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9話 退学からの冒険者スタート

 合同演習から早いもので3か月が経った。


 リオネアは日々の訓練を淡々とこなしていた。

 しかし、ただこなしているだけ――。

 合同演習から帰ってきてから、以前のようなキラキラとしたやる気を、自身から感じなくなっていた。


 パトリチェフを庇った道中――。

 石を投げてきた民衆――。


 自分は何を目指していたのか。何を目指しているのか。

 何を救いたいのか。誰を助けたいのか。


 あの頃明確だったはずの答えは、こうして現実に近づくにつれてぼやけていく。

 そして最大の問題は、


 騎士は人を殺す仕事


 ということだった。


 リオネアも、知らなかったわけではない。しかしきっとそのことに憧れが蓋をしていたのだろう。だからこうして蓋を開けた今、その現実に直面している。


 リオネアは、このまま騎士学校に残っていいものか、悩んでいた。


 リオネアの目指す未来は、憧れる人物像は、きっとこの先に無いだろうことを感じていたから。

 しかし、かといって別の道が果たしてあるのだろうか?

 ただ他人を守りたい、という望みは、そんなに難しいことなのだろうか?


「………勇者なのにね。私」


 こんなことで悩んでいては勇者失格かもしれない。


 そんな頃だった。


 ミレイユに退学命令が通達された――。



 ***



「ごめんね何も言わなくて………」

 ミレイユはリオネアに謝る。その顔はどこか儚げな少女のようだった。


「…………どうして」


 ミレイユは、ゆっくりと事情を話し始めた。


 実は騎士学校を落第し続けていたことを、ミレイユは今まで両親に説明せずにいた。それどころか、とっくに卒業し、魔導士として活躍している、と嘘までついて。元々魔導士なることを反対していた親を説得し、1度だけのチャンスが条件だったのに、ミレイユは諦められなかったのだ。

 しかし、それもとうとうばれてしまったようで、ここ最近は騎士学校経由で、帰郷するように手紙がいくつも届くようになっていった。それをミレイユは無視し続けた結果、親の権限で退学届けが受理されたのだった。


「………実家はかなり大きく事業をしているから。そういう権力もあって当然よね……」

 ミレイユはすっかり肩を落としてしまう。


「そんな……せっかく苦労して入学できたのにっ!」

 リオネアは思わず声が大きくなる。


「でもね……心のどこかで安心している自分もいるの……。不思議よね……」


「ミレイユは……ミレイユはどうしたいの!?」


「…………あのね、これ、知ってる?」


 ミレイユは、懐から小さな時計のようなものを取り出した。


「これはね、迷った時に、神様にどうすればいいかを聞く、子供の玩具なんだけど……」


「私もそれ持ってた……『いいね』と『だめだね』があるけど、必ず『いいね』しかでないんだよね……」


「そう……。私、いつも迷ったらこれで神様に聞くの。どうしたらいいですかって。『いいね』しかでないの知ってるのにね」


 ミレイユは、その玩具を動かす。矢印は『いいね』を指した。


「それでね、今回も聞いたの。実家に戻った方がいいのかな、って」


「………っそれは!ミレイユの聞き方が悪いよ……だって……」

「そう、『いいね』しか出ない……私は、ただ誰かの後押しが欲しかったんだと思う。そして、心のどこかで、魔導士には向いていないって分かってた。だから……」


 二人は、ミレイユの手の中の玩具を見つめる。


「ミレイユは、本当にそれでいいの?」


「分からない……でも神様がそういうならって……。私ね、リオネアの事が本当は羨ましいの。いつもはっきり物事を決めて、自分でしっかり歩いてるから」


「…………じゃあさ、私がミレイユだったら、どうすると思う?」


「……………分からないよ」


「私さ、合同演習から色々考えちゃってさ。あー騎士向いてないかもなーって最近感じ始めてる。でも、かといってどうしたらいいかわかんなくて、実はずっと宙ぶらりんなんだ」


「…………そうだったの?それなら相談してくれれば」


「それはミレイユも同じだよ」


 そしてリオネアは決意のこもった目でミレイユを見つめた。


「だからね、もし嫌じゃなければ、退学して一緒にお互いの夢をかなえるっていうのは、どうかなって」


「え!?それってどういうこと?」


「いやー具体的にはわかんないけどさ、私は剣士になりたいけど騎士団じゃない。ミレイユもそうなんでしょ?なんか、ほら、あるでしょきっと!他の方法!」


「…………冒険者、とか?」


「なるほど!!その手があったか!!よしミレイユ!私とパーティ組もう!ね!」


 ぐいっと引っ張りながら手を握るリオネアを、ミレイユは心強く感じた。二人なら、なんでも出来そうな。


「…………………わかった。リオネアについて行くことにする!」



 ***


「そうか、辞めるのかリオネア」


 リオネアは、今まで実技で教鞭を受けた恩師であるクラウゼンに挨拶した。


「はい。今後は冒険者になろうかなーって」


「随分曖昧な将来だな……まぁお前らしい。お前の実力なら、軍でも指折りになる素質があっただけに残念だ。……頑張れよ。お前ならきっと活躍できるさ」


「ありがとうございますっ」


 クラウゼンは、その小さくて大きな背中に、一抹の憧れを感じた。



 そして、リオネアとミレイユは正式に退学した。



 *



 ――え!?騎士にならんの!?

 てっきり、騎士になって魔物を無双する勇者ルートと思っていた。

 でも、リオネアの葛藤も感じるところがある。

 もし冒険者になって彼女が幸せになれるなら、それが最適解なのだろう。

 俺は陰ながら応援した。



 *



「さて、早速ギルドで仕事しないと、お金が無い!」


「えーそうなの~!?私はまだ少し余裕あるけどな~」


 騎士学校で毎月貰えるわずかな給付金は、リオネアの胃袋に全て収まっていた。


「ということで、ミレイユ先輩っ!ギルドの案内オネシャス!」


「も~しょうがないな~」


 二人は、早速冒険者ギルドに向かった。


「あっ!ユーミルさん~!」

 ミレイユは、ミレイユと同世代くらいの受付嬢ユーミルに声をかける。


「ミレイユさん!お久しぶりですね!元気でしたか?」


「ええ~実はしばらく騎士学校にいっていて~」


「そうだったんですね~、で、学校の方はどうですか?」


「退学しましたぁ……。それで今日なんですけど~、この方のギルド登録をお願いしたくて〰」


「あ、初めまして!リオネア・アルヴェリアと申しますっ!」


「初めましてー!私は受付嬢のユーミルと言います。今後ともよろしくね!それじゃあ、まずこの紙に……」


 リオネアは、渡された紙に名前と出身地、簡単なプロフィールを書いて提出した。


「はい、これで登録は終わりです!リオネアさんはFランクからなので、もしミレイユさんがご一緒するなら、Eランクまでは受注できます。あちらのギルドボードから受けたい案件をお持ちくださいね!」


「あ、ユーミルさん~!リオネアはその~……武器を持っていなくてぇ~……」


「ああ、貸出ですね!分かりました。リオネアさん、こちらへ」


 リオネアはユーミルに案内されて奥の部屋へと入る。どうやら武器庫のようだ。


「ここから好きなのをお貸しできますよ。Eランクになるまでには、自分の武器を用意してくださいね?」


「ありがとうございます!」


 リオネアは武器を選定する。やはり剣士がいい。そうなると、剣――それも大きい方が自分には合っているだろう。


 リオネアは、一番大きな大剣を手にする。


「あっ!!その剣はまだ貴女には……」


 ブンっ!と片手で振って見せる。


「………すみません、もう少し大きいか、重たい剣はありますか?」


「なんだ嬢ちゃん、筋肉バカの類かー?面白いじゃねぇか!」

「ギルドマスター!」

 ユーミルは突然現れた隻眼の大男――ギルドマスターに挨拶をする。


「ちょっと待ってろ。俺のお古を貸してやる!」


 どうやら、ギルマスから剣を賜れるようだ。

 リオネアはワクワクした。


「ちょっと汚れてるが、悪くない品だ。壊しても構わねぇが、丁寧に扱ってくれよ!」


 リオネアはその剣を手に取り、構えてみる。


 少し重さを感じるが、慣れれば自在に操れそうだ。


「ありがとうございます!ギルマス!」


「なぁに、たくさん受注して売り上げに貢献してくれりゃあ、願ったりかなったりさ!」



 こうして、リオネアはギルドカードと剣を手に入れ、冒険者としてのスタートを切ったのだった。

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