第3話
「思い出したかの?」
「……ええ、はい。おかげさまで色々と」
痛む頭を抑えながらも、神(前世の仇)からの問いに返事を返す。
デコピンのせいかは知らないが、この世界に転生させられた時もデコピンで飛ばされた、というどうでもいいけどなんかちょっと腹が立ってくる情報を思い出した。
お? なんだテメーいちいちデコピンしねえとなんか謎の神パワー使えねえのかこの野郎。
などと、そんなことをぼんやりと考えていれば、デコピン神は平然と話を続ける。
「では記憶も戻ったことじゃし、おぬしからの要望についての話をするぞ。要望は確か……『転生後の肉体の性能に多少補正をつけて欲しい』、『身分はそれなりに高い方が望ましい』、じゃったか」
「はい、それで合っています。最低限その辺りさえ心配りを頂ければ、出来うる限りのことは自分でなんとかしますので……」
「うむ。身分に関しては、公爵家であれば文句はないじゃろう? この世界で言えば上から2番目の身分じゃからな。」
「あ、それに関してはありがとうございます。おかげさまで何不自由なく生活を送ることができておりまして……」
なにはともあれ、深々と礼をしながら感謝を述べる。即興で考えた条件にしてはよく仕事をしたのでは? と自分を褒めるのも忘れない。自己肯定高めで生きたい。
それに対してうむうむ、と満足気に神が頷いたかと思えば、おおそうじゃったと思い出したかのようにこう告げられた。
「補正に関しては、こちらの神にも話を通してあるからの。洗礼でステータスの閲覧も可能になったじゃろうから、後で確認するとよい」
「ステータスの閲覧、ですか?」
「そうじゃ。この世界では、7歳で受ける洗礼により神の加護と自身のステータスの閲覧権限を授かる仕組みがある。神の加護は――まぁ、麻呂からも少しいいじゃろ。ほれ」
べちっ、とまたしてもデコピンが繰り出される。やっぱりこの神、デコピンでしか神パワー使えないのでは?
というか一人称が麻呂て。属性のクセがすごい。のじゃ麻呂。
「今ので加護も少し与えたからの。餞別のようなものじゃ」
「あ、ありがとうございます……」
そして神がオホン、と咳払いをひとつ。真面目な話をするということは簡単に察せられたため、私はひとまず姿勢を正す。
「さて、これでおぬしの要望はすべて叶えたことになる。今回は特殊なケースじゃったから、たぶんもう会うこともないじゃろ。達者での」
「あ、はい。この度は色々とお世話になりました」
別れは存外あっさりと済まされた。それじゃあの、と神が手を振ってワープホールのような謎の時空の歪みに消えていけば、この空間に残されたのは私1人で。
支配していた存在がいなくなれば、当然その空間にはほつれが生じ――そして、時は動き出した。
神の襲来によって時間ごと中断されていた洗礼は、その後滞りなく終了する。
であればこそ、待ち受けているのは『鑑定』だ。