正義物語の始まり
「あのさあ、主人公が死んで異世界に転生してチート能力で暴れるっつーパターンあるじゃん?あれさあ・・・もうやめにしない?あと、ハーレム系も。気に入らないねえ~・・・実に。それで、チートで成り上がった癖にいかにも『自分の力でやりました』みたいな態度取っているから余計気に食わねえよな。ホント、チート能力系主人公どうにかならんのんかね?」
「・・・って何で死んじまったんだよぉぉぉーッ!!」
ショックのあまり、その場に膝と両手をついた青年の名前は神田正義。今年で十八になる高校生だ。そんな彼はさっき息を引き取った。死因は、交通事故による頭部の損傷だ。何故、事故に遭ってしまったのかと言うと、彼は学校の帰り道に強盗犯を追いかけていたパトカーにはねられたのだ。それはカーチェイス中に起きた不幸な事故だった。そして正義は、目の前にいる男にたった今そう告げられたのである。正義はパトカーを恨んだ。
「おのれ、パトカァァァァァァァァ!!俺、警察には何の恨みも無かったけどよぉ~、どことなく奴等の掲げる『正義』って奴が胡散くせえなと思ってたんだよなあ!!『警察丸一日』っつー番組もよぉ!!大体、俺はきちんと歩道を歩いていたぞ!!何で歩道に突っ込んできたんだよ、わざわざ!!」
「君が『死んでチート能力を得て転生する系の主人公』を貶すからバチが当たったんだろ。それに昨日雪が降ったから、それが原因じゃないの?スリップ事故はよくある事だ。」
正義にそう言って来たのは、自分の事を『神様』だと言い張る男・ゼロス。どことなく、有名な神・ゼウスに名前が似ているがそれはただの気のせいである。彼は落ち込んでいる正義にこんな提案をした。
「異世界に転生する?」
「嫌だ。」
即答だった。
「え、何で?」
「そんなありきたりな展開、読者は求めてない。」
「ありきたり言うな。王道と言え。」
『王道』と言われても正義の首は縦に動かなかった。腕を組み、まっすぐゼロスを見ている。これは頑として、異世界に転生しないという彼なりの意思表示だろう。
「どうせまた転生先でパトカーに轢かれるのがオチですよ。」
「いやいや、きっと楽しい事が待っているよ?」
「どうしてそんな事が言えるんだ?証拠はあるのか?ん?」
右手を出してくいくい動かす動作にゼロスは正直、『うっざ』と思ったがそこは自称・神。広い心でスルーした。
「・・・しかし、困ったな。これじゃあ、話が全然進まないじゃあないか・・・私だって暇じゃあないんだから、とっとと諦めて私の好意を受け入れろ。」
「はあ!?」
ゼロスはパチンと指を鳴らすと、正義の目の前の床が開き、三つのボールのような物が出てきた。それぞれ色は赤、青、緑。色で区別しているのには何か理由があるのだろう。
「この三つの玉のうち、どれか一つを選べ。赤は炎、青は水、緑は植物の力をそれぞれ手に入れられる。好きな力の玉を手に持って天に掲げれば、すぐにその力を手にする事が出来るぞ。」
「いらねえよ。とっとと地獄に落とすなり、天国に昇天させるなりしてくれ。」
「いいから選べ!!」
ゼロスの威圧に押され、正義は渋々赤い玉を手に取った。
「・・・じゃあ、シンプル・イズ・ザ・ベスト。ありきたりな炎の力にするぜ。」
赤い玉を右手に持って、天に掲げた。しかし、何も起こらなかった。
「・・・それは君より十一分早く死んだ者が持っていった。」
正義はその場に盛大にこけた。
「そんなもん混ぜんな!!」
赤い玉を床に投げつけた正義は、青い玉を手に取った。
「・・・じゃあ、水の力だ!!水圧カッターは凄まじい威力らしいからな・・・習得すれば何かしらの役には立つだろう・・・」
そう言って、青い玉を天に掲げる正義。・・・しかし、何も起こらなかった。
「・・・それは君より九分前に死んだ者が持っていった。」
正義は再び盛大にこけた。
「だから、そんなもん混ぜんじゃあねえよ!!」
赤い玉同様、床に叩きつけた。
「だったら・・・『残りもんには福がある』・・・植物の力だ!!」
しかし・・・と、いうかやはり、何も起こらなかった。
「それは三分前に死んだ者が・・・」
「同じ日に何人死んでるんだよ!!」
またしても、玉を床に叩き付ける正義。ゼロスは言った。
「やはり、昨日降った雪のせいでスリップ事故が多発しているようだ。死人が多いせいで、力を与えて転生させようにも『力の玉』の在庫が無い。」
「今の玉の下りは一体なんだったんだよ!!もう転生しなくて良いから早く天国なり地獄なり行かせてくれよ。」
「駄目だ!!」
正義の言葉にゼロスが叫んだ。
「それでは、この物語がここで終わってしまうではないか!!君は良いのか、それで!!生前、何かをやり残した事があるんじゃないのか?」
突然のメタ発言。この物語を一話でも多く続けさせようと必死である。
「なっ・・・」
正義はやり残した事があるのか、言葉に詰まった。
「確かに・・・俺の正義を貫かずに・・・というか、何も成果を残さずに死んでしまったのは、ちと勿体無い気がするな。」
「そうだろう?だから、君は別の世界に転生して、そこで成果を残すんだ。」
「成程・・・しかし、ありきたりなもんには変わりない。そんな内容の小説で果たして読者は楽しんでくれるのか?俺だったら絶対楽しめないぞ。」
先程までの態度と違い、正義はきちんとゼロスと向き合って話している。二人は何時間か(と、言っても時計が無いので具体的にかかった時間は分からないが)話し合った結果、そのままの状態で転生する事になった。ゼロスは特殊な力を与えないまま転生させるので、正義を気遣うように言った。
「本当に大丈夫か?これから行く世界は、元の世界とは違い、大変物騒な世界だ。次、死んでも転生は出来ないよ。なんだったら、『力の玉』が届くまでここで待っててもいいんだよ?」
「そんな世界に俺を送り込むのかよ!!」
初耳だった。
「だって、マニュアル通りだと特殊な力を与えるんだよ?だったら、ちょっとやそっと物騒なとこに飛ばしても問題ないじゃん。パワーバランスってやつだよ。」
「本来ならな!!だが俺は何も力を貰わないんだぞ?だったら、もうちょい平和なとこに転生させてくれても良いと思うけどね。例えば、色んな色の心優しい恐竜がいる島とかさ・・・。」
「何アイランド!?そんなもんネットや同人誌で勝手に二次創作してて!?」
ゼロスは青ざめた顔で正義に言った。何のかんの言いつつ、どうやら物騒な世界しか転生出来ないようだ。正義はほんの少し、『物騒なとこなら、何か力貰ってから転生させてもらおうかなあ~』と思ったが、もう何の力も貰わずに転生すると決めたので、覚悟を決めて決意がブレない内にすぐに転生させてもらう事にした。
「本当に良いんだね?転生してすぐ死んでも私を恨まないでくれよ?」
「ああ、頼む。」
ゼロスが正義に両手を向けて、念仏の様なものを唱え始めた。対象を転生させる為の呪文なのだろう。ここでゼロスは途中で念仏を唱えるのを止めて、
「・・・本当の本当に良いのか?」
と、ゲームのデータを消す時に出る警告のようにしつこく言ってきた。
「いいから、早くやれ!!」
正義は、ゼロスに念仏を続けるように促した。でないと、決意が揺らいでしまいそうだからだ。ゼロスは正義の顔を見て、再び念仏を唱え始めた。やがて、正義の周りの床が光り出し、その温かな光に包まれた。ここで正義の意識が無くなった。光が消える頃には、その場に正義の姿はもう無かった。転生、成功である。ゼロスは、正義が立っていた場所を見ると、
「・・・頑張って生き延びてくれ。私の為にも。」
と、言った。




