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第弐楽章:実在ディストピア

ももクロウが西の丘で出会った青いドレスの女性の正体は、何と街道随一の強国である『青き丘の国』の皇女、明凛であった。


明凛皇女は青き丘の国で最強とうたわれた剣士、ヒャ=ダインを探す旅をしていたところ、魔界の鬼族の襲撃を受けてしまったのだ。


間一髪、鬼族を追い払い明凛皇女の危機を救ったももクロウであったが、鬼族の再襲来を受けフルボッコにされてしまう。


だがそこへ思いもよらない援軍が現れる。


そして辺境の星屑村に迫る危機。


ももクロウは鬼族の襲来を受け焼け野原になってしまった星屑村を目撃し、ただただ慟哭することしかできなかった――――。


╋――――――――――――――――――――……

┃■第弐楽章:実在ディストピア

╋――――――――――――――――――――……


 ももクロウは明凛皇女にかける言葉が思いつかず、さっきからもじもじしちゃってんの。


 意外なことに、先に沈黙を破るのは明凛皇女の方からなんだよ。


明凛皇女「もし、勇者様。お名前は?」


ももクロウ「勇者ってガラじゃないけど、わたしは星屑村のももクロウ…」


 なぜか『星屑村』という言葉を聞いて、明凛皇女が過剰に反応するんだ。


明凛皇女「ももクロウ殿は星屑村の方なのですね!それではヒャ=ダイン・サントハイムという人物にお心当たりはございませんかっ!?」


ももクロウ「へ?いやぁウチの村にはそんなハイカラな名前の人はいないと思うけど…」


明凛皇女「ひょっとするとヒャ=ダイン・ケノービと名乗っているかもしれません。父の古い友人で剣の達人なのです。実はわたくしと侍従長はその方を訪ねるために、これまでずっと鬼から逃れて旅をしてきたのです」


ももクロウ「そのヒャ=ダイン、なんとかという人は星屑村に住んでいるの?」


明凛皇女「あくまで噂にすぎませんが」


ももクロウ(ウチの村にそんな人いたかなぁ?そもそもヒャ=ダインって日本人なのかな?)


 星屑村ってオイラの中の設定だと、数百人規模の小さな村なわけ。


 だからお互いにだいたい顔見知りなんだよね。


 ももクロウは残念ながらその人には心当たりが無かったけど、ひとまず星屑村に帰ることにするの。


 侍従長の亡骸を埋めると、ももクロウと明凛皇女は馬車で星屑村を目指すんだ。


 移動の間に明凛皇女がももクロウに聞かせた話を簡単にまとめるね。


-------------------------------------------

・まず有権者に訴えたいのは、ヒャ=ダインという人物は王国で最強とうたわれた剣士のひとりだった、ということ。

・ヒャ=ダインは今から十六年ほど前に富国有徳王の密命で旅に出たらしいが、それ以降の足取りは不明である。

・昨年、青き丘の国の王城である『破魔待城ハママツジョウ』は魔界の鬼族に包囲された。

・その際に、富国有徳王は明凛皇女にヒャ=ダインを探し出して、連れ戻るように指示をした。

・明凛皇女は百人くらいの手勢を連れて鬼族の包囲を強行突破して、城を脱出することに成功した。

・そして旅をしているであろうヒャ=ダインを連れ戻すため、彼を追いかけた。

・しかし残念ながら彼を連れ戻す前に王城は陥落し、国主である富国有徳王は討たれてしまった。

・で、明凛皇女の方も何度も鬼族に追撃され、つい先ほど最後に残った従者を失った。

-------------------------------------------


 まあおおよそこんな感じの話をするわけ。


ももクロウ「なるほど。そんなことがあったのね」


明凛皇女「今さらヒャ=ダイン殿を探し出すことが出来たとしても、もう手遅れかもしれないのは分かっています。ですが、もし彼がわたくしに力を貸してくださるのであれば、国を奪った『沙羯羅竜王シャカツラリュウオウ』の支配から民を解放したいと願っているのです」


ももクロウ「そうですか…」


 そんな会話をしながらも、実はももクロウは明凛皇女の美しさにみとれてんの。


 その美しさは感嘆に値するなーと、本心からそう思って見ているわけ。


 明凛皇女は165センチくらいの身長で、すごくスタイルがいいのね。


 すらりとした四肢に白磁を思わせる透明感のある肌が特徴で、顔のパーツ的には少しぽってりとした唇が愛くるしい。

澄んだ瞳はどこまでも理知的。


 そして凛々しい眉毛に意志の強さのようなものを感じさせる女性なの。


 ももクロウは身長156センチくらいだし、山の中で育っているからおしゃれとか全然してなくて、都会の女性ってこうなんだぁ、みたいな感じで感心しちゃうの。


 ももクロウ(やっぱり高貴な生まれの人は違うわぁー。こんなに綺麗な人は今まで出会ったことがないわ、いやマジで)




◆  ◆   ◆




 そんなこんなでそれからさらに一時間ほど馬車に揺られていると、ももクロウたちは『尼狐道ニコドウ』という街道に出る。


 そこで、ふたたび鬼族に襲われちゃうんだよ。


 たぶんねさっき追い払った鬼から『すげぇ強い奴が助っ人になった』的な情報が入っていて、今回は鬼たちも万全の態勢で襲ってくるんだよ。


 だいたい十騎くらいかな。騎馬隊で向かってくるの。


 鬼たちは馬車の左右から、持っていた六角鉄棒をガツガツ打ちおろしてくる。


 ももクロウもさっきの鬼から奪った六角鉄棒で、ことごとくこれを払いのける。


 それでも何度目かの斬撃が打ちおろされた時、ももクロウはついにバランスを崩して馬への指示を誤ってしまうの。


 4頭の馬は折り重なるようにして倒れこんでしまうんだ。


 ももクロウは馬車が横倒しになる直前に、明凛皇女を抱きかかえるようにして地面に飛び降りる。


 生まれつき体が柔らかく、幼少から新体操やダンスで鍛えていたので、空中での姿勢制御には結構自信があったんだけど、さすがにこの状況では、着地を決めることができない。


 右肩から地面にたたきつけられた後、明凛皇女と抱き合ったままの状態でゴロゴロゴローって感じで、何メートルかすっ飛ばされちゃうの。


 ももクロウはすぐに立ち上がると、自分を鼓舞する意味もあって大声を張り上げる。


ももクロウ「わたしは星屑村のももクロウ!死にたい奴はどっからでーもかかってこいッ!」


 でも実はその時、ももクロウは右肩を脱臼してしまい、使えるのは左手一本のみ。


 それから頭からの出血が右目の視界を奪っているため、かなり戦闘力が低い状態。


 だから周囲を鬼たちにぐるりと囲まれて、あっさりとフルボッコにされちゃうの。


 それで、あぁ万事休す、と思ったその時、助けが現れるって展開なんだ。


 まず最初に、後ろの方にいた数匹の鬼たちが一瞬ではじけ飛ぶ。


 見ると黒いフード付きマントをはおった男の人が、光る剣を構えて立っているんだ。


 その男の人は次々と鬼たちを切り伏せ、あっという間に全滅させるとちょっとカッコつけながらこう言うの。


光る剣の男「安心せい。峰打ちじゃ」


ももクロウは遠のく意識の中でその剣士の顔を見る。


ももクロウ(あれは、炭焼きの山田さんじゃん…?)


 そんでもってそのまま気を失っちゃうんだ。




◆  ◆   ◆




 その日の夕方になって、ももクロウはようやく目を覚ますの。


 ももクロウの様子を不安げに見守っていた明凛皇女の表情が、ぱぁっと明るくなるのね。


炭焼きの山田「おや、目が覚めたかい?」


ももクロウ「あ、山田さん…助けてくれてありがとう」


明凛皇女「ももクロウ殿、気分はどうですか?」


ももクロウ「うん、もう大丈夫です。あイテテ…」


 実際のところ全然大丈夫じゃないんだけど、とりあえず強がってみちゃうんだよね、こういう時は。


 ももクロウが寝かされていたのは山田さんの炭焼き小屋の居間で、明凛皇女はつきっきりで看病していたんだ。


炭焼きの山田「腹減ったろう。なんか食うか?」


ももクロウ「すみません。助かります」


 山田さんは手早く支度を済ませると、三人で食べる初めての夕食が始まる。


炭焼きの山田「さて、まずは自己紹介かな。俺は山田。ここの村の人からは嫌われている流れ者さ。ははは。ももクロウのことは良く知っている。だがお嬢さんは見かけない顔だね」


明凛皇女「はい。わたくしは青き丘の国の皇女、明凛と申します。ところで山田様はヒャ=ダイン・サントハイムという人物にお心当たりはございませんか?」


 明凛皇女の一言で場の空気が凍りついちゃう。


 少しの沈黙の後、山田さんが答える。


炭焼きの山田「…俺は今、山田健一と名乗っています。こらからは俺のことを今・山田と呼んでください」


ももクロウ「えええっ、まさか山田さんがヒャ=ダインさんってことなの!?」


明凛皇女「わたくしは、亡き父の命により貴方を探しておりました。もし貴方が力を貸してくださるのであれば、沙羯羅竜王に奪われた国を取り戻し、民を解放したいと願っているのです」


今・山田「人違いですね。俺には何の事だかさっぱり。それより風呂を沸かしましょう。ももクロウは傷にしみると思うが、泥を落としておいた方がいい」


 結局最後まで今・山田さんが自分をヒャ=ダインと認めなかったので、ふたりは今日のところは諦めることにしたよ。


 ドラム缶を利用した風呂に交代でつかると、小屋の二階に用意されたそれぞれのベッドに横になったの。


ももクロウ「ねえ明凛様。本当に今・山田さんがヒャ=ダインさんだと思う?」


明凛皇女「恐らくそうではないかと思います。まず第一にあの剣の腕前。そして次に今・山田殿が使った武器です。あれは『電弧放電式光剣ライトセーバー』といって、『モノノフの騎士モノノフノキシ』が使う物なのです」


 『モノノフ騎士団』というのは、古代の修道的平和維持組織。って書くと難しく聞こえるけど、要するにこれまで世界の平和を守ってきた存在なの。


 万物を司る力とされる『桃魂ピーチソウル』を操ると言われている、という設定ね。


ももクロウ「どうして今・山田さんは自分がヒャ=ダインだ、って認めないのかなぁ?」


明凛皇女「分かりません。ひょっとすると父から下された指令に関係があるのかもしれません」


 その後、ももクロウと明凛皇女はお互いの事についてたくさんお話しするの。


 自分の生い立ちのこと。


 好きな食べ物とか、趣味だとか、お休みの日の過ごし方とか、好きな男の子の話とか(笑)


 いわゆるガールズトークってやつ?


 二人とも話せば話すほど、どんどん親密になっていったんだ。


ももクロウ「不思議だなぁ。明凛様とは初めて会った気がしない。こんなにも気が合う人が世の中にいるなんて信じられないや」


明凛皇女「わたくしもそう思いますわ。ももクロウ殿には出会うべくして出会った。そんな気がいたします」


ももクロウ「えへへ。わたしもそう思う」


明凛皇女「ところでももクロウ殿、まだ傷は痛みますか?」


ももクロウ「ううん、全然。肩の脱臼は今・山田さんが治してくれたし、それ以外はすり傷だから」


明凛皇女「すみませんでした。わたくしのせいで騒動に巻き込んでしまって…」


ももクロウ「大丈夫だよ。元気を出して、ね?」


明凛皇女「ももクロウ殿…」


ももクロウ「はい」


明凛皇女「…そちらへ行っても良いでしょうか?」


ももクロウ「へ?こっちのベッドへ?うーん、うーん…い、良いですよ」


 明凛皇女は少し緊張した顔でももクロウのベッドへもぐりこんでいくの。


 ドキドキ…。


 ももクロウは何か冗談を言って場を和ませようとしたんだけど、明凛皇女のすすり泣く声に気がつく。


 今日はいろんなことがあったし、明凛皇女が泣くのも当然だよね。


 ももクロウはいつまでも明凛皇女の頭をなでてあげたんだ。




◆  ◆   ◆




 朝になってももクロウはおいしそうな匂いで目を覚ますの。


 まだ眠い目をこすりながら下の階へ降りてゆくと、今・山田さんが朝食の支度をしているところだったよ。


 そしてももクロウに続いて明凛皇女も降りてくるんだ。


今・山田「おはよう ございます。ゆうべは おたのしみでしたね」


ももクロウ「ふぁーっ。んーっゴメン、今何て言ったの?」


今・山田「気にするな。宿屋が朝のあいさつで使う慣用句だ」


ももクロウ「ふーん…。あっ、なんだかとってもおいしそう! ねえ明凛様見て、わっ明凛様、耳まで真っ赤だけどどうしたの!?」


明凛皇女「もう! 知らないっ!」


 えーと、ストーリーとは全く関係のないくだりだけど、思いついたら書かずにはいられなかったので書いちゃった。

すみません(笑)


今・山田「さあ、朝食にしよう。食ったら一度家に戻るといい。純乃介じいさんとゆみ婆っぱも心配しているだろうからな」


ももクロウ「ああ、そっかー。ん?なんだよぅ今・山田さんが昨日のうちに、ここに泊まるって伝えてくれれば良かったのにっ!」


今・山田「すまん。しかし俺は村の人には嫌われているからな…」


ももクロウ「変なの。今・山田さんは全然悪い人じゃないのにね」


 楽しい語らいと共に朝食が始まったわけなんだけれど、この後とんでもない事件が起こってしまうの。


 その知らせは星屑村のお祭りとかの仕切りや演出をやっている的屋のおっさんが、息もたえだえにこの炭焼き小屋に転がり込んでくることでもたらされるんだ。


 村の人から『あつのりん』という愛称で呼ばれているそのおっさんは勢いよく土間に転がり込んでくると、そのまま仰向けに倒れこんでしまうの。


 的屋のおっさん「や、山田さん、はーはー、い、居るかい?ぜーぜー、た、大変だ、む、村が、星屑村が…」


今・山田「あつのりんさん、どうしたんだい。あんたがウチを訪ねてくるなんて珍しいこともあるもんだ」


 的屋のおっさん「そ、それがよう、あっ、ももクロウ!お前こんなところにいたのか!?大変だよ、じいさんとばあさんが、い、いやそれだけじゃねぇんだ、村が大変なことになっちまったんだ!」


 なかばパニックを起こしている的屋のおっさんを馬車に乗せ、一行は星屑村へ急ぐ。。


 道すがら、的屋のおっさんからあらかたの話は聞けたんだけど、どうやらこういうことらしい。


-------------------------------------------

・昨日の晩、氷帝・沙羯羅竜王の配下と名乗る鬼の一群が村にやってきた。

・ももクロウというガキが姫をかくまっているはずだから突き出せ、と。

・しかしももクロウと姫が見つからなかったので、怒った鬼たちが村に火を放ち、村人を全員殺してしまった。

・ただひとり、的屋のおっさんだけは用水路の中に身を隠し、そこで夜明けまで隠れていていた。

・朝になって村から逃げる途中、炭焼き小屋の前を通りかかったので助けを求めて転がり込んだ。

-------------------------------------------


 話を聞きながらももクロウは涙を流して後悔するの。


 きっと自分が星屑村のももクロウだと名乗ってしまったばっかりに、おじいさんやおばあさん、そしてなんの罪もない村人を巻き込んでしまったことに気付いたから。


 馬車が星屑村に着くと、もうそこにはかつての村の面影は残っていないんだ。


 ももクロウの住んでいた家も、真っ黒に焼けおちて、まだあちらこちらからうっすら煙が昇っている状態だよ。


 ももクロウは家の前で地面にへたり込み、うつ伏せのまま泣きじゃくることしか出来なかったんだ。


 うむっ。また暗い話になってしまった。


― 第弐楽章:実在ディストピア 完 ―

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