青の章 第12話 運命の出会い?
芋虫ってあんまり味がしないんですね。勝手に無茶苦茶苦い物だと想像していたのですが、食べて見たら味は殆ど無くて、何だか少しがっかりしました。蜂の子は甘くておいしいのですがね。
因みに芋虫は通販で買いました。
青の章 第12話 運命の出会い?
「……」
じーーーーーーーー。そんな幻聴が聞こえそうなほど、その視線は俺に注がれていた。
穴が開くほど見る、なるほど昔の人は良くこんな言葉を思いついたものだ。
確かにこんなにじっと見られては穴が開くだろう…………主に胃とかにな。かっはっは。
いきなり現れた巨大芋虫に困惑していた俺だが、とりあえず当初の目的であった内臓の処分を優先した。問題の先送りとも言う。
最初、心臓は芋虫が咥えて逃げてしまったので、肺を一つ穴に投げ入れる。すると再び芋虫が頭を出し、肺を咥えて地中に戻る。もう一つ肺を入れると再び芋虫が顔をだし、肺を咥え地中へ。
肝臓、膵臓、脾臓、食道から大腸までの消化管を次々に穴に入れるが、三回目あたりからもはや芋虫は地中に戻らず、口を開けて待機している状態だ。嫌な「あーん」もあったものだと思いながら、なんとなくその姿が可愛らしく見えてしまい、お望み通りに口内目がけて臓器を放る。
そして全てのゴブリンの臓器を処分し終えた。これで臓器が腐敗し、悪臭や病気の元となる心配が消えた。
しかし芋虫はまだ頭だけ地面から出した状態で、口を開けて待機している。
「ギャウゥゥ」
もうないのだよ、という意味を込めて鳴き声を上げてみるが、当然芋虫には伝わらない。
少し頭を傾げる動作をしたがすぐに口を開けて待機する。
そんな動作がどこか愛らしく、俺を見つめる瞳は黒い真珠のように円らである。純粋に餌を求める様子に、なんとなく罪悪感を覚えてしまう。
なるほど、いつだったか、風太郎が小学校の帰りに猫に餌を与えてしまい、懐いた猫が風太郎の家までついてきてしまったという話を聞いた事がある。当然と言うべきか彼の両親は家では猫を飼えないと猫を家に入れないように言ったのだが、猫は家の前で一晩中鳴き続けたそうだ。その様子を可哀そうに思った風太郎が両親を説得し、両親は仕方なくそれを受け入れたそうだ。ちなみにその後、猫を拾ってきた風太郎よりも両親の方が猫を溺愛し、風太郎が二十歳になる数か月前に老衰で死んだそうだ。話を聞いた当初は、何をやっているのだと思ってしまったが、今はその気持ちが良くわかる。これは見捨てられないし、無視もできない。
ちなみに風太郎は拾った猫に「黒混沌虎・獅子」と名付けたそうだが、彼の両親はそんな長ったらしい名前では呼ばずクロと呼んでいた。俺もフウタの家に行ったときはクロと呼んで少し遊んだ事があるのだが、クロは黒くもトラ柄でもない真っ白な体毛で青い瞳の猫だった。
話を戻そう。
問題は、ずっと俺を見つめてくるこの芋虫をどうするかだ。
俺の手元にはゴブリンの頭部と骨しか残っていない。
……むぅ。
俺は手元に残っていたゴブリンの頭部と骨を残らず穴の中に放った。
まあ俺は幼少期に極貧生活をしていたため、空腹に慣れている。
少しの間絶食しても精神的には余裕が残るだろう。
何より、あのままずーーーっと見つめられていたら落ち着いて飯を食う事などとてもできん。
空腹の奴がいる前で飯を食えるほど、俺は神経が太くはないからな。
それにしてもこの芋虫よく食べるなぁ。
真っ先に頭に噛り付いたと思えば、たった二口で人間の頭部と変わらない大きさのゴブリンの頭部を食べきった。
そして今は骨を一本ずつゆっくりと器用に丸呑みしていっている。
俺としては骨に残った僅かな肉を食べるのかと思っていたが、まさかの丸ごとか。
今、蜥蜴である俺の口は、人間のように器用に骨についた肉を食べきれる様には出来ていないようだ。鏡がないので正確には分からないが、恐らくは肉食動物特有のギザギザした歯が俺の口の中には並んでいる事だろう。
頬があるわけでもないので殆ど咀嚼できない事も残念だ。
ゴブリンの肉はかなり不味かったが仮にも料理人として、食えるものを残したり、食事をあまり味わって食べないと言う事に思うところがあったので、芋虫が綺麗に骨ごと平らげる様子は見ていて気持ちがよかった。
本当に味わっているかは知らないがな。
先ほどまで必死になって守ろうとしていた食料を自分から手放してしまったな。
まあいいか。過ぎた事を考えても結果が変わるわけでもない。人生そんなものだと割り切ろう。
俺は芋虫が食事を続ける間に、芋虫のいる穴の前から移動する。
俺が考えるべきは今後のことだ。それも早急に食料を手に入れる方法を。
実際、穴を掘る作業だけで少しばかり疲れていたが、手元に食料がない状態で悠長に眠ってもいられない。
傷も治っていないが、捻った前足以外は何とか動かしても大丈夫そうだ。尻尾も折れているが、今は使い道がないので別にいい。
……そういえば『尾の一撃』なるスキルが俺にはあったのだったな。どのみち折れている状態では尻尾で相手を攻撃するどころか、振り回す事も出来ないが。そう言う物があると言う事を一応記憶には留めておこう。
一応非常食として、ゴブリンが砕いた蜥蜴(兄弟)の卵の殻を集めてあるが、正直それにはあまり手を出したくない。
勿論、未だに卵から孵る時を待っている兄弟たちを殺してまで食う、と言う事は出来るならしたくはない。
だが追い詰められたら、もしかしたら……。
いや、今考える事ではない。その時はその時だ。
……っと、そんな事を考えて歩いていたら、この空洞の出入り口まで来てしまった。
やはり、この部屋の外を歩き回って餌となりそうなものを探すしかないか。
俺は負傷した脚を庇いながら、人生―――じゃなかった、ええと蜥蜴生か? 蜥蜴生初めて、生まれた空洞から外に踏み出した。
……やっぱり人生と言いう表現の方がいいな。蜥蜴生ではゴロが悪いし、何より心は人間であるのだから。
――――――。
「……」
天月曰く巨大芋虫と呼ばれたソレ(・・)は、空洞から出ていく蜥蜴の姿をじっと見つめていた。
そして何を思ったか、今まで丁寧に時間を掛けて行っていた食事を、かき込む様に急いで平らげると地面の中に静かに潜た。
後に残ったのは、微かな血の匂い漂い。それに数個の真っ白な卵の残る静かな空洞だけだった。
そろそろあとがきに書くことが無くなってきました。




