35話 救いたかったものは
リオネアは祈祷会の後、必ずと言っていいほど食事に招かれていた。
今回はミックさんの酒場――エメランに来て初めて立ち寄った店だ。
懐かしさを感じつつ、店の中へと入った。
中は既に満席。しかしその中央に、リオネア用に席が取ってあった。
「よぉし勇者様がご到着だ!今日は飲むぞぉ!」
「お前いっつも飲んでんじゃねぇか!」
威勢の良い賑やかな店内。リオネアはこういう騒がしいのが心地よかった。
「それじゃ!ミックさんのお店が儲かるように、みんなでじゃんじゃん食べましょー!!」
リオネアも調子に乗って音頭をとる。
カンパーイ!!――と賑やかな店内はさらに賑やかさを増していった。
***
すっかり夜が更けてしまった。
膨れたお腹を、満足そうに撫でながら王城へと戻る。
それにしても楽しかった。
酒場はいつだって笑顔であふれていて、大好きな場所だ。
初めて来た数年前は、知らない顔ばかりで不安だった。
ミックの店も、広場を行きかう人も、ギルドの前の荒れた雰囲気も――。
しかし今となっては、ほとんどが顔見知りで、どこへ行っても笑顔で声をかけられる。
なんだかそれだけで、苦労が報われた気がした。
王城の部屋に戻り、寝間着に着替える。
今日の事も手記に書き記そうと、引き出しを開けた。
「あれ、手記が…………」
その時だった。
背後から気配を感じる否や、強烈な痛みが胸を――いや背中を襲った。
「んんっっっ!!!!」
口を手で押さえられ、声が出せない。
必死でもがくが、力がどんどんと抜けていく。
視界の下には、鋭い刃が胸の下から突き出ていた。
体が痺れて動けない。視界がゆっくり狭まっていく。
消えゆく意識の中で、はっきりと浮かんだのは、皆の笑顔だった。
守れた、ん……だよね――。
刃が抜かれ、リオネアは地面に崩れ落ちる。
そして、その刃がリオネアの首へと振り下ろされ
ドンっ――。
――はぁっ……はぁっ……はぁっ………はぁっ………
俺は堪らなくなってリセットボタンを押した。押してしまった。
――うわぁああっ!……………あ゛あぁぁあぁああ゛ぁぁぁぁああああ!!!!!
頭を掻きむしり、地面に拳と頭を叩きつけ、もだえる。
――何故だ何故だ何故なんだ!!どうしてこうなるっ!!なんなんだ一体!!!
月明かりに照らされた、血の海に沈むリオネアがフラッシュバックする。
そのたびに、こみ上げる嗚咽を堪える。
何度頭を打ち付けても、それは消えてくれない。
痛みを感じないこの体を、今日ほど呪った日はない。
――こんな最期っ……俺は望んでないっ!!!
だから押した。リセットボタンを。
本当はもっと長く幸せでいてほしかった。それも最期まで。
否定したくなかった。彼女の生き方を。
でもリセットボタンを押してしまった――。
リオネア・アルヴェリアは、消えた。
画面上からも。世界からも。
画面上では、遺体の無い、形式だけの葬式が壮大に執り行われている。
そんな中、地図には魔王の位置の他に、再び生まれた勇者の位置が示されていた。
――その勇者の名は、リオネア・シルファンス。
『世界均衡値:+1』




