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まじない師の白い指  作者: 駒鳥 紺
第1章 サバスの村編
1/17

プロローグ

 今日も一人、子供を殺めた。


 石畳でできた夕暮れの小路にぽつぽつ、と街灯が輝き始めた。夕飯どきの香ばしい匂いと通りをゆく人のざわめきが、あちらこちらから漏れてくる。

 その中を奇妙な格好をした人がゆっくりと歩いてきた。全身に美しい布を垂らした不思議な格好をしている。丹精に刺繍された黄金色の模様が、光に反射してきらりと流れた。白を基調とした衣装は、異国の吟遊詩人を思わせる。

 表情は見えない。こうべを垂れ、しかも長い髪が顔を隠していた。ずるりずるりと衣装を引きずるように一歩一歩進んでゆく。家路に急ぐ人々は、そんな奇妙な人物を遠巻きに眺めたり、その人の進行方向からすばやく外れたりした。


 彼は疲れていた。

 今日、殺した子供のことが思い浮かんだ。最初は怯えていたが、赤毛の髪をまとめていた飾りを褒めてやると嬉しそうな顔で、母親が作ってくれたと教えてくれた。小さな八重歯が笑った口からのぞいていた。

 数刻後、赤毛の髪はあたりに散らばり、甘い匂いの中で少女は静かに横たわっていた。彼女はもう動かない。あの白い八重歯が見えることもない。

 そこまで考えたとき、ふいに頭痛が走った。ふらりと体が揺れ、進行方向にいた数人と肩がぶつかった。彼らは突然の事故に驚き、大慌てでその人から遠ざかっていった。一人の若い女が怪訝な目で見返してきたが、すでに彼は体勢を立て直して去って行った。


 通りの端に位置する古いアパートが彼のねぐらだった。隣のパン屋からは香ばしい匂いが漂っていたが、食欲は全く刺激されなかった。

 階段を上がり、部屋に着くとそのままベッドに倒れこんだ。染み込んだ自分の匂いを吸い込むと、少しは落ち着く、ような気がした。

 体がそのまま沈み込んでゆく気がする。

 ふと、手先を見ると小指に赤い細紐が絡まっていることに気が付いた。途中で切れている。

 その細紐は何かを主張しているように思われたが、体にまとわりついた甘い匂いと強烈な眠気が、考えることを簡単に妨害した。


 やがて、彼は深い夢をみた。

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