第9話 見返してやる。
「クエストに出発だーー!」
チート装備を装着した幸太はグーにした手を上に上げる。
チート装備の時と、先程の異世界お決まりシャツ姿ではかなりの差がある。
例えるならば異世界ゲーの星5アバター。
「行こー行こー!」
わーいと言わんばかりにルリも続いてグーにした手を上にあげる。
2人はホテルを出て、この前も通った商店街に出る。
「あ、あのお兄ちゃんしってる! この前女の人に殴られて死んじゃった人だ!」
黒髪短髪の鼻水小僧が幸太に指さしていう。
「こ、こら!やめなさい」
お母さんも蔑みの目である。
「俺も知ってるぜ」
「転移してきたやつだろ?なっさけね」
幸太を侮辱する様々な声。
「なぁ兄ちゃん。女の子に殺されたらしいな。一体どんな心境なんだぁ?」
高笑いをしながら歩いている幸太の肩に手を置く酒臭い若者。
「どなたです? あ! その話僕も知ってるんですぅ! あれですよね? 白いシャツに紺色のブーツの! いんやぁだっさいたらありゃしねぇぜ」
幸太も高笑いを始め、酒を飲んでいる若者に絡む。
「こ、幸太?」
心配するルリに優しく。そしてどこか冷たい目線をむけて「きにするな」と合図する。
「んじゃあ俺はクエスト行ってくるわ! 今度暇あったら飲もうな!」
幸太はキョトンとしている男の手を振り払って前に進む。
それにルリも続く。
「なんで何も言い返さないの? 今の幸太ならあんなやつら1発だよ?」
ルリの言うことは最もである。がしかし幸太の考えは違った。
「ルリ。俺もよくわかってない事なんだけどな。この世界は笑ってられる奴が上に行けるようにできてると思うんだ。どれだけ上を向いて生きていけるか。それが大事だと思うんだ」
幸太はそう言って上を向く。
「誰かが言ってたよ。下を向くな。上を向け! 振り返るな。前を向け! さすれば道は開かれるってな」
ニコッと笑顔を作りルリの頭を撫でる。
「うん……。そうだね! 」
ルリは気づいていた。幸太が表情を作り笑っていることに。
でも今それを言ったら幸太の頑張りを無駄にするかのようで口にすることはできなかった。
「そう言えば思い出したんだけどさ。ルリ俺のことお兄ちゃんって呼んでたの覚えてる?」
幸太はニヤニヤと若干いやらしいとも感じられる目でルリを見る。
「そ、そんな頃もありましたねー。アハハ。アハハハー」
棒読みである。
「えー……呼んでくれないの?」
「まぁそこまで言ってほしいのなら言ってあげないこともないけど……」
ルリは顔をプイっと横に向けて頬を赤くする。
「よし! じゃあ今日からルリは俺の事をご主人様と呼べ!」
「却下」
ルリは真顔である。
そんなこんなで集会所前。中に入るといつも通りルキナがいる。
「いらっしゃいませー! 現在集団クエストのイベントで参加自由のクエストがあるんですが行きますか? 星10でかなり危険ですが……」
この広告は集会所に入っていった者に全員に言えと言われている。
実際ルキナはレベルが低い冒険者には言いたくなかった。
なぜなら危ないから。
「行きます」
即答したのは幸太だった。声色は低く目つきも変わっていた。
いつもの明るい雰囲気は無く、ただ獲物を見つめるかのような目だ。
「え……。でもその星10ですよ? 本当に良いのですか……?」
過去にもこの様なイベントがあり、駆け出しの冒険者が一攫千金を狙い出発した事があったそうだ。
その後駆け出しの冒険者は出発したものの、熟練の冒険者についていけなくなり、迷子になり、数日後助け出されたようだ。
その数日間何があっかはしらないが、彼は助け出されて数日後、自らの命を捨て、幸太が数日前までいた世界へと戻ったんだとか。
「行きます」
ルキナの警告を受け入れず言葉を返す。
「で、ではそちらの掲示板にところにお名前とレベルを記入していってください……」
暗い声と表情。また苦しむ人が出るのだと考えたのだ。
ルキナの話を聞くと無言で記入を開始しようとした。
「幸太。待つのです。この世界だとその名前は馴染めないと思うんです。だから偽名の様なもので参加しましょう」
ルリの提案である。
この世界には漢字という概念はないことは幸太も察しつつあった。なぜなら筆記体の様な文字しかなかったから。
不思議とそれが読めるのは異世界ストーリーではよくあることである。
「そうなのか。この名前好きだったんだけどなー。太れるくらい幸せにっておじいちゃんが付けてくれてたみたい」
幸太の名前の由来である。
「そうなんですか。シンプルで私もいいと思います」
またルリは気分を落とす。幸太の名付け親。叔父が亡くなっていることを知っているから。
「んー……。偽名かぁ。外国人風の方がいいの?」
「そうですね。私の場合流嶋梨々花から名前を取りましたよ。るしまの「る」とりりかの「り」でルリなのです」
「なるほどぉ……。野々村幸太でいくと……。ダメだ思いつかん。もう適当にソーマにでもしとくか。うん」
幸太改めソーマは適当である。
「じゃあ私もこれからそう呼ぶことにするのです。」
と、ルリもソーマの改名に乗る。
「おう。頼むわ。」
そしてソーマは再び記入を始める。
Name:ソーマ。
Lv.3
幸太はこの文字を数秒眺めた後、ルリに渡した。
やはりソーマにも悔しさや抵抗はあるのだ。
クエストの募集はソーマとルリが書き終わると同時に終了となる。
まるでレベルが低いやつが来るのを待っていたかのようだ。
くすくす笑いながらソーマ達を見る目はゲスそのものだ。
中には女性もいるのだがそいつらはブスとしておく。
「それでは募集終了! 第3回集合イベントクエストを開始する! 皆馬車に乗れ!」
髭を生やしたオールバックの中年。
装備は海賊風である。
男のかけ声で各々が馬車へ。
もちろんルリとソーマも。
ソーマは馬車に乗り込むと意を決して前を向き鋭い目つきでこう言った。「見返してやる」