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正義と誘拐犯

 恵介の代わりに誘拐犯に攫われてしまった正義は、人が滅多に通らない路地裏を抜けた先にある倉庫の中に、一応縄で縛り付けられていた。

 「いやあの・・・俺ん家、そこまで裕福な家庭ではないんですが・・・寧ろ、貧しい部類に入ると思うんですけど。」

 前世含めて初めての誘拐体験にびびりもせずに、幼稚園児である事を忘れて前世と同じ口調で話す正義。

 それに対し、20代後半の男が答える。

 「安心しろよ、ボク。誰もお前ん家から金()ろうとは思ってねえから。」

 「じゃあ、何で俺をそのまま拉致ったんだ・・・」

 「いやぁ、それはその・・・勢いというか、何と言うか・・・いやマジですまん。本当はお前が突き飛ばした方のガキを誘拐するつもりだったんだよ。俺たちゃあ、あのガキの父親に恨みがあるからよぉ~。」

 どうやら、『子供を攫って多額の身代金を得る』という筋書きで、恵介父に復讐しようとしていたようだ。

 それから20代の男は、何故か幼稚園児相手に自分達の語り始めた。

 

 男の話を簡潔にまとめるとこうだ。

 恵介父(本名・新見英直(にいみひでなお))は、ある大きな会社の二代目社長で、二人は半年前までそこに勤めていた社員だった。割と名の知れた会社で賃金も良い方だったのだが、その労働環境は二人を含めた全ての中途採用の社員にとって、あまり良いものではなかったという。

 何故なら、何をしても中途採用者は冷遇され、常に社長含めた上司から冷ややかな目で見られていたからだ。(理由は不明)また、人によっては、陰湿ないじめを受けていたという話もある。おまけに面倒な仕事は全て自分達に押し付けて来るものだから、納期が近い時は自主的に徹夜せざるをえなかったという。(因みにそれ相応の手当ては一切無い)

 しかし、それとは逆に新卒の子には物凄く甘かった。どんなに営業先でミスをしても許されたし、そいつ等が仕事をサボっていても優しぃ~く言うだけで怒りもしなかった。そんな上司達に育てられた為か、新卒で入ってきた人間までもが、中途採用者を偉そうに()き使い、自分のミスは全て中途採用者の人のせいにし始めた。

 さすがにこのままでは、中途採用者達が肉体的にも精神的にも持ちそうにない。(実際、ストレスで胃に穴が空いた人がいる)そう思った二人は、代表して社長に労働環境を改善するよう進言した。しかし、パワハラの根源とも言える社長が素直に中途採用者である二人の訴えを聞くはずも無く、逆に自分に逆らった報いとして解雇されてしまったらしい。

 元の世界なら、確実に『労基案件』である。


 そして、現在に至る。彼等の話を聞いた瞬間、正義は被害者であるにも関わらず、誘拐犯の二人に同情した。

 「そっか・・・あんた等も今まで大変な思いをして来たんだな。」

 「おお、坊ちゃん・・・儂らの事、分かってくれるのか?」

 正義の言葉に、50代の男が涙目になる。相手が幼稚園児とはいえ、自分の苦しさを分かって貰えて嬉しくなり、ついうるっと来てしまったのだろう。

 「ああ、あんなのの下で働くとか、俺には出来ないね。きっと三日で辞めてるわ。」

 英直は、幼稚園児に『あんなの』呼ばわりされてしまった。

 「よし、好きなだけ俺を利用すれば良い。そうだな~・・・『あんたの息子を(かば)った子を預かっている。恩人を返して欲しくば、金を寄越せ』って、電話をかけるんだ。赤の他人といえど、俺は奴の息子の代わりにこうして捕まっている。きっと、金を出すさ。」

 「お、おう・・・成程な。」

 正義の提案に、たじたじになる20代後半の男。そりゃそうだ。リアルでこんな事言っている幼稚園児がいたら、誰だってビビる。

 「(こんな園児見た事ねえぞ・・・なんて末恐ろしいガキ!!だが、今はそれが凄く心強いぜ・・・・・・もしかしたら将来は、この国を背負う『総理大臣』や悪しき風習を消し去る『革命家』とかになるかもな。)」

 この瞬間、三人の心は一つになり、『加害者』と『被害者』の枠を超えた『巨悪に立ち向かう共闘者』となった!!



 一方、正義がそういう事になっているとは一ミリも思っていない正義の母(本名・神田裕子(かんだゆうこ))は、幼稚園の一室で自分の息子を心配して涙を流していた。そんな彼女に、恵介の母親(本名・新見静(にいみしずか))が心配して、寄り添う。恵介の代わりに正義が連れ去られてしまったので、凄く申し訳ない気持ちになっているのだ。

 そんな空気の中でも、英直は一切ブレなかった。裕子の気持ちを考えようともせず、これ見よがしに『ざまあみろ』という顔をしている。こんな状況でこういう態度が取れるのは、逆に『凄い』としか言いようがない。このタイプの人間は恐らく、正義の元の世界にもそうはいないだろう。

 やがて、英直の携帯に電話が掛かって来た。言わずもがな、正義を連れ去った20代後半の男からである。

 「はい。」

 「あんたの息子を庇った子供を預かっている。生きて返して欲しければ、一千・・・いや、五千万寄越せ。」

 『一千万』から急に『五千万』に切り替える男。因みに『もっと請求しろ』と言ったのは、電話の向こうにいる正義である。

 「ほ~。それはそれは・・・しかし、その子供はワシとは何の関係も無いから、煮るなり焼くなり好きにして良いぞ。」

 予想通りの返し。彼のその言葉に、裕子や静が『信じられないものを見る目』で彼を見る。ここで20代後半の男は、作戦通り『罪悪感』を煽る事にした。

 「おいおい、この子はあんたの息子の代わりに連れ去られたんだぜ?本当なら、あんたの息子がこうなる筈だった・・・この子はいわば、お前の息子の恩人!!助けようとは思わないのか?」

 「思わんな。」

 「いや、思えよ。」

 思わず素でツッコミを入れてしまう20代後半の男。よくよく考えれば、『恩人』だろうが何だろうが、所詮は『赤の他人』。あの英直が動くわけがないのだ。

 「じ、じゃあ、一千万でどうだ?」

 『五千万』では駄目だったから、当初の予定の『一千万』に切り替える男。しかし、それも無意味に終わった。

 「請求金額を下げても無駄だ。あんなガキの為にやれる金は無い。」

 そう言って、ブツンと携帯を切る英直。すると、自分の妻である静に詰め寄られた。

 「貴方!!『煮るなり焼くなり好きにしていい』ってどういう事!?」

 「いいか?落ち着いて聞くんだ、静。あのガキは、私達の可愛い恵介に暴力を振るったんだ。天罰が下ったんだよ。」

 静の肩の上に両手を置き、説得する英直。続けて、こんな事も言った。

 「そもそも、よその子供の事じゃあないか。お前が心配する事は無い。私達は無関係。そうだろう?」

 このセリフを聞いた瞬間、静はこれ以上何を言っても無駄だという事を知った。



 「クソッ!!」

 20代後半の男は、手に持っていたスマフォを投げ捨てる勢いで、電話を切った。彼の反応から、『交渉は失敗した』というのが言われなくても分かった。

 「あの野郎・・・『あんなガキの為にやれる金は無い』んだとよ。息子の代わりに捕まった奴の事なんざ、一切考えてねえ・・・やっぱ、あいつの子供を攫わないと意味がねえか・・・・・・」

 ここで彼が、ポケットに手を入れ、財布を取り出した。

 「・・・ちょっくら、近くの自販機で飲み物買って来る。お前、何か飲みたい物あるか?」

 どうやら、飲み物を奢ってくれるようだ。正義は彼の厚意を素直に受け取り、

 「炭酸飲料なら何でも・・・あ、でも炭酸水はやめて。アレ、美味しくないから。」

 と、嬉しそうに言った。

 「分かった。じゃあ、『へクシコーラ』だな。おっちゃんは、何が良い?」

 「わしゃあ、いつものコーヒーで。」

 「了解、買って来る。」

 そう言って、20代の男が倉庫のドアを開けて、飲み物を買いに外へ出て行く。すると、それから間もなくして、

 「な、何だこいつは!?」

 という、彼の悲鳴のような叫び声と共に、青ざめた顔で入り口から顔を出した。

 「おっちゃん!!早くそのガキの縄を解いてやってくれ!!ここから離れ・・・ぐああああああッ!!」

 セリフを言い終える前に、後ろから何者かに蹴り飛ばされる。彼はそのまま倉庫の壁にぶつかり、背中を強打した。壁にぶつかった際、彼の体を中心に大きいクレーターのような物が出来た。

 「だ・・・大丈夫か!?一体誰がこんな事・・・」

 強烈な痛みに、地面に伏したままの20代の男に、50代の男が駆け寄る。その瞬間ッ!!

 「グオアァァァァーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 倉庫の入り口を破壊して、一つ目の鬼の角のような物が生えた白い人型モンスター・『モノガーン・ユージュアリー』が正義たちの前に現れた。三人共初めて見る生命体に、開いた口が塞がらなかった。

 「な・・・ななな・・・何じゃこりゃああああああああああああああああああああああああッ!?」

 正義のリアクションで出たセリフは、倉庫内に反響した。

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