#10 「自慢:存在意義の確保。」ドヤッ
その後三人で《ゲート》で町まで帰った。
今サナはナユナのベッドに突っ伏している。
「質問:ここがギルドのベース?」
無機的で抑揚のない声、しかし物珍しそうに室内を見る目には輝きがある。
────ロゥラ・メグ・スクルトラ。
表情が乏しく、声も無機的で抑揚がない。見た目は全体的に赤く、小柄。美少女を自称するちょっとあれな感じの子ではあるが、実際そうなのが否めない。だがその見た目はどこか人工的なものが感じられる。
名前の通り紅魔種である彼女は、登録証によると戦力として申し分ないほどの魔法を使えるようだ。……普通のギルドなら。
本来魔法は人類種では、いや、紅魔種以外には使えないはずなのだが、サナはロゥラ以上に沢山の魔法を使えてしまう。そのため、彼女の戦闘での存在意義は無に等しい。なんというか、可哀想だ。
「正確には私の家ですが、そのように考えていただいて結構です。」
「確認:調理場を借りたい。お腹空いた。」
なら、というようにロゥラ。
別に拒否する必要もないので使わせておく。
ロゥラが奥へ行ったことを確認してナユナはサナの近くへ移動する。
「サナ様……」
サナはナユナのいいたいことを察して
「うん。でも今は様子見でいいと思うな。」
「しかし……」
「大丈夫だって、私がいるから。」
宥めるように言う。
↓
暫くして、調理場から美味しい香りが漂う。
ベッドに突っ伏しているサナも、鼻をすんすん鳴らし香りのする方へふらふらっと歩いていく。ナユナもそれについていく。
近付くにつれ、その幸せな香りは一層強くなる。
「推測:二人は朝から今まで何も食べていない。報告:よって三人分作った。」
全てロゥラが作ったらしい。
丁寧に盛り付けられたそれらは美術品の如き美しさを纏い、高級ホテルで出されても何ら違和感のないものだった。
「……じゅるっ」
おっとヨダレが。
ロゥラはそれをテーブルまで運び、セットしていく。
サナ達も席に着き、そして三人で食べ始める。
「ん!!」
美味い。非常に美味い。
「ロゥラさんの調理スキルがここまで高いとは……」
ロゥラへの評価を見直す必要がありそうだ。
完全に胃袋をつかまれた。
これは高く評価出来る。
「自慢:存在意義の確保。」ドヤッ
……これを言わなければもっと良かった。
「そ、存在意義?」
「説明:ギルドにいる意味。必要とされるかどうか。考察:リアノナの戦闘力測定不可。強すぎ。つまり戦闘面では出番なし。イミルムは町での顔パス、及び社交性に優れている。介入の余地なし。よって私は料理番としての存在意義を見出だした。」
そして胸を張って再度言う。
「再度自慢:存在意義を確保した。」ドヤァ
普段は機械のように発声するロゥラだが、このときの声には生物らしさがあった。
◆┫「自慢:存在意義の確保。」ドヤッ┣◆
「報告:セレクタCが適性者を発見。」
「確認した。準備は?」
「返答:95%完了。」
「セレクタCには明日戻ってくるよう伝えろ。それ以外のA,B,D,Eについては至急帰還させろ。」
「承知。」
他の紅魔種と違い、感情のある声で受け答えする全身赤の男性。リィド・メグ・トウラン。
紅魔種の長である彼は、この計画の指揮を執っている。
ここ一、二週間前から、急にここらにはいないはずの魔物が増え出した。
紅魔種は魔法を使えるので、別に被害が出て困っているわけでもなかった。が、数日前。
魔法の効かない魔物が表れ始めた。
全ての生物は体内に魔力を有している。
魔法はその生物の持っている魔力に直接作用するものなので、魔力を多くもつ魔物はその効果があらわれやすい。
しかし魔法が効かないということは、体内に魔力を有さない、生物ですらないということになる。
それを調べる為のサンプルが欲しいのだが、魔法に特化した紅魔種にとって物理攻撃のみでの戦闘は困難。その上その魔物はなかなか強い。
そこである計画を実行することにした。
そこら中の強い魔物にちょっかいを掛け、その近くの町の民にクエストを発行させる。
そして、そのクエストを達成出来た人に、魔法の効かない魔物を倒して貰う。
ちょっかい掛けられた魔物も、巻き込まれた近くの町民も可哀想ではあるが、そこはゴメンネ♥と舌を出して許してもらおう。
「さて、ここからが本番だ。」
リィドはそう言って自身に気合いを入れた。
↓
翌日。
「おはよう、ナユナ。」
眠そうな足取りでリビングへと行くサナ。
リビングではいつものようにナユナが武器の手入れをしている。
ナユナは足音でサナが起きてきたことに気づくと、ぱっと視線を手元からサナへと移し「おはようございます」とにっこりして言った。
いつものことだが、やはり美女の笑顔というのは癒される。
異世界へ来て性別が変わる前の、男としてのサナが、ナユナにとても癒されている。
そんなことは一先ずこの辺りにして、サナは部屋を見渡し、料理番がいないことに気づく。
「あれ? ロゥラは?」
ナユナに訊いてみるが、俯いて首を横に振る。答えられず申し訳ないといったところだろうか。
ナユナの反応に、サナは極めて深刻そうな顔をして、ある問題を言った。
「朝ごはん、どうするの……?」
部屋に数瞬、静寂が満ちた。




