新たなる転生体 仏谷登場!!
「な、何だと・・・」
目の前に現れたマハトロースの言葉に、驚いた表情を見せる正義。そして、彼はこう続けた。
「『職人』クラスの『クリエイター』・・・トレハロースだと!?」
その瞬間、マハトロースは盛大にずっこけた。因みに、『トレハロース』は天然糖質(食品添加物の一種)である。
「私の名前は、マハトロースだ!!マハトロース・プーアスカンティー!!二度と間違えるな。」
再度、名を名乗るマハトロース。しかし、そうするも空しく、
「え?バカとロース・プーマスカンク?」
正義には伝わらなかった。ご丁寧に耳が遠い老人がよくやる、耳の後ろに手を当てて『はい?』というポーズをしている。
彼のその姿を見た瞬間、マハトロースから『ブチッ』という、何かが切れる音が聞こえた。
「このクソガキ、二度とそんな口が利けない様にボコボコにしてやるッ!!やれ、『モノガーン・レーベフリーゲン』!!そのガキにトラウマを植え付ける位、痛めつけろ!!死にさえしなければ、問題は無いッ!!」
「モノグォァァアアアーーーーーーーーーーーオッ!!」
マハトロースの命令に、モノガーンが吠えながら右前足を上げる。指から出ている鋭く尖った爪が太陽の光に反射して輝いており、恐らくそれで正義を思いっきりひっかくつもりなのだろう。その辺をウロウロしている野良猫ですら、ひっかかれたら大事になりかねないのに、こんな猛獣・・・いや、モンスターにひっかかれたら、一溜まりも無い。『死にさえしなければ』とか言っていたが、爪のサイズ的に一撃でもまともに喰らえば、肉がえぐれて絶対に死ぬ。
「うおおおおおおおお!!」
モノガーンの右前足が正義に襲い掛かる。するとその瞬間、太陽光のような光を放っている矢がどこからか飛んで来て、モノガーンの右前脚に刺さった。
「グォァァアアアーーーーーーーーーーーッ!!」
矢が刺さった部分から血を出しながら、悲鳴のような声を上げるモノガーン。余程その矢が刺さって痛かったのか、その場でじたばと暴れている。
「な・・・何だ!?」
モノガーンから距離を取り、じたばた暴れているモノガーンを見る正義。マハトロースも距離を取って、モノガーンを攻撃した奴がどこにいるのか、周囲を確認している。
「ふぅ、危ないところだったな・・・」
「!?」
急に背後から声がしたので、ぐるんと顔を向ける正義。するとそこには、正義と同じ幼稚園児の男の子がドンと立っていた。その手には弓が握られている。ついでに言うとその弓は、太陽光のような光を放っていて、一目でただの弓ではない事が分かる代物だった。
「だ、誰だ!?」
正義の問いかけに、その男の子は答えた。
「俺は仏谷英一郎。君と同じ、『転生体』だ。」
「『転生体』?・・・まさかッ!!」
その言葉を聞き、彼も自分と同じように転生した人間だと察する正義。仏谷も彼の表情を見て、『分かってくれたか』と言わんばかりに、ニヤリと口角を上げる。
ついでに二人の会話を聞いていたマハトロースも、ニヤリと口角を上げている。
「ほう、『飛んで火にいる転生体』ってヤツか・・・二人とも捕獲出来れば、報酬は二倍ッ!!そして、組織内での私の地位は、より高いものとなる。『モノガーン・レーベフリーゲン』、その少年も連れて帰るぞ。」
「モノグォァァアアアーーーーーーーーーーーオッ!!」
マハトロースの言葉に、モノガーンが『了解』と答えるように吠える。
襲い掛かってきそうなモノガーンに、仏谷は眩しく光る弓矢を構えながら、正義に言った。
「来るぞ、構えろ。」
「何を?」
正義の返答に、仏谷は一瞬だけぽかんとした表情になった。
「・・・この状況を見て、察せないのか?」
呆れたような顔で言う仏谷に、正義は彼の弓を指差して言った。
「お前の持っている、その如何にもゲーム終盤で手に入りそうな武器の事を言っているなら、俺は持ってないぞ。残念ながら。」
「誰も『武器』と限定してないだろ。能力を使うんだよ。ほら、死んで転生する前に、神様から何かしらの玉を貰っただろ?」
「ああ、それなら断ったぞ。」
顔の表情を変えず、正義はハッキリと言った。ここで仏谷が、またしてもぽかんとする。
「・・・・・・何?」
「いや、だから断ったんだって。」
もう一度言う正義。仏谷は『信じられない』と言いたげな顔になった。
「何でそんな事を・・・『物騒な世界』だって聞かされなかったのか!?」
「聞いたよ。聞いた上で、今に至るんだよ。だって・・・何か『ありきたり』っつーか、『やり古されてて、鮮度が無いを通り越して、傷んでいる』かなぁ~って思って・・・」
「『傷んでいる』って何だ、『王道』って言うべきだろ!!」
ハハハと笑う正義に、ツッコミを入れる仏谷。
ここで、彼等の話を聞いていたマハトロースが驚く。
「な、何ィ!?お前、『転生体』の癖に『チート・チルドレン』じゃあないのか!?クソッ、そうなると二人捕獲しても意味はないな。おい、『モノガーン・レーベフリーゲン』。あの弓矢を持っているガキを狙え。邪魔になるなら、最初のガキは食い殺しても構わん。能力の無い『転生体』など、文字通り『無能』だからな。・・・というか、さっきの屈辱を晴らす為にも、惨たらしくブチ殺せぇッ!!」
「モノグォァァアアアーーーーーーーーーーーオッ!!」
マハトロースの命令に、モノガーンがさっきと同じように右前足を上げる。普通なら自分の身を護る為にすぐ逃げ出すのだが、正義はマハトロースの言葉が気になって、モノガーンの攻撃体勢を見てなかった。
「チート・・・え、何?次から次へと重要そうな用語垂れ流されても困るんだけど!?」
「そんな事はいいから、今は俺の後ろにいるんだ。巻き添えを喰らうぞ。」
「へ、へーい・・・」
仏谷の言葉に、素直に彼の後ろへ移動する正義。異能力とモンスター、この二つの攻撃を同時に喰らうと、さすがに『命の保証』どころか『骨が残る保証』すらも無いので、従わざるを得なかったのだ。
そして仏谷は、正義が安全なところに行った事を確認すると、弓矢に力を込めながら、ご丁寧に自分の能力を説明した。
「俺の能力は『太陽』!!そして、これはいわば『太陽の弓矢』!!この灼熱の矢に射貫かれて、死ねッ!!」
確かに彼の言う通り、矢からは赤と黄色が混じったような炎が噴き出している。動物園オンリーならともかく、植物園も兼ね備えている『ヨル動植物公園』で、この能力は大惨事になりかねないような気がするが、あまり深く考えない様にしておこう。
また、『太陽』の能力の効果なのか、肌寒かった秋の風が仏谷の周辺だけ、真夏のじめっとした風へと変化してしまった。勿論、気温もそれなりに上昇している。夏嫌いな人間にとって、これ以上厄介な能力は恐らく無いだろう。
マハトロースは、別に夏が嫌いなわけではないのだが、仏谷に『死ね』と言われたので、
「何をぅ・・・やれ、『モノガーン・レーベフリーゲン』!!」
と、モノガーンに彼を攻撃するよう命令した。
「モノグォァァアアアーーーーーーーーーーーオッ!!」
吠えながら、仏谷に飛びかかるモノガーン。
「喰らえッ!!必殺ゥゥゥ~・・・『灼熱シャワー』!!」
それは漫画やゲームに出て来る弓矢使いがやりがちな、天高く矢を放って、攻撃対象に雨霰の如く無数の矢を降らせるという技だった。仏谷は『太陽』の能力者なので、無数に降って来る矢は、力を溜めていた時と同じ色の炎を纏っている。これ、人間に刺さったら、多分そこから肉体が氷のように溶けて、最終的には死ぬと思う。それぐらい、熱を持ってそうな矢である。
矢は全て、モノガーンに命中した。
「グオォォォーーーーーーーーーーッ!!」
『熱い』と言っているのか、『痛い』と言っているのかは分からないが、とりあえず悲鳴を上げるように吠えるモノガーン。あれだけ喰らって、悲鳴を上げる余裕があるという事は、あの『灼熱シャワー』とか言う技は、実は見た目より熱は無く、威力もそんなに無いのかもしれない。
まあ、モノガーンはマハトロースが作った人工モンスターなので、人間と一緒に考える方が間違っているのだが。
そんなモノガーンが苦しんでいる様子を見て、正義はテンションが上がっていた。
「や・・・やった!!奴のピンク色の翼が、見るからに熱そうな無数の矢によって、香ばしくジューシーに焼けているぜ!!それに辺り一面に漂う食欲を掻き立てるこの匂い・・・んん~、クリスマスに食べたフライドチキンだ!!」
そう言った瞬間、彼のお腹から『ぐぅ~』という音が鳴った。そういえば今は、お昼ご飯の時間。普通だったら、広場でレジャーシートでも広げて、お弁当を食べている時間だろう。勿論、彼は広場の隅っこにシートを広げて、自然を感じながら所謂『ぼっち飯』をするつもりでいた。
それは置いといて、モノガーンと仏谷の戦いは、仏谷が圧倒的に優勢だった。
「よし、これでトドメだァーーーッ!!」
矢に力を溜め始める仏谷。『トドメ』という事は、この一撃に全てを込める気なのだろう。溜めて、溜めて、溜めまくり、いよいよ発射しようとしたその時、
「なっ!?」
仏谷の弓矢が一瞬で消えた。これには正義も、
「えっ!?」
と、自分の目を疑った。
力を溜めすぎて、暴発でもしたのだろうか。いや、本当に暴発したのなら、爆発は起きてもおかしくない。一体、仏谷の身に何が起こったというのか。
「し、しまった・・・」
「モノグォァァアアアーーーーーーーーーーーオッ!!」
弓矢が消えた仏谷に、モノガーンの右前足が迫る。
「うわあああああああああああああ!!」
悲鳴を上げる仏谷。しかし、正義が間一髪のところで、彼の襟首を掴んで後ろに跳んだので、何とか攻撃をかわせた。
「だ、大丈夫か!?」
「ああ、何とか・・・」
正義の言葉に、青ざめた顔で答える仏谷。彼の心臓は今、物凄くドクンドクン動いている。正義は、彼に弓矢の事について聞いた。
「どうして、あの場面で弓矢を消したんだ?」
すると彼から、驚きの(と、言えるかどうかは分からないが)事実を告げられる。
「『消した』んじゃあない。『消えた』んだ。俺はまだ未熟だから、この能力を自由に使うには、本物の太陽の光が必要なんだ・・・そして今、太陽は雲に隠れている。太陽が再び現れるまで、あの弓矢は使えない!!」
言われてみれば、太陽は今、大きな雲に隠れている。どうやら、太陽が出ている時限定の能力だったようだ。
「そんな弱点が・・・」
圧倒的優勢から、一気に劣勢になってしまった二人。その様子を見たマハトロースは、勝敗がまだ決まっていないにも関わらず、勝ったかのような顔で笑った。
「フフフフフ・・・フハハハハハッ!!どうやら、『勝利の女神』は私に微笑んだようだなぁ~。どうだ?観念して、私と共に来るのであれば、それ以上危害は加えないが・・・」
転生しているとはいえ、二人の幼稚園児相手に、なんて大人気無い男なのだろうか。
正義は、ちょっとイラッとしたので、
「うっせぇ、トレハロースは黙ってろ!!」
と、言い返した。
この瞬間、マハトロースの額に青筋が立った。
「こっ・・・このクソガキィ~、またしても私の名前をッ!!・・・おい、『モノガーン・レーベフリーゲン』。弓矢の子供よりも先に、あのムカつくクソガキを始末しろ。今すぐッ!!」
「モノグォァァアアアーーーーーーーーーーーオッ!!」
怒りに狂ったマハトロース。モノガーンに、正義を殺すよう命令した。
すると、その時ッ!!
「グオッ!?」
「な・・・何だ!?」
急にどこからか、ギターの音が聞こえて来た。それは穏やかで、故郷が恋しくなるような音色をしている。そして、ギターの音が止まると、聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「大丈夫か?二人とも。」
「そ、その声は・・・」
声がした方を向く正義。するとそこには、
「竜騎士!!」
以前、正義たちを助けてくれた『流離の竜騎士』が立っていた。
「久し振りだな、正義。元気そうで何よりだ。」
「お、おう・・・・・・あれ?この前俺、名乗ったっけ?」
正義の疑問に、竜騎士は答える。
「ハハ、あの事件は新聞や朝昼晩のニュース番組に、散々取り上げられていたからな。名前なんかすぐに分かったよ。」
「そ、そうだったのか・・・」
『ニュースとかで見た』という竜騎士に、納得する正義。実際、誰も許可してないのに、正義の名前を出して報道しているニュース番組が幾つかあったからだ。
「それより君は、能力を貰っていないそうだね?武器が無い上に能力も無いんじゃあ、モンスターの撃退は困難だろう。君には、コレを貸してあげよう。」
竜騎士はそう言ってギターを地面に置くと、正義に革製のナイフケースを渡した。開けてみるとその中には、ペーパーナイフのような物が入っていた。見た目がナイフなのにも関わらず、その刃は刀匠が造り上げた日本刀のような美しさがあり、どこか見る者を虜にさせる魔力があった。
「短剣・・・いや、ペーパーナイフ?」
ケースの中に入っていた刃物を、じっくり眺める正義。だが、今はそんな事をやっている場合ではない。
「行くぞ!!」
「え、もう!?」
竜騎士の掛け声に、正義は刃物を落としそうになる。それを何とか持ち直し、モンスターに向かって行く竜騎士の後を追った。
必死に走ってついて来ている正義に、竜騎士はちらっと彼の方を見て、こう言った。
「私の合図で、その短剣を振るんだ。心配するな、私がついてる。」
フッと口角を軽く上げて、不安を取り除く様に穏やかに微笑む竜騎士。彼のその表情に正義は、どこか懐かしい感じを覚えた。
一方、敵であるマハトロースは、突然の邪魔者の乱入にイライラしていた。
「クッ!!次から次へと邪魔者が・・・あの二人はどうでも良い。死んでも良いから、手を抜かずに全力で殺しに掛かれ。」
「グルルル・・・」
マハトロースの命令に、飛びかかる構えを取るモノガーン。そして、力が溜まると、
「モノグォァァアアアーーーーーーーーーーーオッ!!」
雄叫びを上げて、竜騎士に向かって飛びかかった。
しかし、
「そこだッ!!」
「グゥオァアアアーーーーーーーーーッ!!」
剣の間合いに入った所を、竜騎士にあっさり斬られてしまった。飛びかかりに失敗し、大ダメージを受けたモノガーンは、動植物園全体に響き渡るような悲鳴を上げて、痛みにもがき苦しむ。
「今だ、奴の目玉を狙え。正義!!」
ここで竜騎士は、自分の後ろにいた正義に合図を送り、邪魔にならない様に右に跳んで移動する。
『トドメの一撃』を任された正義は、竜騎士に言われた通り、モノガーンの目玉めがけて跳躍した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
叫びながら、ペーパーナイフをモノガーンに向ける正義。すると次の瞬間、不思議なことに彼の体が金色に光り出し、それと同じ色の煙のようなものが出て来た。恐らくそれは、『力のオーラ』と呼ばれるものだろう。やがて、体外に出たオーラは、ナイフに吸い寄せられるように集まっていき、一つの金色の刃を作り上げた。分かり易く言うなら、ナイフが刃の形をしたオーラを纏っている状態である。
正義は、そのままモノガーンに突っ込んで行った。
「ゴアアァァァーーーーーーーーーーッ!!」
断末魔の叫び。モノガーンは目玉どころか、頭を串刺しにされる結果になった。これにより、モノガーンは生命力を喪失。ただの粘土の塊になって、バラバラに崩れていった。
「な・・・何だとォォォーーーーーーーーーーーーッ!?」
モノガーンの完全敗北に、驚きの声を上げるマハトロース。あのモノガーンは、自信作だったみたいだ。
「そんな馬鹿な・・・私の造ったモノガーンがこんなにあっさりと・・・っていうかあのガキ、さっき能力なんか無いって・・・・・・クソッ!!こうなったらもう、出直すしか無いか・・・覚えておけよ。」
マハトロースはそう言い放つと、一目散にどこかへと逃げ出した。
「あっ、待て!!」
このまま敵を追い詰めようと、走り出す正義。しかし、その瞬間に竜騎士に襟首を掴まれ、追跡を止められた。
「いや、追わなくて良い。多分、既にここから離れた所まで移動している筈だ。」
「ええ・・・くっそ~!!あいつさえ確保出来れば、これから先モンスターが襲ってくることは無かったのに・・・」
竜騎士の言葉に、悔しそうな表情を浮かべる正義。悔しさが腹の中で収まりきらなかったので、地面がえぐれるぐらい力を入れて蹴った。
そんな彼に、竜騎士は言う。
「まあ、また襲って来た時に捕まえれば良いさ。・・・それより、君達二人は早く戻った方が良いんじゃあないか?」
「え?・・・あっ!!」
言われた時は、ぽかんとした表情になっていた正義と仏谷。それから5秒くらい時間が経って、自分達が幼稚園の遠足でここに来ている事を思い出した。
「そうだった。こっそり抜け出して来たから、今頃先生たちは騒いでいるかもしれない。・・・助けてくれて、有り難うございました。それでは失礼します。」
ぺこりと竜騎士に頭を下げて、先生たちの元へ帰る仏谷。正義も彼に合わせて戻ろうとしたが、
「じゃあ俺もフラミンゴの所まで・・・・・・おっと、返すの忘れる所だった。コレのお陰で助かった、有り難う。」
ナイフを借りたままだった事に気付き、革製のケースに戻して竜騎士に返してから、フラミンゴの所にいるであろう先生の元へ帰った。
去っていく正義の後ろ姿を見送りながら、竜騎士はぼそっと呟いた。
「・・・あのまま、持ってても良かったんだが・・・まあ、良いか。」
その後、先生の所に無事帰れた二人が、こっぴどく叱られたのは言うまでもない。




