黄の章 第16話 生きる屍
黄の章 第16話 生きる屍
「お、おぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁ!! こっちだ! このでくの坊が!」
俺の張り上げた罵声。それに即座に反応した大鬼は向かい合っていた天月を無視して俺目掛けて突進して来る。
改めて走る大鬼を見ていると気が付いた事があった。大鬼は手足をバタバタとさせながら走っている。TVとかで見たマラソン選手なんかはスゲー綺麗な姿勢で走るけどそれに比べると全然汚い姿勢だな。―――なんて恐怖を誤魔化す様に少しずれた事を考えてみるがやっぱり怖い物は怖い。
「フウタ!?」
それでも巨体故に大鬼の一歩は大きく、巨体が迫ってくる事、更にそれを待ち構えると言う行為は俺の想像を遥かに超えて耐え難い恐怖だ。
おおお!? 超怖いなぁおい!?
だが俺の周りには気休めだが囮を立ててある。
その名も土魔法『生きる屍』!
土魔法でただ土を盛り上げる『土塊』を応用した魔法で数日前に俺が編み出したオリジナルの新作魔法だ。
ただ土塊を作り出すだけでは芸が無いと思い、何か簡単なアレンジが出来ないかと思い毎晩試行錯誤を繰り返していた。
そこに自在に形を変える桐香さんの身体からヒントを得て、土塊の形状を変えられないかと思い至り完成したのがこの『生きる屍』だ。
とは言っても何も複雑な話じゃない。魔力を使って土をかき集め盛り上げるイメージで使用する『土塊』を更に操作して形を変えるだけの事。
正直あまりメリットの無い行為ではある。
先ず『生きる屍』は『土塊』に比べて魔力を数倍も使う。これは多分だけど魔力を使う時間が成型をすると言う作業の間も必要なため増えているんだ。
これでも練習を重ねたお陰で三倍から四倍程度の魔力消費に抑えられている。しかし初めて使った時は十数倍近くの魔力を使ってしまい一回で俺の全魔力が溶けた。魔法は練習次第で効率よく使う事が出来るのだ。
更に粘土の様に土を成型できるが元が土なのであまり無理な成型は出来ない。今の所俺をモデルにした狼の像(とは名ばかりの不細工なナニカ)しか練習していないからそれ以外を作ろうとするとあまり上手にはいかないし消費も馬鹿にならない。しかも土塊は同時に何個も作れるが成型したモノは同時に複数作れないと土塊の形を変える意外に何のメリットも無い。
何でそんな使えない魔法を編み出したのかって?
カッコいいフィギュアとか作れると思って練習を初めてメリットがほぼ無いと気が付いたのが昨日だからさ! その場のテンションで作ったけど不格好な狼像が完成した後は冷静に後悔しているぜ!
だが今ここではこの魔法が役に立つ! 大鬼にはあまり知能が無い。だから動物としては強くても人間の様な狡猾さは殆ど持ち合わせていないんだ。だからころころと獲物のターゲットを変えるし、相手によって対策を練る事もしない。
そんな動物的な相手であれば、子供だましなハリボテ魔法でも効果がある! ……筈だ!
流石に俺の姿をした狼像じゃ大鬼を引き付けられるか不安になったから、先程目に焼き付けた天月の姿を参考にリザードマン像を作った。うおお、正直手を抜いて数を作ったから太い棒人間に尻尾を付けたような感じだ。鱗の質感なんて皆無の石像ならぬ土像。
だが、やはりと言うべきか。大鬼は俺の周囲に並んだリザードマン像を相手に全力で拳を振り下ろし始めた。
成功した!
内心でガッツポーズをしつつ、大鬼が作り出した土煙を潜り抜けて天月の元へ走る。大鬼が直ぐに像を壊し終わらない様にかなり間隔を開けて作ったのが幸いしていた様で大鬼は目に付く像を壊す為に右往左往している。
ああ怖えぇ! 失敗したら死んでたぜこれ! ちょっと涙出て来たよ!
「アマツ!」
「おい、逃げろと言った―――」
この期に及んで俺を逃がそうとする天月。その姿にぎりりと歯を鳴らし俺の中にあった感情が爆発した。
「うるせぇよ! 逃げようと思ったよ! 馬鹿野郎が! でもよ、でも、逃げたってどうせ後で後悔するんだよ! 友達見捨てて逃げたらすげぇ嫌な思いするんだよ! 俺のせいでお前が死んだりしたら嫌だろうが! 俺の気持ちも考えろよ!」
感情のままに苛立ち、不満を吐き出す。
大鬼がいつまでリザードマン像の囮に騙されてくれるか分からない。それは分かっているが、それよりも天月の態度が我慢ならなかった。
「別に、お前のせいなどでは無い。俺が俺の意思で戦って死んだならそれは俺の責任だ」
「違うだろ! お前、お前は、俺が巻き込んだんだ! 俺が巻き込んだって思ってるんだよ!」
「俺が俺の意思で戦って死んだならそれは俺の責任だ」だとぉ? それで俺がお前の死を「そりゃしかたがないよなぁ」とでも言って受け入れられるとでも思ってんのかよ!?
これは天月が望んだ戦いでは無いだろうが!
傭兵の仕事なら戦えば金を貰えるんだろうが、この戦いはただの殺し合い。お前には何の得も無いんだぜ? 寧ろ俺が巻き込んだんだから逃げたって俺は文句は言わないのによ。
「……むぅ、時間が無い。簡潔に言え。どうすればお前は納得する」
「俺も戦う!」
天月はあの大鬼を相手にしていたのに一切怯えや動揺は見られない。自然体だ。その強い精神力は素直に尊敬できる。伊達に狂歌の奴に付き合って戦場を駆けて無いって訳か。
真剣に俺の目を真っすぐに見つめた天月は一種の気迫の様な近寄りがたい雰囲気を漂わせる。その様子に一瞬ビビってしまう。それでも俺の中での結論を叩き付ける。俺だってふざけている訳じゃないんだ。
確かに俺は弱いさ。でもよ、それは何もしない理由にはならないんだよ。
弱いままを受け入れたら絶対に後悔する未来しかない。
俺が強ければ、怠けずに真剣に強さを求めていたらグリフォン共から家族を守れたんじゃないか、そんな風に毎晩考える羽目になるんだ。
怖くても前に進めなきゃ弱いままなんだ。それじゃあ英雄なんかにゃなれないんだよ!
「かっはっは。震えながら言ってもカッコ付かないなぁ」
一瞬目を細めた天月。その後に出て来た言葉はどこか呆れを含んだ柔らかい物だった。
もう近寄りがたい雰囲気も既に無い。俺の知っている倉井天月の柔らかくどこか抜けている雰囲気だった。
「うるせぇよ! お前と一緒にするな! こちとらこの世界でいろんな化け物見て心折れ駆けているんだよぉ! 逃げ回って来たんだよぉ! 憧れの異世界生活が過酷過ぎて、涙が止まらねぇよ!」
「むぅ。それでも戦うのか?」
「はん! 別に今は一人じゃねぇ! あのオーガ相手にお前が互角に戦ってる姿を見たからな! 俺が加われば勝ったも同然! 天月と風太郎の『天鎧』コンビ復活だ!」
「いや、その様なコンビを組んだ覚えはない」
軽口を叩きながら二人同時に大鬼に向き直る。
ああくっそ、やっぱり滅茶苦茶頼りになるなぁチクショウ。
天月が隣に立っているだけで、絶望でしかなかった大鬼の姿が何とかなるかもしれない強敵に見えて来た。
俺の隣に立っているのは俺の英雄。んでもって俺もそれに対になる英雄……は無理か。でも、俺はもうモブじゃない。
今は無理でも、この世界で俺は友達に並び立てるようになってやるよ!
先ずは目の前の大鬼を倒さないといけないけどな!




