4話 騎士学校入学試験
いよいよ騎士学校の入学試験当日――。
早めに来たつもりのリオネアだったが、会場には既に何人も受験者が集まっていた。
その中に、覚えのある顔を見つける。
「おはようございますっ!お早いですね!」
「わあ~昨日のぉ!おはよ~ございますぅ!」
教会前で声をかけてくれた女性だ。
「今日は頑張りましょうね!……あ、そういえば名前!私はリオネア、リオネア・アルヴェリアっていいます!」
「私はミレイユ・エーデリアです~!よろしくねぇ~」
セミロングの金髪を風に遊ばせながら、ミレイユはゆっくりと自己紹介をした。
おっとりとした垂れ目の、なんとも可愛らしい女性だ。
「それでは試験を開始する!受験者は志願職ごとに集まれ!」
大きな声が響き渡る。どうらや始まるようだ!
「じゃあ~私は魔導士だから~。お互い頑張りましょうねぇ~」
ミレイユはひらひらと手を振り、リオネアと反対側へと向かっていった。
「よし!!気合入れていきますかっ!」
リオネアは、長い髪を後ろで束ね、そう自分に喝を入れたのだった。
試験は、騎士、魔導士、策士の三部門で分かれて受験となっている。
簡単な読み書きを試す筆記試験は必須科目として、騎士は体力、魔導士は魔力、策士は思考力を試す。
「それでは、騎士志願者は身体測定に入る!」
リオネアたちは会場を移し、身長、体重、視力、筋力を測定する。
「おい、見ろよ……女がいるぜ……?」
「ホントだ、女だ……お前の自慢の彼女より胸がデカいんじゃねぇのか?」
そんな声がちらほら聞こえる。
今回受験している騎士志願は50名ほど。しかし女性は彼女だけであった。
千人以上いる正規騎士団でも十数名と非常に少ない女性騎士。それだけ男性に混じって戦うということの難しさを物語っていた。
下着同然のような軽装で男性に囲まれ、恥ずかしさの拭えないリオネアだったが、ぐっと堪え、背筋を丸めないよう気を付けた。
「リオネア・アルヴェリア!ええ、161センチ!」
「リオネア・アルヴェリア!……65キロ!」
あっ、それは読み上げないでほしかった――
「見た目より重いんだな……」
「あの胸と尻だぞ、そりゃそうだって……」
「ただのデブじゃん……」
そんな羞恥にもリオネアは必至で耐える。
あと、デブって言った奴、後で必ず殴る!――
「リオネア・アルヴェリア!視力問題なし!」
残るは筋力測定だ。
測定方法は、大きな砂袋を何個担いで部屋の端まで歩けるか、といったものだった。
大体の受験者は四袋ほど。六袋いけたら小さな歓声が上がっていた。
「それでは、リオネア・アルヴェリア!」
リオネアはしゃがみ込み、まず左肩に二袋担ぐ。そして右に二袋。
しかし、担いでから一度下ろしてしまった。
さすがに女には無理だろ――そんな声が聴こえる。
リオネアは下ろした砂袋を見つめ、なにか考えているようだった。
そして両肩に4袋ずつ担ぎ直して、スッと立ち上がる。
うそだろ――。
辺りはしんと静まり、その光景に息をのんだ。
そしてリオネアは、止まることなく部屋の端にたどり着き、よっこらせ、と砂袋を丁寧に下ろした。
「おい、マジかよ……女であれ持てんのかよ……」
「いや男でも無理だって……」
「オークかよ……」
歓声というよりもどよめき。試験官ですら、唖然としていた。
そして午前の部は終了し、昼休憩となった。
食堂に行くと、ミレイユはすでに着席しており小さなサンドイッチをはんでいた。
「あっ!ミレイユさん!お疲れ様ー!どうだった?」
リオネアは向かいに座り、荷物から二斤のパンに長いソーセージを挟めたサンドイッチを取り出す。
「え、あ、うん……。魔力量はいつも問題ないんだけどね~。私は午後が鬼門かな~」
「え!?ミレイユさんって前にも受けたことあるの?」
「うん~。もう五回目~。いい歳だから、そろそろ諦めないとなんだけど~」
リオネアは驚きのあまり、かじりかけのソーセージを落とす。
「えっ!?五回目!?ミレイユさん一体いくつ!?」
ミレイユはもじもじと恥ずかしそうに答える。
「………今年でぇ………26歳」
リオネアは愕然とした。てっきり同世代、違ってても1~2歳くらいだと思っていた。まさか10も離れていたとは――。
「ごめんねぇ~!こんな年増が見苦しいよねぇ~……」
「いやいや!え!?私同世代だと思ってました!あれ?私失礼なかったかな……」
「大丈夫だよ~。歳は離れているけど、リオネアちゃんとは仲良く出来るとうれしいな~」
「はい!それはもちろん!」
「敬語じゃなくていいよぉ~」
「あ、じゃあそうするね!ミレイユ!これからもよろしくね!」
二人は友達になった。
出来れば、一緒に騎士学校へ入学できれば嬉しいのに――リオネアはそう思った。
そして昼休みを経て、午後の部――実技試験が開始された。
「午後からは私が試験官を務める!第二騎士団副団長ル…………クラウゼンだ!ここではクラウゼン教官でかまわない!」
何かを言いかけたようだが、クラウゼンはそう自己紹介した。
最初の試験は、フルアーマーに見立てた砂袋を体に纏った持久走。2班に分かれて実施された。
「ほらほら!ペースが落ちてるぞ!貴様らの筋肉は見世物か!?」
広い構内を5周した辺りで、脱落者もちらほら出始める。
「だらしないぞ貴様ら!手は胸の位置!脚はしっかり上げろ!股間にぶら下がったイチモツがそんなに重たいか!」
容赦のない罵声。悔しさからか、先団はその声でキリっと姿勢を直す。しかし後団は苦しそうな顔を浮かべ、ついて行くのがやっとだった。
10周を終えたところで、止め!の声がかかった。
「次の組!準備しろ。……おい!そんなところで寝るな!ここはママのベッドじゃないぞ!退け!」
そしてリオネアの組が走り始めた。
スタートからリオネアは先団をキープ。彼女含め三人が率いて進む格好となった。
3週まではあまり重さを感じていなかったリオネアも、6週辺りから少しだけペースが落ち始める。
「そんなに乳が邪魔か!もっとペースを上げろ!……貴様らも、そんなに女のケツが恋しいか!」
その声に、中団がぐっとあがってくる。リオネアも負けじとペースを上げる。
8周目で流石にリオネアも息が上がってくる。
そんな中、突然目の前を走っていた男がふらつき、足をつまずき転倒した。
「……っ!?」
リオネアは上手く横跳びで回避。しかし後続は巻き込まれる形で数人が転倒した。
「ほほう?あれを避けるか……」
クラウゼンは小さく眉を動かした。
リオネアは何とか2位で走り終えた。
辺りは死屍累々――立っている者はリオネア以外おらず、みなその場にへたり込んでいた。
「さあ十分休めたな!次はいよいよお楽しみの実技と行こうか!各自木刀を持て!」
フラフラと各自、木刀を取って集まる。
「実技は私とタイマンだ。全力で攻撃してかまわないが、魔法は厳禁だ。剣術のみで戦う事。私は攻撃を当てないから安心しろ」
そしてすぐに実技が始まった。
「…………どうした?ママがいないと何もできないか?」
クラウゼンはひらひらと挑発する。その構えに逆上した受験生は一気に詰め寄った。
「うぉぉぉぉおおおお!」
渾身の一撃、だったのだろう。しかし簡単に受け流され、一瞬でクラウゼンの木刀は喉元に突き立てられていた。
「……次!」
短評もなく、即座に交代させられていった。
悔しそうにするもの、恐怖で涙するもの、様々だったが、その誰として、二度剣を交えられる者はいなかった。
「はい、次!」
リオネアの番がやってきた。
「お願いしますっ!」
リオネアはぺこりと頭を下げる。
「まだまだ元気そうだな。ただの大飯喰らいではないようだが、戦えないただのデカケツじゃあ意味がないぞ」
明らかな挑発。リオネアは木刀を強く握り返した。
そして低く構える。地面に胸が付きそうなほどの前傾から、リオネアは強く踏み込んだ。
「………っ!?」
ガチンっっ!!!と鈍い音と共に砂煙が舞う。その砂煙から木刀の剣先が飛んでくる。
クラウゼンの木刀だ。
(ほほう。木刀を砕くか……)
クラウゼンはリオネアの一撃をかわしつつ、残った刀身でリオネアの腹へと打撃を試みる。
しかし、リオネアはその手首を踵で蹴り上げ、一回転する。
そして再び間合いを取って両者は向き合った。
「ははは!面白い!よく今のをかわした。よし次!」
戦闘態勢のリオネアは、その交代の合図に呆気をとられる。周囲も何が起きたか分からず呆けていた。
こうして夕方まで続いた騎士学校入学試験は終了した。
即日合格発表となり、一同は疲れ果てた顔で集合した。
「やっほ~リオネアぁ~。試験どうだった~?」
ミレイユがこそっとリオネアに話しかける。
「ミレイユ!?……多分、上々かな?ミレイユは?」
「今回は緊張しないで出来たからぁ……もしかしたら……」
「えーホント?やったね!」
「うん!これもぉ、リオネアのお陰だよぉ~」
そして合格発表がされた。
騎士課程5名、魔導士課程3名、策士課程は無し。
その中には、見事リオネア・アルヴェリアとミレイユ・エーデリア名前が呼ばれたのだった。




