#1 「なにこれ。」
何もせず、ただただ突っ立ってただけでレベル30になった頃、どこからか咆哮が聞こえてきた。
加えて剣と剣がぶつかり合うような(と言ってもアキは聞いたことはないが)甲高い金属音が聞こえる。
「(なんか面白そうだし、見に行ってみよう。)」
面白半分でアキが見に行ってみると、大きな熊型の獣と女性が戦っていた。
熊と女性のレベルは同等だが、所々冷やっとする場面があった。
じっくり八分程眺めていた。
戦いは持久戦となり、互いの動きが鈍くなっていた。
だが流石は獣。女性を圧倒しているように見える。
押され続けた女性は、熊の攻撃で押し倒されてしまう。
全身に疲労が溜まり、もう殆ど動けないらしい。
絶体絶命かと思ったとき、あることに気がつく。
「(…あれ? あの熊、レベル低くね?)」
時間が経ちレベルアップした結果、どうやら他人のステータスが覗けるようになったらしい。
熊に表示されていたレベルは38。アキのレベルは132(常時上昇中)。因みに女性はレベル25。
レベルだけで考えたら余裕で倒せるかもしれない。
「(じゃ、楽しませてもらったし、観戦料分の仕事をするかな。)」
女性を助けるという結論に至ったところで、アキは小陰から飛び出す。
飛び出したときの音で一気に視線が集まる。
野生の勘というものだろうか、熊はアキを見るなり逃げて行った。
まあそう簡単に逃がすはずもなく。
「逃がすかよッ!」
呆気なくアキに追い付かれドロップキックをくらいそのまま動かなくなった。
「(やっぱステータスに書いてあるのって事実なのかな?)」
と、思ったより自分のキックが強力で驚きつつ、戦いを振り返っていた。
「あの」
突然背後から声が掛かる。言わずもがな、戦っていた女性である。
「ファッ!?あ、はい?」
アキは完全にその女性を忘れていたらしく一瞬驚いてから答える。
「お礼を申し上げます。あの状況、可成ピンチでした。」
女性は深々と頭を下げる。
すると髪の毛がふわっと広がり、周囲にはいい香りが。
「(ぅゎいい香り♪)ぃいえいえ。私はただ、観戦料に見合うだけの仕事をしたにすぎませんよ。」
アキがそう言うと、女性はもう一度感謝を込めて礼をする。
「ところで、貴方はこれからどうされるのでしょうか。差し支えなければ教えて頂けますか?」
「特に何もありませんが…というのも、気が付いたら此処にいたという不思議な体験をしたばかりでして。」
そして女性は失笑する。
何が面白かったのか──想像はつくが──わからないアキはきょとんと突っ立っている。
「でしたら、お茶でもいかがでしょうか。ちゃんとした形でお礼がしたいので。」
特に断る理由もないしこの世界のことを聞きたかったのでちょうどいい。アキは女性に付いていった。
◆┫「なにこれ。」┣◆
「お好きなものをどうぞ。」
カフェのような場所に着きメニューを渡されたのだが、
「……」
「…? どうなさいました?」
勿論書いてある文字は日本語ではなく。
「…も、文字が…読めない…です…」
奇跡的に音声言語が一致しているので解読しようと思えば出来るのだが、まあ面倒なのでしたくない。
「! でしたら、ご所望のお飲み物を口頭でお伝えください。」
女性は閃いたように顔を上げ、言った。
「あ、なら珈琲はありますか?」
「承知しました。」
どうやらこの世界にも珈琲はあるらしい。
「私はこれからギルドへ参りますが、貴方は?」
アキはギルドという言葉に耳が反応する。
ファンタジーアニメや小説が大好きなアキにとって、ギルドとはモンスターや魔法と並ぶ程のものだ。
「是非ご一緒させてください!」
目を輝かせるアキに女性は微笑した。
「ところで、自己紹介を忘れておりましたが…えっと… (あ、あれ? 名前が思い出せない?!)」
「ど、どうなさいました?!」
急に固まったアキに、女性は普通に心配する。
「…あの…自分の名前が思い出せないのです…」
理由を聞いた女性は、大事ではなかったことにほっとし、またそれはそれで別の心配をした。
「あら、それは大変ですね。では仮に…カリュナさんとしましょう。」
女性は即興で仮名を付けた。※以後アキをカリュナに置換して表示します。
「カリュナって、少し女の子みたいな名前ですね。」
カリュナは女性から付けてもらった名前に不満を零すが
「はて、カリュナさんは女性ではありませんでしたか?」
女性は首を傾げる。
確かにそう言えば股の辺りに違和がある。
軽く触ってみるも、ナニの感触はなかった。即ち、
性転換してた!
女性の名前は次回明らかに!




