竜騎士VSモノガーン 爆発する斬撃!!
逃げ遅れたオッドアイの女の子を避難させようとしていた正義の背後に氷塊が迫る。そのスピードと彼の位置的に、もう『回避行動』は間に合わない。
「ハッ!!」
しかし次の瞬間、彼に迫っていた氷塊は粉々に砕け散った。何故か?それは・・・
「何とか間に合ったな・・・」
氷塊と彼の間に流離の竜騎士が入り、氷塊に斬撃を数回浴びせたからだ。粉微塵になった氷塊はその後、キラキラと砂ぼこりのように舞いながら、空気中に溶けていった。
「あ、あんたは・・・竜騎士!!」
思わぬ援軍の登場に、正義は驚きながらもホッとしたような表情になる。何でいつも正義がピンチの時に、こうも駆けつけて来てくれるのかは謎だが、彼程心強い存在はいないだろう。
正義の言葉に、竜騎士はフッと笑った。
「何とか間に合ったようだな。」
「ええ、ギリギリ・・・あと一秒くらい遅かったら俺、あのでかい氷の塊に当たって死んでました。」
「すまない。モンスターの気配はいち早く察知していたんだが、抜け出すタイミングが中々無くてね・・・でも良かった、無事で。そっちの子は大丈夫か?」
そう言われ、黙ってコクコクと頷くオッドアイの少女。人見知りをしているのか、警戒しているのかは分からないが、一言も発しない。なので代わりに正義が、
「・・・無事みたいです。」
と、伝えた。
それを聞いた竜騎士は、ホッとした表情を浮かべる。そして、モノガーンの方を向いて、正義に言った。
「そうか、それなら良かった。では正義、私がこのセイウチみたいなモンスターを引き付けておくから、その間に君はその子と一緒に外に逃げるんだ。向こう側の階段を一階まで下りれば、すぐ近くに出入り口がある。」
「!? そんな・・・俺も戦いますよ。」
「いいや、駄目だ。君だけならまだしも、今回は一般人の子がいる。その子の安全を護るのが第一なんじゃあないか?」
「そ、それは・・・」
チラッと、少女の方を見る正義。動植物園の時と違い、今回は能力を持っていない普通の子供。その子の避難を優先するのは、当然だろう。
「・・・分かりました。ではお先失礼します。」
彼は、そう竜騎士に告げると、少女に『行くぞ』と声を掛けて階段の方まで走り出した。
「さてと。」
正義たちが遠くまで行ったのを確認すると、竜騎士はモノガーンに向けて剣を構えた。
「モノゴォォォーーーーーーーーーーウッ!!」
「こっちの話が終わるまで、わざわざ律儀に待っていてくれたのか。それじゃあ、そのお礼と言っては何だがせめて・・・二つの首が同時にあの世に逝けるように、攻撃するとしよう。」
そう言うと彼は、モノガーンの顔面に向かって高く跳躍した。
「階段はこっちだ、急げ!!」
後ろを走る少女に声を掛けながら、階段に向かう正義。
ここでふと後ろを見て、少女が途中で立ち止まっている事に気が付いた。
「・・・どうした?」
キキーッと、急ブレーキ。こういった施設の床は滑りやすいので、完全に停止するまでかなりかかった。そして、停止後すぐに少女の元に駆け寄り、
「後ろが気になるのは凄く分かる・・・だが、今は自分が外に出る事を考えるんだ。」
と、肩に手を置いて言った。
しかし、
「・・・おい、聞いてるのか?」
ぼーっとしているのか、彼女は正義の呼びかけに答えるどころか、振り向きもしない。
このままでは二進も三進もいかないので、
「(仕方ない、手を引いて階段まで連れて行くか。幸い、今の俺は幼稚園児。『誘拐犯』に間違われる事はまず無い!!・・・筈だ。)良いから、逃げるぞ!!」
正義は彼女の手をガシッと掴み、引きずるように無理矢理階段まで連れて行った。そこへ行くと彼女も我に返ったようで、引きずる感じではなく、ちゃんと一緒に走っている感じがした。
「よし。ここを下りれば、後は外に出るだけだ。」
階段の手すり部分から下の方を覗き、正義が呟く。その際、下の方からトントンと誰かが上がって来る足音が聞こえてきたが、この時の彼は気にも留めなかった。
こうして、階段を下りて行く二人。少女を気遣いながら一段一段ゆっくり下りていくので、一階まで下りるのにかなり時間が掛かりそうだ。まあ、彼女は正義と違って転生している訳ではないので、それは仕方ない。
そして、三階から二階の間にある踊り場で、さっきから上がって来ている人とかち合った。その人は男性で、執事のような格好をしている。
「すいません。」
そう言って、右に避ける正義。すると、男の方も彼と同じ位置に移動する。これはいわば、目の前に人が来たから避けようとしたら、向こうの人も同じ事を考えていて、結果的に互いの進路を塞いでしまうという、『歩行者あるある』だ。
「あ・・・すいません。」
そう言って、今度は左に移動する。するとまたしても、男は正義の前に移動した。
「・・・・・・」
嫌がらせか?いや、また避けようとして、こうなったに違いない。正義は怪訝な顔をしながらも、また右に避けた。すると、やはりまたしても男は正義の前に移動した。その次もそのまた次も、男は正義の前に移動する。ここまで来ると、譲ろうとする心が結果的に『通せんぼ』しているようになってしまった・・・とかではなく、わざと通さないようにしているとしか思えない。
正義は目の前の男に対し、キレ気味に言った。
「な、何だあんたは!?」
すると彼の言葉を聞いた男は、不気味にフフフと笑って言った。
「おやおや、『何だ』とはご挨拶ですね。私は、君の連れている子の『保護者代理』ですよ?」
どうやら彼は、このオッドアイの少女の『保護者代理』らしい。だが、どうも胡散臭い。そもそも本当に少女の保護者代理なら、かち合った時に一言言えば良いだけの話である。おまけにその口調は、どこか人を見下しているような感じがあって気にくわなかったので、
「『代理』?『コスプレ好きの不審者』に見えますけど・・・」
と、正義はオブラートに包むことなく、容赦なくぴしゃりと言った。
男は、今の彼の発言に顔が僅かにピクッと動いたが、
「私は執事です。そして、君が連れているその子は、私がお仕えしている方の娘様でございます。」
と言って、何とか持ち直した。
しかし、正義は『執事』というものを実際に目にした事が無いので、男が『執事』と言っても簡単には信用しなかった。
「(執事だと?何か胡散臭いなあ~。それにこいつの放つオーラには、『不審者』特有の不気味さを感じる。)・・・本当か?」
念の為、少女本人に聞いてみると、静かに頷いた。どうやら、男の言っていた事は本当らしい。
「(本当なのか・・・)それならまあ・・・」
物凄く胡散臭いが、目の前の男が本当に執事なら仕方が無い。正義はそっと、少女の身柄を執事に引き渡した。
「それじゃあ、俺はこれで。」
「はい、有り難うございました。」
にっこりと微笑む執事の男。そんな彼に、正義はやはり不気味な何かを感じながらも、竜騎士の元に戻っていった。
一方その頃、
「フンッ!!」
一人モノガーンと戦っていた竜騎士は、二つの首が同時に斬れるように斬撃を与えた。
しかし、
「モノゴォォォーーーーーーーーーーウッ!!」
モノガーンの首は、びくともしなかった。リアクション的に一応ダメージは受けたみたいだが、恐らくそれは雑草で手を切った程度のダメージにしかなってないだろう。
一旦距離を取った竜騎士は、自分がたった今攻撃を加えた部位を見て、困窮した。
「むう、あの首・・・見た目通り厚い脂肪に護られてて、普通の攻撃では斬り落とせないか。仕方ない。こういう所では使いたくなかったが、威力の高い技を使うしかないな。」
そう言って剣を構え直し、ほんの少し力を溜める。するとモノガーンは、互いに顔を合わせて見つめ合った。
「オオウ?」
「ゴォォ~~~ン、オウオウ。」
「オウオウオォ?」
「オオウ。オウオウ。」
またイチャイチャするのかと思いきや、何かを話し合っている様子。両方の目玉がチラチラと竜騎士の方に動いているので、恐らく彼を倒す作戦を互いに出し合っているのだろう。
やがて、二つの首の意見が纏まったのか、
「モノゴォォォーーーーーーーーーーウッ!!」
オスの首からは氷塊、メスの首からは吹雪のような冷たい風を吐き出し、竜騎士を一斉に襲った。
「おっと!!」
氷塊を右に跳んでかわし、吹雪を支柱の後ろに隠れて防御する竜騎士。すると今度は、支柱を壊そうとオスの首がそこに向かって氷塊を容赦なく何発もぶつけ始めた。氷塊は凄く硬いので、このままではいずれ支柱は壊れてしまうだろう。
だが、いつまでも受け身に回っている程、竜騎士はぼけっとしていない。ずっと剣に力を溜め続けている。その甲斐あって、剣は微かに熱でも帯びているかのように赤くなっていた。
「急に攻撃が激しく・・・・・・私が大技を繰り出そうとしている事に勘付いたか。」
支柱から様子を窺う竜騎士。氷塊による集中攻撃は、止みそうにもない。それどころか、支柱がいつ壊れてもおかしくないくらいボロボロになっている。
だが、竜騎士は動かない。支柱が崩壊するギリギリのとこまで、モノガーンの隙を窺うつもりらしい。彼は支柱の状態をこまめに確認しながら思った。
「(攻撃が激しくなれば、それだけエネルギーを消費する。エネルギーが無くなれば、一定量チャージするまで氷の塊などの攻撃技は出せない筈だ。そろそろ、その時が来てもおかしくないと思うのだが・・・)」
するとその時、中々支柱の後ろから出て来ない竜騎士に痺れを切らしたのか、オスの首が今まで以上に力を溜め始めた。あれを発射されたら、間違いなく支柱は崩壊するだろう。
しかし、
「モノゴォォォーーーーーーーーーー・・・・・・オオウッ!?」
それは不発に終わった。
どうやら、さっきから散々氷塊を吐き続けていたせいで、エネルギー切れになったらしい。
またとないアタックチャンスに、竜騎士はモノガーンに向かって走り出した。
「よし、エネルギー切れだ。まあ、あれだけの量の氷を吐いたんだから当然だな。」
「オオ~~~ン。」
「オウオウオ~ウ。」
氷が吐けない事にオスの首がぐんにゃりとなる。そんなオスを慰めるように、メスの首が寄り添う。メスの首が竜騎士を攻撃しないところを見るに、エネルギーは二つの首で共有されているようだ。
「悪いが、ここで決めさせてもらう。」
走って来た竜騎士が二つの首目掛けて高く跳躍し、僅かに赤く染まった剣を横に振る。
「モッ・・・」
紅い斬撃が二つの首に命中。そして数秒後、たった今付けた切り傷がねずみ花火のように火を噴き、大きく爆発した。その威力は、ダイナマイトといい勝負である。
「ゴォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!」
首に出来た切り傷が爆発した事により、モノガーンは両首とも断末魔を上げながら粉微塵になった。後はいつも通り他の部位が粘土に戻るだけなのだが、爆発があまりにも強すぎたせいで粘土に戻った体も、四方八方に吹き飛んでしまった。
爆発が収まると、竜騎士はモノガーンがいた場所を眺めながら呟く。
「・・・ふう。力を抑えてコレか・・・今回は人が避難しているから良かったものの、やはり屋内では使えないな。」
手加減して繰り出したにも関わらず、意外とでかい爆発を起こした大技に彼自身も驚いている様子。力を抑えてあれぐらいの威力なのだから、本気でやると下手したらこのショッピングセンターが吹っ飛ぶくらいの大きい爆発が起きていた事だろう。あまり考えたくはないが。
するとここで後ろから、正義の声が聞こえて来た。それに反応し、竜騎士は首をくるっと向けた。
「竜騎士~!!」
「正義・・・戻って来たのか。」
「はい・・・ハァー、さっきのモンスターが気になったので・・・ゼェー・・・」
階段の方からノンストップで走って来たのか、ゼーゼーと肩で息をしながら喋る正義。そんな彼に、竜騎士はさっきまでモノガーンがいた場所を見せた。
「それならこの通り、モンスターは倒したぞ。ちょいと私の技が強過ぎたせいで、残骸はほとんど残ってないが。・・・それより怪我は無かったか?」
「ええ、まあ・・・今のところ特に痛みがないので、大丈夫だと思います。それより、今回も助けてくれて有り難うございました。」
正義のその言葉を聞き、竜騎士は少し安堵の表情を浮かべた。きっと、走って来る途中に自分の起こした爆発で瓦礫とかが飛んで当たらなかったか、心配だったのだろう。お礼を言われた彼は、いつものようにフッと口角を上げた。
「何、当然の事をしたまでさ。それじゃあ、私はこれで失礼するよ。君も早く母親の所に行って、安心させてあげなさい。」
そう言うと竜騎士は、どこからともなくギターを取り出して、風と共にどこかへ去っていった。正義がどこか懐かしく感じるメロディを弾きながら。
この後、無事に母親と再会を果たした正義は、警察やマスコミの質問を鬱陶しく感じながらも、無事に家路に着く事が出来た。




