第13話 剣術
ソーマはこの前の集団クエストでレベルが38にまであがっていたが、ステータスを上げることができていなかった。
ドレイクの不意打ちのせいである。
だからソーマは大会に出ることを不安に思っていた。
「なぁルリー。いくら俺がチート装備持ってるからって確実に勝てる保証はないと思うんだけどどう思う?」
ソーマはチート装備があると言ってもレベルはたかが3。もしかしたらと考えたのだ。
「そうそう。今私もその可能性を考えてたの。多分ありえると思うんだぁ」
ルリの推測ではレベル70位からなら技術がずば抜けているのであればソーマと対等になる。
もしそうなった時ソーマの負けは確実になる……。
とルリは頭の中で思考回路を巡らせる。
「だよな。俺もただ敵をぶっ飛ばすだけじゃなくてかっこよく倒してみたいからな!」
技術を磨きたい理由は半分以上それだという事に気づきルリは「ハァ……」とため息をつく。
「そうだねぇー……。まぁそうなれば少なからず評判は上がるしそれでも間違ってはないと思うよ」
ルリはいつも通り呆れ顔である。
「さて、それならちゃんとした場所に行きたいよなぁ」
そう言うとルリはどこがいいか考えを巡らせる。
「うーん……。あ、そうだ!」
そう言ってルリが連れてきたのは見渡す限り美しい芝生が広がる草原のある平野だった。
ここはソーマも一度来たことのある場所で、ミニアス王国の出入口を出た所だ。
その場には、「まぁクエストに行くって約束したから」というルリの意見で置物のように芝生の上にベルクが座っていた。
まぁ完璧地味キャラ扱いである。
「お前って地味キャラの極みだよな」
とソーマはベルクの事を嘲笑う。
「ひ、ひどくないですかぁ!? ま、まぁ間違ってないかも知れませんけど……」
「そこは否定しなきゃ」
ソーマがベルクをいじった後否定をしないベルクにルリが蔑みの目で突っ込む。
「も、もういいんですよ!」
「はいはい。じゃあ俺達はやる事やるかな。」
ソーマはベルクの事を軽く受け流してルリに目を向ける。
「うん。そうだね」
そう言うとルリは黄色の魔法陣を作成し、1本の剣を取り出しソーマに渡す。
手持ちは金色でできており、持ち手は丸くなっている。
刀身は美しい銀色である。
「チート装備だと対等じゃないから」
ルリがそう言った事からソーマは後に手合わせすることになると理解する。
「後ベルク君は経験値とステータスを上げたいだろうし、ここに寄ってくるモンスターを討伐してくれないかな。」
ルリは地味キャラに少し位は活躍してもらおうと場を作る。
「はい! 了解です」
そうベルクが返事をすると「じゃあ」といって黄色の魔法陣を制作し、そこからショートボウを取り出す。
美しい曲線を描く弓は、銀色。その弦は鋭く光を放っていた。
弓矢がないところ、攻撃の仕方は特殊なのではないかとソーマは予想した。
するとその場にちょうど良く現れたキメラに狙いを定める。
するとショートボウの周りに緑の美しい風が1本の線となり弓矢となる。
そしてベルクが弓矢から指を離すとキメラの胴体に直撃。
緑色の体毛に覆われた鷹のようなモンスターキメラは地面に落ち、その身をお金と経験値、ステータスへと変えた。
「おおおー……」
思わずソーマは拍手をする。
それに続いて微笑みながらルリが拍手をした。
するとベルクは一礼してまた辺りを見回して警戒する。
ベルクはこの世界の住民で、既にソロで何度かでクエストをクリアしてあるため、レベル18となっており、ここらの敵は難なく倒せるようになっていた。
「大丈夫そうだね! じゃあ」
そう言ってソーマの方に目をやる。
「了解」
ソーマがそう言うとルリの指導は始まる。
ソーマがまず最初に教えてもらったのが持ち方でその後振り方などを教えてもらった後、素振り練習に入った。
そして数分後、ソーマはまともな形に剣を振れるようになっていた。
「うん! そんな感じ」
ルリもソーマの素振りに納得する。
「わかった!」
ソーマは一番いい形で剣の振り方を覚えるため何度も繰り返す。
「多分大丈夫だね! 後は感覚って事で対人練習に行こっか」
ルリはそう言って自らもソーマと同じ剣を黄色の魔法陣から取り出す。
「わかった!」
ソーマは汗を手で拭い、ルリの方へ目を向けて構える。
それを見ると一定の距離を取り、ルリも剣を構える。
ベルクはルリとソーマを守るために弓矢を放ち続けている中、ルリとソーマはお互いに向かい合い剣を構えていた。
ソーマの頭の中ではルリの指導は的確であったがあくまでも指導ができるだけで、本当に剣術が使えるのか……と少々疑っていた。
両者が向き合い、動きを止めている中、先に足を動かしたのはソーマだった。
目には見えるものの、ルリの元へ辿り着くのに一瞬と表してもいいほどの速さだった。
その勢いでソーマは上から剣を力の限り
振り下ろした。
剣を一度横にしてソーマの剣を受け止めた後、左斜め下に剣をずらして受け流す。
するとソーマの体制は崩れ隙ができる。
そこをルリは見逃さず足を入れこみソーマの腹部めがけて横に振り払う。
ソーマはこの時学んだ。ただ力任せにやっていてはだめだ……と。
そんな復習は後にしてと今に振り返りルリの横払いの剣をかわす。
思い切り振り下ろした剣を地面に突き刺し、それに体重をかけて、ジャンプ。体を浮かしてルリの剣を交わした。
その次の行動へとソーマは移る。
地面に降り立つと同時に、剣を抜き、背を向けているルリの背中をめがけて突きを放つ。
ソーマの頭の回転の速さはもちろん凄かった。そしてそれをすぐに実行できるという行動力にもルリは関心をもった。
そんなルリは背後からくる突きを素早く振り返り刀身の真ん中を開けるように手を当てて、その真ん中にソーマの剣を当てる。
たった一度の攻防の中でルリはソーマに才能の様なものを感じた。
何故なら力任せに振り下ろし、すぐ自分の腹部に剣がきたら諦めるであろうところを一瞬でどうすればいいか判断して交わし、次の行動。突きへと移行したのだ。
このソーマの腹部頭の回転速度や実行力。ギリギリまで勝つために頭を回し続ける姿は、才能であると見て間違いない。
「凄いじゃん!」
剣を構えながらソーマに話しかける。
「やっぱ俺って天才だったりする?」
その次の瞬間、ルリが「さぁね」と言った瞬間ルリは先に仕掛けようとソーマの前へ。
ソーマの移動もかなりの速さであったがルリの移動はそれ以上だ。
視界には影が映るだけのように見えた。
「う!?」
ルリの低い体制からの鋭い突きをソーマは無理な体制から受け止める。
「それじゃあ駄目!」
そう言って後ろに体制を崩したソーマの腹部に持ち手部分で打撃を加えて今日の剣術訓練は終わった。
ソーマは腹部を抑えて「いってぇー!」こ声を上げる。
ルリの方が1枚上手だった。もしくはそれ以上。
「ふっふっふー。私を甘く見てはいけないのです。エッヘン」
ルリは両手を腰に当てて「ふん」と鼻息を鳴らす。
ソーマはそれどころでなく痛い。
「あ、あのー……そろそろ限界が近いんで終わりにしてもらっていいですかー?」
弓矢が買うお金が勿体ないので魔法で作り上げた弓を放ち続けていれば疲れるのも当然だ。
「そうだね。ソーマも今日1日素振りと構え方だけで疲れただろうし帰ろっか」
ルリの提案に疲れきったベルクとソーマが賛成する。
その後、すぐ近くにあるミニアス王国への入口から出て、日が暮れていく時間帯。
各々が帰ろうとする中ベルクが提案した。
「今日みんなでご飯食べに行きません? ほら!モンスター倒してお金沢山貰えたんで」
ベルクはお金で大きく膨らんだお金をルリとソーマに見せる。
「お、いいね〜! それはつまり?」
ソーマが口元をニヤッとさせてベルクに聞く。
「僕のおごりです!」
「ふぅぅぅぅう!!」
ベルクの言った発言にソーマは裏声で歓声を上げる。
「ありがとぉ〜ベルク君!」
ルリも目をキラキラさせてベルクに顔を見せる。
「う、うん!どういたしまして!」
少し頬を赤くしながらベルクは赤髪の髪の毛をかく。
その後3人は言葉通り、ベルクの奢りで店に行くことにした。
行く場所は勿論集会所だ。
「いやぁ〜初めてだなぁこう言うの! なんか一丁前に異世界生活してる感じがしてきた!」
ソーマが一番に酒を注文して木製のビールジョッキで豪快に飲む。
「私も飲むー!」
とルリが店員を呼ぼうとする。
「え、ルリは体に良くないからやめといた方がいいだろ。ほら未成年は飲んじゃいけないっていうし」
「う、うるさーい! もう私大人だもん! それにソーマだってまだ未成年じゃん!」
ソーマに対してルリはどうしても飲むと反抗。
「いやいや、どっかの国だと高校生からもう飲んでいいんだぜ?」
「嘘だ……」
ソーマの一言にルリは机に突っ伏して気分を落とす。
「まぁまぁ。今日位はいいんじゃないかな?」
と気前よく言った次の瞬間「背が伸びなくなっても知らないですけど」とぼそっと言う。
「背なんかここ数ヶ月伸びてない……。もういいや! 店員さん! ビール1杯お願いします!」
ルリは机に「バン!」と音を立てて立つと大声で店員に向かって声をかける。
「すいません。当店は16歳以下にお酒はお配りできない仕様となっておりまして……」
ルキナが申し訳なさそうにいつものメイド姿で苦笑いしながら断る。
「理不尽だーーーー!!」
と、世の中に叫び、オレンジジュースを頼んだ。
その姿をソーマは馬鹿にして笑った。そしてクスッとベルクも。
「ベルクさんまで!? ひどい!」
「す、すみません……」
笑いを堪えながらそう言うベルクの姿にルリは「むぅ」とほっぺを膨らませる。
そうして楽しいひと時を過ごした後、各々の帰る場所へと帰っていった。
そんな3人の動きを見ていたのはキアリスだった。
夜中、大分人も減ってきたミニアス王国商店街にある時計塔の上でキアリスは瓶に入っている酒を飲んだ。
仮面の口元はチャックになっており、そこを開けてキアリスは酒を飲む。
「いんやー……楽しみだねぇ。あの子達がどうなっていくのか。はて、報告報告と。」
キアリスはもう1度酒を口に含み、酒の入った瓶を地上へと落とすと屋根の上を歩いていった。
そしてキアリスが辿りついたのは集会所。もう人気はなく、中にはルキナだけ。後片付けをしているのが目に見えた。
「どうもです」
そう軽くルキアに手を振り、カウンターの中に入っていく。
そのカウンターの酒ビンの入っている縦に細長い棚を奥に押すと、そのまま自動ドアの様に横に棚は収納されていく。
そしてルキナは誰にも見られてないことを頷いて知らせる。
そしてキアリスはそのまま中に入り、酒ビンの入っている棚を閉めた。
長い地下階段を降りていくと一つの木製のドアに当たり、そこをキアリスは開ける。
そして中には一つの、まるでどこかの企業の社長が座るような豪華な木製の椅子。机に座っている男にこう言った。
「彼は大会に参加することを決めたようです。作戦通りに進んでますよ」
「了解。今後も監視よろしくねん」
優しそうな目に白い髪の毛。落ち着いた声色の青年が言った。
「わかりました。大会の日は彼の事を見に行くんですか?」
キアリスが白髪の男に質問する。テンションはいつも通りだが少し礼儀正しくなっている。
「あぁ。当たり前じゃないか。だって彼は僕の……なんだから。それじゃあまた。」
白髪の男がそう言うとキアリスは執事の様な礼をしていき元の道を辿り出ていった。
「面白い事になってきたなぁあぁあっと」
体を伸ばして後、白髪の少年は指を「ピン!」と鳴らすとその場から姿を消した。