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幻想的雁字搦め  作者: CHITA
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村への逃亡者 1

「おうおう・・・、なんでこんなとこにクソ騎士様がいんだよ。」

目の前の小さな山小屋から略式化された鎧を身に纏い、長剣を腰に差したおぼっちゃまが出てきた。

煌びやかなものを好む蛾みたいなやつらが、あんなぼろっちぃ小屋からでてくるなんて想像できない。

それともあれか?自分が羽虫みたいな存在に気づいて、身の程に合う住処に棲みついたのか。


「まぁ・・・そんなことあるわけないわな。」

もともと綺麗なものを好むやつらだ、そんな潔癖症のカラスがこんなとこに住み着くわけがない。あるのは後ろ暗いものくらいだろう。こんな村はずれにあるのだ、金か奴隷か、まぁ奴の弱みであるのに違いは無ぇ。


古い小屋の扉に軽く触れれば僅かな抵抗が返ってくる。ドアにカギ穴がないってぇことは、中から戸締りされているんだろう。ふんっ、この程度の用心ってこたぁ逃げ出すような奴隷じゃぁねぇな。金目のもんでもまともなもん使うだろう。けっ、当てが外れたかぁ。


扉の隙間からちょいちょいといじってやれば、カコンという音と共に抵抗を失った扉。簡単な閂なんざ意味ねぇわな。扉に力を加えてやればギィと音を立てて木製の扉が開く。中は僅かに燻る暖炉の跡。それに木の机と椅子。机の上は綺麗に片付けられているが、僅かに残る酒精が空気中を漂い、鼻につく。こんなとこで酒盛りか、酷く似合わねぇな。


奥へ視線を向ければもう一つの扉。その扉の隙間からは不安定な明かりがちらりちらりと漏れ出ていた。はん、この小屋の主は大層金がないと見える。今時蝋燭の火を使うなんざ、物資が買えない貧村くらいだ。


手当たり次第戸棚を掻き漁る。とりあえず今は食い物が欲しい。あと酒だ。ずっと逃げ通しだった。偶には人の手が入った食い物が食いてぇ。小さな棚を開けてもほこりを被った二組の食器セット。食器の片割れはずいぶんと使われていないのか厚いほこりが溜まっている。それに食器が数えられる程度。パンもチーズも干し肉も置いてない。なんだよこの小屋は飯の一つもありゃしねぇじゃねぇか。


後はあっちか。扉の隙間から明かりが揺らぎ、こちらに差し込んでいる。壁に耳を当てると僅かな話声。壁一枚、まともな防音もされてないのにうまく聞き取れない。

まぁお話しに夢中なのはよいこなこって。


扉を勢いよく開け目につく一人へ素早く回り込んだ。

「・・・おう、動くなよ。」


部屋中に視線を向け、もう一人いるであろう人物を探す。部屋には僅かな明かりと小さな棚。洋服箪笥。人が住むにしては遊びが無さすぎるつまらない一室。


可笑しいな、確かに話声が聞こえたんだが。視線を小屋の主に戻せば、赤みがかった髪が肩より下まで伸びている。


「おぉい、こいつはいい女じゃねぇか。駄目だぜ、こんなとこで一人で暮らしてちゃ。」

圧倒的な存在感を放つ胸元のふくらみはそこらの安物水商売どもより、淫欲を湧きあがらせる。震える女の身体は前で何かを一切から守る様に抱えている。赤子か。なぁる、実質一人ってわけね。

空いている左手で腹部からなぞる様に胸へ走らせる。やわらかい肉の感触が、このまま食ってしまいたいという衝動を助長させる。


・・・ふん、不用心なこって。こんな村はずれなんだ、ナイフの一つくらい隠し持っていそうなものだが。


女の首元へ当てていた短剣を鞘へ戻すと、ベッドから降り棚の一つを開ける。パンと干し肉、幾つかの日持ちしそうな食べ物。おうおう、こんなとこにあったかぁ。


「奥さんこれもらうぜぇ。」


近くの丸椅子を引くとそこにどかりと座りパンを一つ二つ、そしてチーズ、干し肉と胃へ落としていく。棚の奥にはここにはふさわしくない上等なワイン。


「これあんたのか?ってそんなわけねぇわな、これ一本でこの家のもん全部買えちまうくらいだ。あんたなんかが買えるわきゃねぇ。」


ギラリとした鋭い輝きが俺の視界に入った。


「それは飲まないで。お願いだから。」


凛とした声。ずっとだんまりで睨みつけていた女がこれを持った途端に目の色を変えた。思わず口角が上がってしまう。おっとおっと。手で口元を抑えると奥さんへ優しく語り掛ける。


「奥さん片手でそれを振っても脅しくらいにしかならないぜぃ?ほんとに止めたいんだったらその赤子を置かないとなぁ。なぁ、起こしたくないんだろう?」


贅沢なもんだ。いやはや本当に。贅沢で贅沢で羨ましいねぇ。下唇を噛むその姿も色っぽくて思わず手が出そうになっちまう。


じっとりと奥さんの表情を楽しんだ後、ゴトリとビンを棚に置いた。

「ほらぁ置いたぜぇ、そんな物騒なもんしまってくれやぁ。怪我はだれだって嫌だろう?うんうん、大丈夫だ俺はぁ優しいからな綺麗な奥さんにお願いされちゃ、置いちまうってもんよ。」


グヘへと思わず笑う。


ほっとしたようにナイフを下ろす奥さんへ近づくと刃の腹を持ってひょいとナイフを抜き取る。もうちょい用心ってもんをしてほしいもんだぜ、これじゃぁ児戯にもなりゃしねぇよ。

「それでぇ?奥さんはお願いを聞いてくれた殿方にどんなことをしてくれるんかなぁ?」


ちらりと胸元を見ると赤子と、はて・・・。


すこしの沈黙のあと睡魔が襲ってきた。奥さんが口を開こうとしたところで俺は遮るよういに言葉をかぶせた。

「ねみぃ、寝るわ。」


それを皮切りに奥さんの腰かけているベッドに横たわると重い瞼に身を任せるようにして意識を微睡みへと落としていった。

意識の外で誰かの声が聞こえるが気にしない。




感想、評価など頂けると、私はその方を尊敬するほどに

泣いて喜びます。


そして今読んでいただけているだけで、喜びます。


ちょろいです。ちょろっちょろです。


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