麗良の知り合い
神奈木麗良は顔見知りの野崎春奈と久しぶりに会い、美月千聖とよく通うカフェでコーヒー飲みながら語り合った。
「仕事、どうですか?」
カフェラテを一口すすり、大きく背伸びした春奈。
「まあまあ順調かな?」
「今、忙しいのでしょう?」
「うん、まあね」
春奈は30歳の独身OL。
薔薇ヶ丘中央のマンションで1人、独身生活を楽しんでいる。
彼氏はまだ、いない。今は仕事に夢中だから、異性作りなんて言う想いはないのだ。
「職場での人間関係はどうですか? 相変わらず?」
春奈の日頃の人間関係については、麗良は色々と聞かされていた。
個性が強く、プライドが高い女性だから周囲の人間と上手く関係が持てない事が多い春奈。
会社でも人間関係があまり上手く行っていない事を、麗良は別の知り合いを通じて聞かされているのだ。
「まあまあかなぁ? まあ結構、ムカつくコもいるけどねぇ。何とか上手くやっているから」
「ムカつく人がいるって言うトコが気になっちゃう」
「マジ、クソ生意気なコがいるの。仕事出来ないクセに上司とかにおべっか使ったりしてねぇ。自分を良く見せようとしているんだよ。顔もブス、性格もブス。声も態度もデカいし、ハッキリ言ってバカだし目障りな存在だよねー」
「…」
春奈が目障りだと言う女性。どんな人なのか麗良は会ってみたいと思った。
本当に悪い人間なのか確かめたいからである。
春奈は他人をすぐに攻撃してしまうところが有る。
相手の長所を見ずに欠点ばかり意識してしまうのかもしれない。
麗良自身も以前、そう言った面も持っていた。
正義感が強い麗良も他人の欠点ばかり意識し、すぐに指摘してしまっていたのだ。
友達が多いけれど、失った数も少なくない。
娘の状況を知った父親は麗良に対して厳しく注意したのである。
「お前、人の欠点ばかり見ているな? 他人の嫌なトコが目に付くのだろう? それはお前にも、そう言った面も持っているって言う証だよ。イイか? これからは他人の長所を見るように心掛けろよな? 他人の良いところを見て学べ。批判的な女のコじゃ、正義感が失われるぞ」
普段、ノホホンとしている父親も、言う時は遠慮なく厳しく言うのだ。
春奈が質問した。
「麗良は学校、どう? 楽しくやっている?」
「やっていますよ。色々と大変な事も有るけど、何とか上手くやっている」
今度は美月千聖を春奈は話題にした。
「美月千聖ちゃんってコ、本当に変わった女のコだよねー」
「千聖が?」
「まだ高校生なのにおしとやかで上品じゃない? いつも、あんな雰囲気?」
「まあ大体。結構、お喋りで活発なところも有りますけどね」
「喋り方が超お嬢さまなのが、笑っちゃうよねー?」
ハハハと笑った春奈。
「そうですか? 変なのかな?」
「何だか変。小さい頃からそう言った家庭環境で育って来たかもしれないけど違和感を感じる。私の友人に、千聖ちゃんと同じような金持ちで良家のお嬢様がいるけどね。でも喋り方はフツーだよ。強いて言えば、男のコっぽい喋り口調かな?」
「では、千聖も同じように男っぽく喋れよって事ですか?」
「そこまでは言わないけどね。だけど、あんな…超お嬢様的言葉遣いは異常だと思う。何だか気色悪いし好きになれないな。麗良は何ともない?」
「初めて会話した時はビックリして引いちゃったですけどね。今は何ともないですよ」
「悪い事は言わないからね。美月千聖と付き合うのは、遠慮した方がイイんじゃない?」
今の言葉に麗良は反応し、クールな眼差しで春奈を見据えた。
「気色悪いからですか?」
「それもそうだし、近寄り難い存在でしょう? アンタはもう慣れっこになっているけど、フツーならあんな現実離れしたお嬢様なんか敬遠したくなっちゃうわよ」
「そう、そうかなぁ?」
「私だったら向こうからお友達になろうと言われても拒否するけどね」