34話 手記
エメラニア王国城内の会議室にて、定例報告会が開催されていた。
「それで、プレイン、リキドとの戦況はどうなっておる?」
エメラニア国王が軍務大臣に問う。
「はっ。双方未だ落とせず、と」
国王は長いため息をつく。
「全く何をしているのだ……かの地はエメラニア王国の繁栄には必要不可欠だと、何度も言っているだろう」
「しかし……相手の反発も激しく……」
「当たり前のことをぬかすな。戦争をしているのだぞ。それをどうにかするのが騎士団ではないのか?」
「………………」
「勇者はどうした?」
「今回も参戦しておりません」
「……全く、ごく潰しもいいところだな。国に仕えると盟約したであろうに。これ以上命令を断るなら、追放すると伝えろ」
「しかし、勇者を追放したとあれば……国民にも不安が」
国王は、再び長いため息をつく。
「……その使えん勇者は、普段何をしている?」
「騎士学校への指導、教会への祈祷会参加、後は……」
「もうよい。遊んでいるのはよくわかった。……剣を振ってこその勇者だろうに」
国王は手を払い、次の議題へと移っていった。
***
一方リオネアは、週に数回ある祈祷会に参加していた。
アルミスの祈りの声に、集まった数十人が一緒に祈りを捧げる。
これまでの祈祷会は、集まっても十人程度。雨の日などは誰も来ない時だってあったほどだ。
しかしリオネアが勇者として奉られてから、まとまった人数がこうして来訪するようになった。
施しにも、子供への教育にも、資金が必要だ。
こうして盛り上がることは、救いの手を広げる意味でも好ましいことであった。
「本日もありがとうございます。リオネア様」
アルミスは、深々と頭を下げる。
「いえ、こうしてみんなの笑顔を見れることが嬉しいので」
リオネアは人気がある。それは老若男女を問わなかった。
いつも祈祷会が終わると人だかりができ、食べ物を貰ったり世間話をしたりしている。
アルミスは、その光景をいつも微笑ましく眺めていた。
リオネアが帰り、教会の掃除を行う。
彼女が置いていった頂き物を、そっと抱えて運ぶ。
すると、ぼとりと何かが籠から落ちた。
「……ん?」
本が一冊、開いた状態で落ちている。
拾い上げようとアルミスは屈んだ。
「こ、これは……」
中身を読むつもりはなかった。しかし目に入ってしまった。
それなら、魔族を倒さない方が――。
アルミスは慌てて本を拾い上げる。
そして書庫へと足早に入っていった。
先ほどの本を机に置く。
心臓が飛び跳ねている。こんなに罪悪感を感じるのは子供の頃以来だ。
アルミスは、そっと本をめくった。
それはリオネアの手記であった。
エメラニア王国に凱旋してからの日々がつづられている。
そして、先ほどの一文。
「…………危険だ。この思想は……民を惑わしかねない……」
しかし――否定は出来ない。のかもしれない。
アルミスの手は冷たく震えていた。
「この手記を抱えるには、私には重すぎる……」
彼は手記を懐に入れ、急いで王城へ向かった。
***
「アルミス。どうしたというのだ」
血相を変えたアルミスの言う通り、国王は人払いをして話を聞く。
「こ、これを…………」
懐から手記を取り出して、国王に渡す。
表紙と裏表紙を見、これといった特徴のないその本に、国王は不思議がる。
「これがなんだというのだ。ただの手記のようだが」
「……それは、リオネア様の物です。…………とにかく中身を」
「……あまりいい趣味とは言えんがな」
促されるがまま、国王は手記を読み進めていく。
そして――。
「…………これは、本当に勇者の物か?」
「はい。間違いないかと。名前もあります」
そうだな――と国王は踵を返し、窓の外を眺める。
「これは、他の者には?」
「いえ、誰にも」
「正しい判断だ、アルミス。あれは人気があるのだろう?ならこれは危険だ。国家を揺るがしかねない」
「……はい」
「………こちらで対処する。報告感謝する。下がって良いぞ」
アルミスは、震える膝で退室した。




