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幼稚園でのパンチング騒動

 神田正義にとって、『幼稚園』という所はとても退屈でつまらない所である。理由は恐らく、前世の記憶を引き継いでいるからだろう。見た目は『幼稚園児』でも、中身は『高校生』。ついでに言うなら、前世と今の生きた年数を合わせて23歳だ。そりゃあ、周りの子供に色々とついていけないし、世代が全然違うから価値観も100%違う。それに前世の正義は、子供があまり好きではなかった為、出来る限り関わりたくないのだ。

 だから幼稚園の自由時間中の彼は、いつも教室の椅子に座って、ぼけーっと何かを眺めている。彼の眺める対象物は、青空にふわふわ浮かんでいる雲だったり、どこからか教室に入り込んで来たゴキブリだったりと、その日によって変化している。因みに今日の対象物は、どこからか入り込んで来た小さい百足(むかで)だ。相変わらず、何とも言えない気持ち悪さを放っている虫だが、自由時間を潰すには丁度良い観察相手である。

 「(そーいや、百足をこんなにまじまじと見た事無かったな~。まあ、キモイのに変わりはないんだが。)」

 机の上をうねうねと歩行する百足。そういえば、こいつ等は何を食って生きているのだろう。そういった疑問が頭の中に浮かんで来た時、

 「キャーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 一人の女性の先生が、机の上にいる百足を見て悲鳴を上げ、近くにあった新聞紙を丸めて、スパンと強烈な一撃をくらわした。即死だった。

 「どっから入ってくるのよ、いつもいつも・・・・・・大丈夫?刺されてない?」

 百足の死体を処理し、くるっと正義の方を向いて心配そうに言う先生。今年で30歳である。

 「いや、別に。」

 百足より、先生の一撃にビビった正義は、ブンブンと何回も首を横に振った。そして、先生は続けてこう言う。

 「正義君、教室の中に一人でいないでさ、みんなと一緒に外で遊んで来ようよ。ね?一人で椅子に座ってても、面白くないでしょ?」

 それは正義がいずれ言われるであろうと、予想していた言葉だった。みんなが外でキャッキャと楽しそうに遊んでいるのに対し、正義だけが教室にいるからだ。それも絵本を読んだり、お絵かきしているならまだしも、ただ椅子に座ってじっとしている。そんな姿を見たら、誰だって心配してそう言いたくもなる。

 しかし、くどいようだが正義は『見た目だけの幼児』。身も心も『本物の幼児』ではないので、

 「いや、いいです。無邪気にかけっこ出来る程、小さい子じゃあないんで。それに自分、ゆったりするのが好きなんで。」

 と、きっぱり言い切った。すると、

 「えっ!?」

 彼の言葉に、先生がぎょっとした。その顔の表情は、『あんたも小さい子でしょ』と言いたげだ。先生の反応を聞いた正義は、

 「ん?・・・あっ!!え~と、この前やってたドラマの人の真似~・・・・・・」

 と、素が出てしまっていた事に気付き、急いで子供らしく振舞った。それを見た先生は、どこかほっとしたような感じだった。

 やがて、自由時間は終わり、みんなが外から戻って来た。ここからは教室の中で、何かをするようだ。

 「さあ皆、今日は折り紙で鶴を折ってみましょう。」

 そう言って、先生が取り出したのは折り紙だった。その辺のスーパーで売ってある、1セット50枚入りの普通の折り紙。因みに、金や銀といった特別な色の折り紙は入っていない。ああいう色は子供に人気なので、喧嘩になるのを避ける為、敢えて入っていないセットを買って来たようだ。

 「わーい!!」

 教室にいた正義以外の幼稚園児が声に出して喜ぶ。『折り紙を折る』と言っただけで、ここまで喜べるものなのかと正義はびっくりした。

 「(確かに前世でも、幼稚園の時に折り紙をやった記憶はあるが・・・・・・当時、皆こんなに喜んだっけ?そりゃあ、一部の奴は喜んでいたような気がするけど。)」

 周りのノリについて行けず、必死に前世の記憶を辿る正義。そうこうしている間に、正義たちの机の真ん中に10枚くらいの折り紙が置かれた。


 ここで念の為、彼等の教室がどんな感じになっているかを話しておこう。正義が通う幼稚園の教室は、どこも大きな机を使用しており、一つの机に対して左右に二人ずつ、お互いが向かい合うように座らせている。つまり、学校のように一人に一つの机ではなく、四人で一つの大きな机を共有する事になっているのだ。因みに教室内にあるその机は、全部で六つ。どの机も埋まっているので、正義のいる教室には6×4で、合計24人の園児がいる事になる。


 折り紙が置かれた瞬間、正義の左斜めの男の子が折り紙を漁り始めた。

 「おれ、くろ!!くろがいい!!」

 しかし、配られた10枚の中に黒色は無かった。

 「くろがない!!」

 目に見えてがっかりする左斜めの男の子。正義は、『俺の時代にもこういう奴いたわ』としみじみ思った。

 「わたし、みずいろー。」

 「あたしはあか。」

 同じ机の女の子二人は、自分の好きな色をすぐに見つけ、手に持った。するとここで、

 「おい、そのみずいろはおれのだぞ!!かってにとるなよ!!」

 と、さっきまで黒色の折り紙を求めていた左斜めの男子が、隣の女子の折り紙を掴んで騒ぎ始めた。

 さすがにこのままでは、その女の子が可哀相なので、

 「ちょっと待て。お前は、黒色の折り紙が良いんじゃあなかったのか?それに気が変わって『水色の折り紙が良い』と思ったのなら、先生に言って貰えばいいじゃないか。わざわざ人の物取らなくてもよぉ~。」

 と、水色の折り紙を横取りしようとする男子に言ってやった。隣の女子も『そーだそーだ』と追撃する。しかし、

 「うるさい!!」

 という一言で黙らされた。

 「恵介(けいすけ)君!!駄目でしょ、人の物を取ろうとしちゃ!!水色の折り紙が良いのなら、余ったのあげるから。」

 ここで先生の登場。正直ちと遅い気もするが、これで恵介とかいう男子は大人しくなる・・・・・・と、思いきや、

 「あまったのはいやだ!!このおりがみがいいの!!いいから、よこせよ!!」

 と、さっきよりも騒ぎ始めた。こうなると当分、収まりそうにない。

 正義は、いくら『幼稚園児』といえど、あまりにも聞き分けの悪い恵介にイラッと来たのか、一旦席を立って彼の近くに行った。

 そして、

 「ぎゃん!!」

 恵介の頬に一発、パンチをお見舞いした。『鉄拳制裁』である。まさか殴るとは思いもしなかった先生は、口をあんぐりと開けたまま、放心状態になった。一方殴られた恵介は、一瞬何が起こったのか分からず、しばらくぼけーっとしていたが、徐々に殴られた部位が痛み出したのか、

 「い・・・いたいよ~・・・うわあああああん!!」

 と、大きな声で泣きだした。その声でハッとなった先生が、青ざめた顔で正義を叱る。

 「正義君!!何で殴ったの!?」

 その言葉に、彼はさらっとこう答えた。

 「何でって・・・こんなクソガキ、『ゲンコツの刑』が妥当なんだよなあ。」

 「く・・・『クソガキ』!?」

 「あっ!!やべ・・・・・・この前やってたドラマの俳優の真似~・・・アハハ・・・」

 中身はともかく体やパワーは幼稚園児なので、今の正義のパンチに大した威力は無く、どんなにクリティカルにヒットしていたとしても『痛い』だけで済むのだが、さすがにグーパンは絵面(えづら)的にまずかった。何故なら、今はそういう時代ではないからだ。

 こうして、何気ない一日が一変して、大騒動の一日になってしまった。



 「本当に・・・申し訳ございませんでした!!」

 頭を深く下げ、恵介の両親に謝罪する正義の母。どうやらお互い、幼稚園から呼び出されたらしい。

 「いえいえ。話を聞くと、うちの子も悪かったので・・・」

 先生から全て話を聞き、自分の息子も悪かったと恵介の母親も頭を下げる。しかし、

 「フン!!人を殴るとは、人としての(しつけ)がなってないようだな!!」

 恵介の父親は見下すような目つきで、正義の母親を怒鳴った。

 「貴方、それは・・・」

 「お前は黙ってなさい!!」

 恵介の父親は、口を挟もうとした妻に怒鳴った。それから彼女はびくっと震えて、そのまま黙ってしまった。このオヤジ、見た目といい態度といい、大層偉い職に()いているようだ。袖から見え隠れする奇妙なマークが入った高級腕時計が、それを裏付けている。

 「本当に・・・本当に申し訳ございませんでした・・・・・・ほら正義、あなたも頭下げて!!」

 正義は、前世の時からこういう大人が大嫌いだったので、頭を下げる気は毛頭無かったが、母親に頭を押さえつけられた事で、渋々頭を下げた。

 「ご・・・ごめんなさい。」

 「フン!!」

 まるでウジ虫でも見るかのような目つきで正義を睨み、鼻で笑う恵介の父親。正義は、いよいよ内側に溜めていた怒りが爆発しそうだったが、これ以上自分が何かやってしまうと、母親が惨めな思いをしてしまうのでやめた。

 「(こんのクソジジィ~・・・大人になったら覚えていろよぉ~・・・・・・・・・ん?)」

 心の中で恵介父に対しての怒りを募らせていると、恵介が一人で勝手に幼稚園の敷地内から出ているのが見えた。

 「(おい、クソジジィ。てめぇんとこの馬鹿息子が、一人で勝手に外に出て行ったぞ。追いかけなくていいのか?)」

 しかし、彼の両親(特に父親)は自分の子供が幼稚園から出て行った事に、気付く気配が全く無い。

 「(チッ・・・!!)」

 クソガキとはいえ、このご時世色々と物騒だし、知っててほっとくのは寝覚めが悪いので、仕方無く正義は走って恵介を追いかけることにした。

 「正義!!」

 「なっ・・・どこに行く気だ!?まだ説教は終わってないぞ!!」

 急に走り出した正義に、怒鳴る恵介父。ここで恵介母が、自分の子供が近くにいない事にようやく気付く。

 「あっ!!貴方・・・いつの間にか、恵介がいなくなって・・・」

 「何ィ!?どうしてあの子から目を離したんだ!!」

 さっきと同じように妻を怒鳴り散らす恵介父。ここで正義の母親は何かに気付き、

 「もしかしたら、あの子・・・恵介君を追いかけて走ったのかもしれない。」

 と、言って、急いで自分の息子の後を追いかけた。

 「あっ!!奥さん・・・貴方、私達も探しに行きましょ。」

 「ええい、言われなくとも分かっとるわい!!」

 恵介両親も、ようやく足を動かした。



 「(あのガキ、どこに行きやがった!?)」

 幼稚園から一人で出て行った恵介を探す正義。転生して前世の記憶が残っているのならまだしも、普通の幼稚園児の足ではそう遠くには行けない筈。なので、まだ幼稚園の近くにいる筈なのだが、これが中々見つからない。

 「(もしかして、小さいから見逃したか?・・・いや、元の俺ならまだしも、今の俺は小さいんだ。見逃す筈は・・・・・・)」

 ふと何気なく横断歩道の先を見る正義。するとそこに、恵介の姿があった。どうやら、優しそうな顔をした50代くらいの男性と何か話をしているようだ。

 「(なんだ、向こう側にいたのか。横断歩道の渡り方は幼稚園でやっているから、渡ろうと思えば渡れるもんな。ったく、世話かけさせやがって・・・・・・)」

 信号が青なのを確認して、恵介の元に走って行く正義。その途中で彼が目にしたのは、恵介の後方から怪しく近づいて来る、見た感じ20代後半くらいの男の姿だった。その男は帽子を深く被ってサングラスとマスクを着用し、まるで背後から野良猫をとっ捕まえるような構え方をしていたので、見た瞬間正義は『恵介が誘拐される』と真っ先に思った。

 勿論、正義の杞憂(きゆう)・・・という事も考えられるが、父親が『高収入』ともなれば、身代金目当ての連中から『標的』にされる事は間違いない。おまけに父親はあの性格なので、敵は多いだろう。金ではなく、『あいつの苦しんでいる顔見たさに』という動機で(さら)う事も充分有り得る。

 とりあえず正義は、横断歩道を渡りながらこう思った。

 「(う~ん、あのガキやその父親がある程度痛い目見るのは、個人的に大歓迎なのだが・・・もしあの男が『誘拐犯』なのだとしたら、さすがに『痛い目』を通り越しているな。仕方ない、助けてやるか・・・)危なァァァーーーーーいッ!!」

 そう叫びながら、恵介に向かってサイのように突進!!恵介を突き飛ばした。そして、一気に捕まえようと飛びかかっていた男は、割り込んできた正義をそのまま捕まえてしまった。

 「ゲェッ!!な、何だこのガキ!?」

 急に横から標的ではないガキが乱入し、あまつさえ標的のガキを弾き飛ばしたので、20代の男は悔しそうというか、『お前じゃねえよ!!』と言いたそうなリアクションを取った。だが、『標的と違う』と分かっているにも関わらず、正義をガッチリと掴んだままでいる。いくら正義の中身が成人しているとはいえ、今は幼稚園児のパワーしかないので、その男のホールドから逃げ出せる訳が無かった。

 「あっ!!お前、何をしている!?」

 ここで歩道の向こう側から、恵介父が叫んだ。

 「ま、まずいッ!!」

 子供を攫おうとしている所を見られてしまい、目に見えて焦る男。普通なら、ここで正義を放して逃亡するのだろうが、この男は違った。彼はなんとッ!!

 「もう・・・このガキで良いか。」

 正義で妥協したッ!!しやがった!!それで良いのか、誘拐犯。

 「おい、逃げるぞ。」

 そう言って、路肩に停めた黒色のワゴン車に乗り込み、50代くらいの男に言う誘拐犯。どうやら、グルだったようだ。

 「正義!!」

 正義母が、正義を救い出そうと走り出す。しかし、今は赤信号だ。危うく、走って来た車に轢かれそうになった。

 「バッカ野郎!!子供ならまだしも、大の大人が飛び出すとは何事だ!!歩行者が無謀な飛び出しして事故ったとしても、車の運転手が全部悪いって事になるんだぞ!!」

 「す・・・すみません・・・」

 横断歩道のど真ん中で運転手の説教をくらう正義母。

 「あっ!!」

 その間にも、正義を乗せたワゴン車はどこかへ行ってしまった。

 「正義ィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 彼女の悲痛な叫びが、街中に響き渡った。




 同時刻。この街全体を見渡せるような大きな建物の頂上に謎の人影が立っていた。そいつはマントを風になびかせて、すぐにどこかへと消えていった。奴は一体、何者なのだろうか。前回の奴と同様、この世界はただ単に元の世界に似ているだけではなさそうだ。

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