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LEGEND COLLAR~色彩の英雄~  作者: 水晶 蜻蛉
黄の章 憧れの異世界 編
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黄の章 第14話 騒がしい逃走劇

黄の章 第14話 騒がしい逃走劇

 

 「桐香さん、二匹を頼む! 俺の家族だ!」

 「了解した。君は?」

 「……っ! あなたより俺の方が足が速い。あの鬼、特徴的に見て多分オーガとかそっち系の生物だと思うが、アレを引き付ける!」

 

 打てば響く最小限の応答は、緊急事態にはこれ以上なく頼もしい。

 実際問題殆ど全ての能力で俺は桐香さんを下回っている。だが唯一勝っているモノがあるとすれば「機動力」だろう。俺は未だに狼としては子供で、成体と比べると圧倒的に遅いが四足歩行なだけあって人間とは比べものにならない程早い。対して桐香さんはアメーバ状の見た目からは想像できない程ぬるぬる・・・・動く。しかし俺と比べると半分以下の移動速度だ。

 この数日間桐香さんと狩りをしてきた。しかし三mを超えるサイズの生物は流石に手を出してはいない。体格的にそのレベルの巨体を持つ生物が放つ一撃は、それだけで命に関わるのが分かるからな。

 

 相手の能力が不明な上に今本格的な戦闘を始めると俺の兄弟が巻き込まれる。

……二匹とも俺が最後に見た時よりだいぶ細っている。現状二匹が戦力にならないとすれば二匹を守りながらの戦闘になってしまう。

 そうなったら流石に不利が過ぎる。

 全員が・・・生き残る可能性があるなら、この中で一番機動力のある俺が囮になって適当な所であの大鬼オーガを撒くしかない。

 

 「おい、このねばねばした奴は俺の仲間だ! 二匹ともコイツに付いていけ!」

 「フウタ!?」

 「ねばねば!?」

 「……囮はいいが合流する手段は有るのかい?」

 「桐香さんと二匹の匂いは覚えている。二匹も俺の匂いを追えるはずだ。合流は難しくない……と思う。じゃあ俺はもう行くぜ。俺と反対の方向へ走ってくれ!」

 

 問答をしている間に残り十m近くまで迫っていた大鬼の方へ走り出す。その途中ですれ違う二匹が何か言いたそうな目で見て来るがいちいち説明している時間は無い。桐香さんがどうにか二匹を言いくるめて逃がしてくれるのを期待するしかない。


 向かって来る俺をロックオンした大鬼が、黄ばんだ牙を剥き出しにした文字通り鬼の形相で掌を突き出す。俺の身体をすっぽり包めそうなほど大きな掌から繰り出される張り手は、様々な生き物に踏み固められた地面に半ばめり込む事でその威力を思い知らせる。

 雑草の類が殆ど生えていない剥き出しの地面のお陰で、図らずも大鬼が図体だけの張子の虎では無いと知れたのは良い事なのか悪い事なのか分からない。だがお陰でもしかしたら倒せるかもと言う甘い幻想は砕けたし、それにつられて良い感じにピリピリと緊張感が湧き出て来た。

 

 「少なくともあのクソグリフォン共よりは強くないな!」

 

 あえて弱いと言う単語は使わない。万が一にも今の緊張感に甘えが入り込んで欲しくなないから。もしかして勝てるかもと言って無謀な勝負を仕掛けようとは思ってもいけないのだ。

 そりゃそうだ。俺は紅流狂歌や倉井天月じゃない。強敵に向かって飛び込むのは俺には無理だ。負ける確率が高い化け物に向かって特攻するのは英雄ヒーローのする事。臆病なモブには荷が重い。

 

 再び腕を振り上げる大鬼の周りを迂回して背後に回り込む。股下を潜ればもっとスピーディーだったんだが今の俺が持つ勇気ではこれが限界だ。

 

 「おらぁ! こっち見ろよアホ面!!」

 

 俺の言葉を理解できた訳では無いだろうが、少なくとも大鬼は侮りを理解できた様子だ。今まで追いかけていた兄弟など既に頭にないと言った様子で一心不乱に俺を追いかけ始める。

 俺はなるべく森の中でも障害物が多い場所を選んで走り抜ける。俺の方が小回りの利く分、多少有利になると言う判断だが……。うん、あんまり意味は無いみたいだな。

 俺は倒木や茂みを避けながら走っている。しかし大鬼はそんなモノお構いなしとばかりに踏みつけ薙ぎ払い突き進む。大木は兎も角、背の低い木ですら時折砕きながら進んで来るものだからあまり差が開かない。寧ろ距離を詰められている雰囲気すらあるぜ。

 これなら平地を走った方が良かったとすら感じるが後の祭りだ。視界に映る木々は途切れる気配すらない。

 

 「おっと!?」

 

 俺の背丈ほどある茂みを飛び越えた先に赤褐色のビーバーモドキが居た。向こうは急に飛び出した俺に硬直して黒くつぶらな瞳に俺の姿が映る。

 空中を踊る身体を捻り、ビーバーモドキの背中を踏み台に更に前方へ加速する。ちらりと後方を確認すればなにか信じられない物でも見た様な表情で地面に転がるチャーミングなビーバーモドキ。

 

 「悪い。後で埋め合わせするよ!」

 

 追いかけられていると言う不安ストレスから逃れようとする様に軽口が口を突いて出た。だがお陰で幾分か心が軽くなった気がする。

次の瞬間、茂みから飛び出した大足がビーバーモドキを地面のシミに変えた。

 

 「あー、ご愁傷さま!」

 

 あヤバい。地面のシミになった自分を想像しちゃったよ。お、落ち着け俺! 深呼吸しろ―――って走りながらじゃ深呼吸できねーよ! 

 

 どすどすと大股で追いかけて来る音が心なしか小さくなっている気がする。だがまだまだ大鬼むこうは俺を認識しているだろう。

 大鬼が俺の姿を認識できない程距離を取る事が出来れば、その辺の木の影等に身を潜め撒く事が出来る……筈だ。

 

 目の前に数匹の馬っぽい生き物が見えたが、既に俺や大鬼の存在を察知し逃げる後姿だけ見えた。……今の馬足が六本有った気がするが気のせいか?

 ああ、そうか。逃げる先にも気を付ける必要もあるのか。さっきのビーバーモドキみたいに上手く躱せればいいが、最悪衝突してこけたり別の敵生物に出くわす可能性もある。そう思い周囲の匂いを嗅ぐが俺の進む先に対して俺の位置が風上なので後ろを追いかける大鬼のくっさい匂いしかわからねえ!? もっと方角考えて逃げるべきだったなぁ、ちくしょう!

 

 って言うか今俺の進んでいる方向って大鬼が来た方向だよな? まさかとは思うけどこの先に大鬼の仲間とか居ないよな? もし居たとしたら俺大鬼に挟み撃ちとかされるんじゃね!? 嫌だ嫌だ! 挟まれるなら美しいお姉さまの豊満なお胸様がいい!!

 

 少しずつ自分のミスの数々を自覚して、ああすれば良かったこうすれば良かったと後悔する。

 どんどんと溢れる後悔が自分の思考を塗り潰し、冷静じゃいられなくなっていく。だけどもう自分の気持ちをコントロール出来ない。

 嫌な未来ばかり想像してしまう!

 

 「やばいやばいやばい! よくよく考えれば俺が逃げ切れる保証なんて無いだろうが! 俺の方が速くても向こうの方が持久力スタミナがあるなら最終的に追いつかれる可能性だって考えるべきだろ! 馬鹿! 俺の馬鹿!」

 

 不安に耐え切れずチラリと後ろを振り向けば、かなり小さくなっているが確実に俺を追跡している大鬼の姿がはっきりと分かる。くっそ! 思っているよりも距離が広がらない!

 大柄な鬼の姿が、その憤怒の表情と共に俺の脳裏にこびり付く。

 

 「スタミナ有りそうな体つきしてるなぁおい! 背が高くてマッチョとかくそ羨ましいですねその筋肉分けてくださいよ割とマジで!!」

 

 息を吐き出す度にもれなく軽口が出るのかってくらい言葉が止まらない。俺のさがだからある意味仕方ないとはいえ、こう言う状況では静かにして欲しいとよ、切実に。

 だけどしょうがないんだよ。俺の口は脳みそと直結してるからな!

 

 俺の脳内ではとりとめのない雑念が渦巻くが俺の身体はしっかりと動いてくれる。もう数十分以上走っているが、あらゆる障害物を避けて森の中を休みなく脚が動き続けている。

 流石は狼の体力だと自画自賛したい所だが未だに大鬼は俺を追いかけ続けている。既に豆粒程の大きさに見える大鬼だがどれだけ走りにくい場所を選んでも最短距離を即座に見定めて距離を詰めて来るから性質が悪い。

 

 「いつまで追いかけて来るんだよ! ってか、あの大鬼は何で俺を追いかけてきているわけ!? 俺の兄弟がお前になにしたって言うんだよ!」

 

 やけくそ気味に叫んでも現実は何一つ変わらない。このままでは不味いと分かりつつも何もいいアイデアは浮かんでこない。焦燥感だけは無限に湧き出て来るけどな! ついでに弱音も無限に出て来る仕様です!

 

 「ああくっそ! どっかからヒーローでも出てきてくれないかねぇ!? 善良でピュアでプリティな狼が困ってますよー! 助けてくれたら俺の身体好きなだけモフモフさせてやるよ!」

 

 進行方向にある茂みを踏み潰す様に乗り越える。

 ここまで何度も障害物を乗り越えて気が付いたのだが草むらや茂み程度なら飛び越えずに突っ切った方が速い。突っ切った先に別の生物が居てもその時はその時だ。

 まあ、俺が先程から騒ぎながら走っているから普通に考えて俺の進行方向に待ち構えている生物など居ないだろうと言う予測もある。

 

 ―――茂みの先が目に映った、森の中では不自然な鮮やかな蒼。それは森の中では異様に際立った薄いメタリックブルーで、見間違えかと自分の目を疑う程だった。

 

 蒼の形は一見人型に見えるが人間で言う所の腰と尻の間の位置から長く伸びた尻尾と言う異物が人間かも知れないと言う淡い期待を砕く。

 よくよく見れば蒼いのは表皮では無くびっしりと生えた鱗だ。身体の所々も人間と言うより人間の身体に爬虫類の特徴をブレンドしたような形をしている。だが頭部だけは完全に蛇や蜥蜴のソレである。

 

 リ、リザードマン?

 

 オーガやグリフォン等と同様に物語やゲームで登場する神話生物。二足歩行で人間大の蜥蜴として描かれる生物。

 それが突如目の前に現れた事で思考が空転する。鱗の美しさも含めたその幻想的な姿に現実味が湧かずに見惚れていたとも言う。

 

 だがリザードマンの身体で唯一黄金に近い黄色の瞳が俺を見ていると気が付いた瞬間、蛇に睨まれた蛙の如く身体が硬直した。

 同時に一つの単語が俺の思考を支配する。―――「食われる」。全身の毛が逆立つ。

 

 「ぎゃぁああああああああああ!? 化け物ぉおおおおおおお!?」

 

 気が付いた時には情けない悲鳴が口を突いて出ていた。


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