黄の章 第17話 勝利
黄の章 第17話 勝利
「おいおいオーガさんよ! そんなに小さな敵モブも倒せないとかその筋肉は飾りですか~? それとも舐めプですか? あ、もしかしてそれが本気? ああ、いやいやごめんなさいね~! 俺、オーガってもっと力強くてカッコいい物だと思っていたからさ~! そこまで弱いと最早ゴブリンと変わらないって言うか? まあ身体はデカいみたいだし見てくれは悪くないから弱くても気に病むことは無いぜ? あ、もしかして俺の言葉とか理解できない感じか? 飾りなのは筋肉じゃなくて頭だったりしてな! あれ? あれれ? 怒った? 怒っちゃった? もしかしてガラスのハートですか? あらま~力も無くて? 頭も悪くて? 心まで弱いの? 可愛そうでちゅね~? これなら赤ちゃんと変わらないでちゅね~? ばぶばぶでちゅね~? こんな大きな赤ちゃん初めて見たわ~!」
息をするようにすらすらと言葉が出くる。
流石は俺だな。だてに脳と口が直結していると言われるだけは有るぜ。いくら動きながらとは言え、思いついた事を口に出す事だけなら造作も無いなぁ!
……。
大鬼との戦いで俺がやった事。それは大鬼が天月との戦闘に集中できない様に気を散らす事だった。
まあ、平たく言えば大鬼が簡単に手が届かない程度に距離を取って適当に思いついた罵詈雑言を叫び、天月の合図で大鬼の背後に当たる場所に身を潜める。天月は俺が隠れたと同時に一人で大鬼の相手をする。
最後に俺が心中で一から百まで数えた後に、大鬼の背後で―――
「……【生きる屍】、【生きる屍】、……もう一ついけそうだな。【生きる屍】。 よし。完璧だ。……九十七、九十八、九十九、百ぅ! おらぁ! こっちだウドの大木野郎! アオォォォォォン!!」
そして俺森に響く程大きなの咆哮。多分生まれてから出した中で一番の大声で若干喉が痛むが、今はそんな事を着にしている訳には行かない。
狼らしく頭を真上に向けていた「遠吠えの姿勢」をやめる。
天月と大鬼の戦いから目を離したのはほんの一瞬。だけど、天月はその一瞬で行動を終えるところだった。
大鬼の目を天月の尻尾が貫く、その瞬間を見た。
尻尾で、貫いたぁ!? マジかよ。そんな事が出来るとか、予想外だなぁ!? ……だけど、成程なぁ。その為に尻尾をあんまり戦闘に使わずに、しかもここまで「突き」と言う手札をここまで隠しとおし温存して来たのかよ! めっちゃ熱い展開じゃねえか!? いいなぁ!!
「……え?」
大鬼が、眼球を貫かれた大鬼が。叫ぶでも取り乱すでもなく、ましてや死ぬでもなく。
自分の身体に張り付いて尻尾を突き出した体勢の天月をその大きな掌でつかみ取り……ぶん投げ……たぁ?
大鬼の足元にまるでメンコの様に叩き付けられた天月。何とも生々しい、聞いているだけで鳥肌が立つような音と共に地面に落ちた天月は……僅かに身体を動かすばかりで中々起き上がれない様子で……。
だが、それでもよろよろと起き上がる天月の姿を目にした大鬼は、初めてその顔に「怒り」以外の表情を……。
ああ、成程なぁ。アレは怯えているんだ。怖がっているんだ。
爪は剥がれ落ち、鱗も欠け砕け剥がれ落ち、ぽたぽたと真っ赤なシミを地面に作っている。
どこから見ても満身創痍。どころか小突いただけで死にそうな風体。
だけど大鬼は天月に止めを刺す事は無かった。
ずざぁ、と鬼は一歩後ずさる。傷付いた目を庇ってか、片目を閉じてはいるが残ったもう一つの瞳は恐怖に揺れていた。
だがそれも長くは続かない。天月が完全に立ち上がり、大鬼に向かって顔を上げた時には既に大鬼は背を向けて走り出していた。逃げたんだ。
あれほど怒り狂っていた大鬼が、怒りを忘れて明後日の方向に逃げる。それだけ天月の姿が異様に映ったのか。それとも片目を失った事で冷静になって逃げだしたのか。それは分からない。
勝った、とは言えないかも知れない。どちらかと言えば撃退したと言う感じだな。
だけど、生き延びた。
じわじわと心のそこから満たされて行くのは安心と喜び。そして憧れていた友達と大きなことを成し遂げた達成感と誇らしさが大きくなっていく。
……全く、異世界に来ても俺は友達に大きく実力を広げられているとか。全然悔しくねぇなおい!
「……ったく、無茶し過ぎだろうが。結局俺は大した手伝いも出来なかったし、情けねぇな。お前もそう思うだろ」
そう声を掛けて見るが、天月は大鬼が走り去って行った方向を眺めていて反応が無い。
っ! 聞こえてなかったのかよ! 恥ずかしいなぁ! そうだよな、結構距離がある所に俺は隠れていたからな! 普通に声かけたくらいじゃ聞こえないよな! 忘れてたけど俺は狼で天月はリザードマンだよな! そりゃ聴力とかにも違いは有るよな!
気恥ずかしさを押し殺し、深呼吸しながら天月の元に歩み寄る。狼の顔にテレとかが出るのかどうかは分からないが、何となく顔が火照る感覚がしてそれが更に俺の羞恥心を煽る。
ったく、下手に他人に失敗するところを見られるより友達の前で情けない姿を見せる方がよっぽど恥ずかしいぜ。思い返せば大鬼に追われていたからか出会い頭に随分と情けない姿を見せた気がする。
「ああー。おほん。よぉアマツ。大勝利、とは言えねえが一先ず勝ったな。ってか大丈夫か? 滅茶苦茶ボロボロじゃねえか」
? この距離でも聞こえないのか? 一応天月の視界に映る様に歩み寄っているが……あ、やっとこっち見た。
突然天月が後ろに倒れた。
「は?」
慌てて駆け寄る。声を掛ける。反応は無い
「は? は?」
突然の出来事に、俺の頭は真っ白になった。




