表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/256

プロローグ 第2話

EATERイーター』は地下に酒類の貯蔵庫があり、酒類が豊富。

地下室には他にも肉の熟成室や、桐香の研究室もある。

プロローグ 第2話


 

 ニヤリ、と言う擬音が相応しいだろう。

 目の前の女、狂歌キョウカは三日月を連想させる笑みを浮かべ、俺を見つめていた

 

 ――ぞくり。


まるで背中に氷を入れられたかの様な寒気が走った。寒気が走ったばかりだと言うのに、額には汗が浮ぶのを感じる。心臓は早鐘の様に鳴り、口元がひきつる。

 

 ヤバイ。

 生物としての本能が、目の前の危険から逃げろと警告している。

 

 次の瞬間、狂歌は俺の目の前に現れた

 俺の居る場所から、狂歌の居た場所までは四m程離れていたが、瞬きをしたわけでもないのに目の前に突然と現れたのだ。

 

 とっさに俺は後ろに跳ぼうとし――胸元を掴まれる。

 そしてグイッと、とても女とは思えぬ力で身体を引き寄せられる。

 抵抗しようとしたが、圧倒的な力の前にそれは叶わず、お互いの鼻がくっつきそうなほど顔が近付く……。

 

 俺と狂歌の唇が触れる。

 

 「ンギュ!?」

 

 奇声を上げながらもどうにか離れようと抵抗する俺をものともせず、狂歌はあろうことか俺の口内に自らの舌を入れてきた。

 本当は舌を押し返したかったが、それをすると奴の舌に俺の舌を絡ませる結果になるので、それだけは御免だと、身体の方で精一杯の抵抗をした。しかし結果は芳しくなかった。

 それどころか、暴れる俺を狂歌は抱き締めることで押さえ始めたので、悪化したとも言える。万力で締め付けられているかのようにミシミシと自分のあばら骨が軋む音が耳に響く。

 

 「ンギャウ!? ング!?」

 

 そうしてたっぷり一分程、狂歌に唾液を送られた俺は抵抗で疲れて果てていた。

 

 「プッハ~、ごちそうさんっと」

 「兄貴ぃーー!?」

 

 力尽きて床に横たわる俺に涙目の太陽ヨウが駆け寄ってくる。

 桐香キリカさんもゆっくりと俺の元に移動して首もとに手を当てる。

 

 「大丈夫、命に別状は無い」

 「そういう問題じゃねーよぉ!? 兄貴! しっかりしろー!」

 「はっはっはっはー、どうしたあーたん、私様あたしさまの舌使いにメロメロか~?」

 「……殺す」

 

 俺は勢い良く起き上がり、狂歌の首に抜き手を放つ。

 しかし、狂歌はニヤニヤした笑みを崩さず、いとも簡単そうに片手で俺の手首を掴む。わざわざ俺の手首が痛まない様に気遣っている所も俺を更に不快にさせる。

 

 「はっはっはっはー、情熱的はげしいなアプローチだが、……続きはベ・ッ・ド・で・な?」

 「黙れ、いや、死ね」

 「も~、あーたんってばツンデレなんだから~」

 

 くねくねと身体をくねらせる狂歌にもう片方の手で拳を作り、顔面に向けて放つ。

 しかしながら、狂歌はまたも驚きもせず俺の拳を受け止めてしまう。

 

 「まあまあ、あーたんの相手はベッドでするから少し待っててな~。走ってきたから腹がへたぜ~」

 

 そう言って料理の並べれれたテーブルに歩いていく狂歌。両腕を解放された俺はしりもちを付いてしまった。

 その後、俺は直ぐに洗面所へ向かった、口の中に溜まっているばかの唾液を吐き出すために。


 

 数分後――。

 

 洗面所から帰った俺の目の前には、舐めたように綺麗な皿が並べられたテーブルがあり、キョウカの追加注文を受け、改めて大量に料理を作った。

 いつの間にか外に出て行った三人が戻ってきていた。内二人の服装がかなり乱れていたが、気にしない。

 両手に湯気の立つ料理を持ち運んでいると、桐香さんから声が掛かった。

 

 「災難だったね」

 「むぅ、できれば助けて欲しかったんですけどね? キリカさん」

 「私は非戦闘員だからね、運動は苦手なんだ。それに――」

 「んだよ~。ただいまのちゅー位でガタガタ言うなよ、あーたん」

 

 ピキリッ、と自分の額に青筋が浮き立つのが分かる。

 確かに狂歌には会うたびにキスやら抱擁やらを食らっているが、俺と奴はは別に恋人同士でもましてや夫婦などでもない。狂歌の方がが勝手に過剰な愛情表現をしてくるだけで、俺にとっては赤の他人だったらいいのに……と思う腐れ縁だ。周りから見れば幼馴染と言うやつらしいが。消し去りたい過去だな。

 

 「お前にされる覚えは無いだろうが!」

 「ん? あーたんの可愛い顔を見たらつい」

 「かわ……、人の傷口開くのは楽しいか?」

 「はっはっはっは、安心しろあーたんの傷口は全部私様が舐めてやるからよ!」

 

 ああ、殺意とはこの様な感情を言うのだろう。

 わざわざ俺が気分を害する言葉を選んで来る辺りも、本当に……本当に不愉快だ。

 

 紅流 狂歌と言う人間は、良くも悪くも単純な性格で、やりたい事は直ぐにやらないと気がすまなく、やりたくないことは意地でもやらない、喧嘩早く、気に入らないと直ぐに暴力を振るう、と何処のガキ大将? と言いたくなる性格なのだ。

 

 しかも厄介な事にはとことん人を巻き込む性格のせいで、俺は何度も何度も何度も何度も死にかけたことがある、歩く災害の様な存在である。

 

 「むむごもほ、もごもごも」

 「フウタ、一日に何度も同じボケをかますな」

 「『いいじゃないか、幼馴染み。リア充爆発しろ』と言っているね」

 「……通訳ありがとうキリカさん、良くわかりますね?」

 

 飲み物を運んで通りかかったこころが「もう一度やりますか?」と目線で訴えてくるが、一先ず止めさせた。

 

 「……いいと思うなら変わってくれよ」

 「断る! 俺の彼女は二次元がめんのなかだ!」

 「即答か、ジンは――」

 「お断りで御座る! そもそも拙者、十三歳未満お断りで御座るよ!」

 「お前もか~、……ヨウ、お前の好きな年の近い美人だぞ?」

 「勘弁してくれよ兄貴、俺は女が好きだが化け物は御免だぜ?」

 

 どうやらまだ俺は狂歌の幼馴染みを辞退出来ないらしい。残念だ。まあ、分かり切っていた答えだが。

 この質問の答だけで、狂歌がどのような存在かよく分かるだろう。

 当の本人はといえば。

 

 「ふぅ~、食った食った。いや~、こんな料理の上手い夫を持って私様は幸せだな~」

 

 訳のわからないことをのたまいながら用意した料理を殆ど平らげている。

 風太郎フウタジンも大量に消費しているが、精々一人で二人前程度、対して狂歌は一人で十人前は食べていた。

 

 「誰が夫だ、いい加減殺すぞ」

 「んだよ~、こんないい女の何処に不満があるんだよ~、美人でスタイルもいい、年も近い箱入り娘だぜ?」

 「何処が箱入り娘だ、ひつぎにでも入ってろよ」

 「はっはっはっは! 上手いこと言うな!」

 「キリカさん、こいつ殺せる武器とか兵器無い?」

 「今のところは無いね。今後出来るかどうかも怪しいね」

 「むぅ、キリカさんが持っていないのであれば仕方がないか……」

 

 桐香さんは発明家と呼ばれる存在だ。

 それも頭に世界一が付く発明家である。本人は研究者と言っているがな。

 難病のワクチンから人工知能、クリーンエネルギーの発電所と多くの大発明を成した、世界中で何万人と言う命を救っている発明家。近々教科書に載りそうな存在だ。

 

 桐香さんだけじゃない。

 この場にいる俺以外の全員が、何らかの特別な才能を持った人物ばかりだ。

 

 しかし、俺達は全員が何らかの理由で社会に不適合な者達なのだ。

 

 飲食店『イーター』此処には一月に一度、十人の社会不適合者の集まる日がある、それが今日。

 しかし、この時は誰も知るよしもなかった。今日が『イーター』で集まれる、最後の日となることは。




 全員が満腹になり、軽いデザートも食べ、時刻は既に深夜一時を回っていた。

 

 デザートが出てきた辺りで、眠っていた七星ナナアイが起きてきてデザートを食べた。

 現在は愚痴をお互いに言うと言う会話の流れになっていた。最初は仕事の話だったのだが、社会人組は皆ストレスを抱えているのだろう。酒が入っている分、遠慮なく不平不満をぶちまけている。

 

 「はぁ~また上司に手柄盗られた~、ったく、あの野郎仕事手伝わない癖に、自分の手柄にするのばかり上手くてよ~」

 

 とか。

 

 「拙者なぞ、今月は休みなしで御座った。有給があるだけ羨ましいで御座る。ゆっくり買い物へ行く暇も無いで御座るぅ」

 

 こんな具合だ。

 

 「よし! 明日は日曜だし、朝まで飲むぞーー!! 今日は私様の驕りだーー!」

 「いや、拙者明日も仕事――」

 「ああ? 私様の提案を断る気かポンコツニンジャ、殺すぞ?」

 「ポンコツニンジャ!?」

 「では私はアマツ君のオススメを頼むよ。ああ度数は弱い物で頼む」

 「わたくしは追加の赤ワインをくださいまし、貴女の店にしてはいい品質ですわ」

 「了解――レイヤ? 「アナタ」のニュアンスが間違ってないか?」

 「(アナタ)、今日はお前の奢りな~、あと私様もオススメ~」

 「……怒りで人が殺せたらどんなに楽か」

 「ポンコツニンジャって!?」

 「ジンうるさい」

 「アイちゃん、ナナちゃん、エルフって言うのはね? この絵みたいなセクシーな――」

 「ココロ」

 「かしこまりましたイエス、我がご主人様マイロード。お仕置き(ちょうきょう)が足りなかった様ですね」

 「アイ~、ナナ~こっち来い」

 「はい師匠!」「……(コクリ)」

 「まっ、待て、俺は子供に夢を説いていただけ――ギャァァァァァ!」

 「二人とも、怪しいおじさん――特に眼帯マントと覆面忍び装束のおじさんに付いて行ったら駄目だろう? それに良い子はもう寝る時間だぞ? 流石に明日休みでも、これ以上は駄目だ」

 「はい!」「……(コクリ)」

 「「ピンポイント過ぎる(で御座る)!?」」

 「騒がしいな。兄貴、俺はウイスキー、ロック」

 「あ~、酔って火照ってきた~、あーたん介抱して~」

 「そのまま発火すればいいのに」

 

 そして結局翌朝まで騒ぐのが毎月の俺たちの恒例となっていた。

 ――何時もなら。

 

 時刻は午前三時。

 

 飲食店「EATERイーター」の店内にいた者たちは、一切の痕跡を残さず世界から消えた。


 


キャラクターのお酒の好み

天月:大抵の酒は飲めるが、度数が弱く甘い物が好き

狂歌:とにかく度数が強い物が好き

桐香:嗜む程度しか飲まないが、最近のお気に入りは柑橘系のサワー

太陽:ウイスキーやバーボン等。ロックで飲む

風太郎:ビールと日本酒

刃:ビール

レイア:ワインが好きだが、新しい物を挑戦する事も好き

心:飲めない

七星・藍:未成年

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ