第11話 忙しい日
「ちょまてって!」
ソーマが言葉を発するが遅かった。
闇属性エンチャントの付いた刀はソーマの頭を真っ二つに……するはずだった。
「え?なにやってんの?」
ドレイクの刀はまるでガラスが割るかのように折れて辺りに飛び散った。
「な!?」
それに対して驚くドレイク。
当たり前だ。☆10モンスターを相手にしても折れなかった刀が一瞬で。そして何も無かったかのように折れたのだから。
「おっさん。俺に何かよう?」
「いや、あの……」
ドレイクは返事すら返せなかった。
「て、撤退だー!!」
ドレイクの一言に皆が馬車に乗り込もうとする。
しかし馬車を囲うように待ち伏せしていた人物達がいた。
皆ピエロ衣装をつけてピエロメイクをしている。
肌は白く目の下には緑の雫が書かれているのが印象的だ。
「逃がさないよん」
ピエロ姿の人間が馬車に寄りかかり足を組んでいる。
ピエロの様な仮面をつけているせいで顔はわからないが、声から察するに男である。
「じゃあ後はお願い」
ピエロ姿の男がそう言うと馬車を取り囲む数10数人程のピエロ達が動き出す。
「な、なんだあいつらわ!」
「なんで剣抜いてこっちに向かってくるんだ!?」
その場は圧倒的勢いでピエロ集団が制圧していった。
しかし誰1人殺してはいない。きぜつさせているのである。
皆が混乱する中ドレイクだけがまずいと察する。
「ちくしょう……」
ドレイクは動きを止めて紫のローブに、黒髪の魔法使いの女に合図をする。
「場所はミニアス王国って事だけでどこに落ちるかは保証ないですからね!」
と魔法使いの女。
「いいから早く!」
焦るドレイク。
「君が主犯格かな〜? ドレイク君」
ピエロの仮面を付けた男はいつの間にかドレイクと魔法使いの頭上にいた。
「な!?」
ナイフの木製の手持ち部分でドレイクの頭を叩きつける。
ドレイクはすんなりと膝から地に倒れる。
地上に降りると足の向きを魔法使いの女に向ける。
その瞬間。姿が消えたと思えば魔法使いの女のすぐ目の前。
腹部にナイフの手持ち部分を打ち付ける。その後ドレイクと同じようにすんなり地面に倒れた。
「後は大丈夫そうかなぁ?」
ピエロ姿の男が一旦周りを見ますと交戦していない3人がいた。
「なんだなんだー?」
と呑気に地面に座り込んでいるソーマ。
「は、早く行きましょう!何やってるんですか!?」
焦る赤髪の少年。
「ワープします?どこに落ちるか分かんないですけど」
移動手段を考えるルリ。
「それは却下!」
ルリの提案をソーマは強く拒絶。
「君達は何をしてるんだい?」
またも一瞬で移動してくるピエロ姿の男。
「あ、俺達このクエストに参加したんですけど色々ゴチャゴチャしててよくわかってないんですよ。」
適当に自分達の状況を伝えるソーマ。
「そ、そんなんで伝わるわけないじゃないですか!」
赤髪の少年に対してこのガキうぜぇと内心思うソーマ。
「あ、なるほどね〜把握把握」
ピエロ姿の男は理解できてしまった。
「うそだろ!?」
つっこみを待っていたのかソーマは驚く。
「まぁあなた達は悪い人じゃないんですね〜。それではこちらについてきてください」
手招きでピエロ姿の男はソーマ達を導く。
「あ〜よく分かんないけど了解」
ソーマはそう言ってピエロ姿の男に付いていくことにした。
ソーマに続いてルリ。赤髪の少年もついていく。
そして4人が通るのは気絶した冒険者達の転がっている岩山。
若干怖い。
「あ、おつかれさん」
交戦が終わったピエロ達に手を振りながら言う。
「もう戻っていいよー」
そう言うと皆一斉に姿を消した。
「え、瞬間移動って危ないんじゃないの?」
ソーマの疑問。
「移動したい場所に転送陣を作っておくと変な所に落ちないんだよ」
ルリの解説。
「え、それ俺らもやらない?」
「やろうとしてたけど忘れちゃって……テヘッ」
「許す」
いつ見てもルリのテヘは可愛いのでソーマは許してしまう。
「さぁてさて? 君達にいくつか質問したいんだけどいいかな?」
陽気な声質のピエロ姿の男。
「いいですよー」
ソーマが許可を出す。
「ありがとう。まず僕の名前はキアリス」
ピエロ姿の男の自己紹介。
「よろしくね?」
そう言って白い手袋を脱ぎ、手を差し出す。
「よろしくですよろしくです」
ソーマが握手する。
するとピエロは赤髪の少年にも手を差し出し、握手をする。次に腰を低くしてルリに握手。
背は175くらいだろうか。
ルリがいつもより小さく見える。
「今回君達はここに何も知らずに参加したんですか?」
キアリスの質問。
「んー……。星10クエストで沢山の人で行くってことぐらいしか知らないです」
ソーマが質問に答える。
いつもしっかりしているルリは案外人見知り。ということで今はソーマの後ろに隠れている。
「ふむふむ」
キアリスは嘘はついてないようだな。と頭の中で判断。
「おうけい! 少し我々についてきて貰っていいかい?」
キアリスはソーマ達に向かって言った。
「よくわかんないけどいいですよ」
ソーマはそう言葉を返すとキアリスは歩き出す。
それに続いて3人も歩き出す。
そのまま馬車に乗り込むとキアリスが喋り出す。
「君はこの集団クエストで何が起ころうとしていたのか知っているかい?」
キアリスはこの集団クエストの事をずっと怪しんでいた。
そして今回キアリスがこの場にこれたのは許可があってのこと。
その許可を出したのは王国だ。なぜなら被害が多すぎるから。
毎年の様に駆け出し冒険者が行方不明になっては助けられてうつ状態で帰ってくる。
その後うつになった冒険者は働く事をやめ自殺。ソーマがいた現実世界に行くことになる。
そのせいでこのアスリアの人口は次々に減っていっている。
そこで何とかしようと実力者に頼んで止めてもらおうとなった。
それがキアリスが率いるギルドピエロのメンバーだったのだ。
殺さなかったのは後に何故このような事をしていたのかを教えてもらうため等の話をキアリスはした。
「なるほどー」
「話を聞くために殺さなかったってことは何か悪い事があるって判断したからなのかな? 疑うべき何かがあるからなのかな?」
全く話を理解していないソーマとこの話に興味を持つルリ。
「そういう事だね。それについては僕らもわかっちゃいないんだ。このまま王国から捜査を引き続きお願いしますと言われればいつかわかる日が来るだろうけど」
キアリスはそう返事を返す。
「なるほどです」
と、ルリは言った。
そうして話は一旦終わりを迎えるとすぐ王都があった。
「それでは今回はこれでお開きにしましょう。また何か呼び出したい時があるかもしれません。その時はルキナさんに伝言してもらうように頼みます」
そう言うと馬車を降りて仲間達の元へ行き帰っていった。
「なんかよくわかんないけどめんどくさいことなんだな。今回のことって」
自分には関係ないとソーマは適当に考える。
「そうですね 」
「あんまりそういうのには関わりたくないですよね」
ルリに引き続き赤髪の少年。
「そう言えばお前いつまで付いてくるの?」
ソーマはきいてみる。
「あ、このギルドに参加させて貰っていいですか?その……。冒険者で仲良くなったのは二人が初めてなので」
もじもじと喋り出す赤髪の少年。
「ルリさーん」
ソーマはルリにはなしをふった。
「いいですよー」
適当である。
「ほ、本当ですか!?」
赤髪の少年は歓喜して声を上げる。
「はい。まぁ頑張ってついてきてください。」
疲れたのか眠そうにルリは答える。
「じゃあよろしくな。名前は?」
いつものように元気がない言葉ではあるがソーマはぐっと親指を立てる。
「はい! 宜しくお願いします! 名前なベルクと申します!」
そうして赤髪の少年ベルクが仲間に加わり今日は解散した。
「今日は1日忙しかったな……」
そんな事をソーマは独り言で言った。