青の章 第7話 小鬼災難 後編
恐怖と言う感情を表現するのは難しいですね。己の文才の無さを痛感しています。
第7話 小鬼災難 後編
―――ゴブリン視点―――
「ギュウゥゥ!」
「ギャギャ?」
ガーゴが六つ目の餌を食べ、空腹だった腹が満腹感を覚えてきた頃、ガーゴはその鳴き声を聞いた。
もしかしたら子分が追いかけていた餌の鳴き声かも知れないが、別にガーゴはどうでも良かった。
満腹の状態では、獣は目の前を獲物が通過しても襲わない。それはゴブリンも同じだ。
しかし―――
「ガッ!」
腹が膨れて、更には暗闇の中で眠気を感じていたガーゴは、突然訪れた脚の痛みに苦悶の声を挙げる。
餌が、自分に、自分の脚に牙をたてたのだと理解する。理解すると同時にガーゴは激昂した。
満腹を感じ、眠気を感じ、いい気分を害された。餌の癖に強い自分に噛みついてきた。馬鹿だと思っていた子分と同じ失敗をした、自分が馬鹿にされるかも知れない。そんな怒りの気持ちが沸き上がった。
餌はすぐにガーゴから噛みつくのを止め、自分から離れようとする。何かを引きずる音と共に。
腹は膨れているが、これ以上食べられない訳じゃない。何より噛まれた脚から感じる痛みと血の匂い、ガーゴの中にはあの餌を食い殺さないと言う選択肢はなくなっていた。
自分のそばに置いてあった武器を手に取ろうとし、しかし感じるのはサラサラとした砂と、ガーゴの割った石の破片の感触のみ。
これ以上ないほどの怒りを感じていたガーゴは、怒りを通り越し殺意を覚えた。
あの餌はガーゴの脚を傷付けただけではなく、ガーゴの武器まで奪ったのだ。
ガーゴは音のする方へ走り出す。石の中にいる餌は武器がないと食べれないが、餌だけなら掴んで噛みちぎるだけで十分だ。
餌の足音が聞こえなくなる。どうやら走るのを止めたらしい。
足音がなければガーゴに見付からないと、餌は思っている。そうに違いない。
馬鹿な奴だ、自分の子分よりも更に馬鹿だ。
ガーゴの進む先には、はっきりとした血の匂いが感じられる。
ガーゴを傷付けた時に付いた血の匂いかとも思ったが、匂いの強さが強い。
餌は怪我をしている。ガーゴにはわかった。
ガーゴが狩りの中で、本当にたまにしか見付からない怪我をした餌は、とても簡単に食えるのだとガーゴは理解している。ならば捕まえるのは簡単だ。
自分を傷付けた罰に、尻尾の方から食ってやる! 鳴き声が聞こえなくなるまでゆっくりと食べてやろう。どれだけ暴れようが悲鳴を上げようが知った事か。
腹は満たされている筈なのに、不思議と涎が口から溢れる。ガーゴは走る足を更に速く動かす。
血の匂いがすぐそばで嗅ぎ取れる近さになって、ガーゴは跳躍し餌に飛び掛かる。
ガーゴはひっくり返っていた。
ガーゴが餌へと掴む直前、頭に殴られた様な衝撃があり、伸ばした手からは固いものにぶつかった感触のみ。自分は壁に突っ込んだのだと理解する。
次いで、先程壁にぶつかった痛みとは比べ物にならない痛みがガーゴを襲う。勢い良く、更には跳躍までして壁にぶつかったのだ。痛くない筈がない。
ぶつけた頭、額部下が部分を両手で押さえるが痛みは収まらず、呻き声が口から漏れる。
押さえる手の指先にも痛みを感じる。ガーゴは暗闇で見えないが、ガーゴの指先は壁にぶつけた衝撃で、骨折こそしていないが、何本かの指が突き指と爪が剥がれていた。
そして痛みに耐えていると、頭の上の方から音がする。
見えないながらも音のする方へ顔を向けると―――
「ガァァァァァァァァ!?」
ガーゴが生まれて初めて感じる様な鋭い痛みが、ガーゴは顔に感じた。もはや痛みで全身が燃える様に熱く感じる。
ガーゴは鼻を噛まれたのだ。
すぐさま拳を振るい、自分の鼻を噛んでいるものを殴り飛ばす。
鼻からは血が出ているのが分かる。
また何処かを噛まれては堪らないと、ガーゴは急いで体をお越し、先程自分が殴り飛ばしたものがある方向から、出来るだけ離れようと後ろに後ずさる。
ガーゴは訳が分からなかった。何故自分がこんなに痛い思いをしなければいけないのか? 自分が追いかけていたのは弱い餌ではなかったのか? ぐるぐると頭の中にそんな考えが渦巻く。
餌―――いや、餌じゃない。敵だ。自分を傷付ける敵の声が前方から聞こえる。
暗闇で目が見えず、流れ出る血のせいで匂いが嗅げず、ガーゴにはもう耳しか残っていない。
もし耳も聞こえなくなったら? 自分はどうやってあの餌を見つければいい? そして見つけられなければどうなる?
ガーゴの脳裏に正体不明の餌が自分の死体を貪っている姿が映る。
ガーゴは恐怖でおかしくなりそうになっていた。何で、何でこんな恐ろしい場所に自分は来てしまったのか? 何故自分の子分は助けてくれないのか?
また敵が鳴き声を挙げる。
敵は鳴き声を挙げるが近付いて来ようとはしない。
ガーゴは走り出した。餌を追いかける為ではない。敵から逃げるために。
出口の場所は分からないが、そんな事は関係ない。走っていれば外に出るはずだ。
! 敵だ。敵が自分を追いかけてくる音が聞こえる。
ガーゴは脚の痛みも、指の痛みも、頭の痛みも、鼻血も気にせずに走り続ける。
いつの間にか自分が悲鳴を上げている事に気が付いたが、そんなことはどうでもよかった。今は臆病者扱いされようとも逃げたい、生きたいのだ。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
何度も何度も壁にぶつかり、転び、それでも追い付かれなかったが、出口も分からない。
そしていつの間にか頭が締め付けられる感覚を感じた。
身体に力が入らず、足がもつれて転んでしまった。それでも逃げなくては。何故か力の入らない身体を必死に動かすが、立ち上がる事さえ出来ない。苦しい、苦しい、苦し。
恐怖、困惑、絶望、様々な感情がガーゴの心を満たし、そして
ガーゴは死んだ。
一つの話で何度「ガーゴ」って書いたんだ……。
因みに筆者は自分を事を自分の名前で呼ぶ(つまり一人称が自分の名前)人は苦手です。名前は覚えやすいですけどね。




