paint2 真っ赤な衝撃
連続投稿第2号!
土日を挟んで月曜日。
土日の間、ずっとあいつの顔が脳裏に焼きついて離れなかった。
顔の傷が痛む度にニンマリとした笑顔が頭のなかをよぎる。くそぅ!!痛ぇじゃねぇか!!
だがなんとか歩けるぐらいには回復した。
顔面が半分潰れてはいるものの、毎日の何気ない朝はやって来る。
いつも通り食パンにバターを塗りかぶりつきたいが、なにせ顔が潰れてるもんだから少しずつしか食べられない。
そうやって意外な事(パン食い)と闘っていたものの、特に何もなく時間は過ぎていく。
……と思われたのだが、意外にも朝はテンションが凄く低いお袋(ただの低血圧)が、朝の沈黙を破った。
「そ~いえば康也、今日新入生が入って来るんだってね~」
お袋はいつもおっとりとしたしゃべり方をする。
まぁあいつのことなんだろうな。あいつの顔を思い出すと顔の傷が疼く。
「知ってるよ」
「じゃ~どんな子だか知ってる~?」
「あぁ、昨日そいつとあったよ」
「へぇ~…ちなみにどんな奴だった?男?それとも女?」
ここで初めて親父が首を突っ込んできた。親父は結構陽気な人で、話も面白い。俺は密かに親父を『尊敬している』
「ほぉ、お前が尊敬とは、そりゃあすごい奴だな」
「あ、いやいや、今のは違う。ちなみに女だった」
「マジか!?スリーサイズはどのくらいだ?ボインかボイン!?ってあいで!!」
「ロリコンじゃ~ないんだからそんなの気にしないの!」
お袋が親父を今日の新聞で殴った。尊敬ってのは前言撤回。ただのロリコン親父だった。
「はぁ……で、その新入生がどうしたんだ、お袋?」
「なんだかその子ね~、空手がすごいんだって~。たしか5段とかで、大会も何度か優勝しているみたいよ~」
なるほど、だからあんなに強かったんですね。 あー痛い。
「あ、そ~そ~。あとね~とても頭がいいらしいのよ~。確か全国で、国語が4位、理科が2位、英語が3位……」
…なんでそんな英語が出来るんだろうか。訳わかんねぇ。
「あ、そ~だ!たしか数学は1位なのよね~あの子。すごいわよね~」
ん?まてよ………もしかして……あっ!!
「ヤベェ、数学の宿題忘れてた!!」
完全に宿題の事を忘れていた。あれをやらないと成績に響く!!
「「いってらっしゃ~い」」
両親の言葉を背に俺は急いでカバンを取り、学校へ向かった……と言いたいところだが歩くのが精一杯なので結局時間はいつもと同じ時間帯になってしまう。畜生、数学の4が3になるのは確定だな(泣)
朝やれば良いじゃないかと思ったが、月曜日は全校朝礼があるのでそうもいかない。諦めるしかなさそうだ。
「よぉ康也。わりぃ、数学の宿題見せてくれよ」
通学中、この前の予告通りに祐輔がやって来た。
「やってない」
「え、マジかよ!?ヤベーよ数学の3が2になっちまう!!」
…この馬鹿でも『3は取れるんだな』
「まぁお前の答えをこっそり拝見してたからな」
「死ねぇ!!」
祐輔の死亡は確定。あとは殺すのみだ。どうやって殺そうか…
「うわぁぁぁ!!ちょ、タンマァァア!!」
そんな感じで俺と祐輔はふざけ合いながら学校へと向かっていった。
祐輔のクラスはB組なので、B組の前で俺たちは別れた。
そのまま俺はD組に向かい、教室に入った途端、俺の顔を見て何人かが青ざめた表情をする。まぁ当然だな。
「ねぇねぇその傷どうしたの!?」
という女子の声や、
「なんだお前それ、ぎゃはははは!!!」
と、俺の顔を見て盛大に笑う奴もいた。
…めんどくせぇ。
いろんな奴の質問攻めにあいながら机に鞄を置いたところで、朝のチャイムが鳴った。
「おーい、朝礼だぞー!!早く廊下に一列に並べー!!」
クラス担任の山岡のでかい声が廊下に反響する。やがて教室からぞろぞろと生徒達が出て来た。そのまま一列となってつきつぎと体育館に向かう。D組も一列になってから、体育館へと歩いていった。
* * *
体育館は、ロの字型の校舎とは別のところに建てられている。なのでそちらに行くには外廊下を通じて行くしかない。9月とはいえまだまだ暑いので、『ほんと勘弁してほしい』
「…どうしたの康也?何が勘弁?」
俺のあの癖に隣の子が反応した。
彼女の名は松嶋美茅瑠。小学校から一緒の俺の同級生だ。
栗色のさらさらしたセミロングの髪が、小さく後ろで括られていて、赤いメガネがとても良く似合う。全体的に小柄だが引っ込むところは引っ込み、出るところは出ている。明るい性格で人懐っこい、まるで仔犬を思わせるような印象だ。
親しみやすい容姿と性格から、友達も俺の何倍だ?ってくらいいて、みんなからはミッチーって呼ばれてるらしい。俺はそのまま美稚瑠だけど。
「…いや、何でもない。またいつもの癖だ」
そして美茅瑠は俺の癖を理解してくれる数少ない友達の一人だ。
「なーんだ、よかった。てっきり私に失望しちゃったのかと思った」
「もうしてるけどな」
「え、本当に!?がーん……」
…がーん、とか口で言う奴初めて見た。
「嘘だ」
「あ……もう、ひどーい康也!!」
…やっぱりこいつをいじるのは楽しいな(笑)
体育館に入った途端まず目に飛び込んできたのは、「文化祭」と書かれその周りを豪華にデコレーションした大きな看板だった。丁度ステージの真上に設置してあるのですぐに目につく。
……ちょっと傾いてる気がするけど大丈夫かな……?
次に目に入るのはその両脇に設置されたステージを照らすライト(でかい奴)と、ステージの隣に貼ってあるプログラム(凄い達筆。書道部だろうか)。
体育館の中はもはや文化祭ムード一色だった。
全校生徒が体育館に入ったところで、副校長司会のもと、朝の全校朝礼が行われる。
最初は、いつも長い校長の挨拶から。
ここの校長は特に話が長く、掴みの世間話だけで5分あり、そこから本題の話が10分、それに対しての校長の意見が5分、締めで5分というだいたい平均して25~30分位話をする。今日も15分位と21分くらいのとこで2人ほど倒れた。
そして今は土日にあった部活動大会の表彰をしている。長い話の後なのでみんな教室に帰りたいムードを垂れ流していた。
そして…
「それでは今日は転校生が来ています。これから皆さんと一緒に勉強しますので、軽く自己紹介と一言コメントをーー」
「「「「え~」」」」
これで終わりだと思っていたのだろう。周りから盛大なブーイングがとぶ。
「ぇ~……そ、それでは!!壇上にお上がりくださいどうぞ!!」
副校長の司会が強引に押しきった。いまだに回りはブーイングの嵐。この流れの中で自己紹介するのは骨が折れるだろうな………
しばらくしてからハゲの校長が脇の階段からゆっくりと姿を現す。顔がとても焦っていた。
続いて皆のブーイングの的、問題の転校生が階段を登り始めた。
彼女の存在は、絶大だった。
階段一段目。彼女の近くにいた女子達の声が止む。
階段二段目。女子の異変に気づいた近くの男子が体を乗り出して彼女を見た瞬間、息を飲んで黙りこくる。
階段三段目。ここまで来れば後ろの人にも彼女の姿が見える。みんなが唖然とする顔につい笑いそうになってしまう。
だんだんとブーイングは止んでいき、彼女が階段をのぼりきる頃にはすでに体育館は静まりかえっていた。
みんな彼女の美貌に釘付けになっている。となりの美茅瑠も顔を(°□°川)こんなんにして彼女を見ていた。
「え~それでは、これからこの上麹学園で勉強することになりましたので、軽く自己紹介をよろしくお願いしまーす……」
そう言い残してそそくさとマイクを彼女に渡して校長が脇に捌ける。ステージの上にはなんの指示も受けていない彼女一人になってしまった。
彼女はしばらく手の中のマイクを見つめていたが、やがてそのマイクを置き、全校生徒に仁王立ちで向かい合った。そしてーーー
「ここの校長はやたら話が長いな。うざくてしょうがない!!」
いきなり爆弾を投下した。
『ぇ、ぇぇぇええええええええええ!!!!!』
「うわっ!どうしたの康也、またいつもの癖?」
幼馴染みに心配されてしまった。
だがそれどころではない。彼女の大空襲はとどまることを知らなかった。
「だいたいつかみの5分はいるのか?なんだいきなり、『いや~私の近所ではですね~』だ!!近所の事なんか聞いてないっつーの!!場所をわきまえろハゲ!!私がどんな思いして26分37秒待ったと思ってる!!その横に生えてる残りの髪もむしり取ってやろうかこの波●!!!」
爆弾は爆弾でも原爆でした。ていうか時間数えてたんですね。
やがて呆然と聞いていた生徒達の中からも、「そーだ、いつも長げーんだよ!!」とか、「しゃべることしか脳がねぇのか水晶玉!!」とか、「図書室にエロ本入れろ変態親父!!」などの声が広がりだし、みんなのブーイングの的はいつしか脇に捌けた校長になってしまっていた。沢山の生徒(転校生含む)に文句を言われた本人は耐えきれず、泣きながら体育館を出ていってしまった。相当メンタル弱いな。
「よし……君たち!!と、先輩方!!あなたたちには是非言っておきたい言葉がある。『困難に、打ち勝つなんて生ぬるい!!ぶっ壊せ!!』以上だ!!」
彼女の凛とした姿と透き通るような声が止むと、館内がたちまち歓声に包まれた。中には泣いている人もいる……相当心に響いたのだろう。
だが、不幸は何度も訪れる。
ガゴンッ!!
「!!!」
朝礼の前から傾いていた真上の『文化祭』看板を固定していたボルトが、今になって外れてしまったのだ。支える物が何もなくなった看板は、そのまま真下の彼女へと襲いかかる。
あんなに大きなものだ。誰が見てもすぐにわかる。あの看板が、彼女めがけて真っ逆さまに落ちているのを。
だが一番反応が早かったのは、彼女だった。
その反応は速すぎて、他の人には体がブレたように見えただろう。だが僕は前にも同じものを見たことがあるので、かろうじて彼女の動きが見えた。
「てぃぁ!!!」
彼女はすごい高さまで垂直跳びをすると、真上の『文化祭』の化の字に強烈な蹴りを喰らわせたのだ。
人間の骨を簡単に砕いてしまう(実体験)突きや蹴りに木製の看板が耐えられるはずもなく、いとも簡単に真っ二つに折れてしまった。
彼女が着地すると同時、2つの元看板が音を立てて地面に落ちる。中には悲鳴(美術部)もあったが、とりあえず彼女は無事だった。むしろ最初のようにケロッとしている。
…というか空手とかそういう域じゃないでしょ。
「すまない、文化祭の大事な看板を壊してしまった。お詫びをしたいので美術部は今日の放課後、2Fの絵画室前に来て欲しい、以上だ」
そう言って彼女は階段を降りようと体を向けたが、何か思い出したようにこっちに向き直った。
「そうそう、私の名前は紅神美咲だ。これからは1年D組で世話になるのでよろしくお願いする名前くらいは覚えておいてもらいたい」
「えっ……ウソだろ……」
彼女、もとい美咲とやらが捌けたあと、副校長が何か指示を出していた気がするが俺の耳には到底届かなかった。
だってよ………
『あんなのと一緒かよぉぉぉぉぉぉおおおお!!!』
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二日目
・一日目のドS女(美咲)と一緒のクラスになってしまった。
・俺の「普通の暮らし」がぐちゃぐちゃになるフラグがビンビン立っている。
・俺の命は今日までかもしれない……
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これからは不定期連載です。
なるべく早く投稿できるように頑張ります……