#15 「って、戦闘ってどっから手ェ付けたらいいのかわからんな。」
実は【決闘祭】では、エントリーした本人が自分に賭けることが出来るのだ。
腕に相当な自信がある者の殆どが自分に賭けるという。
ただ、大半が自惚れた者で、そう思われたくないものは自分に賭けたりはしない。
↓
──【決闘祭】前日、チケット販売所
そこに近づく一人の少女。
黄色く、肘の辺りまで伸びた長い髪と、狐のような、長い耳。そして、大きな尻尾。
何か覚悟の決まったらしいキリッとした目をして、また一歩と窓口に近寄る。
「店の従業員証か、何か身分を証明出来るものの提示をお願いします。」
少女を見て、販売員が訊ねる。不正防止のための規則だ。
少女は懐から冒険者の登録証を見せる。
「お預かり致します。少々お待ちください。」
販売員はそれを受け取り、情報を機械に入力していく。
登録証の名前の欄には、ヒルダ・フク・レトラスと書かれていた。
入力が終わった。
「では、購入するチケットをお選びください。その際、一種類しか選べませんのでご注意ください。」
「ヒルダ・フク・レトラスをこれで買えるだけ。」
少女は手持ちの銀貨三枚を取り出す。
銀貨三枚というと、最低限の生活をしていればようやく一週間生きられる程の金だ。
それほどの金を自分に賭けるのは、余程の自信があるのだろうか。
彼女の服装、装備から推測するに、余りお金は持っていなさそうだ。
値段はお世辞にも高いとは言えないような、そんな感じだ。
だが動きやすさを重視した装備をしている。どうやらかなりの目利きらしい。
新米の冒険者に足りないものは、なんといっても資金力だ。
だから彼女のように【決闘祭】に賭けている者もいなくはない。
さて、チケットの購入手続きが済んだようだ。
少女はチケット150枚分の控えを受けとる。
「(これで後はボクが勝つだけ……!)」
そんな決意と共に。
↓
その頃、サナたちは冒険者としての仕事をしていた。
冒険者の仕事は基本的にクエストをこなすことだが、他にも洞窟の探索や野生の魔物の狩りなどがある。
それらとクエストとの違いは、報酬にある。
クエストの場合、依頼主が指定した金額しか受けとることができない。しかし探索や狩りの場合、素材を持ち帰って換金すると、頑張り次第でいくらでも報酬は増える。ただ、後者では安定した収入を得ることは不可能なため、それで生活している者はほぼいない。
しかし今はとにかくお金がないので、こうして稼ぐ必要があるのだ。
幸いにもサナがいるので、どんなに強い魔物でも楽々倒せてしまう。
町から数十km北東にある森を探索中、サナとロゥラの魔物察知魔法に強い反応があった。
◆┫「って、戦闘ってどっから手ェ付けたらいいのかわからんな。」┣◆
振り返るとそこには、ヘリコプター程の大きさの青いドラゴンがいた。
前に一度白竜を見たことがあったがやはりドラゴンは迫力がある。
戦闘開始。
先ず対峙する青い竜が吼えると、白いふわふわしてそうな球体がたくさん召喚される。
サナとロゥラはそれに戸惑っているが、ナユナは大丈夫そうだ。
恐らく白竜と戦った時に同じことを経験したのだろう。
その球体には一つの目が付いていて、全ての目が一斉に開かれる。
《《《ギョロ》》》
その時の音と光景は、それはもう気色悪いものだった。
白竜戦で、この中をナユナは戦っていたのかと思うと、呆気なく思っていたことを訂正したく思う。
「って、戦闘ってどっから手ェ付けたらいいのかわからんな。」
戦う雰囲気を壊すように、平和ボケしたサナの声がした。
考えてみればそうだ。
サナは武術を習っていたわけではないし、やってたとしても体育の授業でかじった程度だ。それも凡そ8年前の話。ちゃんと覚えているはずもない。
さらに言えばそれらは対人戦が前提。ドラゴン相手にするようなものではない。
武器を持っていない、知識も持っていない、経験もない。
さて、どうしたらよいのだろう。
サナが一殴りすれば済む話、とか言うのは悪しからず却下する。
サナが悩んでいると、戦闘経験者であるナユナが突進する。
そしてそのままドラゴンに近づき右の翼に、一撃。
降り下ろした反動を上に逃がして跳び、落下する重力とともに左の翼に、一撃。
無駄のない、洗練された動き。さすがは町最強の冒険者。その肩書きは伊達ではないようだ。
両翼を負傷したドラゴンは、恐らくもう飛べないだろう。
続いてナユナが攻撃している間に用意していたロゥラの魔法が完成したらしい。
ロゥラが右手をつき出すと、黒い炎の球がドラゴン目掛けて射出される。
回りの白い球体を幾つか巻き込みながら進み、目標に当たると爆発するように大きくなり、ドラゴンを包む。
が、
《惜しいな定命の者よ。》
いつの間にかドラゴンは背後におり、黒い炎の中には何もいない。
更に
《《────》》
白い球体から奇妙な音がなると、
「驚愕:魔法を封じられた……?!」
ロゥラの魔法が封じられてしまった。
序でにナユナにもその音の影響が出ているようで、全身が固まってしまっている。
行動できるのはサナだけ。
どうする、戦闘未経験者?
「(ってそもそもなんで二人にだけ影響が?)」
何もしていなかったからだろうか。サナには何も起こっていない。
いや、何もしていなかったからではなさそうだ。
なぜなら掛けた本人、ドラゴンが一番驚いているからだ。
《な、何故?!》
「あ、そっか。」
そしてサナはナユナに教えてもらったあることを思いだし、状況に納得した。




