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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
黄の章 憧れの異世界 編
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黄の章 第21話 いやいやいや

黄の章 第21話 いやいやいや

 

 「ふぅ~。この辺は見たことが無い生き物が多かったな。多少の話は聞いてたが、本当に少し移動するだけで分布する生き物がこうも変わるとはなぁ。人生がハードモードすぎてマジ辛い……」

 

 数時間程狩りをしてしみじみと感じた事を、独り言として呟きながら一息つく。

 俺の後ろを歩いていた兄弟達も、俺が腰を下ろしたのを見て同じ様にならう。運んでいた獲物を放し、それぞれ楽な姿勢をとった。

 

 ……この辺りの森では、俺が生まれた辺りとは随分と生態系が違う様子だ、と言う事が分かった。

 まるでゲームのマップの様に地域ごとに登場する敵が変わる現象には心躍るものがある。ゲーマーとしては作り込みを称賛するべき現象であるが、そんな状況で生きねばならない者からすれば素直に喜べないのである。

 この世界は大抵のRPGの様に序盤は低レベルなエネミーしか登場しない。就寝中や作業中は安全であると言う親切しんせつ設計は存在しない。

こちらの強さや状況などお構いなしにばかすかと強敵が襲い掛かる素敵な心折しんせつ設計なのである。

 一つのミスが命取りになる中では少しの油断や慢心が命取りになる。だからと言って戦わず弱いままでは強者に蹂躙されるだけ。なら泣き言を言わないで少しでもレベルを上げるしかないのだ。

 

 「おし、もう戻るか」

 「「おー!」」

 

 疲れた身体に鞭を打ち、重い腰を上げて帰路に付く。

 雄大な森の中ではどこを見ても植物、植物、植物。道と言う物すら存在せず、不規則に勾配のある地形も相まってただ帰路に付くのも簡単では無い。幸いにして現在の俺は狼であり、優れた嗅覚によって多少は楽に来た道をたどる事も出来るが、それでも精神的にキツイ。匂いだけに集中していると突然の奇襲に対応出来ないからな。

 つい先程も木の上から落ちて来た蛇に驚いて怪我をしてしまった。まあ、蛇に直接襲われた訳では無く、蛇に驚いて飛び退いた先に倒木があり、尻を強打したと言うだけの軽傷何だけどな。痛みよりも兄弟達の冷めた視線の方が痛かったぜ……。

 

 数分程楽にして、少しばかり疲労が軽くなった事を感じる。

 だがいつもと違い狩りの成果を持ち運んでい居ると言う事で大分しんどいなぁ。まあ、今回狩に参加していない桐香さんやスフレちゃん。そして天月の為にわざわざ運んでいるのだ。少し内心で愚痴る程度は許して欲しい。

 

 そして目的地の洞のある大木が見えて来る。木の前にはうっすらと茜色に染まった夕日に照らされていつもより赤に近い薄紫に見える桐香さんが佇んでいた。

 

 「ああ、お帰り。その様子だと狩にでも出ていたのかい?」

 「俺がここに居ても出来る事なんて殆どなかったからな。まあ初めて見る生き物とかが多かったからあまりいい成果とはいかなかったが、ボウズでもなかったぜ」

 「……ボウズ?」

 「ん? ほら、釣りとかで何にも釣れなかった時とか『ボウズ』って言うだろ? あ、もしかして狩猟では別の言葉を使うのか?」

 「さあね。私は釣りも狩猟も経験が無いからね。専門用語は知らないさ」

 

 ふーん。まあ、当たり前の事かも知れないけど桐香さんでも知らない事とかあるんだな。完璧超人で、なんかあんまり人間味が薄い人かと思ってたが。ちゃんと出来ない事知らない事があるって言うのは寧ろ親近感があって安心するな。

 

 「まあ、ボウズ云々は別にどうでもいいんだよ。それより適当に狩って来た獲物、食うだろ?」

 「そうだね。丁度良い所だったよ」

 「? 一応俺達三匹は出先でさきで食事は済ませたからよ。持ってきた三匹は桐香さん達で食ったらいい。……そう言えばあれから数時間経ったけどアマツは?」

 

 桐香さんの背後にある木の洞を覗く。午前中は薄暗く中の天月はうっすらとしか見えなかったが、今の時間だと夕日が洞の中を少し照らしてくれているので若干見やすくなっていた。

 依然いぜん横たわったままの蒼鱗のリザードマン。その姿に俺は若干の違和感が……。

 

 「なんかアイツの身体に白いの付いてね?」

 「スフレ君と言ったかい? 彼女が止血用に巻き付けた糸の様だ。私が見た時には既に巻かれていたね。私の診察の邪魔になる物でもなかったからそのままにしてある。寧ろ粘着性の糸が汚れを取り除いてくれるので、衛生的にはとてもプラスになっているよ。傷口の汚染は命に直結するからね」

 「ふーん……まあ蜘蛛だから糸を巻き付けるのはお手の物か。そう言えば今思い出したんだけどよ。俺が見た時は尻尾に大鬼の眼球が刺さってたと思うんだが……」

 「それもあったね。彼の治療に必要だったので使ってしまったよ」

 

 ……眼球を治療で使う? どういう事だ?

 

 「一応聞くけどよ、アマツの怪我の具合はどうだったんだよ? 治せそうなのか?」

 「ふむ、そうだね。順を追って説明しよう。洞の中へ一緒に来たまえ。……ああ、取って来た獲物も一体でいいから持ってきてくれ」

 

 俺は自分がここまで運んで来た獲物―――艶の無い黒色の体毛を纏った狐を銜えて運ぶ。因みにこの狐、俺の身体より一回り小さく特に特殊な能力も無いカモだった。

 兄弟は小柄なゴブリンと子犬ぐらい大きなネズミをそれぞれ持って来ている。

 因みに帰って来て早々元気有り余る二匹の子供狼はじゃれ合って遊んでいた。―――狩で疲れたのは俺だけかよ!

 

 「それで? どうだったんだよ?」

 「先ずは彼の身体を見たまえ。随分とやせ細った身体をしているだろう? 調べた所全く皮下脂肪等が無い状態だった。恐らく彼は餓死しかけているね。つまり重度の飢餓状態にある」

 「……なんで飢餓状態だと分かるんだ? 他のリザードマンを見た事も無いだろう? だったら元からそう言う身体の作りをした生物かもしれないじゃないか? それともこの前は言わなかったけど、実は前にリザードマンを見た事があったとか?」

 「いや、彼の様な生物は見たことが無い。完全に初見だよ。しかし、ほら。彼の表皮を引っ張るとかなり余分に余っているだろう? 人間でもそうだが、急激に体重が増減すると表皮がそれに付いていけずに余ったり、逆に薄くなったりするんだ」

 

 そう言って鱗がびっしり生えた表皮を引っ張る。確かに鱗のせいで分かりにくいが、異様に皮が余っているようにも見えるな。

 

 「他にも左側の鎖骨が下三本、左手首、尾骨の骨折に加え主に身体の前面に十カ所以上の打撲。筋肉組織の断裂も少々。爪や鱗の破損や軽い裂傷もあるが、今の所確認できた中で命に関わるのは飢餓だけだろうね。感染症も不安ではあったが、これ程時間が経っても極端な発熱、頻呼吸や頻脈もこの体格から考えれば正常の範囲内だ。予断は出来ないが、敗血症などの感染症になる可能性も低いと見るね。もっとも抗生物質が手に入らなければいかに私とは言えお手上げで―――」

 「いやいや、いやいやいや。どう考えても飢餓以外の傷がヤバいだろうが!」

 「そうは言うけどね、実際の所どの怪我も適切なエネルギー補給と時間、そして安静が解決してくれる問題なのだよ。勿論だが、持病などが原因で容体が悪化する可能性もあるけどね」

 

 まあ、言ってる事は多少分かるけどよ……。俺は骨折とかした事は無いからどんだけ痛いのか、辛いのかは分からない。けど今言った様な状態で命に別状はないとか言われても、「はいそうですか」なんて信じられる訳が無いだろうに。

 まあじゃあどうすると言われても、俺には桐香さんの指示に従う位しか出来ることが無い。飲めばどんな傷でも回復するエリクサーとかあればいいんだけどな……。

 

 「それで、一先ず私は彼にエネルギーを補給させようと思ってね、丁度近場にあった大鬼の眼球を摂取させたのだよ。だけど、その程度の分量では焼け石に水。もっともっと大量の食糧が必要だったのさ」

 「ああ、だから丁度いいって……。ん? どうやって意識の無いアマツに食わせたんだ? ……あ!」

 

 俺の脳細胞は己が口にした疑問の答えを瞬時に叩き出した。ああ、物語ではありきたりな方法だよな。だけどそれは……。

 

 「どうしたんだい?」

 「……まあ、その、なんだ。桐香さんよ。気持ちは分かるけどよ、この状況を利用してどうこうってのは正直どうかと思うぞ?」

 「何の、話だい?」

 「だから、あれだろ? 主人公が弱って食事をする力も無い時に、ヒロインが一旦自分の口で食べ物を噛み砕いてから口移しするって言う、あれだ。人工呼吸とかの別パターンだよな。まあ、手段としては無しじゃないと思うし、桐香さんもいろいろ・・・・貯まっているとは思う。だけど普通に食べ物をすり潰したりして与える方が、さっき言ってた衛生的・・・にも―――」

 「な、なああああああああああああ!?」

 

 うんうん、分かる。分かるぞぉ。

 下心を指摘されるのって、実際滅茶苦茶恥ずかしいんだよなぁ。俺も経験がある。中学時代に女子のパンツが見たくて休み時間、ずーっと階段下にスタンバイしていたことがあった。その姿を当時の担任に見られ、生徒指導室で注意された時は、本気で死んでやろうかと言う考えが浮かぶほど恥ずかしかったなぁ。恐らく今の桐香さんも同じような気持ちなのだろう。普段の平坦な声音とは程遠い叫び声がその証拠だ。……女性らしいリアクションかと聞かれればそうとも言えないのが少し悲しい所だな。

 

 動揺が身体に現れているのか、不定形の身体が激しく変動している。これがスライム―――じゃない、アメーバの「悶え」なのだろう。俺は何となく微笑ましい気持ちでそれを見守った。

 

 「まあまあ、安心してくれ。俺も男だ下心キモチはよーく理解できる。アマツには内緒にして置くぜ!」

 「わ、わ、私は下心そんなモノ抱いていない!!」

 

 普段の彼女より数段高めの声音と共に、彼女の身体から振るわれた触手が俺の顔面を横から殴打する。柔らかい中に微妙に硬い感触を感じながら、俺の視界はぐるぐると回転する。痛みは不思議と感じない。

 

 「はー、はー。次に変な発言をしたら容赦なく叩くからね」

 「……もう叩いてますやん」

 「容赦なく・・・・だよ。いいね?」

 

 有無を言わせぬプレッシャーに、俺は黙って頷くしか出来なかった。

 倒れた身体はプルプルと震え、頭の中身が未だに回っている様な不快感が続く。これ以上の威力でひっぱたかれるとか、考えたくも無い。……女性に叩かれたと言うのは通常なら「我々の業界ではご褒美です」と言う所なんだが、見た目が女性要素ゼロだし友達ダチの女だしなぁ。残念ながら少し・・しか興奮できないぜ。

 まあ、確かに。女性に対して少しデリカシーの無い発言だったかも知れないな。

 

 反省はしている。だからな……。

 兄弟、それにスフレちゃんよ、そんな所で俺の情けない姿を覗き込まないでくれ。

 いや、マジで。


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