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幻想的雁字搦め  作者: CHITA
13/13

村への逃亡者 E

「おいおい、おめぇのかぁちゃんも薄情だな。まだまだかわいい盛りのお前を置いて行っちまったよ。」

こんな滲んだ手紙まで置いて行きやがって。そんなくやしんだったら、生きりゃよかったのによ。

こんな幸せそうな顔しなくてもいいじゃねぇかよ。




「おめぇのかぁちゃんすげぇよなぁ、がんばったよなぁ。こんなとこで一人だぜ?苦労しただろ。なぁセリカお前のかぁちゃんはな、すげぇんだ、すげぇんだぞ。」

セリカは母親の顔に触っている。いたいよー、なんて言って優しく叱ってくれるのを待っているのかもしれない。けど、目を開けない。


「ほれ、かぁちゃんの別れすんだか?いくぞ。」

白いシーツで彼女を包み、セリカと一緒に抱えて茂みを歩く。


「つい先日まで楽しそうにしてたのによぉ。」


「まだ若いのによぉ。」


「旦那と一緒に暮らしたかっただろうによぉ。」


「娘を残していくの、恐かっただろうによぉ。」


茂みを抜ければ、そこはブレスメイドの花畑。


その巨木の下。


―――天へ昇る


―――使いに導かれ


―――その者、幸に


―――悔なく


―――何人も触られない


人一人余裕に入る穴がぽっかり空いた。

「さぁ、本当に最期だ何か言うことあるか?」

セリカはぶぅぶぅ言って母の胸を叩く。

「あぁ、そうだな元気に生きるから大丈夫だよな。心配しなくても、大丈夫だよな。」


ブレスメイドの花びらを散らす。彼女の周りが綺麗な花で覆われる。

祝福(ブレス)の花に囲まれる。


「ここなら静かに眠れるだろうよ。なに、同じ花畑で逝ったんだ、旦那さんとすぐに会えるだろうよ。」


彼女は既に土の中。日が経てばここに人が埋まっているとは誰も思わないだろう。


懐から一つの酒瓶をだす。


「こりゃ俺一人で飲むにゃぁ、量が多いからよ、一緒に飲んでくれや。嫌っつっても飲ますからな。ガハハ。」


二つのコップに泡立つ蜜を注ぐ。


「ほぉ、こりゃまたこりゃまた。いいねぇ。」


傍らには一杯のコップ。辺りは既に暗闇の中。月明かりが、木々を透過し所々白い塔が注ぎ建つ。

セリカもすっかりお眠のようで、胡坐の中で丸まっている。布を掛ければ、ちょうどいいだろうか。だんだんと夜も暖かくなってきた。


俺は喉に液体を流し込みながら、眩く発光する白い花園を見る。

彼女を守るかのように生える大木。名をクイーンロートス。気高き女王が永遠の眠りについた場所に生えたといわれる木。そして、赤みを帯びた綺麗な白い花を咲かしたそうだ。何物にも害されないところでしか蕾をつけない女王の木。その花が咲く場所は死者が最も安らかに眠れる場所と言われている。






あぁ、いい女だった。





どこかで一滴の雨が降った。










「よぉ!おやじ、飯だ、飯寄越せ。」


明くる日、俺は酒場で飯を食いにやってきた。


「いやー昨日は体力仕事しちまってよぉ、しかも飯を食い損ねてよぉ?いやぁー腹減った。飯、飯。あ、重いもんはパスで。」

今日も親父は厳つい顔で飯を出す。サンドイッチとサラダ。なんとまぁ健康的だこと。


黙々と飯を食う中で、ふと思い出したように俺は言った。


「そいえばよぉ、森の姫が行っちまったよ。」


ピクリと親父はこめかみを振るわせた。


「綺麗だったよ。」

「―――そうか。」


「―――子は?」

「今は商店のばばあんとこ。」

「連れていくのか。」

「ここにいるよかマシだろ。」

「―――そうか。」


親父は奥へ引っ込む小さな袋をカウンターへ置いた。

触れば凹凸の塊が複数個。


「本当はここで息子と一緒に暮らしてほしかった。あの娘楽しみにしてたんだよ。」

誰というのも無粋だろう。

「料理もな、美味かったんだ。・・・そうか。」

「時々見に行ってたんだろ?」

「食い物渡しに行くだけさ。話してるとこなんて見られたら、どうなることか。」

親父がではないだろう。

「あんな頬がこけちまうまで悪化して、あんなとこにいなけりゃ。」

早朝の酒場に虚しく響く。

「あいつ最期幸せだったってよ。」

「幸せ・・・か。あんなんで幸せか。もっと―――。」


親父の言葉を遮るように俺は席を立つと、

「またくる。」

「―――あぁ。」

親父の声を背中に浴びて、外へ出た。








「よぉ、ばあちゃん、そろそろでるわ!!」

「なに、そんな慌てることかい。」


商店のばばあが小さな赤子を連れて奥からでてきた。


「ばあちゃん、元気だな。いつの間にそんな子拵えたんだ。」

「はははっ、私ももう少し若けりゃねぇ。」

ばあちゃんは顔を近づけると、

「―――もし、何か困ったことがあったら、これを使いな。いくらか足しになるだろう。」

「酒場でも貰ったぞ。」

「構わん。多くあって損はない。しばらくここは荒れるだろうから近寄るんじゃないよ。」

「あぁ、ばあちゃんも気をつけろよ。」

「あんたに言われるまでもないさ。あの堅物と守っていくさ。」

「そりゃ恐ろしいこって。」



「あぁ、愛しい姫の子。健やかにお過ごしくださいませ。」

ばあちゃんは赤子を撫でると、名残惜しそうに俺に手渡した。









これにて出会いは終幕。

いかがですか?

駆け足だった気もします。話が飛び飛びで、ストーリー展開が急だった気もしますね。

面白かったでも構いません。小さな感想頂ければ嬉しいです。


また書き貯めしてから、投稿します。

よろしくお願いします。

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