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幻想的雁字搦め  作者: CHITA
6/13

村への逃亡者 5

「いやーよく寝た。お、あんた早起きだな。俺と一緒に寝て緊張しちまったか。」


女は椅子に座って、赤子にお乳をあげていた。きっと睨むように見ると、そのお綺麗な顔からは似つかわしい御汚い言葉があれよあれよと飛び出した。


「あんたが寝てたから椅子で寝たわよ。ってかまだ明日にもなっていないし。まだ夜よ夜。見れば分かるでしょ。その眼はゴミが詰まってて見えないのかしら。お可哀そうに、よかったら外で自然のシャワーでも浴びてきたら?きっとその汚物臭漂う身体もさぞや綺麗になるわよ。あ、そんなことしたらゴミみたいなあなたは溶けてなくなっちゃうかしら。洗いたいのに洗えないなんて、ごめんなさいねぇ要らぬお節介だったみたいね。」

「あんたイライラしてんのか?イライラはよくねぇぞ?せっかくの美人が不細工になっちまう。」

「イライラさせてんのはどこのどいつよ!あんたがベッド占領したせいで碌に寝れてないわ。糞見たいな冗談はその体臭だけにして。」


すっきりとした真っ白なキャンパスが糞くそクソとクソくそ言われて糞色に塗りつぶされていく。せっかくの良い気分も台無しだ。


「あぁーなんだ。俺がお守してやるから、あんた寝てくるか?なに、一宿一飯の恩とか言うだろ?」

「結構よ。あんたなんかに任せたら私の子がどこかに売り払われそうだからね!ってかあんたが勝手に泊ってるんでしょ。少しは礼儀を持ちなさいよ礼儀を。」

「あぁー分かった分かった。そんな騒がんでくれよ、あーあー腹減った。あんたも食うか?」

「あんたのもんなんて死んでも食べないわ。クソ野郎!」


あー、とうとうクソ野郎とまで言いやがった。こいつ恥とかねぇのかよ。頭可笑しいわ。

棚からごそごそとパンだ肉だ牛乳だと引っ張り出す。


ごちゃっと机の上に食い物を置くと、どうよ?と、どや顔で聞いてみる。

「何がどうよ?よ。」

「あ?んなの、少しなら分けてやってもいいぞって意味だ。食うだろ?そんな胸だけでかくてガリガリの体じゃ、欲がわかねぇからよ。」

「五月蠅いわね、好きでガリガリになったわけでもないし、あんたの性欲のために太りたくもないわ。」

「はー、あんたいじっぱりだねぇ。そんなんじゃ男に相手されねぇぞ?まぁしょうがねぇそしたらこれでも飲めや。なに、それなら太らねぇからよ。いやー俺ってば優しい奴だなぁ。」

「あんた自分で言う?脳みそ糞で出来てるから糞見たいな考えしか出来ないわけ?」


コップに注いだ牛乳を親切心で出した俺に対して女はボロクソに言ってくる。こいつ糞クソ糞クソ、仮にも母親がそんなこと言っていいのかよ。

「―――っかぁぁぁぁ。起きたら牛乳。実に健康的だろう。そしてパンを食う。いつから俺ぁこんな健康になっちまったんだ?」

「爺臭い。そしてあんたは健康でも不健康でも一生糞よ。」

「いい加減糞引っ張んなよ。食事中じゃねぇか。せっかくの飯が不味くなっちまう。」

「私は食べてないから好きなだけ言って構わないもの。どうぞ、ゆっくり糞の音楽と一緒にお召しになって。」


ワイン一本で怯えてたやつが、こんな強気になるたぁ俺ぁ舐められてんのか?まぁ舐められてるからこんなボロクソいわれてるんだろうが。

「おいおいそんなボロクソ言うと、喜んじまうぞ。あ?」

「・・・変態ね。どうしようもない変態ね。」

「あぁー興奮しちまった。もうびんびんよ。どこも彼処もビンビンよ。どんなこと言われても出ちまいそうだ。」

「・・・。」

「なんか言えよ。」

「・・・。」

「けっ・・・。」



もくもくと机の上の物を胃に納めていく。そして残るは、お互いのコップのみ。


「―――っはぁぁ、ごっそさん。いやー食った食った。あ、それあんたのだから、飲まないんだったら捨てといてくれや。俺ぁしょんべん行ってくるわ。うー、破裂しそうだ。」





「―――はぁ、でたでた。ありゃやべぇぞ、瓶一本は出たわ。もうじょろじょろじょろじょろすんげぇ出たわ。」


小屋の中へ戻ると汚いとでも暴言が返ってくるかと思いきや、不自然なほどに静かだった。しんっと静まり返り、人が動いている音がしない。


「まぁ寝てたらそりゃ音はしないわなぁ。」


目の前の机には突っ伏したように寝る女。赤子はしっかり揺りかごへ戻されていた。





「おうおうおう、俺じゃダメか。駄目なのか。まぁよ、おめぇの母様疲れて寝ちまったからよ。寝かしの俺様がおめぇをしっかり眠らせてやるよ。おうおうおう。」


深夜も深夜、陽の人も鳥も動物も寝静まり、陰の人や鳥や動物が動き出す。


そんな最中に一つの村はずれの小屋から一人の男の声が聞こえた。


「おうおうおう、おめぇ俺様のアクロバティック寝かしつけ殺法が効かねぇのか。―――まぁ対外の奴は寝ねぇがよ。ならどうよ、俺様が一つ歌ってやるよ。俺様が歌えば右に出るものがいないってくらい巷では有名だからよ。俺の美声響き渡らせてやるよ」


―――神は落ちた


―――覇も落ちた


―――想いも落ちた


―――全てが落ちて、それは迎えられた


―――髪は落ちた


―――歯も落ちた


―――重いも落ちた


―――地獄に落ちて、そいつは迎えられた


―――うっへへ


―――うへへ


―――うっへっへ


―――・・・やべぇ先忘れたわ


―――うっへへ


―――うへへ


―――うっへっへ


―――うっへへ


―――うへへ


―――うっへっへ


―――うっへへ


―――うへへ


―――うっへっへ


外に漏れ出た光からは一人の人影が小躍りのように、右へ左へと左右に飛び踊る。時々何かを捧げるように腕を上へ上へと上げている様は、まるで悪魔儀式の供物を捧げているようであった。それが陽が登るまで、赤子の鳴き声がどこからかするたびに続いたという。


―――うっへへ


―――うへへ


―――うっへっへ


―――うっへへ


―――うへへ


―――うっへっへ




水曜、木曜はお休み。


おっちゃんもお眠り。



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