8話 合同実践演習
「ねぇミレイユ………さっきの話、どう思う?」
二人は部屋に戻り、リオネアが先ほどのクラウゼンの話についてミレイユに訊く。
「そうねぇ……難しい話だと思うけれど……やっぱり指示には従うべきだと思うわ……」
「でもさ、目の前の人を見捨てられるかな……」
「見捨てられないよねぇ……でも、だから決める人がいると思う……」
「決める人が間違っていたら?」
「それはもう仕方のないことだよぉ……私たちに決定権はないもの……」
確かにそうなのだろう。しかし、そうであってもリオネアはどこか居心地の悪さを感じる。
クラウゼンの判断は、結果的には間違っていた、かもしれない。
しかし、目の前の人を助けようとしたことは、間違っていたのだろうか?
リオネアには、はっきりとした答えは出せなかった。
翌朝、学生たちは集合し、クラウゼンに街を案内してもらう。
軍事都市セイランは大きな湖に面し、その湖は西と南に大きな川へと繋がっている。西は森の街ヘイムを経由し王都エメランを通り、エメラニア王国の西端まで流れる。南は商人の街アルデハルンを河口に、宿の街メイナを経由して南端へ流れていた。つまり、川を使えば、国境沿いへ速やかに軍を投入できる仕組みだった。
そんな話を、リオネアは上の空で聞いていた。
リオネアの見つめる先は、クラウゼン――しかし彼女は普段と変わりない。
クラウゼンは街の成り立ちから、いかにここが重要拠点であるかを説明し終えた。
「それではここで解散とする。明日は朝から合同演習となる。……ハメを外し過ぎないように」
こうして一同は解散となった。
「リオネアぁ~この後どうする?お昼ご飯何にしよっか~」
「ん~……ミレイユは食べたいものある?」
「私はなんでもいいよぉ~」
「それじゃあ、繁華街のほうに行ってから考えよっか!」
セイランは、王都エメランほど大きくはないが、それでも軍人が多いためか、活気があった。
そして特に多いのは武具店。そして酒場。さすが軍事都市だ。
「そういえば、ミレイユはお酒飲むの?」
「ん~普段は飲まないよ~!お付き合いでちょっと飲むくらいかな~」
「そっかー。私は飲める歳になったら飲もー!って思ってたけど、あんまり美味しくないんだなーって思ってから、飲んでないや」
「リオネアはお酒強そうだよね~」
「それって…………あ、太ってるって言いたいのー!?」
あははー、と楽しそうにミレイユが笑う。リオネアはポカポカとそんなミレイユを叩いた。
***
翌日から、それぞれの職種に分かれての合同演習が始まった。
騎士の初日は、とにかく立ち合い稽古に明け暮れた。
力だけならリオネアは先輩方のそれに勝っていたが、やはり技術面では敵わず、二日目以降の立ち合い稽古では全く歯が立たなかった。
それでも、立ち合い後に先輩からのアドバイスのお陰で、リオネアはめきめきと実力をつけていった。
到着から一週間経つと、今度は軍の連携について実技で学ぶ。
ここでは、とにかく目の前の敵に集中しつつ、全体を把握している軍長の指示に、とにかく従うことを徹底された。個人の勝手な判断は軍としての力を落とす。周りと声を掛け合い、俯瞰を心掛けながら孤立しないように気を付けるよう、教え込まれる。
そして最終週は模擬戦が行われた。
魔道士、騎士、歩兵で構成された軍同士による、実戦形式。魔導士は自軍とは逆に向き、お互い魔法が当たらない、且つ指示が届くよう陣形が工夫されていた。
リオネアとミレイユは同じ軍に割り振られた。指揮官はヒューリヒ第三騎士団長が務めた。
それではー!はじめ!!――
強烈な光源魔法が空に放たれ、数日にわたる模擬戦が開始された。
模擬戦初日は行軍。森の中を、索敵しながら進む。
今回弓兵はいないが、いると仮定して防御も怠らない。
しばらくすると、相手の斥候に出くわし、歩兵の一部が戦闘状態となる。
3人は倒すことに成功したが、1人を取り逃し、こちらの位置を知られる結果となってしまった。
「倒しておきたかったな。今後精進するように。戦場では致命的だぞ」
そうヒューリヒは冷静に諭した。
二日目は森を抜け草原に出た。しかし斥候に索敵されていたせいで、その出鼻を叩かれる形となってしまった。
「くそっ!思ったよりも早いな。ルルティアだな……。一度引き、森で二手に分かれて挟撃する!」
ヒューリヒは被害が出る前に素早く指示を出した。
リオネアは左の軍に参加する。どうやらミレイユも一緒のようだ。
ヒューリヒも左に、そして副官には右を任せ、森を目隠しに挟撃を試みた。
「歩兵!一度止まれ。右を囮に使う。魔導士が魔法を放った瞬間を狙って突撃する!」
「えっ!?」
リオネアはその指示に一瞬戸惑う。
「囮ですか!?それじゃあっちの軍は……」
「ああ。それがどうした。彼らはそれを理解して動いている」
ヒューリヒは魔導士の動きを見ながらリオネアに答える。
「それって死ぬって事ですよね?そんな簡単に……」
「そうだな。いまお前の目の前にいる、お前が殺すべき敵も人間だ」
リオネアはこの緊張の中で、彼の言う事をよく理解できずにいた。
「魔導士、準備は良いか!向こうが魔法を放ったら、すぐに敵陣に魔法を放て。そして歩兵隊、それを合図に一気に攻める。騎兵は歩兵の衝突に合わせて魔導士を狙うぞ!いいな!」
そして、ヒューリヒの読み通り、右の兵団に向かって魔法が放たれた。
「よし!放て!」
ミレイユ含む魔道士3人が、敵陣にファイアボールを放つ。二発が直撃。そして歩兵が突っ込んだタイミングで遅れて大きなファイアボールが放たれる、ミレイユだ。
「貴様っ!!なぜタイミングを合わせない!仲間を死なせる気かっ!!」
あわや自滅しそうな予想外の動きに、ヒューリヒは激高する。
ミレイユは驚きのあまり硬直している。
「もういい!貴様は下がっていろっ!使い物にならんっ!」
リオネアはその間に他の歩兵と共に敵陣へと突撃する。
そして歩兵同士の衝突。
リオネアは木刀を力いっぱい振り上げる。
「うぉぉおお!」
その瞬間、なぜか突然ヒューリヒの言葉が脳裏をかすめる。
お前が殺すべき敵も人間だ――。
リオネアは咄嗟に木刀の軌道を変え、空を切った。
そしてその間に、相手の木刀が頭上に振りかざされた。
「――!?」
それを、後からやってきたヒューリヒが鞍上から木刀で払いのける。
「殺す覚悟が無いなら貴様も下がれっ!迷惑だっ!」
リオネアは、悔しさを原動力にそのまま他の歩兵と共に攻めた。
しかし、結局彼女は、誰一人切ることなく模擬戦を終えたのだった。
結果は敗戦。最初の魔法攻撃が陽動であったことが大きな敗戦理由だった。
ヒューリヒはリオネアの元に歩み寄る。そして容赦なく殴り飛ばした。
「貴様は何を考えているっ!殺せないなら故郷に帰れっ!」
「っ!すみません……ヒューリヒ隊長の言っていた、敵も人間という言葉が離れなくて……」
「そうか。なら貴様が殺さなかった敵が、仲間の誰かを殺してもいいという訳だな」
「それは……」
「殺す覚悟も無くよくもノコノコと騎士団に入ろうと思ったものだな!人殺しを正当化するつもりはない。しかし仲間を死に導くようなら、俺は誰だって容赦しない。もしこれが戦場なら、俺は貴様を切り捨てる!」
そうヒューリヒは言い残し、去っていった。
リオネアは、何も言い返せず、ただ立ち尽くしていた――。
こうして合同演習は終了し、翌日、騎士学生は王都エメランへと帰っていった。




