第16話 遊撃の奇術師
「フィールドぶっ壊しちゃったしリリア? って人消し飛ばしちゃったし俺大丈夫なのか?」
ソーマは選手控え室でボソボソと独り言を呟く。
「うーん。消し飛ばしたに関してはまた生き返るからいいとしてフィールドはそんな一瞬で直る物なのか?」
ソーマが心配するのは周りからの悪評。
なんだよアイツまたぶっ壊しやがってとクレームがきては15位以内に入っても評判は良くないと考えたのだ。
「ちょっくら見てくるか」
そう言って足を運ばせたのは観戦席。
「えーっと、ベルクとルリはーっと……いや、やめておこう。きっと俺の顔みたら説教の嵐だぜ」
油断してギリギリ勝った戦いだ。ルリがガミガミ言うのは間違いない。
という事でソーマは辺りを見回してルリとベルクがいないことを確認し、空いている席に座る。
椅子の座り心地はあまりいいとは言えない石造。
この大会はA・B・Cの三つに別れており、ソーマがAだったので次はBになる。
「あ、まだフィールド直ってないんだな」
ソーマは自分が破壊したフィールドを見てどうなるのかと様子を伺う。
様子を伺い始めて数秒後。白いローブを着た魔導師らしき男達がフィールドを囲む。
男達は杖を掲げる。
するとその後フィールドは綺麗に元の形へと戻っていった。
落ちていた破片一つ一つまで綺麗に元通りになる。
「すっげぇなぁー」
ソーマはそれを見て感嘆する。
「なんだ兄ちゃん。あんな凄い戦い見してくれたのにあんなフィールドを直すだけの魔法見て感動してんのか?」
話しかけてきたのはムキムキの肉体を大きく露出した大男。
背中には大きな大剣。髪の毛は坊主とシンプルである。いかつい顔がより雰囲気を引き立たせる。
「どもてす。僕この世界にまだ慣れてなくて」
ソーマはアハハ。と笑って誤魔化す。
何かしら誤魔化す時、髪の毛をかくのは癖である。
「慣れてないー? よくわかんねぇやつだな。あのパワーはレベル70は超えてないと出せないはずだ。なのに慣れてないなんてよくわかんねぇな」
男は首を傾げて疑問に思う。
「まぁそこら辺は気にしなくていいんですよ。ところで次は誰が戦うんです?」
ソーマはいかつい顔の男に問う。
「そんなん知らねぇよ。呼ばれるのを待つだけだ」
それに対して雑な対応。
「そこら辺なんか雑だな」
そうしていかつい顔の男と話しをしているうちに時間は経ち、B戦とC戦が終わる。
「さぁ次は昨年度この大会で優勝したキアリスだぁぁあ!!! 彼は15位中5位と好成績を収めている! そんな彼の称号は遊撃の奇術師だぁぁぁぁあ!!」
いつも通り叫び散らす大男。
「続いてその相手をする事になったのはトーマスだ! 彼は今年初参戦で実力に関してはまだ何も掴めておりません!」
そう言われると観戦席からトーマスと思わしき男がフィールドへと跳躍。
金髪に蒼眼。スマートな体つきに軽装。
腰に剣をしまっている。
その鋭い目つきからは気迫のような物を感じる。
「さぁぁあ開戦だぁぁあ!!」
大男が叫び散らす。と共に勝負は始まる。
「そんな薄い装備でいいのかぁい?」
いつもの軽い口調のキアリス。
「装備はした事がなくてね。これでも重装備にしたつもりなんだ。」
冷静にトーマスはキアリスに言葉を返す。
「そっか。それじゃあ」
そう言ってキアリスが足を動かした時にはもうトーマスの姿は見えなかった。
「僕の方から行かせてもらうよ」
姿を見せた時にはキアリスの背後。
既に抜かれた刀身はキアリスの首元へ。
「やるねぇ」
そのまま剣はキアリスの首を吹き飛ばす。
「!?」
切り飛ばしたキアリスの首は「残念でしたぁ」と声を出す。
すると同時にキアリスの体が爆発する。
「かわしたみたいだね」
キアリスはいつものナイフをジャグリングしながら辺りを見回す。
「ちょっとびっくりしたよ」
そう言うとまたキアリスの背後に姿を現す。
「またそれかい?」
キアリスは即座に後ろを振り向きナイフを投げる。
そのナイフはトーマスをすり抜ける。
「それは偽物だよ」
冷たいトーマスの声。
「わぁお」
そう感嘆した時にはトーマスはキアリスの腹部を切り裂いていた。
しかしキアリスの体は、また先程と同じように爆発する。
本体はどこかに隠れているのか……?
トーマスは考える。身体能力で負けることは無いと判断し、これ以上無意味に攻撃を仕掛けるのは意味無いと考えたからだ。
「そぉい」
トーマスの背後からキアリスの声。
キアリスが持つは大型のナタ。
トーマスはそれを剣で防いで後ろへと後退。
「こっちだよぉ?」
キアリスは前にいるはずなのにトーマスの後ろからキアリスの声がした。
「な!?」
急いでトーマスは振り向き剣を振る。
「いやいやこっちなんだなぁ」
その後は上からキアリスが降ってくる。
降りてくると同時にナイフを数個投げる。
それをトーマスは一瞬で剣で弾き飛ばす。
すると横から蹴りが入る。
最初にトーマスが視認したキアリスからだ。
そのまま体は二体目の元へ。
その後二体目がナタを振り下ろす。
そのままキアリスが振り下ろしたナタはキアリスの体に。
「ぐはぁっ……!?」
腹部に刺さったナタがトーマスの腹部を引き裂く。
「面白かったよぉ? 僕と当たらなければ上位に行けたのは間違いないねぇ〜。それじゃあ」
そう言うとトーマスの首元に静かにナイフを落とす。
「終戦だぁぁあ!!!」
そう大男が言うとキアリスはフィールドから降りる。そしてトーマスの体は光となって消えた。
「何だあれ……」
ソーマは思わず唾を飲む。
「分からねぇ。毎年あぁなんだ。なんで5位止まりになったか分かんないくらいあの人は強い。」
いかつい男は言う。
「これ勝てそうにねぇや」
そうソーマは言うとハハ……と冷や汗を垂らしながら笑った。