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第壱楽章:天手力女

星屑村――――。


むかしむかし、この辺境の村に仲むつまじい老夫婦が暮らしておったそうな。


ある日、おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から見たこともないような大きな桃が流れてきたそうじゃ。


おばあさんがその桃を持ち帰って食べようとすると、なんと桃の中から玉のような赤ん坊が“エビ反り”をしながら空中に飛び出してきたんじゃそうな。


これにはおじいさんもおばあさんもびっくり仰天。


じゃが、ふたりは天からの授かりものだと大喜びをして、その赤ん坊を大切に育てることにしたんじゃ。


赤ん坊の名前は、桃から生まれた「ももクロウ」


将来何かの歴史を更新するような人物になると言われたちょっぴりおでこの広い女の子はこうして生まれたんじゃそうな。

╋――――――――――――――――――――……

┃■第壱楽章:天手力女

╋――――――――――――――――――――……


 ちょっと前のことなんだけどさあ、晩御飯食べている時になんかスゲェうわーって感じで話が降りてきたっつーか、あふれてきたって感じになったんだよね。


 とりあえず思いついたことを忘れないウチに書きとめてみたんだけど、まあとにかく長い話になるかもだけどつきあってよ。


 まず、むかしむかし、あるところに、とても仲の良いおじいさんとおばあさんが暮らしておりました。ってことにしようか。


 で、おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に出るのが日課だったという設定ね。


 ある日、おばあさんが川で洗濯してると、それまでに見たこともないような大きな『桃』が川上から流れてきました、とさ。


ドンブラコッコ ドンブラコ

ドンブラコッコ ドンブラコ

ドンブラコココ…コココ?

ドンブラ…コココ コーコ コッコッコー

コココ コーコ コッコッ コッコッコッコッコー

コーコ コーコ☆ナーツ!!!


 あ、ごめんねー。いきなり話が脱線しちゃって。


 妙にテンションが上がってしまったよ(笑)


 それでおばあさんはその桃を川から拾い上げて、でっかい木桶に入れて家に持ち帰るわけ。


 夕方になるとおじいさんが山から帰ってきたんで、まず晩御飯を食べて、んじゃそろそろあの桃食べますか、って話になるわけよ。


 おばあさんが桃に包丁を入れようとしたまさにその瞬間、桃がぷるぷると震えだして、真ん中からぱっくりとふたつに割れて『何か』が飛び出してくんの。


赤ん坊「ほんぎゃー!ほんぎゃー!」


 なんと桃の中から玉のような赤ん坊が“エビ反り”をしながら空中に飛び出してきたって話ですよ!


 そりゃあおじいさんもおばあさんもびっくり仰天するわな。


 でもね、ふたりには子どもがいなかったから、天からの授かりものだってことで大喜びしてその赤ん坊を大切に育てることにするんだよ。


おじいさん「おばあさんや、この子の名前なんじゃが…桃から生まれてきた子なんじゃから『ももクロウ』というのはどうじゃろう?」


おばあさん「ええ、おじいさん。ほんにぴったりの名じゃと思いますよ」


おじいさん「それにしてもエビ反りをしながら空中に飛び出してきた赤ん坊など聞いたことが無い。この子は将来何かの歴史を更新するような人物になるやもしれんな」


 ももクロウって名付けられたその赤ん坊は、おじいさんからアーティストの発掘、育成、ブランディング、販売戦略等のプランニングプロセスとかを教えてもらったり、おばあさんからは一子相伝の独特なダンスを習ってスクスクと成長していくんだよ。


 あ、たぶん『どれも鬼退治にはぜんぜん関係ないスキルじゃん!』って思ったよね。


 もちろんオイラもそう思うんだけど、とりあえず今はそういうことにしておいてよ。


 成長していくと、ももクロウはどんどん強くなってって、村一番の力自慢になるの。


 もはや力くらべとかじゃ、ももクロウに勝てる大人は誰もいなくなってしまう、っていうね。


 だけどね、ももクロウは単に力が強いってだけじゃなくって、優しくて責任感も強い子に育ったから、村の人たちからもすごく可愛がられたって感じなんだ。




◆  ◆   ◆




 ある日、ももクロウは飼っていたペットを連れて散歩に出かけンのよ。


ももクロウ「おじいさん、おばあさん、今から散歩に行ってくるね」


おばあさん「行ってらっしゃい。夕食までには帰ってくるんですよ」


おじいさん「気をつけてな。ところで途中で『炭焼きの山田スミヤキノヤマダ』に出会っても相手にしてはいかんぞ」


ももクロウ「分かってるって!それじゃあ行ってきまーす。キャロ!モカ!ピーチ!行くよー!」


ももクロウ(おじいさんもそうだけど、どうして村の人たちは炭焼きの山田さんのことをあんなに嫌うのかな? わたしには悪い人には見えないんだけど……)


 炭焼きの山田さんっていうのは、星屑村からは少し離れた場所に独りで暮らしている流れ者のおじさんなんだけど、まあおじさんといってもまだ三十ちょい?


 ちょうどももクロウが生まれた頃にこのあたりにやってきたんだけど、自分の素性を全然明かさないもんだから、村の人からは結構気味悪がられている人なのね。


 で、ももクロウは散歩の途中でに香水屋さんの前で村の人が井戸端会議をしているところに出くわすんだ。


 井戸端会議をしていたのは香水屋の主人とそのゲーム仲間のボート屋さん。それから戦場に出向いて写真を撮っている写真家の三人。


 ももクロウにとっては見知った人ばっかだったんで、自分も話題に参加しようと思って声をかけたんだ。


ももクロウ「こーんにーちーはー!」


ボート屋「きゃっ!ああびっくりした。急に声をかけるからびっくりするじゃない」


 このボート屋さんは驚くとなぜか後ろにジャンプするクセがあって、村の人たちからはボート屋の“秘技:猫ジャンプ”と呼ばれているんだ。


 …うん、ごめん。ホントに関係ない話だね。


香水屋「こんにちは、ももクロウちゃん。天気が良いからお散歩?」


ももクロウ「そうなの。ねえ、ところでみんなでなんのお話していたの?」


ボート屋「いよいよ『預言の書』に書かれていた『黒い終末カブラ・サダブラ』が近づいているんじゃないか、という話よ」


ももクロウ「ねえ『黒い終末カブラ・サダブラ』って?」


香水屋「あら、ももクロウちゃんは『黒い終末カブラ・サダブラ』を知らないの?」


戦場写真家「最近も…、国がひとつ…、壊れてしまったのです…。ついに…、『青き丘の国』も…、鬼の手に落ちて…、『暗黒郷ディストピア』に…、されてしまったのです…。私は…、その様子を…、このカメラに…、納めてきたのです…」


 言い忘れてたんだけど、この戦場写真家はなぜか一語一語を区切って、妙にゆっくり話すのがクセなんだ。


香水屋「そうやって鬼の支配が広がると、この世界から『色』が失われて『黒い終末カブラ・サダブラ』がやってくるんだって。なんでも鬼は『色』を食べるらしいのよ…」


ももクロウ「そんなのイヤだ! ねえ、どうすればいいの?」


ボート屋「そりゃあ鬼を退治するしかないでしょうね。でもねももクロウちゃん。あなた間違っても鬼を退治しようなんて思っちゃいけないわよ?いくらあなたが力自慢だからといってもまだ子供なんだし。さすがに鬼にはかなわないんだからね」


香水屋「なんていったって、あの『青き丘の国』の王様ですら、かなわなかったというんですからね…」


 『青き丘の国』っていうのは、ももクロウの住む星屑村のはるか西方にある大きな国なんだよ。


 まあ「ある」っていうか「あった」って感じ?


 なんでかっていうと、二十年くらい前から魔界の鬼族からたびたび侵略を受けていて、最初のうちは結構イイ感じで抵抗していたんだけど、ここ数年で鬼族にどんどんやられちゃって、ついに王様がいたお城は陥落しちゃうんだよ。


 つまり国が無くなっちゃうわけ。


 その国の王様は『富国有徳王フコクユウトクオウ』っていう人だったんだけど、籠城戦やってるさなかに鬼族に討たれて死んじゃうの。


 あと王様には『明凛皇女メイリンコウジョ』というお姫様がいたんだけど、その戦いでごちゃごちゃしてる間に行方が分かんなくなっちゃうんだ。あ、ちなみに明凛皇女のお母さんは『香苗凛女王カナリンジョウオウ』といって、明凛皇女を出産してまもなく亡くなってしまったという設定ね。たぶんこの話の中には出てこないと思うけど。


戦場写真家「世界は今…、アイドルを必要としています…。そして世界は…、ももクロウさんを必要としています…。今年は…、世界を舞台に…、活躍して欲しいと思います…。世界中の街で…、ももクロウさんを見かけたら…、僕が…、写真を撮ります…」


ボート屋「もう、ナベさんってば相変わらず意味不明ね。のっちもツッコミ入れてあげて」


香水屋「あはは、アッキーナ、ナベさんがおかしいのは今に始まったことじゃないでしょ?」


 さてさて、そんな話を聞かされたももクロウは、ちょっと気分が落ち込んだっていうか、ズーンって感じになっちゃったから村の人たちと別れて西の丘に向かうの。


 西の丘に登ると目の前に平原がダーッって広がってて、すごい良い景色なんだ。


 そこがももクロウのお気に入りの場所ってことにするよ?


 あとでももクロウがたびたびそこを訪れる理由にしたいから。


 その日の夜――――。


ももクロウ「いーただーきーまーす!」


おばあさん「さあ、たんとお食べ。お前の好きなサラダもたくさんあるからね」


ももクロウ「ねえ、おじいさん。『黒い終末カブラ・サダブラ』を知ってる?今日村の人たちが話していたんだけど」


おじいさん「ああ知っているとも。じゃがな、鬼が色を喰らうというのは迷信じゃ」


ももクロウ「ええっ、そうなの?なぁんだ、それを聞いて安心したわ」


おじいさん「ももクロウ、良くお聞き。皆が『鬼』と呼んでるのは決して妖怪や物の怪の類では無い。実は彼らも我々と同じ人間なのじゃよ…」


ももクロウ「そうなの!?そんな話は初めて聞いたけど…」


おじいさん「彼等とは、もともと文化や言葉が異なるだけなのじゃ。それを昔の人が気味悪がって『鬼』と呼んでしまったんじゃろう…その呼称だけが独り歩きをしてしまったというわけじゃ。なんとも嘆かわしいことじゃのう…」




◆  ◆   ◆




 それから数日後、ももクロウは西の丘に来てるんだ。


 で、そこにはいつもの風景が広がっているんだけど、今日だけは平原のはるか彼方に砂塵が見えンの。


 慌てて双眼鏡を構えると、『何か』が砂塵を巻き上げてこっちに向かって移動してくるんだ。


 で、それが何なのかが分からないから、ひとまずももクロウはそこらへんの茂みに隠れて待つことにしたよ。


 やがて砂塵の正体が明らかになるんだけれど、それは何かっていうと四頭立ての馬車が数匹の鬼に追われているんだよ。


 その馬車は漆塗りに金細工とが施されたりしているかなり豪華ゴージャスな感じので、そういうのは『儀装馬車ギソウバシャ』っていうらしいんだけど、とにかくものすごい高貴な人物が乗っている風のヤツなんだよ、想像つく?


 儀装馬車を操っていた御者は小太りで、おかっぱ頭に眼鏡をかけた気の弱そうな男なの。


 ちょっとくちびるがぶ厚かったりしてね。


 たまーに護身弩クロスボウで鬼を攻撃しているんだけど、慌てふためいているから全然的に当たらないっていう(笑)


 気持ちは分かるけど、もっと落ち着いてしっかりと狙いを定めれば良いのにね。


 そうこうしているウチに馬車に異変が起きるんだよ。


 片側の前輪が岩かなんかに乗り上げた反動で、馬車は横転して止まってしまうんだ。


 御者はその勢いで座席からポーンと投げ出され、そのまま地面にたたきつけられて動かなくなっちゃうの。


ももクロウ(あー、これヤバイね)


 その光景を見てついにももクロウが動く。


 実はももクロウは今回生まれて初めて鬼を見たわけ。


 鬼たちはこれまでにももクロウが見たこともないような奇抜な格好をしているって設定なの。


 あと赤とか青とかの鮮やかな色彩でボディペイントしたり、頭に角をかたどった飾りを付けたりしていて、まぁ確かに文化的な背景が自分たちとは違うなーということをそこで実感するのね。


 とは言え、やっぱりおじいさんに教えられたとおり、中身は自分たちと同じ人間と変わりないなーと思って見ているんだ。


 で、その時点までは、ももクロウもまだ『実際、鬼ってどうなの?』って思ってるの。


 だって確かに同じ人間には見えるけど、やたらタフでちょっとくらいの攻撃じゃ全然効果がなかったらヤバイじゃん?


 だけど馬車がコケちゃったから、もうしょうがないかって感じで飛び出していくわけ。


 拳くらいのサイズの石を拾って、全速力で駆け出すももクロウ。


 一番後ろにいた鬼がももクロウの足音に気がついて振り向いた瞬間、持っていた石を鬼の顔面にフルスイングでぶち込む!


 で、ももクロウ的にはもし今の攻撃に効果がなかったら、申し訳ないけれどドロンしますっていう感じかな。


 でも幸いなことに、ももクロウの一撃は相手の行動力を奪うのには十分なのね。


 顔面を強打された鬼は低いうめき声をあげて悶絶しちゃうんだよ。


鬼:B「ダ=ノモニ、ナエマ!オーオ!」


鬼:C「ツ=ヤナクャ!シコイ!エーエ!」


ももクロウ「何言ってるか分かんないよ!でもどうせ悪口なんでしょッ!?これでもくらえッ!」


 石での攻撃に効果があったから、ももクロウにもがぜん余裕が生まれてくるんだ。


 最初に倒した鬼が手放した『六角鉄棒ロッカクカナボウ』を拾い上げると、そのまま一気に残りの鬼に打ちつけたんだ。


 不意を衝かれた鬼はそれぞれダメージを負っちゃって、傷ついた仲間、つまり「鬼:A」を両側から支え、あたふたと逃げて行っちゃったの。


ももクロウ(イガイト カンタン…)


 ももクロウが馬車にもどると、横たわる御者の傍に青いドレスを着た女性がうずくまっているんだ。


 どうやら御者は頭を強く打ったようで、側頭部からかなり出血している様子でね。


 たぶん青いドレスの女性は御者の主なんだろうけど、泣きながらその血を拭き取ってあげているのね。


ももクロウ「鬼は去ったわ。安心して」


青いドレスの女性「はい。危ないところを助けてくださり感謝いたします」


ももクロウ「見たところ、あなたにはお怪我はないようね。だけど…お伴の方は…」


 御者の出血は収まる気配がない。


 ももクロウは一応止血のため、持っていた『Keep Whiteberet Save The World』と書かれた派手な柄のタオルを御者の頭部へ巻きつけてあげたよ。


 でも心の中では「恐らくこの人はもう永くはないだろうな」と感じている。


 同時に「こりゃ洗濯しても落ちないだろうなぁ」とも考えていたりしてね。


 あはは、それだとちょっと性格悪いかな?


御者「う…、姫様…ご無事、ですか…?」


青いドレスの女性「はい。大事ありません。こちらのお方が助けてくださいました」


御者「それは、よう、ございまし、た…。ゆ、勇者様。危ないところを助けてくださり、ありがとうございました」


ももクロウ「そんなぁ、勇者だなんて…」


御者「勇者様。お、お願いがございます。こちらにおわすお方は、『青き丘の国』の皇女、明凛様でございます」


ももクロウ「な、なんですってー!?」


御者「わたくしはもう永くありません。どうか、どうか明凛様の力になってくださいまし」


明凛皇女「侍従長、何を言うのです! あなたには末長くわたくしの傍に仕えてもらわねばなりません。気をしっかり持つのです!」


御者「明凛様…わたくしのような者にそのような…。わたくしは幸せ者でございます。ですが、王家再興の夢を果たして差し上げられず、大変申し訳ない気持ちでいっぱいです…」


明凛皇女「いいえ、そうではありません。わたくしが不甲斐ないばかりに、皆の期待に応えることができなかったのです」


御者「そ、そん…な、十六歳の女の子が三十過ぎのおっさんに言うことではありませんよ。明凛様は本当にご立派になられました。わたくしは貴女様を『路上』の頃より見守ってきたのですから分かります」


ももクロウ(路上って、いったい…?)


明凛皇女「わたくしに仕えた者たちは、お前を残し皆亡くなってしまいました。これまで仕えてくれたすべての者たちに詫びを言います。そして感謝を捧げます」


御者「もったいないお言葉…亡くなった者たちに…そのように、伝えて、ま、いり……」


 御者はそう言い残し、事切れてしまったんだ。


明凛皇女「リョータさんっ! おいっ豚メガネっ死ぬな!ううっ、あぐぅ…ううっ…」


明凛皇女は自分が幼かった頃から侍従長が応援してくれていたことを知っていたので、お礼を伝えようとするんだけど、もう言葉にならなくて、その場に泣き崩れてしまうんだよね。




― 第壱楽章:天手力女 完 ―

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