第14話 開戦
ソーマは珍しく朝早く起き、ミニアス王国の壁を出ていた。
まだ朝日が昇っている最中。いつも見ているはずの景色が何故かいつも以上に美しく見える。
朝日に照らされ、黄金に輝く葉。爽やかな朝の風がソーマの髪をなびかせる。
「大丈夫……だよな」
ふと口にした言葉は、もし負けたら……という心配により出たものである。
ソーマは下を向いて自分の拳を見つめる。マメのできた手は無理をして頑張った証とも言える。
そんな手を見つめて思ったこと。それは「今までの頑張りを無駄にしたくない」であった。
「あぁもう! 迷ってても仕方ない!」
そう言ってソーマはアスリア装備の剣を鞘から抜き、素振りに入る。
「いんやぁ〜頑張ってますねぇ」
陽気な声がする方にソーマは目を向ける。そこにはピエロ姿のキアリスが立っていた。
「え……? どうしてここに?」
素振りを一度やめて剣を鞘に納めてからキアリスの方に向き直る。
「私も参加するからですよ。今日の大会に……」
何故かそれだけ言い残すと「決勝戦であえるといいですねぇ〜」とソーマの耳元で囁き姿を消した。
「なんだったんだ……?」
若干の恐怖を抱きつつも考え込んでちゃダメだと素振りを再開した所でルリとベルクがこちらに向かって走ってきた。
「ソーマーーー!」
と、ルリは手を振りながら笑顔で。
「ソーマさーーん!」
ベルクも同じく笑顔を浮かべてこちらに向かってくる。
それを見てソーマも微笑み手を振り返す。
やがて2人はソーマの元へと辿り着いた。
「ソーマ怪我はない? 体調崩してない? 今ならまだ治癒魔法で治せるけど大丈夫?」
「あぁ。大丈夫だよ」
そうして心配するルリの頭をソーマはポンポンと撫でる。
頭を撫でられてむず痒くなったルリはソーマに抱きつく。
「ど、どうしたの?」
抱きつかれて驚いたソーマは軽く後退する。何より未発達な幼い少女の胸が当たっている。
「頑張ってね! お兄ちゃん!」
ルリはソーマの服にこすり付けていた顔を上げるて言った。
「おう! 頑張るよ!」
そうソーマは言い返す。3年ぶりにお兄ちゃんと呼ばれた喜びを噛みしめながら。
「ちょっとぉ! 何二人でイチャついてるんですか! 僕からも応援させて下さいよ〜」
ベルクが話に参加。
「頑張ってくださいね!」
「いわれなくてもやってやるさ!」
ベルクにグッと親指を立てて合図する。
それに応えるようにしてベルクも親指を立てて返す。
「それじゃ行くか!」
「おー!」
「おー!」
ソーマの掛け声に合わせて2人も「おー!」と声を出す。いつもなら締まらないところが綺麗にまとまる。
そしていつも以上に賑わうミニアス王国の商店街を歩き、闘技場へと足を運ぶ。
まだソーマの事を嘲笑う人間は数え切れぬ程いた。
しかしそんなことは気にしない。後ろは向かず前へ進む。それが今のソーマ達の方針だった。
「ここだな」
キアリスから貰った広告の裏に乗っている地図を見て場所を把握する。
「エントリーはもう済ませてありますよぉ。気にせず行ってきてください!」
手を繋いでいたルリの手は2つある入口の左側に向かっていた。
そこには受付の人達が何人か椅子に座っていた。その中にはルキナの姿も。
「僕達は観戦者席なので向こうですね」
と、反対側の入口へと目を向ける。
「それじゃあソーマさん! 頑張ってください!」
ベルクに続いてルリも「頑張って!」と声をかけた。
「おう! じゃあ行ってくる!」
そうしてソーマは受付へ。
「ルキナちゃ〜ん!」と言いたいところだが忙しそうなので何も声をかけずソーマはルキナの元へ。
「お名前はー?」
いつもの様に明るい声で応じているが、エントリー表やら何やら書き込んでいて顔は上げていない。
「ソーマです」
そう言うとルキナは「受付完了です! そこのAの番号が書かれた紙を持って中へ。」と言って「次の方」と進めていく。
まぁ忙しいから仕方ないか。そう心の中で理解し、闘技場内へと入る。
この闘技場はまるでローマ帝国のコロッセオの様な見た目で一周するだけでもかなり時間がかかりそうである。
闘技場内へ入る細道を抜けると一気に大きな空間へと出る。
そこには何人もの選手が控えていた。
その様にしてソーマは闘技場を一周し終えると案内者が「選手はこちらへ!」と誘導を始めたのでソーマはそれについて行く。
何があるんだ?内心不安でいっぱいだったが「大丈夫」と信じて皆について行った。
やがて列は止まる。
「ちょ! せめぇよ!」
ソーマはムキムキの筋肉に押しつぶされて満員電車状態。
その後花火がパン!と勢いよくなる。
二三発打ち上がった所で「選手入場!」と野太い声が聞こえる。
「うおおおおお!!!!」
男達は叫び一気に、光へ向かって走り出す。そしてソーマは押しつぶされる。
「う、うお! うおおおお!!」
ソーマはまともに声すら出せない状況。ダサすぎて何とも言えない。
「お、お兄ちゃん……」
ルリはそれを見て何やってるんだかとため息をつく。
「ソーマさんらしいです!」
それを楽しげに見ているのはベルクだった。
「さぁぁぁあ! お前ら! 準備はいいかぁぁぁぁぁ!?」
闘技場を上から見下ろす貴族席の上にいる大男が声を上げる。
「うおおおおおお!!!」
選手の男達は雄叫びをあげる。
「うお、うおお、おおおー……」
1人だけしょぼかった。
「それでは開戦だぁぁあ!!!」
「は?」
大男が言ったことに訳が分からないと首を傾げている内に……「おらぁぁぁあ!!」
各地で戦闘が始まっていた。
「ちょまって! えぇぇえ!?」
ソーマはパニクる。
「そこのヒョロいの覚悟しとけー!!」
「平和主義でいこ!?」
そう言うソーマを殴ったはずの男は吹き飛ばされる。
「へ?」
間の抜けた声のソーマ。
「な、なんだあいつは?」
観客がざわめき始める。
「こ、これいける!」
そう言ってソーマは鞘から剣を抜き剣先を地面に向ける。
そして思い切り地面に剣を突き刺す。
「!?」
次の瞬間闘技場の地面が割れる。
観戦者席まで巻き込む威力の暴風が吹き荒れ皆次々に吹き飛ばされていく。
砂ぼこりが舞う中大男が声を上げる。
「1時終戦だーーー!!」
そして砂ぼこりが上がった後に目に入った光景。それはポツポツと人が立っているだけという寂しい場所になっていた。
「これ俺がやったのか?」
ソーマがポカンと周りを見回す中観客は……「うおおおおおおお!!!」と完成をあげ始めた。
流嶋梨々花「ルリ」
幼い頃父親の虐待で死んだ後、ミスティアの元へ。
幼いので転移させることは止めた方がいいという提案でミスティアに引き取られた。
白髪に黒目。ショートカットでとても可愛らしい1面を見せる。
まだ幼さが滲み出ている所がまた良かったり。
身長157
年齢14