった芋虫に何度も催促と思われる甘噛みをされ、粘液まみれにされた。

 

 別に近くにあるのだから勝手に食べればいいと思うのだが、どうやら芋虫は俺の運んできた苔を俺の獲物と思っているらしい。

 

 仕方なく再び苔を目の前に運んでやると、芋虫はわんこそばを食べる様なペースで苔を食べていき、死にかけてまで採ってきた苔は、五分と掛からずに完食されてしまった。

 

 芋虫は食事が終わると、まるでドーナッツの様に丸まってしまった。たぶん眠ったのだろう。

 俺もそれに習い、芋虫の隣で同じくドーナッツの様に丸まって眠った。

 

 俺がこの世界に生まれてから、どこか張りつめていた緊張感が、この時ばかりは緩んだのか直ぐに心地よい眠りに落ちた。

 

 


良き友人と美味しいご飯。

それさえあれば人生楽しいものですよ。

後は美味しいお酒と適度な娯楽、それに―――言い出したらきりがありませんね。

でも最初に挙げた二つは、何より人生を彩る物だと筆者は思います。

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