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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
黄の章 憧れの異世界 編
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黄の章 第22話 管

黄の章 第22話 管

 

 薄い赤茶色の口内。のこぎりの刃を思わせる白い歯を避け、薄紫の管が暗い喉奥へと脈動しながら伸びている。

 管の中には何とも言えない色合いをした液状のモノが流れ、それが唯一の使命かの如く天月の体内へとモノを運び続けている。

 

 「うお。グロいなぁ。ああ、いや悪い。他意は……無い」

 「客観的な事実を言った程度で、私は気を悪くはしないよ。これでも昔は人殺しの兵器どうぐを開発していた身だ。罵詈雑言は聞き慣れているよ」

 「……そう言うブラックなジョークはアマツに言ってくれ。気まずくて気の利いた返しが出来ないからよ」

 

 思わず口を滑らせた俺の目の前に居るのは、先程までより数倍に体積が膨れ上がった桐香さん。俺達の持ってきた獲物をその身体に文字通り取り込み、どろどろに溶かした獲物の身体を天月の体内に輸送している。

 これが……桐香さんが考えた意識の無い天月にエネルギーを補給させる方法なのだろう。医療に詳しくない俺でも点滴とか、口にチューブでなんやかんやするやつだよな。

 

 因みに体積が膨れ上がった桐香さんと横たわる天月の身体、それだけで狭苦しくなった木の洞から俺は抜け出し、現在洞の手前で横になりながら二人の様子を観察している。いや、俺見ているだけだからわざわざ立っている意味とか無いしな。

 

 「それ、酸で溶かしてるのか? いや、桐香さんが溶かすのが効率良いって言うならそうなんだろうと思うけどよ。そんなん体の中に流し込んで、体内から溶け出したりしないか?」

 「うむ、勿論私の一部を『千変万化』と『消化液アシッド・ドリップ』で酸性に変化させてはいる。だがそれ以外にも消化に関係する事を極力私の中で行っている」

 

 ? だから、肉を溶かして消化の肩代わりしているんだろう? 肉の塊のままだと喉に詰まらせたり、気管に入ったりして危ないってのは分かる。そのくらいは高校の保健体育で学べるレベルの知識だ。

 

 「消化、と言っても胃液で溶かす意外にも種類がある。口で食べ物を噛み砕くのも消化活動の一種だ。唾液は炭水化物を胃液はたんぱく質を分解する。……腸内細菌の発酵や分解などと動物の消化には様々な臓器・器官の役割によって成り立っているのだよ。私のスキルでは細菌の真似は出来ないが、それ以外の真似事は可能だ」

 

 ……。…………。や、ヤバい。聞こえている筈の言葉が耳に入ってそのまま反対から出て行く感じだ。耳が滑ると言うか、全然内容が頭に染みこまない。高校の世界史授業以来の感覚だぜ!

 

 「先程の質問にも答えよう。単純にたんぱく質を分解しただけの物体を彼の体内に流し込めば確かに危険だ。恐らく今の私の体内におけるpHペーハーはその辺の肉食動物の胃酸より強力だからね。最悪、彼の胃に穴が開く。だから、すい液で胃液を中和するように管に通す前に出来るだけ中性に近い状態にしているんだ。その状態で彼の胃に流し込むことで、自身が消化によるエネルギー消耗をしない様に最大限努力している。勿論君に意見があるなら聞かせて欲しいね」

 「意見、なんて言われてもよ……。俺の専門はゲームとソレ関連の知識だけだぜ。医学なんてラノベで呼んだ程度の知識だ。多分桐香さんが思いつく事以上の意見なんか出ねぇって」

 「私だってデスクワークで得た知識だけだよ。実際の医療行為で人を助けるのはこれが初めてさ。素人同然だろうと、疑問を口に出すだけでも意外と有益な結果に繋がる事もある。天月君もそうだったが、私の知識や能力にも当然欠陥はある。超人扱いはやめて欲しいね」

 

 あー、まあ天月アイツは自分が出来ない事を出来る奴を神聖視する傾向があるのは確かだ。素直に相手の才能を認めるのは良い事なんだろうけど、妙に期待値が高いと期待される方はたまらんよなぁ。分かるぜ~。

 プレッシャー感じると仕事しにくいよなぁ。

 

 「んじゃ、素直に疑問聞くけどよ。今『胃に流し込む』って言ってたけど、別にどろどろに溶けた食い物なら腸とかに流し込んじゃえばいいと思うけどな。高校じゃ栄養ってのは腸で吸収するって習ったぜ?」

 「いい質問だ。その答えは簡単、不可能だから。と言う訳だ」

 「……あ? えーっと?」

 「私の変形機能の原型と言う意味では無いよ。これは私もどの様な現象か理解しかねているのだけれど。どういうわけか私の触手が彼の胃に達すると、その瞬間分解されたように消えてしまうのだよ。……そうだね例えるならコップに入った水に角砂糖が入った様子を想像すれば分かりやすいかな?」

 

 おお、その例えは分かりやすくていいな。……あ? でもそれはそれで意味が分からないぞ?

 

 「胃の中に胃酸が満タンになっているとか?」

 「……分からない。触手と言えどしっかり感覚は備えているが、それでも感知しきれない程早く消えているからね。彼特有の現象なのか、それとも彼の種族なら珍しくは無いのか……。それとも一定の条件……いや、目立ったデメリットが無いならエネルギーの供給を優先して―――」

 

 ブツブツと会話の半ばから独り言と化している言葉を聞きながら、俺は彼女の身体に目を向ける。

 既に彼女の体内には三体の死体が溶けながら漂っており、最初に溶かされ始めた狐に関しては骨の欠片すら残っていない。固形タイプの入浴剤の如く溶けて行く様子は何となく目を引くが、最後に投入されたゴブリンの皮膚が溶け人体模型の様相をしている。飯の前に見る羽目にならなくて心底良かったと思うぜ。

 桐香さんの薄紫色の身体が赤みを帯びているように見えるのは気のせいでは無いだろう。

 

 「一応治療は順調って認識でいいのかよ?」

 

 このままでは延々と独り言を聞かされると判断し、結果だけを簡明に聞く。時間は有限なんだから、有益に使わないとな。因みにゲームの時間は無駄じゃありません。ゲームは人生における教材です。

 

 「……うん? ああ、そうだね。一応エネルギー自体、吸収はされている。採取した彼の血液も供給前と比べ―――」

 「いや、詳しい事はいいから。言われても分からないからよ。まあ、大丈夫って認識しとくわ」

 「ああ。君は明日も狩に出るのだろう? 余剰に成果が出たらまた持ってきてくれると助かるね。でも、無理をして危険な目に遭わない様にしたまえよ。自分の為に君が無茶をする事を彼は望まないだろうからね。……分かっているとは思うが、天月君とフウタ君、どちらかしか助けられない事態になったら天月君を私は間違いなく優先するからね」

 

……遠回しに慣れた頃が危ないって言われた事にしよう。そうしよう。

確かに、油断して気を抜いていると足元すくわれる。俺が今いる場所は弱肉強食の異世界って事は頭に刻んでおかないとな。

よし、今日も寝る前に魔法の特訓でもしておくか。最近は夜に魔法の特訓と新魔法の開発が習慣になって来たぜ。

……天月、次に起きる頃にはお前が驚く程強くなってみせるからな。追い越されたくなかったら早く良くなれよ。


「ああ、君は今日も遅くまで起きているのだろう? なら、今行っている治療を終えたら私の代わりに彼を見ていて欲しい」

 「別にいいけど、桐香さんはどうするんだよ?」

 「私はこの後追加で彼のエネルギー源を確保しに言って来るよ。実は君たちが出かけている間に幾つかの分体を使って、周囲数キロで手頃な獲物をマーキングしておいたのだよ」

 

 マーキングとは彼女の分体が探し当てた対象に特定の匂いを発する液体を塗布する事だ。分体が危険と判断した生物や逆に手頃な獲物カモと判断した生物にそれぞれ異なる匂い成分を付ける事によって、彼女は自らを危険から守り生き抜いて来たと聞いた。

 マジで周到だよなぁ。なんにでも応用できる万能なスキルもチートだよチート。

 

 「あれ? そこに落ちてるのは何だ?」

 

 天月は桐香さんに任せて兄弟達の元へ向かおうとした時、洞の隅っこで異臭を放つ物体に付いて聞いてみた。本当は初めて此処に来た時から気が付いていたが、何やら腐敗臭に近い香りが漂っていたので自分で確認するのが怖かったのだ。

 中に桐香さんが居る今なら彼女が確認してくれる。

 

 「何やら大型動物の毛皮の様だね。だが加工した様子があるから、何かを作る途中かな? 恐らくスフレちゃんの糸を巻いた木の枝もあるね」

 「毛皮と糸? 裁縫でもするつもりだったのか?」

 「さあね。彼が起きたら聞いてみるといいさ。彼の持ち物はそのままにしておこう」

 「まあ俺も変な匂いがするから触りたくなかったからな。じゃあ、それ全部天月に流し込んだら声かけてくれ」

 

 脚や腹に付いた砂を払い落としながら立ち上がる。

 夕日に照らされる木々。そこに吹いた妙に冷たい風に身体をブルりと震わせながら、俺は適当な場所で魔法を発動した。

 


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