第4話
洗礼の儀が終了したことにより、私は別室へと案内された。
そこには極彩色の輝きを放つ巨大な水晶が設置されており、これで『鑑定』をするのだと担当者の説明を受ける。
担当者は若い男性で、一般市民の相手をさせられていることから下っ端なのだろうということが伺えた。たぶんまだ新入社員みたいなものなのだろう。心の中で担当者くんさんと呼ばせてもらうことにする。
「どうぞ、水晶に触れてみてください。緊張しなくても大丈夫ですよ、痛みも何もありませんからね」
「……はい」
動きが少し強張ってしまっていたのに目ざとく気づいた担当者くんさんが、優しく声をかけてくる。気持ちは有難いのだが、原因が周囲の壁からの視線だとは気づいていないようだ。
恐らくではあるが、スタリク教のお偉方が覗いているのだろう。そうでなければ、こんな不躾な視線を公爵家の令嬢にぶつける者などいるわけがない。気づくはずがない、という慢心もいくらかはあるのだろうが。
でも、それで今騒いだところでなんの得にもならない。さっさと逃げられて妄言扱いを受けるのがオチだろう。
そう結論付けた私は、担当者くんさんに言われたとおり自分の背丈よりも遥かに大きい水晶へと手を触れ――水晶が、輝き始めた。
どこからともなく激しい風が吹き始める。
それも酷く強い風だ。原因はどう考えてもこの水晶。何か吸い取られるような感覚がしたから、恐らく魔力でも燃料代わりに持っていかれたのだと思うけれど。
それにしたって、この暴風はおかしくないか……!?
もしかして私が転生者なせいで何か魔力に変な混じり物でもあったのだろうか。
そう思い、恐る恐るながら担当者くんさんに確認を取ることにする。
風の音がうるさいのだから声が大きくなるのは仕方ないのだ。断じて私のマナー違反ではない。
「すみませーーーん!! これ、これまだ続けでも大丈夫ですか!?!??」
「そう……そうですね!!! 一応そのままでお願いします!!!!!!」
「そうですか!!!分かりました!!!!!!!!!」
正直そろそろやめたいけれども、そのように言われてしまっては最早続ける他なく。
依然として風は吹き荒び、とうとう水晶が放電を始めた頃――ようやく、それは現れた。
ステータスウィンドウ、とでも言おうか。私――アイリーカの情報を記載しているそれが、空中に映し出されたのだ。
ステータスウィンドウには名前から年齢、ひいては身長や体重までもが事細かに表示されている。まるでRPGみたいだなと思った。ああでも、それだけならよかったのに。
それだけなら無闇矢鱈と壮大且つ絢爛な演出を見せられていた私や担当者くんさんも、なんか色々凄かったけど無事に終わって良かったなあ、と安心することが出来たのだ。それだけであったのならば。
問題はそこに――所持スキル欄に。
――『加護・創生(小)』、というスキルがあることだ。
私がそのスキルを認識するや否や、鑑定室の隣から怒鳴るような声が響く。次いでドタバタと誰かが走り出るような音がし――周囲は、一気に騒がしくなった。