逃亡者への手紙
Dear クソ野郎の盗賊さん 1
先日は綺麗な景色ありがとね。最期にあんな景色見られるなんて思わなかった。貴方が夜遅くに来たときは、あぁ、これで私の人生終わったなんて思ったわ。けど、貴方はすぐ寝ちゃうんだもの、あぁ馬鹿なんだなって思ったわ。
それで次の日やっと出てったと思ったら、夕方には戻ってくるんだから、ため息しか出なかったわ。ましてや食べ物なんて持ってくるでしょ?毒が入ってると思って警戒するわよ。それで案の定眠らされたんだから、私もバカだったわ。
あ、そのあと騎士の格好して私のとこ来たわよね、素直にすごいと思ったわ。あんなそっくりに変装できるなんてね。まぁ、口調までは似てなかったけど。あんな丁寧じゃないもの。けど、こんな騎士様いたら惚れてたなって思ったわ。まぁ、もう、今はそこまで乙女心もってないから良かったけどね。それに気づいてた?私一度もエドワルドって呼んでないのよ。もし貴方みたいな人だったら様もつけて、尊敬できただろうなぁ。
そういえば、棚の奥にワインがあったわね。あれ結構珍しいそうよ。リカルドのお父さんがね、取り寄せてくれたの。このワインは麦から出来ていてなって言ってた。これならやつにも飲まれないからいいだろうって。結局、彼と飲めずじまいだったわ。一緒に飲んでみたかったのに。貴方がもう一本もってくるから、扱いに困ったわ。あれ飲んじゃっていいからね。私は二度と口付けないだろうし。
セリカね、他の人に懐かないのよ。懐くのは彼と私と貴方だけ。本当はもっとたくさんの人に合わせられればよかったんだけどね。エドワルドが来たときなんか近寄られただけで大泣きしてたわ。アイツプライドだけは一人前だから、すぐに激昂してね。あぁ、やっぱりコイツはだめだって思ったわ。それに、セリカはあの容姿だから高く売れるとも言った。信じられないと思った。だから絶対アイツにだけはセリカを渡さないで。普通に産んであげられなかった私が言うのも変だけど、お願い。
セリカにね、本当はもっといろんな物を見せてあげたかった。森とか海とか、町とか人とか、動物とか、鳥とか、魚とか、いっぱいいっぱい。いっぱい見せてあげたかった。一緒に料理とかお花育てたりとか、歌うたったりとか、一緒に寝て、一緒に起きて、一緒にお買い物して、時々けんかもして、それでぎこちなくなって、でもだんだん仲直りして。それで時々ね将来の夢とか聞くの。何になりたい?って。セリカは何になるんだろう。お菓子屋さんとかかな、お花屋さんかな。どっかの貴族に一目ぼれされて玉の輿とか。あぁ、見てみたかった。白いドレス着て、かっこいい旦那さんと一緒に赤いカーペット歩いてね。セリカのことだから、赤いドレスもとても綺麗だと思うわ。それで孫ができて、一緒に料理教えたりとか、遊びたかった。
貴方に会えてよかった。貴方の話を聞けて良かった。貴方と外を歩けて良かった。
どうせ面と向かっても喧嘩ばっかりになりそうだったし。今くらいはお礼を言ってあげる。
幸せをありがとう。笑顔をありがとう。短い間だったけどありがとう幸せだった。本当に。本当はもっとたくさんお礼言いたいのに。たくさん言いたいのに。くやしい。ありがとうって、私も一緒に、くやしいよ。なんで、ごめんね、こんな文面にしたいわけじゃないのに。ごめんね、ありがとう。
ありがとう。
From セリア