解決 正義誘拐事件
「また小さい子が誘拐されたのか・・・最近、多いなあ。」
「ホント、嫌な世の中だよな。」
ここは警察署。先程、正義が誘拐されたと通報を受け、警察官を幼稚園に数人向かわせた後なのか、今は二人しかいない。背ぇ高ノッポとちっちゃいデブ。昔ながらの典型的な凸凹コンビである。
するとここで、電話が鳴った。二人共やる事が無くて暇だったので、電話を取り合うような動きをして、受話器を取った。競り勝ったのは、ちっちゃいデブの警察官だった。
「はい、こちら中央署・・・・・・何?」
電話の相手は、声からして男のようだ。そいつは、『ある情報』をリークした。
「さっき誘拐された子が、森林近くの廃倉庫に!?分かった・・・それじゃあ、念の為に貴方の名前と・・・・・・って、ちょっと待・・・!!」
名前を聞いた途端に、電話が切れた。『匿名希望』だったようだ。
「森林近くの廃倉庫に、さっき誘拐された子供がいるってよ。今すぐ連絡だ!!」
バタバタと慌て出す二人の警察官。
それにしても、今の通報は誰によるものだったのだろうか。
そんな森林近くの廃倉庫では、とんでもない事になっていた。
「グォアァァァーーーーーーーーーーーッ!!」
「うわあああああああああああああああ!!」
ゲームとかでしか見た事が無いような、一つ目の白いモンスターが乱入し、三人共パニックになっている。森林が近いので、熊や猪といった野生動物が出没するならまだしも、こんな・・・お世辞にも『カッコいい』とは言えない気持ち悪いのが出て来たのだから、それもしょうがない。
50代のおじさんは、急いで正義を縛っている縄を解き始めた。しかし、これが中々解けない。そこまできつく結んではいないのだが、目の前の変ちくりんなモンスターに完全にビビってしまっているせいで、手が上手く動かないのだ。
「は・・・早くこの子を解放しなければ・・・・・・この子だけでも助けないと・・・!!」
「おっちゃん!!」
「ハッ!!」
20代の男の声で前を向くと、既に二人の目の前までモノガーンが迫っていた。
「グォアァァァーーーーーーーーーーーッ!!」
「くそぅ、お前の相手はこの俺だぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
20代の男はモノガーンの気を自分に向けさせようと、咄嗟に近くにあった木材の破片のような物を掴み、それをモノガーンに向かって投げつけた。
しかし、モノガーンは振り向きもしなかった。あんな物が当たっても、痛くも痒くもないからだ。
「こ、こうなったら・・・」
ここで縄を解く事を諦めた50代の男は、覚悟を決めた顔で正義の前に立ち、両手を広げて自らの体を盾にした。
「こ・・・こうなったら、儂自らがこの子の盾となるッ!!元々この子は、儂らの復讐に巻き込まれただけ・・・未来ある子供に大怪我を負わせるわけにはいかんッ!!」
「おっちゃぁぁぁぁぁぁん!!」
「グォアァァァーーーーーーーーーーーーッ!!」
若者二人が叫ぶ。ついでにモノガーンも叫ぶ。そして、モノガーンの拳がおっちゃんに迫る。位置的に、もう避ける事は不可能。
「お・・・おっちゃぁぁぁぁぁぁん!!」
再び叫ぶ正義。すると、その時ッ!!
「なっ!?」
急に何かが上から飛んできて、モノガーンの右腕を切断した。
「グォアァァァーーーーーーーーーーオッ!!」
モノガーンの苦痛の叫びが倉庫内に響き渡る。一体、何が飛んできて切断したのだろうか。床を見てみると、そこには短剣の様な物が床に刺さっていた。そして、それを発見したと同時に、上の方から何者かの声が聞こえて来た。
「三人共、大丈夫か?」
「あ・・・あんたは・・・?」
そこには、舞踏会やオペラで使う仮面を付け、深緑の軍服の様な格好に身を包んだ男(見た感じ10代)がマントをなびかせて立っていた。そして、左肩の上には鸚鵡サイズのプテラノドンのような生き物が乗っている。
50代の男の言葉に、その青年は答えた。
「私は、『流離の竜騎士』。自分の身を犠牲にして、子供を護ろうとするその強い意志。誘拐犯とはいえ、私はあなた方を尊敬する。後は私に任せて、下がっていてほしい。」
そう言うと彼は、その場から飛び降り、50代の男の前に立った。その瞬間、モノガーンが憎らしそうに竜騎士を見る。自分の腕を斬り落としたのが、彼だと分かったからだ。
「グルルルルル・・・」
竜騎士は、モノガーンの殺気を感じ取りながら、腰にある刀身が長い剣を抜いて言った。
「来い、『悪しき者に創られし、一つ目の魔物』よ。この私がお前を真っ二つにしてやる。」
「グ・・・グォ・・・グォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
怒り狂い、襲い掛かるモノガーン。しかし、竜騎士は至って冷静だった。
「ハァッ!!」
ギリギリまで引き寄せて、縦に一振り。モノガーンは、綺麗に真っ二つされた。
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
断末魔の叫び。そして、モノガーンは土になった。
「ふぅ・・・」
剣を鞘に収めた竜騎士は、くるっと方向を変えて、正義の方へ歩いていった。そして、彼の前でしゃがむと、そっと一輪の薔薇を差し出した。そして、すぐに何かに気付き、白いハンカチを薔薇に被せた。
「おっと、男の子には・・・・・・こっちかな?」
そっと被せたハンカチを取ると、一輪の薔薇が怪獣のソフビ人形に変わっていた。その怪獣のデザインは、正義が元いた世界で、恐らく一番有名であろう怪獣にそっくりだった。
「あ、ありがとう・・・」
正義は突然のプレゼントに少々戸惑いながらも、そのソフビ人形を受け取った。
その瞬間、外からパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「!! この音はパトカーの・・・しかも、こっちに近付いて来ている・・・!?」
徐々に大きくなっていくサイレンに、20代後半の男が焦り始める。
そんな彼に、竜騎士は正義の縄を解きながら言った。
「さっき私が連絡しておいた。どういう理由があって、このような事をしたのかは分からないが、二人には『復讐』等の『負の感情』に囚われることなく、新しい人生を歩んでいって欲しいからな。」
どうやら警察に掛かって来たあの電話は、彼が掛けたものだったようだ。
やがて正義の拘束を解き終えた竜騎士は、ゆっくりと立ち上がり、
「さらばだ、また会おう。」
と言って、そのまま消えるようにどこかへと去っていった。
それから間もなく、倉庫の前にパトカーが数台到着した。
「正義!!」
「母さん・・・」
倉庫から出て来た正義に駆け寄り、ぎゅっと抱きしめる裕子。パトカーから出て来たので、警察が連れて来たのだろう。その後ろには、恵介とその両親もいた。恵介の母・静は、『無事で本当に良かった』という顔をしているが、夫の方は『何だ、無事か』みたいな表情だった。
ここで正義の後から出て来た二人の男に、警察官が詰め寄る。
そして、
「二人を『幼児誘拐』の現行犯で逮捕する。」
ガチャンと、二人の男の手首に手錠を掛けた。過去はどうであれ、罪は罪。犯した罪は償わなければならない。彼等は言い訳や抵抗の一つする事無く、その手錠を受け入れた。そして、二人が警察官数人に連れられてパトカーの中に入る時、
「待って。」
正義が警察官に声を掛けた。
「この人達、本当は良い人達なんだ。僕は何もされていないし、この通りピンピンしてるから、罪を軽くしてあげて。」
その言葉は、周りにいた人達全員を驚かせた。正義を誘拐した二人も立ち止まって、驚いた表情で彼を見ている。
ここで一人の中年警察官が正義に近付き、彼の目線に合わせるようにしゃがんで、優しく言った。
「あ・・・あのね、ボク。いくら『良い人』だからとはいえ、この二人は悪い事をしたんだから、簡単に罪を軽くするわけにはいかないんだよ。」
「それはそうだけど、この二人は『ただの誘拐犯』とは違う。そもそも『諸悪の根源』は、あそこにいるおっさんだぞ!!」
「正義ッ!!」
ビシッと、英直の方を指差す正義。それをすかさず母・裕子が止めに入る。しかし、正義はそれでも言い続けた。
「それに被害者である俺が『罪を軽くしろ』と言ってるんだ。加害者が言ってるんじゃあない。何も問題は無い筈だ。」
「いや、そうは言ってもねえ・・・」
その言葉に中年警察官は困惑し、人差し指で頭を掻く。他の警官や周りの人間も彼の発言に困惑してざわつく中、
「やめろ!!」
と、いう声が響いた。それは紛れも無く、20代後半の男が発した言葉だった。
「もう良い・・・被害者のお前が、加害者である俺達の事を気遣うな。俺達は罪を犯したんだ。どんな理由があろうが、そんなものは言い訳にもならない。」
「で、でも・・・!!」
「・・・巻き込んで、悪かったな。」
20代の男は正義にそう言うと、パトカーの中に入ろうと体の向きを変えた。
するとその時、
「・・・ああ、思い出した。」
英直が口を開いた。
「お前等、あの時社長室に乗り込んで来た奴等だな?フン、偉そうに屁理屈ごねてた奴等が今や犯罪者か・・・そうまでして金が欲しかったのか?この外道が。」
その言葉を聞いた瞬間、20代の男の動きがピタッと止まる。そして、くるっと英直の方を向き、
「あんたには一生分からないだろうよ。俺達が・・・あの人がどんな気持ちで毎日働いていたのかを・・・ッ!!」
と、言った。声が震えているのは、沸々と湧いて来る怒りを必死に抑えているからだろう。顔の表情も、親の仇を見るようなものになっている。
そんな彼に、英直は見下すような目つきでこう返した。
「お前等のような『中古物件』の気持ちなんか分かってたまるか。どうせ、途中で会社を辞めた『半端者』なんだろう?この不景気に働き口が無いだろうからと、人がせっかく雇ってやってるのに、『改善しろ』だの何だのと調子に乗りおって・・・嫌ならとっとと、前の会社の時と同じように辞めればいいんだ。まあ、30にもなってないお前はともかくとして、会社にいる中途の4、50代くらいのおっさんおばはんは、どこも雇ってくれないだろうけどなあ~!!」
「て・・・てめぇッ!!」
ここでついに20代の男の怒りが爆発した。パトカーに乗るのをやめて、英直の傍まで行こうとした。だが、すぐに近くにいた警察官数人に止められた。ガッチリと押さえられても尚、男の怒りが収まる事は無かった。
「馬鹿にすんのも大概にしろよッ!!お前等があの人を陰湿な虐めで追い詰め、病院送りにした時もそうだった!!金を払うどころか謝罪の言葉すら無く、挙句の果てに『本人の精神が弱かっただけ』と片付けた!!だから・・・だから俺とおっちゃんは・・・」
憎しみがこもった眼差しで英直を見る男。『あの人』というのは、恐らく彼の先輩社員なのだろう。
これは後で分かった事なのだが、彼等はこの誘拐事件で得た金で、その人含めたパワハラの被害者たちに慰謝料として、会社に代わって月に数万ずつ支払うつもりだったらしい。(一括ではないのは、恐らく警察に怪しまれないようにする為。)
「おい、やめろ。続きは署で聴いてやるから・・・な?落ちつけって!!」
暴れる男を押さえながら、必死になだめる中年の警察官。
英直はそんな事全く気にせず、自身の息子・恵介にこう言った。
「恵介、よ~く見とけ。あれが『負け犬』というヤツだ。凄く惨めで、可哀相と思うだろう?ああならないように、気を付けるんだぞ。」
「!!」
その言葉を聞いた瞬間、正義の心の中に『殺意』にも似た感情が湧き上がって来た。拳を握りしめ、歯を食いしばりながら英直を睨む彼は、今にも彼をぶん殴りそうだった。
しかし、正義は殴る事はせずに、深呼吸して心を落ち着かせた。今ここで、自分が怒りに任せてぶん殴ってしまうと、母親がさっきみたいに責められてしまうと考えたからだ。
正義は、心の中に沸々と湧き上がる感情を必死に押し殺して、悔しそうに握りしめた拳を解いた。
「あの~、誘拐された正義君・・・かな?ちょっとお話聞かせて貰えないかな?このおいし~いお菓子をあげるからさ~。」
誘拐犯二人を乗せたパトカーが去り、新見一家とも別れた裕子と正義は、突然後ろから声を掛けられた。話しかけて来たその眼鏡の男は、どこかの雑誌の記者のようで、どうやら事件の臭いを嗅ぎつけて、早速取材に来たらしい。たった今事件が終わったばかりなのに、正義から無神経にも話を聞こうとする記者に裕子は怒った。
「な、何ですか貴方は!?さっき誘拐犯から解放されたばかりなんですよ?少しはこの子の身にもなって・・・」
するとここで、正義が裕子の服を引っ張って言った。
「いや、良いよ。母さん・・・そんなに聞きたいのなら、知ってる事全部話してあげる。」
「正義!?」
息子の言葉に驚く裕子。一方、記者の男は嬉しそうにニヤつくと、
「おお、そうこなくっちゃ。じゃあ、早速教えて貰えるかな?」
と、言って録音機を起動させ、メモ帳とペンを胸ポケットから取り出した。
それから、数日後。正義が話した内容を捻じ曲げる事無く掲載した雑誌が発売されると、この事件が大々的にニュースで取り上げられるようになり、これがきっかけで英直の会社の黒い部分が徐々に明らかになっていった。
そして、それから間もなく、今までほぼ泣き寝入り状態だったパワハラ被害者達が、『今こそ好機』と言わんばかりに集まり、会社を相手取って訴訟を起こし、これまた世間の話題となった。
これを受け、国会では『労働者に関する法律の改正』が決定。結果的に二人の男性が起こした誘拐事件は、国中の労働者の権利を守る法律の改正に貢献した。
因みにその二人はというと、裁判で懲役二年の判決が下った。裁判長曰く、『同情すべき点はあれど、無関係の子供を攫った行為は、極めて身勝手であるといえる』との事。今は刑務所に入って自分を見つめ直し、新たな一歩を踏み出す為にコツコツと頑張っているようだ。
―――某所。
正義たちが住んでいる国のどこかにある建物の中。外は昼だというのに薄暗くて、晴れているのにジメジメと湿っぽい空気が漂っている。そんな部屋の中で、一人の執事の格好をした男が部屋の奥の方にいる人間に声を掛けた。
「教祖様、新見英直の会社が裁判沙汰になり、経営どころではなくなりました。恐らく、あと数日で潰れるものと思います。」
『教祖様』と呼ばれたその人は、玉座の様な大きな椅子に座り、右手で頬杖をついている。顔等は暗くて見えないが、シルエットからして女性である事が窺える。教祖様と呼ばれた女性は、大きな溜め息を吐いて言った。
「そのようですね。あの男は所詮、その地位に甘えて育ってきたドラ息子。先代がカリスマ性のある素晴らしい人だと聞いていたので、息子もそうなのだろうと直接会って話をした時には、物凄くがっかりしたのを今でも覚えています。」
「しかしこれで、我々の団体を支援してくれる会社が一つ減ってしまいますね。」
「心配はいりません。我々を支援してくれる会社など、吐いて捨てる程あります。あんな会社一軒潰れたところで、どうという事はありませんよ。それより・・・・・・」
チラッと視線を下に移す。その先には、一つ目のモンスター『モノガーン・ユージュアリー』の生みの親である男が、土下座した状態になっていた。
「『転生体』を連れて来られなかったとは・・・どういう事ですか?マハトロース。」
男の名は『マハトロース』というらしい。彼は、少々怯えたような声で、謝罪の言葉を口にした。
「も、申し訳ございません、教祖様!!私の造ったモンスターが、途中で何者かによって消滅させられてしまったようで・・・」
マハトロースの言葉に、溜め息を吐く教祖。そのまま続けてこう言った。
「貴方達、『クリエイター』には期待しています。次こそは、『転生体』を私の元に連れて来るように。これは神の御意志でもあります。・・・良いですね?」
「は・・・はい、次こそは必ず・・・!!」
再度、額が地面に付くように頭を下げるマハトロース。
「(くっ、今回は失敗したが、次こそは成功してみせるッ!!)」
その顔は、悔しさに満ちた表情をしていた。
懲役に関しては調べてみましたが、『誘拐は二年以上の懲役』という事以外書かれていなかったので、とりあえず二年にしました。




