5話 魔導士ミレイユ
――リオネアちゃん、バカ強じゃん!
思わず、見ているこっちも拳に力が入ってしまった。
これならきっとあっさり魔王を倒してくれるだろう。多分。ちゃんと伝わっていれば。
――それにしても、ミレイユもいいねぇ。おしとやかなお姉さんって感じでなんとも!
ギャルゲーなら、次に落としたいキャラだ。いやしかしクラウゼン教官も捨てがたい……。
どちらにせよ、望んでいた興奮が、そこにはあった――。
*
騎士学校入学式――。
寮制なので、部屋割りも当日発表された。
「やった!ミレイユと同じ部屋!」
二人一組の部屋は、ミレイユと同室のようだ。
後からやってきたミレイユも、大喜びだった。
午前中は、先輩学生と共に学長の長い話を聞き、最後に騎士団長から心構えが述べられた。
「健やかに正義を全うし、国に尽くすべし」
リオネアもミレイユも、背筋が伸びる思いだった。
騎士団に入学できるのは18歳からである。そして入団前には、2年制の騎士学校を卒業するか、団長クラスの推薦が必要となる。
つまりリオネアとミレイユは、2年間の学校生活を共にし、その後晴れて騎士団入学となるのだった。
その2年間で自分はどこまで強くなれるのか――リオネアは胸を膨らませた。
授業は明日からということで、午後からは自由行動となった。
「……このあと~リオネアはどうするのぉ?」
「え?もちろんお昼を食べに!!今日は肉かなぁ……」
リオネアはお腹に今日の気分を聞いている。
「そっかぁ~じゃあ、私もついていこうかなぁ~」
「うんうん!一緒にいこう!何食べたい?」
「リオネアの好きなものでいいよ~」
リオネアとミレイユは、街に繰り出すことにした。
目の前に、どんどんと料理が並んでいく――。
その光景に、ミレイユはただ圧倒されている。
「……リオネアって~……すごい食べるよね~……」
「そ?農家育ちだからかなー……『食が体を作る!』ってお父さんがいっつも言っててさー!あ、ミレイユも食べたいのあったら食べて食べて!」
「う、ん…………じ、じゃあ、ちょっとだけもらおっかな~……」
「気にせずどんどん食べて!……あっ!すみません!ミートドリアとパンを追加で!」
ミレイユは、食べたものがリオネアのどこに入っているのか不思議でならなかった。
二人は街で日用品を買い物した後、寮へと戻った。
風呂を済ませ、食堂で夕食を摂り、部屋へと戻っていった。
「そういえば、ミレイユの故郷はどんなところなの?」
ベッドに腰かけた寝巻のリオネアは、髪を結いながらミレイユに訊く。
「メイナだよ~。景勝地として有名かなぁ~。大きくて静かな川に沿って~たくさんの宿があるんだよぉ」
「へぇー!良いところだね!ご両親は何を?」
「宿をいくつか経営してるわ~」
「え!?もしかしてミレイユってお嬢様?……むむ、確かに上品だし、小食」
「そんなことないよ~……でも、ここで一人暮らしするようになってからぁ、実家のありがたさを知ったわ~……」
ミレイユは小さなため息を一つこぼした。
「え?ミレイユってこの街に一人暮らししてたんだ!いつから?」
リオネアは羨望の眼差しでミレイユに訊いた。
「もう5年いるわ~」
確か、ミレイユは騎士学校試験が5回目と言っていたことを思い出す。
「そっか!だからあんなに街に詳しかったのか―!でも5年も宿住まいなんて、やっぱりお嬢様なのでは?」
「ちゃんとお仕事して生活してます~!」
「え!どこ!?どこで働いていたの?」
「うふふ…………じゃあ、リオネアちゃんだけにはぁ、見せちゃおっかな~」
ミレイユはゆっくりと、鞄から小さなカードを取り出した。
「じゃ~ん!ギルドカード~」
「え?まって!すごい!しかもDランクじゃん!」
「えへへ~。まぁDといってもぉ、たまたま組んだ人たちのお陰なんだけどね~」
ミレイユはそれでも、誇らしげだった。
「でもでも!ギルドで稼いでたってことは、魔物とかばっさばっさと倒してたりするんでしょ!」
リオネアは興奮する。
「そんなことはないわ~。私なんてぇ、薬草獲ったりぃ、猫探ししたりぃ、そういう地味なのばかりよ~」
「あれ?でもDランク条件は魔物討伐経験じゃ……」
「そうなの~。私はEのままで良かったんだけどね~。たまたま魔導士がいなくて困っていたパーティがいてねぇ……どうしてもっていうから着いてってぇ、それでDになっちゃいました!」
「すごいすごい!私なんて魔物すらみたことないもん!すごいよミレイユ!え?怖くなかったの?」
「怖かったよぉ~!私って、魔法発動まですごく遅いからぁ、動く相手に当てるのが苦手だったからぁ~死ぬんじゃないかって~……でもパーティのみんなが足止めしてくれてねぇ!私の魔法で倒せたのぉ!」
ミレイユも興奮気味でそう語る。
そして、ギルドカードを大事そうにしまう。
「……だからぁ、今年の試験は絶対大丈夫だってぇ、自信がついたの……リオネアにも会えたしね~!神様に感謝しなきゃ」
「そっかぁ!私もミレイユに会えたこと感謝しなきゃ!」
二人は神様に小さく祈りを捧げた。
翌朝、早朝にラッパが鳴り響く。起床を告げる合図だ。
既に起きていたリオネアは、ゆっくりと起き上がるミレイユを見守る。
年上だが、なんだか目を離せない幼さを感じる。それがミレイユの魅力なのかもしれない。
「リオネアぁ……早いのねぇ~……」
「農家は朝が早いですから!ほら、ミレイユも急いで!」
朝食をすませた後は、各課に分かれて授業となる。
騎士は午前中が座学。午後から実技と決まっていた。
「……であるからして、ここエメラニア王国は……」
リオネアは未だかつて、こんな長時間、だまって椅子に座っていたことがあっただろうか?
お尻が強張る。肩や脚の血の巡りが悪くなる。頭は熱を持ち、ぼーっとしてくる。
「リオネア・アルヴェリア!聞いているか!?」
「ひゃい!だいじょうぶれすっ!」
大丈夫ではなかった。
午後からは実技。リオネアは午前中の鬱憤をこれでもかと晴らすつもりだった。
しかし、実技といってもしばらくは体力づくり。それでも、運動できるだけまだマシだった。
実技担当のクラウゼン教官にたっぷりしごかれて、1日目は終了した。
「あふ~……なかなか大変じゃの~……」
訓練後、リオネアは風呂につかる。
さほど大きくはないが、湯につかれる事、それも訓練後というのは、なんと心地よいものか。
「失礼するぞ。ん?貴様はリオネア・アルヴェリアか?」
「え?わ、クラウゼン教官!?」
すっかり油断しきっていたところに、あの鬼教官クラウゼンが入ってきた。
短い銀髪を綺麗に留め、湯船に入ってくる。引き締まった体躯はいくつもの傷跡が見える。
「どうだ、初日は。辛かっただろう」
リオネアは構えていたが、訓練の時とは違う穏やかな声色に警戒を解いた。
「さすがに疲れました……けど、なんとかついていけそうです!」
「あっはっは!そうか!初日は壊すつもりで設定したんだがな。足りないようだったな」
「あ、いえ!そういうわけでは!」
「まあ、しかしお前には足りなかったのは事実だろう。地力がしっかりしている。なにか訓練でも受けていたのか?」
「父が騎士でしたので。あと実家の農業を手伝っていたからでしょうか。体力には自信がありまして……」
「それはいいことだ。しかし怪力押しだけでは騎士にはなれん。もっと器用になれ。感覚だけに頼るなよ」
そう言い残し、クラウゼンは去っていった。
ふぅぅーーブクブクブク――
リオネアは沈没した。




